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83話
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何かを言わなくて、は……。何か、いや、何か、じゃない。今一番聞きたいことをちゃんと確認するべきだ。
ニルスは意を決するくらいの勢いで口を開いた。
「……エルヴィン」
「は、はい」
「……その」
「はい」
「……ほ、本当、に?」
「え?」
エルヴィンが戸惑いながらまたニルスを見てきた。それはそうかもしれない。ニルスはちゃんと言葉にしていない。もう一度、きちんと確認するべきだとニルスは再度「エルヴィン……」と呼びかけた。
するとニルスが何を言いたかったのか把握してくれたらしいエルヴィンが「すごく不本意だけど」と口を開いてくれた。
「……俺はニルスが……、……好きだ」
いきなり雷が突然ニルスめがけて落ちてきたのかと思った。だが次に頭に浮かんだのは「すごく不本意だけど好きだ」と言われたのではということだった。
不本意……不本意なのか……?
いや、落ち着くべきだ。エルヴィンはそんな風に言っていない。ちゃんとしっかり話を聞かなくては。エルヴィンは確か「こういう感じで気持ちが暴露してしまうことが不本意」だと言ったんだ。
「ごめんな、お前はずっと俺のこと、幼馴染の友人だと思ってくれていただろうに」
エルヴィンが謝っている。何故謝るのかと怪訝に思う。それを言うならば、ニルスは出会った最初から多分好きだった。もっと謝らなければならない。
「俺もずっとそう思ってはいたんだけど……」
悪い、エルヴィン。俺はずっとそう思っていなかった。もちろん友人としても大切だが、何よりお前を──
「悪い、気づけばお前のこと、好きになっ」
しっかり話を聞かなければと思っていたが、これ以上もう我慢できなかった。つかんでいた手首を離すと、ニルスは思いきりエルヴィンを抱き寄せた。
「っな、ん……、……、……あの」
「……あ、ああ。すまない……。嬉しく、て」
「え? ……ニルス?」
怪訝そうな声色だが、抱きしめたニルスから逃れようとしない。今エルヴィンに触れても大丈夫だったのだな、よかったのだなと思うと、ニルスはますます気持ちが高揚した。
「……俺、も……お前の、こと……」
声が掠れる。緊張というよりは愛しさのあまりだろう。
「エルヴィン……愛している……」
ちゃんと伝えられただろうか。声になっていただろうか。もう一度ちゃんと明確に言葉にすべきではないだろうか。だがあまりにも愛しくて嬉しくて堪えることなどできそうにない。
ニルスはさらに引き寄せるとエルヴィンにキスをした。
今までも何度かしているが、それはすべてエルヴィンの意識がはっきりしていない時ばかりだ。最初は申し訳なさでいっぱいだったが、それも薄れてきていた。だがこうしてエルヴィンの意識がしっかりとしている状況で、何よりも両思いなのだとわかった上でのキスは何ものにも代えがたい、唯一無二とも思える最高のものだった。
しかもエルヴィンは拒否するどころかニルスに腕を回してきて抱きしめ返してくれている。
泣きそうなくらい、嬉しかった。
その後どんな言動をとったのか、正直ニルスはあまり覚えていない。
ちゃんと紳士として恥ずかしくない態度でエルヴィンを送り出せただろうか。男として情けなくない態度でエルヴィンに向かい合えただろうか。
少々心配ではある。ただ、その後もエルヴィンから避けられることもなく、嫌そうな顔もされていないので一応大丈夫だったのかもしれない。
リックには否応なしに報告させられた。
「あれからどうなった?」
「お前に言う必要ない」
「へえ、そんなこと言うんだ? 俺のお膳立てがなければ今だって、多分これからもニルスとエルヴィンはお互い気持ちがすれ違ったまま親しい友人として生涯を終えるとしか思えないというのにね? へぇ」
「……、…………俺も告白、できた」
「何て告げたの?」
「そこまで言う必要あるのか?」
「あるよ」
「……、……愛していると告げた」
「ニルスが? あのニルスが?」
「……どの俺だ」
「いやぁ、これはこれは。ちょ、待って、最高の気分だよ、お腹痛い」
「……俺は今、結構忌々しいが。少なくとも笑うのをやめろ」
「あは、は……っ、いや、これでも心から嬉しく思ってるし祝福してるんだよ」
「なら態度で示してくれ」
「ニルスが悪いんでしょ、ニルスが。普段のニルスから想像もつかないこと、するんだから。あー、もうほんっと、お腹!」
「……」
大いに気分を害していると、リックが「で?」とニルスを見てくる。
「で、とは」
「デートに誘った?」
「……いや」
「は? 何やってんの? 見てくれだけはやたらめったら特上なくせに、中身ほんとポンコツすぎない?」
「言い過ぎだろ……。だいたい俺もエルヴィンも忙しい」
「その忙しい合間をぬって逢瀬するもんでしょ! 馬鹿なの?」
「……そう、なのか? 恋とか……エルヴィン以外にしたことがないから、わからない」
「ほんっともう! かわいいのはいいけど」
「かわいい言うな」
「そこはしっかりして。誰だって最初は未経験でしょ。でも未経験に胡坐かいてちゃ永遠に未経験のままだよニルス。とりあえずまずデートに誘って」
「わ、わかった」
とはいえどのタイミングでどう誘えばいいのだろうかと思っていると、たまたま顔を合わせた時に「少し時間ある時、一緒にお茶でもどうかな」とエルヴィンのほうから誘われた。
ニルスは意を決するくらいの勢いで口を開いた。
「……エルヴィン」
「は、はい」
「……その」
「はい」
「……ほ、本当、に?」
「え?」
エルヴィンが戸惑いながらまたニルスを見てきた。それはそうかもしれない。ニルスはちゃんと言葉にしていない。もう一度、きちんと確認するべきだとニルスは再度「エルヴィン……」と呼びかけた。
するとニルスが何を言いたかったのか把握してくれたらしいエルヴィンが「すごく不本意だけど」と口を開いてくれた。
「……俺はニルスが……、……好きだ」
いきなり雷が突然ニルスめがけて落ちてきたのかと思った。だが次に頭に浮かんだのは「すごく不本意だけど好きだ」と言われたのではということだった。
不本意……不本意なのか……?
いや、落ち着くべきだ。エルヴィンはそんな風に言っていない。ちゃんとしっかり話を聞かなくては。エルヴィンは確か「こういう感じで気持ちが暴露してしまうことが不本意」だと言ったんだ。
「ごめんな、お前はずっと俺のこと、幼馴染の友人だと思ってくれていただろうに」
エルヴィンが謝っている。何故謝るのかと怪訝に思う。それを言うならば、ニルスは出会った最初から多分好きだった。もっと謝らなければならない。
「俺もずっとそう思ってはいたんだけど……」
悪い、エルヴィン。俺はずっとそう思っていなかった。もちろん友人としても大切だが、何よりお前を──
「悪い、気づけばお前のこと、好きになっ」
しっかり話を聞かなければと思っていたが、これ以上もう我慢できなかった。つかんでいた手首を離すと、ニルスは思いきりエルヴィンを抱き寄せた。
「っな、ん……、……、……あの」
「……あ、ああ。すまない……。嬉しく、て」
「え? ……ニルス?」
怪訝そうな声色だが、抱きしめたニルスから逃れようとしない。今エルヴィンに触れても大丈夫だったのだな、よかったのだなと思うと、ニルスはますます気持ちが高揚した。
「……俺、も……お前の、こと……」
声が掠れる。緊張というよりは愛しさのあまりだろう。
「エルヴィン……愛している……」
ちゃんと伝えられただろうか。声になっていただろうか。もう一度ちゃんと明確に言葉にすべきではないだろうか。だがあまりにも愛しくて嬉しくて堪えることなどできそうにない。
ニルスはさらに引き寄せるとエルヴィンにキスをした。
今までも何度かしているが、それはすべてエルヴィンの意識がはっきりしていない時ばかりだ。最初は申し訳なさでいっぱいだったが、それも薄れてきていた。だがこうしてエルヴィンの意識がしっかりとしている状況で、何よりも両思いなのだとわかった上でのキスは何ものにも代えがたい、唯一無二とも思える最高のものだった。
しかもエルヴィンは拒否するどころかニルスに腕を回してきて抱きしめ返してくれている。
泣きそうなくらい、嬉しかった。
その後どんな言動をとったのか、正直ニルスはあまり覚えていない。
ちゃんと紳士として恥ずかしくない態度でエルヴィンを送り出せただろうか。男として情けなくない態度でエルヴィンに向かい合えただろうか。
少々心配ではある。ただ、その後もエルヴィンから避けられることもなく、嫌そうな顔もされていないので一応大丈夫だったのかもしれない。
リックには否応なしに報告させられた。
「あれからどうなった?」
「お前に言う必要ない」
「へえ、そんなこと言うんだ? 俺のお膳立てがなければ今だって、多分これからもニルスとエルヴィンはお互い気持ちがすれ違ったまま親しい友人として生涯を終えるとしか思えないというのにね? へぇ」
「……、…………俺も告白、できた」
「何て告げたの?」
「そこまで言う必要あるのか?」
「あるよ」
「……、……愛していると告げた」
「ニルスが? あのニルスが?」
「……どの俺だ」
「いやぁ、これはこれは。ちょ、待って、最高の気分だよ、お腹痛い」
「……俺は今、結構忌々しいが。少なくとも笑うのをやめろ」
「あは、は……っ、いや、これでも心から嬉しく思ってるし祝福してるんだよ」
「なら態度で示してくれ」
「ニルスが悪いんでしょ、ニルスが。普段のニルスから想像もつかないこと、するんだから。あー、もうほんっと、お腹!」
「……」
大いに気分を害していると、リックが「で?」とニルスを見てくる。
「で、とは」
「デートに誘った?」
「……いや」
「は? 何やってんの? 見てくれだけはやたらめったら特上なくせに、中身ほんとポンコツすぎない?」
「言い過ぎだろ……。だいたい俺もエルヴィンも忙しい」
「その忙しい合間をぬって逢瀬するもんでしょ! 馬鹿なの?」
「……そう、なのか? 恋とか……エルヴィン以外にしたことがないから、わからない」
「ほんっともう! かわいいのはいいけど」
「かわいい言うな」
「そこはしっかりして。誰だって最初は未経験でしょ。でも未経験に胡坐かいてちゃ永遠に未経験のままだよニルス。とりあえずまずデートに誘って」
「わ、わかった」
とはいえどのタイミングでどう誘えばいいのだろうかと思っていると、たまたま顔を合わせた時に「少し時間ある時、一緒にお茶でもどうかな」とエルヴィンのほうから誘われた。
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