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80話
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待ってと言われたものの、ニルスはそれ以上何も言ってこない。だが腕をつかまれたままなので逃げ……切り抜けることもできない。
「……あの、ニルス……?」
何か言うか腕を離してもらえればと思う。さらにもう少し欲を言えば、何か言うにしても罵りなどはできれば避けていただければとエルヴィンは切に願った。
幼馴染で親友である同性から気持ちを向けられて爽やかな気持ちになれないとしても、できれば流すというか、せめて「気持ちはわかった。だが俺は」といった風にさらりと断って欲しい。そうでないとうっかりバレてしまった上に罵られる状況にエルヴィンは上手く対応できないかもしれない。
そりゃ断られるのも悲しいけど……でもこればかりは仕方ないことだと受け入れられる。本当ならもっとこう、多少なりともその気になってもらえるよう努力してから気持ちがバレたかったが、こうなっては仕方ないもんな……。
潔く断りを受け入れた上で、今後それでも諦めずに努力していくか、どうしても無理そうなら諦める努力をするか決めていくしかない。だが罵られるとさすがに覚悟の上だったわけではないので少々、いや、結構心が折れそうだ。
かといって腕を振りほどいてまで逃げるのはさすがに卑怯だし、腕を振りほどいて先にいっそ心を読むために触れにいくのはもっと卑怯だ。
「……エルヴィン」
「は、はい」
来るぞ……俺、気合いれろ。どう言われても心、折るなよ?
「……その」
「はい」
「……ほ、本当、に?」
「え?」
予想していた反応と少々違いエルヴィンが戸惑っていると、ニルスがつかんでいた腕をそっと離したかと思えば今度はエルヴィンの両手首をつかんできた。エルヴィンの精神上、好きな人に触れられて嬉しいというより、まるで縄にかけられたような気分だ。その上でニルスはじっとエルヴィンを見下ろしてきた。表情が読みにくいながらに吸い込まれそうな美しい瞳に目が離せなくなりそうだが、やはり今の精神上、できれば顔をそらしたい。
ただ久しぶりに間近で目の当たりにし、改めて男から見てもニルスは美形な上に見惚れるほど男らしい見目だなと思う。それなりに背のあるエルヴィンよりさらに高い背でこの見た目だ。その上大公爵家の子息の上に本人もすでに侯爵の称号を得ている。ニルスは何も言わないが、見合い話が後を絶たないどころか対応できないほど積み上げられているレベルだろうし、たくさんの令嬢からも直接アピールされているのではないだろうかと思う。
……むしろ俺の気持ちを知っても「そうか」で済ませそうな勢いだよな。そうか、で流されそうというか。
だが今、ニルスは「本当に?」と何故か聞いてきた。
何だろ……まさか、そんな気持ちを俺に向けるなんて嘘だろ? と、ある意味罰として繰り返し言わされるプレイ……? いや、ニルスはそういうことしないよな……。
「エルヴィン……」
「あ、え、……あ、ああ! そう、だ。……こういう感じで気持ちがバレてしまうのは俺もすごく不本意だけど……」
もうこうなったら男らしく行くしかない。ただでさえ男らしいところを今まで全然見せられていない上に先ほどからエルヴィンの言動は完全に情けない。せめて今からでも努力するしかない。
「……俺はニルスが……、……好きだ」
先ほどリックのせいでうっかり聞かれてしまった時と違い、今改めて口にすると逆に落ち着いてきた。
「ごめんな、お前はずっと俺のこと、幼馴染の友人だと思ってくれていただろうに。俺もずっとそう思ってはいたんだけど……悪い、気づけばお前のこと、好きになっ」
なっていたと言いかけているところで手首から離れたニルスの手がエルヴィンの体にまわってきて思いきり抱き寄せられた。
「っな、ん」
一瞬唖然としてから驚いたが、正直嬉しく思ったりもする。仕方ない。好きなのだから、そんな好きな相手にどういう意味だかわからないにしても抱きしめられるなど、喜ばない男などいないのではないだろうか。
だがぎゅっと抱かれたまま時間が経過するのは少々落ち着かない。というか心臓にもよくない。
「……あの」
「……あ、ああ。すまない……。嬉しく、て」
「え?」
何が?
「ニルス?」
「……俺、も……お前の、こと……」
え?
「エルヴィン……」
一旦抱擁を解かれ、名前をそっと呼ばれた。そして小さな声で多分「愛している」と聞こえた気がしたが、ニルスの熱い息がかかったかと思うと唇がエルヴィンのそれに触れてきたおかげでとりあえず何もかも吹き飛んだ。
夢で見たことがあるからだろうか。エルヴィンはニルスとのこの唇の触れ合いをすごく知っている気にさえなった。
甘くて柔らかくて熱くてとろけそうで、そしてニルスの味がする。
この味と感触を、俺は知ってる……。
そんな錯覚をエルヴィンは体の芯から疼く何とも言えない最高の感覚とともに痛感した。
とはいえ頭での理解は全く、全然、追いついていない。だがそんなこと今はどうでもいいとばかりにエルヴィンはニルスに腕を回し、ただひたすら夢中になってその味を堪能した。
「……あの、ニルス……?」
何か言うか腕を離してもらえればと思う。さらにもう少し欲を言えば、何か言うにしても罵りなどはできれば避けていただければとエルヴィンは切に願った。
幼馴染で親友である同性から気持ちを向けられて爽やかな気持ちになれないとしても、できれば流すというか、せめて「気持ちはわかった。だが俺は」といった風にさらりと断って欲しい。そうでないとうっかりバレてしまった上に罵られる状況にエルヴィンは上手く対応できないかもしれない。
そりゃ断られるのも悲しいけど……でもこればかりは仕方ないことだと受け入れられる。本当ならもっとこう、多少なりともその気になってもらえるよう努力してから気持ちがバレたかったが、こうなっては仕方ないもんな……。
潔く断りを受け入れた上で、今後それでも諦めずに努力していくか、どうしても無理そうなら諦める努力をするか決めていくしかない。だが罵られるとさすがに覚悟の上だったわけではないので少々、いや、結構心が折れそうだ。
かといって腕を振りほどいてまで逃げるのはさすがに卑怯だし、腕を振りほどいて先にいっそ心を読むために触れにいくのはもっと卑怯だ。
「……エルヴィン」
「は、はい」
来るぞ……俺、気合いれろ。どう言われても心、折るなよ?
「……その」
「はい」
「……ほ、本当、に?」
「え?」
予想していた反応と少々違いエルヴィンが戸惑っていると、ニルスがつかんでいた腕をそっと離したかと思えば今度はエルヴィンの両手首をつかんできた。エルヴィンの精神上、好きな人に触れられて嬉しいというより、まるで縄にかけられたような気分だ。その上でニルスはじっとエルヴィンを見下ろしてきた。表情が読みにくいながらに吸い込まれそうな美しい瞳に目が離せなくなりそうだが、やはり今の精神上、できれば顔をそらしたい。
ただ久しぶりに間近で目の当たりにし、改めて男から見てもニルスは美形な上に見惚れるほど男らしい見目だなと思う。それなりに背のあるエルヴィンよりさらに高い背でこの見た目だ。その上大公爵家の子息の上に本人もすでに侯爵の称号を得ている。ニルスは何も言わないが、見合い話が後を絶たないどころか対応できないほど積み上げられているレベルだろうし、たくさんの令嬢からも直接アピールされているのではないだろうかと思う。
……むしろ俺の気持ちを知っても「そうか」で済ませそうな勢いだよな。そうか、で流されそうというか。
だが今、ニルスは「本当に?」と何故か聞いてきた。
何だろ……まさか、そんな気持ちを俺に向けるなんて嘘だろ? と、ある意味罰として繰り返し言わされるプレイ……? いや、ニルスはそういうことしないよな……。
「エルヴィン……」
「あ、え、……あ、ああ! そう、だ。……こういう感じで気持ちがバレてしまうのは俺もすごく不本意だけど……」
もうこうなったら男らしく行くしかない。ただでさえ男らしいところを今まで全然見せられていない上に先ほどからエルヴィンの言動は完全に情けない。せめて今からでも努力するしかない。
「……俺はニルスが……、……好きだ」
先ほどリックのせいでうっかり聞かれてしまった時と違い、今改めて口にすると逆に落ち着いてきた。
「ごめんな、お前はずっと俺のこと、幼馴染の友人だと思ってくれていただろうに。俺もずっとそう思ってはいたんだけど……悪い、気づけばお前のこと、好きになっ」
なっていたと言いかけているところで手首から離れたニルスの手がエルヴィンの体にまわってきて思いきり抱き寄せられた。
「っな、ん」
一瞬唖然としてから驚いたが、正直嬉しく思ったりもする。仕方ない。好きなのだから、そんな好きな相手にどういう意味だかわからないにしても抱きしめられるなど、喜ばない男などいないのではないだろうか。
だがぎゅっと抱かれたまま時間が経過するのは少々落ち着かない。というか心臓にもよくない。
「……あの」
「……あ、ああ。すまない……。嬉しく、て」
「え?」
何が?
「ニルス?」
「……俺、も……お前の、こと……」
え?
「エルヴィン……」
一旦抱擁を解かれ、名前をそっと呼ばれた。そして小さな声で多分「愛している」と聞こえた気がしたが、ニルスの熱い息がかかったかと思うと唇がエルヴィンのそれに触れてきたおかげでとりあえず何もかも吹き飛んだ。
夢で見たことがあるからだろうか。エルヴィンはニルスとのこの唇の触れ合いをすごく知っている気にさえなった。
甘くて柔らかくて熱くてとろけそうで、そしてニルスの味がする。
この味と感触を、俺は知ってる……。
そんな錯覚をエルヴィンは体の芯から疼く何とも言えない最高の感覚とともに痛感した。
とはいえ頭での理解は全く、全然、追いついていない。だがそんなこと今はどうでもいいとばかりにエルヴィンはニルスに腕を回し、ただひたすら夢中になってその味を堪能した。
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