96 / 193
96話
しおりを挟む
ニルスの手は少しずつだが温まってきた気がする。
そこでエルヴィンは改めて手のごつさを感じた。背はあるものの、ニルスの手は繊細に見える。指が長いからだろうか。しなやかですらりとした指に見えていた。
だが実際じっくり触れると案外ごつごつしている。女性とは違う手や指の感触に引くどころかむしろドキドキしている自分に気づき、改めて自分は性別関係なくニルスが好きなのだろうなとエルヴィンは実感した。
ずっと見上げていると、ニルスに無表情のまま視線をそらされた。
んん? 俺に触れられて緊張しつつも喜んでくれているって思ったけど、もしかして思い上がり? 多少ドキドキしてくれてるかなって思ったけど、気のせい?
そういえば「俺に触れられて嬉しくない?」という質問にも答えてもらっていない。むしろ困惑しかされていないのではと、思わず手を離しそうになったところでぎゅっと手を握られた。
「ニル……」
見上げたまま名前を呼びかけるとキスされた。あわよくばこの部屋でキスくらいはしたいと思っていたエルヴィンとしては大歓迎だが、ニルスに手を握られているせいで抱き寄せたり抱きしめたりができない。仕方なく手を握られたまま顔をさらにニルスのほうへもたげさせた。そして離れようとするニルスの下唇にそっと噛みつく。
驚いたのか、エルヴィンの手を握るニルスの力が緩んだ。エルヴィンはそのまま指を絡めながら、離したニルスの手からゆっくり移動させ、ニルスの背中へ回す。
もっと味わいたい。
もっとくっつきたい。
もっと、したい。
何度も合間に呼吸しながらキスを深めていく。できればこのまま舌も絡めたいところだが、そうしてしまうと自分に歯止めがかけられるかどうか、いささか自信がない。とはいえ今やっているお互い何度も角度を変え重ねては啄んで、さらに重ねるといった味わい尽くすようなキスも自制しきれるかどうか定かではないかもしれない。
ふと次に一呼吸した時に「嬉しい」とニルスが囁いてきた。
「ん……?」
「……お前に……触れられるのも、触れるのも……嬉しい」
今返事かよ。
というかニルスさん……? 狙ってんのかってくらい、今の、直撃されたんだけど。
ただ、間違いなくわかるのはニルスが狙ってなどいないということだ。言葉数の少ない寡黙なニルスがそんなことするわけない。
堪らなくなってまたキスを深めた。どんどん激しくなっていっている気がする。
「は……、ぁ。俺はさっき言ったけど、もっかい言うな……俺も嬉しい。触れるのも、触れられるのも、すごく嬉しい」
できればこのまま抱き寄せて押し倒したいくらいだったが、何とか堪えた。
生真面目な性格がそうしたのもあるが、正直なところどうしていいかわからないからというのが強い。
理性よりも本能が優勢だったとはいえ、自分よりも大きな男を上手く押し倒す方法が普通にわからなかった。現に抱き寄せることはできても、それ以上びくともしそうになかった。そんな男相手に、いくら遡る前に女相手とはいえ恋人同士の絡みを経験したことがあるとはいえ、上手く事が運べる気がしないというのだろうか。
そういえば……ニルスはどうなのかな。俺をどうこうしたいって思ったりするのかな。
かなり息を乱しながら何となく思った。
もしそう思ってもらえるのなら、それはそれで嬉しい。
結局キスだけで終わったものの、結構な時間をその部屋で過ごした気がする。最後らへんは二人が、というより多分主にエルヴィンが落ち着くため、常備されているらしい茶を淹れて二人でゆっくり飲んだ。
こんなデートも悪くない。
ニヤニヤしないよう口元に気をつけながらエルヴィンは残りの書類仕事を片付けようと事務室へ戻った。同僚からは「珍しく中々帰ってこないから、リック殿下につかまってしまったのかと思った」などと言われた。どうやらエルヴィンが度々リックに絡まれているのをよく把握しているらしい。
実は私事でまったりしていたわけで、塗れ衣申し訳ないとリックにほんの少し思った。しかしそう思われるくらい最近は仕事中絡まれているということでもある。
「そう思うくらい俺が殿下に絡まれてるの知ってるなら、手助けしてあげようとか……」
「でもエルヴィン、お前殿下と仲よしだろ」
「不敬にならないのなら殿下とは親友だと俺は思ってるって言うけど、それとこれとは別だろ。仕事としての殿下とのやり取りは、できれば俺としてはもっと少ないほうが平穏でいられる」
「親友と思うことより後のもの言いのほうがよっぽど不敬だと思うぞ」
「それな」
もう一人がおかしそうに同意してくる。
「だいたいお前は親しく絡まれるから仕事として困るってことだろ?」
「そうだけど」
「俺らは殿下のおそばとかな、畏まりすぎて恐れ多すぎて困るんだよ。どっちが気持ちの上で大変だと思う?」
「俺にも一応恐れ多さはあるから、俺だな」
「不正解。残念賞として、新たに発生した急ぎの申請書、リック殿下のところへ持って行って」
「うんうん。急ぎだしな」
「……」
呆れたように同僚たちを見つつも、休憩時間だったとはいえ少しオーバーしてしまっていたエルヴィンとしては文句が言いにくい。結局またリックの執務室へ行く羽目になった。
そこでエルヴィンは改めて手のごつさを感じた。背はあるものの、ニルスの手は繊細に見える。指が長いからだろうか。しなやかですらりとした指に見えていた。
だが実際じっくり触れると案外ごつごつしている。女性とは違う手や指の感触に引くどころかむしろドキドキしている自分に気づき、改めて自分は性別関係なくニルスが好きなのだろうなとエルヴィンは実感した。
ずっと見上げていると、ニルスに無表情のまま視線をそらされた。
んん? 俺に触れられて緊張しつつも喜んでくれているって思ったけど、もしかして思い上がり? 多少ドキドキしてくれてるかなって思ったけど、気のせい?
そういえば「俺に触れられて嬉しくない?」という質問にも答えてもらっていない。むしろ困惑しかされていないのではと、思わず手を離しそうになったところでぎゅっと手を握られた。
「ニル……」
見上げたまま名前を呼びかけるとキスされた。あわよくばこの部屋でキスくらいはしたいと思っていたエルヴィンとしては大歓迎だが、ニルスに手を握られているせいで抱き寄せたり抱きしめたりができない。仕方なく手を握られたまま顔をさらにニルスのほうへもたげさせた。そして離れようとするニルスの下唇にそっと噛みつく。
驚いたのか、エルヴィンの手を握るニルスの力が緩んだ。エルヴィンはそのまま指を絡めながら、離したニルスの手からゆっくり移動させ、ニルスの背中へ回す。
もっと味わいたい。
もっとくっつきたい。
もっと、したい。
何度も合間に呼吸しながらキスを深めていく。できればこのまま舌も絡めたいところだが、そうしてしまうと自分に歯止めがかけられるかどうか、いささか自信がない。とはいえ今やっているお互い何度も角度を変え重ねては啄んで、さらに重ねるといった味わい尽くすようなキスも自制しきれるかどうか定かではないかもしれない。
ふと次に一呼吸した時に「嬉しい」とニルスが囁いてきた。
「ん……?」
「……お前に……触れられるのも、触れるのも……嬉しい」
今返事かよ。
というかニルスさん……? 狙ってんのかってくらい、今の、直撃されたんだけど。
ただ、間違いなくわかるのはニルスが狙ってなどいないということだ。言葉数の少ない寡黙なニルスがそんなことするわけない。
堪らなくなってまたキスを深めた。どんどん激しくなっていっている気がする。
「は……、ぁ。俺はさっき言ったけど、もっかい言うな……俺も嬉しい。触れるのも、触れられるのも、すごく嬉しい」
できればこのまま抱き寄せて押し倒したいくらいだったが、何とか堪えた。
生真面目な性格がそうしたのもあるが、正直なところどうしていいかわからないからというのが強い。
理性よりも本能が優勢だったとはいえ、自分よりも大きな男を上手く押し倒す方法が普通にわからなかった。現に抱き寄せることはできても、それ以上びくともしそうになかった。そんな男相手に、いくら遡る前に女相手とはいえ恋人同士の絡みを経験したことがあるとはいえ、上手く事が運べる気がしないというのだろうか。
そういえば……ニルスはどうなのかな。俺をどうこうしたいって思ったりするのかな。
かなり息を乱しながら何となく思った。
もしそう思ってもらえるのなら、それはそれで嬉しい。
結局キスだけで終わったものの、結構な時間をその部屋で過ごした気がする。最後らへんは二人が、というより多分主にエルヴィンが落ち着くため、常備されているらしい茶を淹れて二人でゆっくり飲んだ。
こんなデートも悪くない。
ニヤニヤしないよう口元に気をつけながらエルヴィンは残りの書類仕事を片付けようと事務室へ戻った。同僚からは「珍しく中々帰ってこないから、リック殿下につかまってしまったのかと思った」などと言われた。どうやらエルヴィンが度々リックに絡まれているのをよく把握しているらしい。
実は私事でまったりしていたわけで、塗れ衣申し訳ないとリックにほんの少し思った。しかしそう思われるくらい最近は仕事中絡まれているということでもある。
「そう思うくらい俺が殿下に絡まれてるの知ってるなら、手助けしてあげようとか……」
「でもエルヴィン、お前殿下と仲よしだろ」
「不敬にならないのなら殿下とは親友だと俺は思ってるって言うけど、それとこれとは別だろ。仕事としての殿下とのやり取りは、できれば俺としてはもっと少ないほうが平穏でいられる」
「親友と思うことより後のもの言いのほうがよっぽど不敬だと思うぞ」
「それな」
もう一人がおかしそうに同意してくる。
「だいたいお前は親しく絡まれるから仕事として困るってことだろ?」
「そうだけど」
「俺らは殿下のおそばとかな、畏まりすぎて恐れ多すぎて困るんだよ。どっちが気持ちの上で大変だと思う?」
「俺にも一応恐れ多さはあるから、俺だな」
「不正解。残念賞として、新たに発生した急ぎの申請書、リック殿下のところへ持って行って」
「うんうん。急ぎだしな」
「……」
呆れたように同僚たちを見つつも、休憩時間だったとはいえ少しオーバーしてしまっていたエルヴィンとしては文句が言いにくい。結局またリックの執務室へ行く羽目になった。
0
お気に入りに追加
506
あなたにおすすめの小説


新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる