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99話
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「それよりもエルヴィン」
蜂蜜漬けのガルバンゾが入った袋を手渡してきた後、ニルスがじっとエルヴィンを見てくる。ついドキドキと胸を高鳴らせながら「何?」とエルヴィンも見上げた。
「リックの様子……」
リックかい。
「おかしくはなかったか?」
「おかしい? まあ、ある意味いつもおかしいとは思ってるけど……」
「え?」
エルヴィンの言葉をまさかのまともにというか真面目に受け取ったようだ。ニルスがわかりにくいながらも困惑しているのが何となく見て取れた。
「悪い。言い間違えだ。おかしくなかったと思うけど……何かあったのか?」
「そう、か……。いや、なら、いい」
「? でも俺が気づかなかっただけかもしれない。あと、何だかんだ言ってもリックが一番心を許してるのってニルスだと思うし、ニルスの前でだけ本音というか、そのおかしい? 様子が出たのかも」
これは本当だ。
リックとニルスの間には、残念ながらエルヴィンも入ることのできない確固たる絆があるとエルヴィンは思っている。遡ってからはエルヴィンもこの二人と幼馴染ではあるものの、もっと小さな頃から、しかもほぼ四六時中一緒にいた二人には到底敵いそうにない。
エルヴィンも今の人生ではこの二人ほどではないにしても、昔から親友であるニアキスがいる。おまけに義理の兄弟になる予定ですらある。
それでも正直羨ましいなと思ったりもする。もちろん、リックが「王子」だからそんなに親しいことを羨ましいと思っているのではない。エルヴィンにそこまでの出世欲はないし、リックの前ではあえて礼節を怠らないようにしているものの内心ではかなり気安く思っているので、そういう意味ではリックのことを「王子」として見ていない。羨ましいのは多分それほど二人はお互いかけがえのない存在に見えるからだろう。あと、今だとニルスと付き合っているからというのもある。さすがに安いヤキモチを妬くことはないが、やはり羨ましい。
「俺にだけ、か……それは、まああるのかもしれない、が」
とはいえ当然のように認められると、心地いいとはまあ、言えないな。勝手だよなあ結構、俺。
「あるのか」
「うん」
それに対しニルスは、見た目に反してというか何というか、実は案外純粋なのか単にそういったことに慣れてなくて気づかないのか素直に頷いている。
こんな外見とかだし、一見恋愛絡みの相手に対しての駆け引きとか諸々に慣れてそうなのになあ。
ほのぼのとそんなことを思っていると「だがもしそうだとしても……俺はリックが何故そうなのか、どうしたのか、わからない」とおそらく少々がっかりしたようにだろうか、言ってきた。
二人の仲を恋人の俺に見せつける感じ半端ないってのと、ニルスがもしかして俺に頼ってくれてる? って気持ちが入り混じるなこれ。
さすがに少々嫉妬しそうではあるものの、まるでエルヴィンに実際頼ってくれているようでかなり嬉しさもある。そのせいか変な顔でもしたのだろうか、エルヴィンを見ていたニルスがほんのり首を傾げてきたように思えた。
「あ、ああえっと、そう、だな……。リックって肝心なこと言ってくれないとこ結構あるだろうけど、でもニルスに伝えなければと思ったことは絶対言ってくれるだろうし、もう少し様子を見てみたら?」
「うん」
素直。
何だろうな、かわいい。
思わずまた赤面しそうな気がして、ただそうするとせっかく頼ってくれているかわいいニルスを目の当たりにできたというのにそれを引っ込められ、また無駄に心配されてしまうかもしれない。というかエルヴィンが赤くなるのは具合が悪いからよりもほぼ百パーセント、ニルスを思ってだとそろそろ気づいて欲しい。赤くなるたびに「これはニルスが好きだから」とか「ニルスをかわいいと思ったから」と説明するのだけは勘弁願いたい。
とにかく赤面しないために気持ちを切り替えようと、エルヴィンはちょうど先ほどリックが話していた内容をニルスにも聞いてみた。
「ニルスやニルスのご家族って特に国王関連の派閥とかってあるの?」
「派閥……いや」
ニルスらしい簡潔な返事だなと思いつつ「お父上は現王の補佐だろ? でもニルスはリック……第二王子の補佐だし」と続けてみる。
「うん」
「えっと、ニルスはリックが王位に継げばいいのにとか思ったりはしない?」
「リックが望めばまた変わってくる、が」
ニルスは首を振りながらそう答えてきた。まあ、そうだろうなとエルヴィンも思う。今まで特に必要性もないのでそういった話題をニルスとしたことはないが、ニルスの考えに対してエルヴィンも特に何も思うことはない。エルヴィンも所属する騎士団がリック直属になったとはいえ、別にだからこそリックが王位にと思うこともない。
人によれば今まで王直属だったのが、王位継承第三位であるリック直属となり、降格的な感覚になる者もいるのだろうか。さすがにそんな話題が堂々と出てくるわけもなく、少なくともエルヴィンは耳にしたことがなかった。
でも……そういえばたまにあまりよく知らないよその団員に「総団長の息子としては複雑じゃないか?」的なことを聞かれることはあったな。
何が複雑なのかわからなかったため、そのまま「何が複雑だって?」と聞き返したら「恰好つけて」とか何とか言われつつ去られたりした気がする。
それって、もしかして今思ったようなことをそいつに言われてたのかな。そんで俺は俺で「何が言いたいのかもっとはっきり言ってみろ」って感じの好戦的な態度を取った風に思われたのかな……。
今さらながらにエルヴィンは少々微妙な気持ちになった。
蜂蜜漬けのガルバンゾが入った袋を手渡してきた後、ニルスがじっとエルヴィンを見てくる。ついドキドキと胸を高鳴らせながら「何?」とエルヴィンも見上げた。
「リックの様子……」
リックかい。
「おかしくはなかったか?」
「おかしい? まあ、ある意味いつもおかしいとは思ってるけど……」
「え?」
エルヴィンの言葉をまさかのまともにというか真面目に受け取ったようだ。ニルスがわかりにくいながらも困惑しているのが何となく見て取れた。
「悪い。言い間違えだ。おかしくなかったと思うけど……何かあったのか?」
「そう、か……。いや、なら、いい」
「? でも俺が気づかなかっただけかもしれない。あと、何だかんだ言ってもリックが一番心を許してるのってニルスだと思うし、ニルスの前でだけ本音というか、そのおかしい? 様子が出たのかも」
これは本当だ。
リックとニルスの間には、残念ながらエルヴィンも入ることのできない確固たる絆があるとエルヴィンは思っている。遡ってからはエルヴィンもこの二人と幼馴染ではあるものの、もっと小さな頃から、しかもほぼ四六時中一緒にいた二人には到底敵いそうにない。
エルヴィンも今の人生ではこの二人ほどではないにしても、昔から親友であるニアキスがいる。おまけに義理の兄弟になる予定ですらある。
それでも正直羨ましいなと思ったりもする。もちろん、リックが「王子」だからそんなに親しいことを羨ましいと思っているのではない。エルヴィンにそこまでの出世欲はないし、リックの前ではあえて礼節を怠らないようにしているものの内心ではかなり気安く思っているので、そういう意味ではリックのことを「王子」として見ていない。羨ましいのは多分それほど二人はお互いかけがえのない存在に見えるからだろう。あと、今だとニルスと付き合っているからというのもある。さすがに安いヤキモチを妬くことはないが、やはり羨ましい。
「俺にだけ、か……それは、まああるのかもしれない、が」
とはいえ当然のように認められると、心地いいとはまあ、言えないな。勝手だよなあ結構、俺。
「あるのか」
「うん」
それに対しニルスは、見た目に反してというか何というか、実は案外純粋なのか単にそういったことに慣れてなくて気づかないのか素直に頷いている。
こんな外見とかだし、一見恋愛絡みの相手に対しての駆け引きとか諸々に慣れてそうなのになあ。
ほのぼのとそんなことを思っていると「だがもしそうだとしても……俺はリックが何故そうなのか、どうしたのか、わからない」とおそらく少々がっかりしたようにだろうか、言ってきた。
二人の仲を恋人の俺に見せつける感じ半端ないってのと、ニルスがもしかして俺に頼ってくれてる? って気持ちが入り混じるなこれ。
さすがに少々嫉妬しそうではあるものの、まるでエルヴィンに実際頼ってくれているようでかなり嬉しさもある。そのせいか変な顔でもしたのだろうか、エルヴィンを見ていたニルスがほんのり首を傾げてきたように思えた。
「あ、ああえっと、そう、だな……。リックって肝心なこと言ってくれないとこ結構あるだろうけど、でもニルスに伝えなければと思ったことは絶対言ってくれるだろうし、もう少し様子を見てみたら?」
「うん」
素直。
何だろうな、かわいい。
思わずまた赤面しそうな気がして、ただそうするとせっかく頼ってくれているかわいいニルスを目の当たりにできたというのにそれを引っ込められ、また無駄に心配されてしまうかもしれない。というかエルヴィンが赤くなるのは具合が悪いからよりもほぼ百パーセント、ニルスを思ってだとそろそろ気づいて欲しい。赤くなるたびに「これはニルスが好きだから」とか「ニルスをかわいいと思ったから」と説明するのだけは勘弁願いたい。
とにかく赤面しないために気持ちを切り替えようと、エルヴィンはちょうど先ほどリックが話していた内容をニルスにも聞いてみた。
「ニルスやニルスのご家族って特に国王関連の派閥とかってあるの?」
「派閥……いや」
ニルスらしい簡潔な返事だなと思いつつ「お父上は現王の補佐だろ? でもニルスはリック……第二王子の補佐だし」と続けてみる。
「うん」
「えっと、ニルスはリックが王位に継げばいいのにとか思ったりはしない?」
「リックが望めばまた変わってくる、が」
ニルスは首を振りながらそう答えてきた。まあ、そうだろうなとエルヴィンも思う。今まで特に必要性もないのでそういった話題をニルスとしたことはないが、ニルスの考えに対してエルヴィンも特に何も思うことはない。エルヴィンも所属する騎士団がリック直属になったとはいえ、別にだからこそリックが王位にと思うこともない。
人によれば今まで王直属だったのが、王位継承第三位であるリック直属となり、降格的な感覚になる者もいるのだろうか。さすがにそんな話題が堂々と出てくるわけもなく、少なくともエルヴィンは耳にしたことがなかった。
でも……そういえばたまにあまりよく知らないよその団員に「総団長の息子としては複雑じゃないか?」的なことを聞かれることはあったな。
何が複雑なのかわからなかったため、そのまま「何が複雑だって?」と聞き返したら「恰好つけて」とか何とか言われつつ去られたりした気がする。
それって、もしかして今思ったようなことをそいつに言われてたのかな。そんで俺は俺で「何が言いたいのかもっとはっきり言ってみろ」って感じの好戦的な態度を取った風に思われたのかな……。
今さらながらにエルヴィンは少々微妙な気持ちになった。
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