99 / 193
99話
しおりを挟む
「それよりもエルヴィン」
蜂蜜漬けのガルバンゾが入った袋を手渡してきた後、ニルスがじっとエルヴィンを見てくる。ついドキドキと胸を高鳴らせながら「何?」とエルヴィンも見上げた。
「リックの様子……」
リックかい。
「おかしくはなかったか?」
「おかしい? まあ、ある意味いつもおかしいとは思ってるけど……」
「え?」
エルヴィンの言葉をまさかのまともにというか真面目に受け取ったようだ。ニルスがわかりにくいながらも困惑しているのが何となく見て取れた。
「悪い。言い間違えだ。おかしくなかったと思うけど……何かあったのか?」
「そう、か……。いや、なら、いい」
「? でも俺が気づかなかっただけかもしれない。あと、何だかんだ言ってもリックが一番心を許してるのってニルスだと思うし、ニルスの前でだけ本音というか、そのおかしい? 様子が出たのかも」
これは本当だ。
リックとニルスの間には、残念ながらエルヴィンも入ることのできない確固たる絆があるとエルヴィンは思っている。遡ってからはエルヴィンもこの二人と幼馴染ではあるものの、もっと小さな頃から、しかもほぼ四六時中一緒にいた二人には到底敵いそうにない。
エルヴィンも今の人生ではこの二人ほどではないにしても、昔から親友であるニアキスがいる。おまけに義理の兄弟になる予定ですらある。
それでも正直羨ましいなと思ったりもする。もちろん、リックが「王子」だからそんなに親しいことを羨ましいと思っているのではない。エルヴィンにそこまでの出世欲はないし、リックの前ではあえて礼節を怠らないようにしているものの内心ではかなり気安く思っているので、そういう意味ではリックのことを「王子」として見ていない。羨ましいのは多分それほど二人はお互いかけがえのない存在に見えるからだろう。あと、今だとニルスと付き合っているからというのもある。さすがに安いヤキモチを妬くことはないが、やはり羨ましい。
「俺にだけ、か……それは、まああるのかもしれない、が」
とはいえ当然のように認められると、心地いいとはまあ、言えないな。勝手だよなあ結構、俺。
「あるのか」
「うん」
それに対しニルスは、見た目に反してというか何というか、実は案外純粋なのか単にそういったことに慣れてなくて気づかないのか素直に頷いている。
こんな外見とかだし、一見恋愛絡みの相手に対しての駆け引きとか諸々に慣れてそうなのになあ。
ほのぼのとそんなことを思っていると「だがもしそうだとしても……俺はリックが何故そうなのか、どうしたのか、わからない」とおそらく少々がっかりしたようにだろうか、言ってきた。
二人の仲を恋人の俺に見せつける感じ半端ないってのと、ニルスがもしかして俺に頼ってくれてる? って気持ちが入り混じるなこれ。
さすがに少々嫉妬しそうではあるものの、まるでエルヴィンに実際頼ってくれているようでかなり嬉しさもある。そのせいか変な顔でもしたのだろうか、エルヴィンを見ていたニルスがほんのり首を傾げてきたように思えた。
「あ、ああえっと、そう、だな……。リックって肝心なこと言ってくれないとこ結構あるだろうけど、でもニルスに伝えなければと思ったことは絶対言ってくれるだろうし、もう少し様子を見てみたら?」
「うん」
素直。
何だろうな、かわいい。
思わずまた赤面しそうな気がして、ただそうするとせっかく頼ってくれているかわいいニルスを目の当たりにできたというのにそれを引っ込められ、また無駄に心配されてしまうかもしれない。というかエルヴィンが赤くなるのは具合が悪いからよりもほぼ百パーセント、ニルスを思ってだとそろそろ気づいて欲しい。赤くなるたびに「これはニルスが好きだから」とか「ニルスをかわいいと思ったから」と説明するのだけは勘弁願いたい。
とにかく赤面しないために気持ちを切り替えようと、エルヴィンはちょうど先ほどリックが話していた内容をニルスにも聞いてみた。
「ニルスやニルスのご家族って特に国王関連の派閥とかってあるの?」
「派閥……いや」
ニルスらしい簡潔な返事だなと思いつつ「お父上は現王の補佐だろ? でもニルスはリック……第二王子の補佐だし」と続けてみる。
「うん」
「えっと、ニルスはリックが王位に継げばいいのにとか思ったりはしない?」
「リックが望めばまた変わってくる、が」
ニルスは首を振りながらそう答えてきた。まあ、そうだろうなとエルヴィンも思う。今まで特に必要性もないのでそういった話題をニルスとしたことはないが、ニルスの考えに対してエルヴィンも特に何も思うことはない。エルヴィンも所属する騎士団がリック直属になったとはいえ、別にだからこそリックが王位にと思うこともない。
人によれば今まで王直属だったのが、王位継承第三位であるリック直属となり、降格的な感覚になる者もいるのだろうか。さすがにそんな話題が堂々と出てくるわけもなく、少なくともエルヴィンは耳にしたことがなかった。
でも……そういえばたまにあまりよく知らないよその団員に「総団長の息子としては複雑じゃないか?」的なことを聞かれることはあったな。
何が複雑なのかわからなかったため、そのまま「何が複雑だって?」と聞き返したら「恰好つけて」とか何とか言われつつ去られたりした気がする。
それって、もしかして今思ったようなことをそいつに言われてたのかな。そんで俺は俺で「何が言いたいのかもっとはっきり言ってみろ」って感じの好戦的な態度を取った風に思われたのかな……。
今さらながらにエルヴィンは少々微妙な気持ちになった。
蜂蜜漬けのガルバンゾが入った袋を手渡してきた後、ニルスがじっとエルヴィンを見てくる。ついドキドキと胸を高鳴らせながら「何?」とエルヴィンも見上げた。
「リックの様子……」
リックかい。
「おかしくはなかったか?」
「おかしい? まあ、ある意味いつもおかしいとは思ってるけど……」
「え?」
エルヴィンの言葉をまさかのまともにというか真面目に受け取ったようだ。ニルスがわかりにくいながらも困惑しているのが何となく見て取れた。
「悪い。言い間違えだ。おかしくなかったと思うけど……何かあったのか?」
「そう、か……。いや、なら、いい」
「? でも俺が気づかなかっただけかもしれない。あと、何だかんだ言ってもリックが一番心を許してるのってニルスだと思うし、ニルスの前でだけ本音というか、そのおかしい? 様子が出たのかも」
これは本当だ。
リックとニルスの間には、残念ながらエルヴィンも入ることのできない確固たる絆があるとエルヴィンは思っている。遡ってからはエルヴィンもこの二人と幼馴染ではあるものの、もっと小さな頃から、しかもほぼ四六時中一緒にいた二人には到底敵いそうにない。
エルヴィンも今の人生ではこの二人ほどではないにしても、昔から親友であるニアキスがいる。おまけに義理の兄弟になる予定ですらある。
それでも正直羨ましいなと思ったりもする。もちろん、リックが「王子」だからそんなに親しいことを羨ましいと思っているのではない。エルヴィンにそこまでの出世欲はないし、リックの前ではあえて礼節を怠らないようにしているものの内心ではかなり気安く思っているので、そういう意味ではリックのことを「王子」として見ていない。羨ましいのは多分それほど二人はお互いかけがえのない存在に見えるからだろう。あと、今だとニルスと付き合っているからというのもある。さすがに安いヤキモチを妬くことはないが、やはり羨ましい。
「俺にだけ、か……それは、まああるのかもしれない、が」
とはいえ当然のように認められると、心地いいとはまあ、言えないな。勝手だよなあ結構、俺。
「あるのか」
「うん」
それに対しニルスは、見た目に反してというか何というか、実は案外純粋なのか単にそういったことに慣れてなくて気づかないのか素直に頷いている。
こんな外見とかだし、一見恋愛絡みの相手に対しての駆け引きとか諸々に慣れてそうなのになあ。
ほのぼのとそんなことを思っていると「だがもしそうだとしても……俺はリックが何故そうなのか、どうしたのか、わからない」とおそらく少々がっかりしたようにだろうか、言ってきた。
二人の仲を恋人の俺に見せつける感じ半端ないってのと、ニルスがもしかして俺に頼ってくれてる? って気持ちが入り混じるなこれ。
さすがに少々嫉妬しそうではあるものの、まるでエルヴィンに実際頼ってくれているようでかなり嬉しさもある。そのせいか変な顔でもしたのだろうか、エルヴィンを見ていたニルスがほんのり首を傾げてきたように思えた。
「あ、ああえっと、そう、だな……。リックって肝心なこと言ってくれないとこ結構あるだろうけど、でもニルスに伝えなければと思ったことは絶対言ってくれるだろうし、もう少し様子を見てみたら?」
「うん」
素直。
何だろうな、かわいい。
思わずまた赤面しそうな気がして、ただそうするとせっかく頼ってくれているかわいいニルスを目の当たりにできたというのにそれを引っ込められ、また無駄に心配されてしまうかもしれない。というかエルヴィンが赤くなるのは具合が悪いからよりもほぼ百パーセント、ニルスを思ってだとそろそろ気づいて欲しい。赤くなるたびに「これはニルスが好きだから」とか「ニルスをかわいいと思ったから」と説明するのだけは勘弁願いたい。
とにかく赤面しないために気持ちを切り替えようと、エルヴィンはちょうど先ほどリックが話していた内容をニルスにも聞いてみた。
「ニルスやニルスのご家族って特に国王関連の派閥とかってあるの?」
「派閥……いや」
ニルスらしい簡潔な返事だなと思いつつ「お父上は現王の補佐だろ? でもニルスはリック……第二王子の補佐だし」と続けてみる。
「うん」
「えっと、ニルスはリックが王位に継げばいいのにとか思ったりはしない?」
「リックが望めばまた変わってくる、が」
ニルスは首を振りながらそう答えてきた。まあ、そうだろうなとエルヴィンも思う。今まで特に必要性もないのでそういった話題をニルスとしたことはないが、ニルスの考えに対してエルヴィンも特に何も思うことはない。エルヴィンも所属する騎士団がリック直属になったとはいえ、別にだからこそリックが王位にと思うこともない。
人によれば今まで王直属だったのが、王位継承第三位であるリック直属となり、降格的な感覚になる者もいるのだろうか。さすがにそんな話題が堂々と出てくるわけもなく、少なくともエルヴィンは耳にしたことがなかった。
でも……そういえばたまにあまりよく知らないよその団員に「総団長の息子としては複雑じゃないか?」的なことを聞かれることはあったな。
何が複雑なのかわからなかったため、そのまま「何が複雑だって?」と聞き返したら「恰好つけて」とか何とか言われつつ去られたりした気がする。
それって、もしかして今思ったようなことをそいつに言われてたのかな。そんで俺は俺で「何が言いたいのかもっとはっきり言ってみろ」って感じの好戦的な態度を取った風に思われたのかな……。
今さらながらにエルヴィンは少々微妙な気持ちになった。
0
お気に入りに追加
506
あなたにおすすめの小説


新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

心からの愛してる
マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。
全寮制男子校
嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります
※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる