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81話
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こんなことってある?
あの後エルヴィンはひたすら頭の中でぐるぐると思っていた。
え、ほんとに、こんなことって、ある?
まさか自分が同性のそれも友人を好きになるなんてと、それだけでも驚きだというのに、ニルスもエルヴィンのことを好きだなどと、夢物語であっても安易すぎる。
ラウラが好きな恋愛小説でも、もっと捻りあるんじゃない?
今まで結構読まされてきたが、どれももう少し主人公たちの関係性には捻りがあったような気がする。だからこそ面白……いや、多少読みがいもあったような気がする。
とにかく思わずそう思ってしまうくらい信じられない。
だが「愛している」という言葉は正直本当に言われたのかわからないくらい小さな声で聞こえてきたとはいえ、あのキスは絶対に幻でもエルヴィンの妄想でもない。
え? 多分そうだよ、な? 妄想違う、よな? え、どうだろ、何か自信なくなってきた……まさか俺の妄想?
ただでさえ口数の少ないニルスは、仕方ないことだがあれから「好きだ」とも「愛している」とも「付き合ってくれ」とも言ってこない。なおさら自分の妄想だったのだろうかと思いそうだったが、幸いというか元凶であるリックがこの間たまたま城内ですれ違うことがあった時に物影に引き込まれ、城壁に押しつけられるようにして「両思いになったんだって?」と言ってきたおかげで現実だったとエルヴィンは心からホッとした。
「俺、とニルス……両思いでいいんです、よね? あと退いてください」
「はは、俺が聞いたんだけど。というか、何でそんな自信なさそうなの?」
エルヴィンを両腕で囲うのをやめながらリックがにこにこ見てくる。
「……いえ、あまりに都合よく行き過ぎてて、俺の妄想だったのかなと」
「よくそんな発想になれるね。ニルスもたいがいだけど、エルヴィンもなかなかあれだな」
「あれって何です?」
「何でもないよ。あと安心して。妄想じゃないから。ニルスからちゃんと『自分もエルヴィンに告白できた』って報告受けたよ」
「……昨今の主従関係では恋愛の報告まであるんですか……」
「さすがにないね。でもほら、今回は俺も噛んでるし?」
「むしろあなたのせいでしかないんですけどね……! ですが……」
「ですが?」
「ありがとうございます」
リックが意地悪なことをしてきたせいで結局は両思いになれた。というかリックのことだけに、もしかしたら何もかもわかってやってきたのかもしれないとさえ思えてくる。
礼を述べるとリックは嬉しそうに笑ってきた。
告白事件から残念ながら数日の間、お互い仕事が忙しくてエルヴィンはニルスとゆっくり会う暇もなかった。だがようやく時間ができたので、とりあえずニルスを茶会に招待する。
茶会と言っても他に誰か呼ぶのではなく、完全に二人だけだ。
というか、他のやつなんて呼んでたまるか。せっかく両思いになれたってのに全然二人で話すらできてないんだ。
意気込んでいたエルヴィンだが、最初は妙にギクシャクとしてしまった。童貞かよと自分に突っ込みたくなったが、時間を遡ってからは確かに童貞なのでシャレにならないため、やめておく。
「そ、その……今日は来てくれてありがとう」
ずっと一緒に過ごしてきた幼馴染であり親友相手に、遡る前に初めて好きな令嬢を誘った時みたいな言い方になってしまった。
クソ、童貞かよ……いや、だから俺、今は童貞なんだって。
「……ああ」
そしてニルスはある意味相変わらずだ。そこを含めて好きになっているものの、今はとても落ち着かない。
少しの間、お互い無言でひたすら茶を飲んだ。焼き菓子も口にしたが、正直味などわからないくらいには緊張している。エルヴィンの好物であるバターキュルビスパイですら喉につかえそうだ。
「……エルヴィン」
「は、はい」
「……その……まさか、両思いになれると、は……思っていなかったんだが……もし、こうして付き合えたなら……」
あ、やっぱ付き合ってる、でいいんだな?
顔が熱くなりながらもそんなことを今さら実感しているとニルスが言いにくそうに「してみたかったことが、ある」と続けてきた。
してみたかった……何だろう。キス、は違うよな。だってもう、した。
しかも実はすでに今までに何度かしていたらしい。ゆっくり会えないながらも一度少し話せる機会が合った時、ニルスがまたもやこの世の不条理をすべて味わったかのような何とも言えない顔で教えてくれた。そして心から「すまない」と何度も謝られたが、すでにニルスのことが好きでたまらないエルヴィンからすれば正直「むしろいくらでもしてくれ」な気持ちだったため「いいよ」と即許していた。
キスじゃなければ……え、ちょ、もしかして……?
エロいことですか……? と思考がそちらへ行きつつますます顔が熱くなっていると、ニルスがフォークに焼き菓子をさした状態でおずおずとエルヴィンに差し出してきた。
「? ニルス?」
「……食べて」
あーん、かよ……!
今日一番の突っ込みが心の中で炸裂した。
だがそのおかげか、それともニルスがやたらかわいく思えたせいか、一気に肩の力が抜けた。妙な緊張感がすっとなくなっていく。
エルヴィンは苦笑すると口を開けた。
「あーん」
そして口に出して言えば、ニルスがそわそわとした様子で焼き菓子をそっとエルヴィンの口の中に入れてきた。
あの後エルヴィンはひたすら頭の中でぐるぐると思っていた。
え、ほんとに、こんなことって、ある?
まさか自分が同性のそれも友人を好きになるなんてと、それだけでも驚きだというのに、ニルスもエルヴィンのことを好きだなどと、夢物語であっても安易すぎる。
ラウラが好きな恋愛小説でも、もっと捻りあるんじゃない?
今まで結構読まされてきたが、どれももう少し主人公たちの関係性には捻りがあったような気がする。だからこそ面白……いや、多少読みがいもあったような気がする。
とにかく思わずそう思ってしまうくらい信じられない。
だが「愛している」という言葉は正直本当に言われたのかわからないくらい小さな声で聞こえてきたとはいえ、あのキスは絶対に幻でもエルヴィンの妄想でもない。
え? 多分そうだよ、な? 妄想違う、よな? え、どうだろ、何か自信なくなってきた……まさか俺の妄想?
ただでさえ口数の少ないニルスは、仕方ないことだがあれから「好きだ」とも「愛している」とも「付き合ってくれ」とも言ってこない。なおさら自分の妄想だったのだろうかと思いそうだったが、幸いというか元凶であるリックがこの間たまたま城内ですれ違うことがあった時に物影に引き込まれ、城壁に押しつけられるようにして「両思いになったんだって?」と言ってきたおかげで現実だったとエルヴィンは心からホッとした。
「俺、とニルス……両思いでいいんです、よね? あと退いてください」
「はは、俺が聞いたんだけど。というか、何でそんな自信なさそうなの?」
エルヴィンを両腕で囲うのをやめながらリックがにこにこ見てくる。
「……いえ、あまりに都合よく行き過ぎてて、俺の妄想だったのかなと」
「よくそんな発想になれるね。ニルスもたいがいだけど、エルヴィンもなかなかあれだな」
「あれって何です?」
「何でもないよ。あと安心して。妄想じゃないから。ニルスからちゃんと『自分もエルヴィンに告白できた』って報告受けたよ」
「……昨今の主従関係では恋愛の報告まであるんですか……」
「さすがにないね。でもほら、今回は俺も噛んでるし?」
「むしろあなたのせいでしかないんですけどね……! ですが……」
「ですが?」
「ありがとうございます」
リックが意地悪なことをしてきたせいで結局は両思いになれた。というかリックのことだけに、もしかしたら何もかもわかってやってきたのかもしれないとさえ思えてくる。
礼を述べるとリックは嬉しそうに笑ってきた。
告白事件から残念ながら数日の間、お互い仕事が忙しくてエルヴィンはニルスとゆっくり会う暇もなかった。だがようやく時間ができたので、とりあえずニルスを茶会に招待する。
茶会と言っても他に誰か呼ぶのではなく、完全に二人だけだ。
というか、他のやつなんて呼んでたまるか。せっかく両思いになれたってのに全然二人で話すらできてないんだ。
意気込んでいたエルヴィンだが、最初は妙にギクシャクとしてしまった。童貞かよと自分に突っ込みたくなったが、時間を遡ってからは確かに童貞なのでシャレにならないため、やめておく。
「そ、その……今日は来てくれてありがとう」
ずっと一緒に過ごしてきた幼馴染であり親友相手に、遡る前に初めて好きな令嬢を誘った時みたいな言い方になってしまった。
クソ、童貞かよ……いや、だから俺、今は童貞なんだって。
「……ああ」
そしてニルスはある意味相変わらずだ。そこを含めて好きになっているものの、今はとても落ち着かない。
少しの間、お互い無言でひたすら茶を飲んだ。焼き菓子も口にしたが、正直味などわからないくらいには緊張している。エルヴィンの好物であるバターキュルビスパイですら喉につかえそうだ。
「……エルヴィン」
「は、はい」
「……その……まさか、両思いになれると、は……思っていなかったんだが……もし、こうして付き合えたなら……」
あ、やっぱ付き合ってる、でいいんだな?
顔が熱くなりながらもそんなことを今さら実感しているとニルスが言いにくそうに「してみたかったことが、ある」と続けてきた。
してみたかった……何だろう。キス、は違うよな。だってもう、した。
しかも実はすでに今までに何度かしていたらしい。ゆっくり会えないながらも一度少し話せる機会が合った時、ニルスがまたもやこの世の不条理をすべて味わったかのような何とも言えない顔で教えてくれた。そして心から「すまない」と何度も謝られたが、すでにニルスのことが好きでたまらないエルヴィンからすれば正直「むしろいくらでもしてくれ」な気持ちだったため「いいよ」と即許していた。
キスじゃなければ……え、ちょ、もしかして……?
エロいことですか……? と思考がそちらへ行きつつますます顔が熱くなっていると、ニルスがフォークに焼き菓子をさした状態でおずおずとエルヴィンに差し出してきた。
「? ニルス?」
「……食べて」
あーん、かよ……!
今日一番の突っ込みが心の中で炸裂した。
だがそのおかげか、それともニルスがやたらかわいく思えたせいか、一気に肩の力が抜けた。妙な緊張感がすっとなくなっていく。
エルヴィンは苦笑すると口を開けた。
「あーん」
そして口に出して言えば、ニルスがそわそわとした様子で焼き菓子をそっとエルヴィンの口の中に入れてきた。
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