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101話
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体の芯から凍えるような冷たい季節が続いていたが、最近ようやくどこかほんのり暖かな風を感じるようになってきた。まだまだ寒い日々ではあるものの、ふとした時にそれに気づく。
もう少しだ。
そう、もう少しすればラウラの大好きな季節となる。色とりどりの花が咲き乱れる、まるでラウラそのもののような心地よい季節だ。花が咲けば、そしてようやくラウラは結婚する。
長かった……!
いや、思い返せばあっという間だったのかもしれない。だが心配のあまりだろうか、相当な日々の積み重ねを過ごしてきた気がする。
ニアキスもラウラも度々結婚式のことで色んな人と話し合ったり指示したり検討したりと忙しく過ごしているようだ。侯爵家同士の結婚、それもお互いの家で初めての結婚というか片や長男、片や長女の結婚だけに本人たち以上に周りの力の入れようが半端ない。
それをたまに見ていると「……二人とも心の底からお疲れ様……」と同情したくなるが、ニアキスもラウラも恋愛関連では夢見がちなところがあるからだろうか、どう見ても大変そうなのに存外楽しそうだ。エルヴィンとしてもラウラが楽しいのならもうそれでいいかなと、準備に関してはそっとしている。
あと下手に近寄りたくないというのもある。結婚お祝いムードや慌ただしさは感染する。もちろんラウラを、ついでにニアキスを祝う気持ちは人一倍あるが、結婚準備の空気に染まった周りの人からの「アルスラン家長男であるエルヴィン様も当然今すぐにでも結婚しますよね」「結婚してお父上の跡を継がれますよね」といった思念が、リックからのブローチをつけていなくともひしひしと伝わってくるからだ。
結婚かぁ。
今まではそれどころでなかったし、今はニルスが好きなので興味がない。とはいえ確かにアルスラン家の長男として無責任なことをしてはいけないだろうなとも思う。
もう少し……ニルスともう少し二人だけの秘密……いや、リックは知ってるけど、とにかく秘密の関係続けたいし、もう少しだけ。
いずれは両親に打ち明けようとは思う。長男としてのケジメでもある。ニルスとの関係を話し、跡継ぎはヴィリーに継いでもらう。結婚ではないが、軽くはないことなのでどうしても「ニルスともっと堅固な関係になってから」と思ってしまう。
ニルスの性格を思うと多分「気軽なその場限り的な付き合い」と考えてはいないだろうが、それでも付き合いたてだというのに「ニルスとの将来を思って跡継ぎを放棄した」と、まるでディナーに出てきたおかずの一つを断ったかのように軽い調子ではさすがに言えない。
絶対重いヤツだろ、そんなの。
そんな様子を想像すれば、つい皮肉な笑みの一つでも浮かべたくなった。
とにかく、最高に嬉しくはあるもののラウラたちの結婚準備に関してはそっとさせていただいていたが、「大切な妹君の結婚式です。素敵なアビ・ア・ラ・フランセーズをあしらわなくては」と言われ、捕まってしまった。
「コートのカフは大きくとって、ウエストの辺りから後ろにかけてたっぷりとしたプリーツを……そしてコートとジレには金糸、銀糸をたっぷりあしらったきらびやかな刺繍をして……」
「何ならブリーチズもおそろいの刺繍を……」
勘弁して欲しい。
仕立て屋やエルヴィンの使用人たちがわいわいと話す内容に、エルヴィンの顔は引きつった。華美なドレス、ローブ・ア・ラ・フランセーズ並みにド派手なアビ・ア・ラ・フランセーズしか浮かばない。
男性用のスーツにそんな派手さなど必要なくない?
「あ、あのさ? 俺は主人公じゃないんだからもっとこう、シンプルに……」
「何をおっしゃいます! ノルデルハウゼン卿は見目麗しいのですからどんな華美なデザインでも映えますよ」
「そうですよエルヴィン様。それに目立っていいじゃないですか。ついでに素敵なご令嬢との出会いも期待できますし」
どれもかなりご遠慮願いたい。
「いや、ほんと頼むよ……派手なのは趣味じゃない。主役の一人、ニアキスに任せるよそれは。俺のはほんっとシンプルにして。じゃないと既存のスーツ着るから」
パーティーなどで絶対に同じドレスを着ないという暗黙の了解である女性ほどファッションは厳しくないものの、やはり男性もパーティーであまり同じスーツを着ることはない。なので「既存のスーツを着る」というエルヴィンの言葉は結構な脅しになったようだ。とてつもなくがっかりしている皆には少々申し訳ないと思うが、こればかりはエルヴィンも譲れない。いくらそれが流行りだろうが、遠慮したい。
でも、ニルスなら案外着こなしそうだよな。
多分エルヴィンと同じくニルスも派手なスーツなどは避けたいタイプだろう。性格からしても好まなさそうだ。だが見た目だけなら間違いなく似合う。性格がついていかないだけだろう。
華美なアビ・ア・ラ・フランセーズを着たニルスなら俺も見てみたいかな。
遡る前も付き合っていた令嬢に似合うだろうと思われるドレスを贈ることは嫌いではなかった。ただ、まだ深い関係でない場合深読みされて性的な意味だと受け取られると困るため気軽には贈れなかった。
ニルスに贈る場合でも、深読みされること、あるのかな。
それはそれで別に構わないのだけれどもと思った後にエルヴィンは顔が少し熱くなり慌てて伏せる。
そうしないと赤面に対してニルスばりに俺の体調心配する人ら、ここにも結構いるからな……。
深呼吸しながらそっと思った。
もう少しだ。
そう、もう少しすればラウラの大好きな季節となる。色とりどりの花が咲き乱れる、まるでラウラそのもののような心地よい季節だ。花が咲けば、そしてようやくラウラは結婚する。
長かった……!
いや、思い返せばあっという間だったのかもしれない。だが心配のあまりだろうか、相当な日々の積み重ねを過ごしてきた気がする。
ニアキスもラウラも度々結婚式のことで色んな人と話し合ったり指示したり検討したりと忙しく過ごしているようだ。侯爵家同士の結婚、それもお互いの家で初めての結婚というか片や長男、片や長女の結婚だけに本人たち以上に周りの力の入れようが半端ない。
それをたまに見ていると「……二人とも心の底からお疲れ様……」と同情したくなるが、ニアキスもラウラも恋愛関連では夢見がちなところがあるからだろうか、どう見ても大変そうなのに存外楽しそうだ。エルヴィンとしてもラウラが楽しいのならもうそれでいいかなと、準備に関してはそっとしている。
あと下手に近寄りたくないというのもある。結婚お祝いムードや慌ただしさは感染する。もちろんラウラを、ついでにニアキスを祝う気持ちは人一倍あるが、結婚準備の空気に染まった周りの人からの「アルスラン家長男であるエルヴィン様も当然今すぐにでも結婚しますよね」「結婚してお父上の跡を継がれますよね」といった思念が、リックからのブローチをつけていなくともひしひしと伝わってくるからだ。
結婚かぁ。
今まではそれどころでなかったし、今はニルスが好きなので興味がない。とはいえ確かにアルスラン家の長男として無責任なことをしてはいけないだろうなとも思う。
もう少し……ニルスともう少し二人だけの秘密……いや、リックは知ってるけど、とにかく秘密の関係続けたいし、もう少しだけ。
いずれは両親に打ち明けようとは思う。長男としてのケジメでもある。ニルスとの関係を話し、跡継ぎはヴィリーに継いでもらう。結婚ではないが、軽くはないことなのでどうしても「ニルスともっと堅固な関係になってから」と思ってしまう。
ニルスの性格を思うと多分「気軽なその場限り的な付き合い」と考えてはいないだろうが、それでも付き合いたてだというのに「ニルスとの将来を思って跡継ぎを放棄した」と、まるでディナーに出てきたおかずの一つを断ったかのように軽い調子ではさすがに言えない。
絶対重いヤツだろ、そんなの。
そんな様子を想像すれば、つい皮肉な笑みの一つでも浮かべたくなった。
とにかく、最高に嬉しくはあるもののラウラたちの結婚準備に関してはそっとさせていただいていたが、「大切な妹君の結婚式です。素敵なアビ・ア・ラ・フランセーズをあしらわなくては」と言われ、捕まってしまった。
「コートのカフは大きくとって、ウエストの辺りから後ろにかけてたっぷりとしたプリーツを……そしてコートとジレには金糸、銀糸をたっぷりあしらったきらびやかな刺繍をして……」
「何ならブリーチズもおそろいの刺繍を……」
勘弁して欲しい。
仕立て屋やエルヴィンの使用人たちがわいわいと話す内容に、エルヴィンの顔は引きつった。華美なドレス、ローブ・ア・ラ・フランセーズ並みにド派手なアビ・ア・ラ・フランセーズしか浮かばない。
男性用のスーツにそんな派手さなど必要なくない?
「あ、あのさ? 俺は主人公じゃないんだからもっとこう、シンプルに……」
「何をおっしゃいます! ノルデルハウゼン卿は見目麗しいのですからどんな華美なデザインでも映えますよ」
「そうですよエルヴィン様。それに目立っていいじゃないですか。ついでに素敵なご令嬢との出会いも期待できますし」
どれもかなりご遠慮願いたい。
「いや、ほんと頼むよ……派手なのは趣味じゃない。主役の一人、ニアキスに任せるよそれは。俺のはほんっとシンプルにして。じゃないと既存のスーツ着るから」
パーティーなどで絶対に同じドレスを着ないという暗黙の了解である女性ほどファッションは厳しくないものの、やはり男性もパーティーであまり同じスーツを着ることはない。なので「既存のスーツを着る」というエルヴィンの言葉は結構な脅しになったようだ。とてつもなくがっかりしている皆には少々申し訳ないと思うが、こればかりはエルヴィンも譲れない。いくらそれが流行りだろうが、遠慮したい。
でも、ニルスなら案外着こなしそうだよな。
多分エルヴィンと同じくニルスも派手なスーツなどは避けたいタイプだろう。性格からしても好まなさそうだ。だが見た目だけなら間違いなく似合う。性格がついていかないだけだろう。
華美なアビ・ア・ラ・フランセーズを着たニルスなら俺も見てみたいかな。
遡る前も付き合っていた令嬢に似合うだろうと思われるドレスを贈ることは嫌いではなかった。ただ、まだ深い関係でない場合深読みされて性的な意味だと受け取られると困るため気軽には贈れなかった。
ニルスに贈る場合でも、深読みされること、あるのかな。
それはそれで別に構わないのだけれどもと思った後にエルヴィンは顔が少し熱くなり慌てて伏せる。
そうしないと赤面に対してニルスばりに俺の体調心配する人ら、ここにも結構いるからな……。
深呼吸しながらそっと思った。
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