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95話
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実は部屋に入った際にこっそり施錠したことなど、清廉潔白そうなニルスは気づきもしないんだろうなとエルヴィンはそっと思った。
もしくは、騎士でもないわりに敏捷性の高いニルスは人の動作を案外逃さず見ていたりする。なので気づいている可能性もあるものの、同性だけに特に意識はしていないかもしれない。
恋人なら、ましてや付き合いたてならつい意識してしまうかもしれないけど、俺もその辺の感覚がまだいまいちわからないんだよな。
ニルスに対しては特にもう性を越えて見ているところあるが、基本異性愛者のはずだからかいまいちピンとこない時がまだある。こういう場合も女性相手ならいくら恋人でも黙って施錠するなんて紳士としてどうだろうかと思ったりもする。恋人相手なら、少しドアを開けておくまではさすがにしないにしてもだ。しかし男性相手だと同性だし意識する必要も身の危険を感じられることもないだろうとつい考えてしまう。
とはいえ俺はめちゃくちゃ意識してるし、ニルスを性的に見て好きなわけだし、黙って施錠するなんてやっぱりマナー違反だよなあ。
二人きりで甘い時間を過ごしたいという欲が高かったのもあり、つい気がせいで部屋に入った途端施錠していたが、ソファーへ向かいながら普段の生真面目さが欲よりも優勢になってきた。
ソファーに二人して座ったものの、少なくとも意識しまくっている上に生真面目さがもたげてしまい罪悪感も湧いているエルヴィンは少しニルスから離れて座った。そしておずおず声をかける。
「……あの、ニルス」
「どうした?」
「俺、……実は部屋入った時に鍵、かけちゃった」
「……そうか」
知ってか知らないでか、ニルスはいつもと変わらない感じで頷いてきた。エルヴィンとしてはホッとすればいいのか焦ればいいのか微妙に思えばいいのか「いつものニルスだなあ」とほのぼのすればいいのか何一つわからない。
やり直し人生歩んでからは初めての恋だし、しかも相手は遡る前も含めて初めての同性だし、もう深く考えないほうがいいんだろうな。
「怒ってないのか?」
「俺が?」
「うん」
「何故怒る必要が?」
「だってお前に内緒で鍵しちゃったし」
「別に構わない」
「そっか。ならよかった」
ニルスがよく口にする「別に構わない」がエルヴィンは気持ちを自覚する前から結構好きだったりする。素っ気ない適当な言い方に聞こえるかもしれないが、少なくともエルヴィンはそう受け止めたことはないし、安心する。許されている感じや受け入れられている感じだけでなく、包容力さえ感じる。
今も、本当に構わないと思ってくれているのだろうなとホッとした。
よかったと言いながら、少し離れて座っていたエルヴィンはじりじりと近づいた。そして姿勢正しく座っていた、ニルスの太ももの上に置かれている手に自分の手をそっと重ねる。
「エルヴィン?」
「今まで友人として過ごしてきた時に結構二人きりでいた気がしてたけど、恋人になったら意識しちゃうからかな、案外二人きりになれないなーって思うんだけど」
「……そう、かも」
「ニルス、お前の手袋外していい?」
「構わない」
こういう時に「何故だ」とニルスなら聞いてきそうな雰囲気をまといつつも、案外何も聞かず「構わない」と言ってくれるところも好きだとエルヴィンは白い手袋を外しながら微笑んだ。事務作業をしていたエルヴィンは元々手袋をつけていなかったので、手と手の触れ合いをすぐに実感できた。
「ニルスの手、案外冷たいな」
いつも優しいから何となく温かいイメージがあった。
「……緊張」
「ん?」
「……いや、何でもない。冷たいか? お前を冷やすのはいただけないし、離したほうが……」
「何でだよ。手に触れただけで俺、冷えるのか? どんだけ俺は体弱ってんの、ニルスの中で」
いっそもう呆れを通り越しておかしくなる。笑いながらエルヴィンはさらにお互いの指と指を絡めさせたり、指でニルスの指を握ったり擦ったりした。
「な、にを……?」
「温めてんだよ」
あと俺のニルスに触れたい欲を満たしてます。
「……そ、んなことで温まり、は……」
ニルスの声が少し掠れている。ニルスの感情を読み取りにくくとも、そしてリックからもらったブローチをつけていなくとも、さすがにエルヴィンでもわかった。
ニルスは俺に触れられて喜んでくれてはいるっぽいけど、緊張もしてるっぽい?
もし本当にそうだとしたら何てかわいいんだろうと思った。同じ歳のそして同性で自分より背の高い男前に対して持つ感情としておかしいのかもしれないが、恋人に対して持つ感情としてはいたって健全だとエルヴィンは思う。
というか同じ歳だけどある意味年下でもあるんだよなあ。
年下という表現は適切ではないが、遡る前の年齢を考慮すればそういう風に捉えてもおかしくない気がする。
先ほどは自分も散々緊張したりドキドキしたというのに、生真面目なはずのエルヴィンに悪戯心が湧く。
「何だよニルス。俺ら両思いだと思ったのに、ニルスは俺に触れられて嬉しくない? 俺はニルスに触れるの嬉しいのに」
ますます指を絡めながら言う。だがニルスは一見やはり表情は変わらずだ。
でも、内心多少はドキドキしてくれてたり、するんだよ、な?
むしろますます真顔になった気がするニルスに、少々疑問を挟みながらエルヴィンは窺うようにそっと見上げた。
もしくは、騎士でもないわりに敏捷性の高いニルスは人の動作を案外逃さず見ていたりする。なので気づいている可能性もあるものの、同性だけに特に意識はしていないかもしれない。
恋人なら、ましてや付き合いたてならつい意識してしまうかもしれないけど、俺もその辺の感覚がまだいまいちわからないんだよな。
ニルスに対しては特にもう性を越えて見ているところあるが、基本異性愛者のはずだからかいまいちピンとこない時がまだある。こういう場合も女性相手ならいくら恋人でも黙って施錠するなんて紳士としてどうだろうかと思ったりもする。恋人相手なら、少しドアを開けておくまではさすがにしないにしてもだ。しかし男性相手だと同性だし意識する必要も身の危険を感じられることもないだろうとつい考えてしまう。
とはいえ俺はめちゃくちゃ意識してるし、ニルスを性的に見て好きなわけだし、黙って施錠するなんてやっぱりマナー違反だよなあ。
二人きりで甘い時間を過ごしたいという欲が高かったのもあり、つい気がせいで部屋に入った途端施錠していたが、ソファーへ向かいながら普段の生真面目さが欲よりも優勢になってきた。
ソファーに二人して座ったものの、少なくとも意識しまくっている上に生真面目さがもたげてしまい罪悪感も湧いているエルヴィンは少しニルスから離れて座った。そしておずおず声をかける。
「……あの、ニルス」
「どうした?」
「俺、……実は部屋入った時に鍵、かけちゃった」
「……そうか」
知ってか知らないでか、ニルスはいつもと変わらない感じで頷いてきた。エルヴィンとしてはホッとすればいいのか焦ればいいのか微妙に思えばいいのか「いつものニルスだなあ」とほのぼのすればいいのか何一つわからない。
やり直し人生歩んでからは初めての恋だし、しかも相手は遡る前も含めて初めての同性だし、もう深く考えないほうがいいんだろうな。
「怒ってないのか?」
「俺が?」
「うん」
「何故怒る必要が?」
「だってお前に内緒で鍵しちゃったし」
「別に構わない」
「そっか。ならよかった」
ニルスがよく口にする「別に構わない」がエルヴィンは気持ちを自覚する前から結構好きだったりする。素っ気ない適当な言い方に聞こえるかもしれないが、少なくともエルヴィンはそう受け止めたことはないし、安心する。許されている感じや受け入れられている感じだけでなく、包容力さえ感じる。
今も、本当に構わないと思ってくれているのだろうなとホッとした。
よかったと言いながら、少し離れて座っていたエルヴィンはじりじりと近づいた。そして姿勢正しく座っていた、ニルスの太ももの上に置かれている手に自分の手をそっと重ねる。
「エルヴィン?」
「今まで友人として過ごしてきた時に結構二人きりでいた気がしてたけど、恋人になったら意識しちゃうからかな、案外二人きりになれないなーって思うんだけど」
「……そう、かも」
「ニルス、お前の手袋外していい?」
「構わない」
こういう時に「何故だ」とニルスなら聞いてきそうな雰囲気をまといつつも、案外何も聞かず「構わない」と言ってくれるところも好きだとエルヴィンは白い手袋を外しながら微笑んだ。事務作業をしていたエルヴィンは元々手袋をつけていなかったので、手と手の触れ合いをすぐに実感できた。
「ニルスの手、案外冷たいな」
いつも優しいから何となく温かいイメージがあった。
「……緊張」
「ん?」
「……いや、何でもない。冷たいか? お前を冷やすのはいただけないし、離したほうが……」
「何でだよ。手に触れただけで俺、冷えるのか? どんだけ俺は体弱ってんの、ニルスの中で」
いっそもう呆れを通り越しておかしくなる。笑いながらエルヴィンはさらにお互いの指と指を絡めさせたり、指でニルスの指を握ったり擦ったりした。
「な、にを……?」
「温めてんだよ」
あと俺のニルスに触れたい欲を満たしてます。
「……そ、んなことで温まり、は……」
ニルスの声が少し掠れている。ニルスの感情を読み取りにくくとも、そしてリックからもらったブローチをつけていなくとも、さすがにエルヴィンでもわかった。
ニルスは俺に触れられて喜んでくれてはいるっぽいけど、緊張もしてるっぽい?
もし本当にそうだとしたら何てかわいいんだろうと思った。同じ歳のそして同性で自分より背の高い男前に対して持つ感情としておかしいのかもしれないが、恋人に対して持つ感情としてはいたって健全だとエルヴィンは思う。
というか同じ歳だけどある意味年下でもあるんだよなあ。
年下という表現は適切ではないが、遡る前の年齢を考慮すればそういう風に捉えてもおかしくない気がする。
先ほどは自分も散々緊張したりドキドキしたというのに、生真面目なはずのエルヴィンに悪戯心が湧く。
「何だよニルス。俺ら両思いだと思ったのに、ニルスは俺に触れられて嬉しくない? 俺はニルスに触れるの嬉しいのに」
ますます指を絡めながら言う。だがニルスは一見やはり表情は変わらずだ。
でも、内心多少はドキドキしてくれてたり、するんだよ、な?
むしろますます真顔になった気がするニルスに、少々疑問を挟みながらエルヴィンは窺うようにそっと見上げた。
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