彼は最後に微笑んだ

Guidepost

文字の大きさ
上 下
70 / 193

70話

しおりを挟む
 その後は婚約パーティーに向けて着々と準備が進められているらしいと、ニルスを通してリックは知った。
 デニスの婚約者はおそらく親の指示によるものだろうが、元々比較的色んなパーティーに顔を出していた。それもあり、二人で会う口実としてリックは「最近パーティーでおかしなものを売る者はいないか」といった質問をさせてもらっていた。これに関してはでっち上げではなく、いずれ調べ上げなければならない事件絡みだ。
 とはいえ今しばらくは水面下で動きたい事柄でもある。本当ならばデニスの弟として婚約パーティーに出席して盛大に祝うべきなのだろう。だが基本的に他言はしないであろうものの、何も知らないデニスの婚約者に無邪気な様子でその事柄に関して口にされても困るのもあり、今しばらくは直接会うのを控えようと思った。
 そんなことを当然知らないニルスからは何度か「兄上の婚約パーティーだぞ」「今まで散々無駄に帰国していたくせに」と呆れたように言われたが「ちょっと最近手が離せない案件があって」などと誤魔化しつつパーティーには出席しないと言い切っていた。パーティー前日にも別の用件がてらに通信機を通して「……あとお前は婚約パーティ、来ないのか?」と最終通告のように聞かれたが「明日でしょ。馬車で二週間かかる距離の俺に無茶ぶりそれ以上してこないで」と返しておいた。

 まあ、一瞬で帰られるんだけどね。

 婚約パーティーは結局盛大な様子で無事終わったようだ。デニスも予想以上に相手の令嬢を気に入っているらしい。
 うまく進んでいるようでよかったと思っていたら、ある日ニルスがまた通信機で妙なことを聞いてきた。

『……お前はヒュープナー家のご令嬢を知っているか?』

 知っているも何も、とリックは内心複雑な気持ちになりつつ「どうかしたの?」と何でもないように聞き返す。

『そのご令嬢はミス・ラヴィニアという人なんだが……』
「へえ」
『……あー、その、あれだ。お前また帰国してきても関わるなよ』

 これはどうやらエルヴィンに何か言われるか聞かれるかしたのかもしれないとリックはにこにこしたまま考える。

「何故?」
『何でもだ』
「……それじゃあわからないよニルス。もしかして君、そのご令嬢のこと気になるの?」

 まあ、エルヴィンしか見ていないだろうしあり得ないけども。

『まさか。エルヴィンはでも気にしてる』
「ああ、なるほど。じゃあもしかしてエルヴィンに、あまり関わらないで欲しいとか言われたのかな」
『何故わかる』

 実際のところ事情を知っているからではあるが、それがなくともこのニルスの様子だとわからない方がおかしい。

「はは。俺を馬鹿だとでも思ってんのかな?」
『どういう意味だ?』
「別に。あとニルスはちょっと隠し事やはかりごとが苦手過ぎるよね。そんなじゃ立派な貴族として出世できないかもだよ?」
『それが得意じゃないと出世できないというならそれでいい。とにかくわかったか?』

 普通だったらわからないだろうね。言葉が足りなさすぎるんだよニルスは本当に。幸い俺はわかるけども。

「わかった。まあよくわからないけどもね。俺に関わるなということは、兄上もかな?」
『そうだな。よくわかったな……』

 少し驚いているということは、自分でも言葉足らずだと自覚はあるのだろう。

 そこでもっとちゃんと言わないとと自己嫌悪に陥らないところがニルスらしいよね。

「まあね」
『……その……エルヴィンはミス・ラヴィニアのこと、興味あるんだろうか……』

 それも普通だったら俺がわかることじゃないよね! ほんとニルスは。まあこれも絶対にないと俺はわかるけども。

「ないんじゃないかな」
『そうだろうか』
「ないよ。ない」
『……ただ、エルヴィンはもしかしたらお前の……いや、何でもない』

 何が言いたかったんだろうと思った後にふと浮かんだのは「エルヴィンはもしかしてリックのことが好きなのでは」的な内容だろうか。ニルスなら軽率に勘違いしそうな気がするし今の言いかけた感じだとそう思えてくる。
 ただ、もし本当にそんな勘違いをしているなら、思っている以上に二人の仲は進んでいないとも言える。

 エルヴィン……もっとちゃんとニルスの気持ち読んでくれないかな!

「……何を言いかけたのかは知らないけど、とにかくミス・ラヴィニアには関わらないようにするよ。どのみちあの男爵家については俺も少々調べたいこともある。ご令嬢に興味を持っている余裕はないな」
『何を調べるんだ?』
「まあそれはまだ明確じゃないかな」
『? 何か手がいるなら言ってくれ』
「ありがとう。とりあえずニルスは引き続きエルヴィンを守っていてくれ」
『……ああ、問題ない』

 後日、エルヴィンはとあるパーティーでラヴィニアを直接目の当たりにして倒れたらしい。ニルスから聞いた。改めてエルヴィンの傷の深さをリックは実感した。

 絶対、何があっても繰り返すようなことにはならないよエルヴィン。

 ニルスから話を聞いた時、リックは心の中で呟いた。

 ならないし、させない。

 リックも未来を変えるためできることをしてきたし、エルヴィンやラウラを見ていると多分エルヴィンもがんばってきたであろうことがわかる。
 その上リックは時間を遡らせた張本人だし、デニスやラヴィニアの様子などが窺いやすい立場だ。直接、王や第一王子と基本的に接することのないエルヴィンとは違う。

 だからこそ、なおさら俺はあれこれ動かないとね。

 やるべきことの二つ目、そして三つ目にも関わることだ。それらを潰すため、無事デニスの婚約者が解決した今、リックは次の予定に取り掛かっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃんでした。 実際に逢ってみたら、え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこいー伴侶がいますので! おじいちゃんと孫じゃないよ!

【BL】こんな恋、したくなかった

のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】  人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。  ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。 ※ご都合主義、ハッピーエンド

不憫な推しキャラを救おうとしただけなのに

はぴねこ
BL
美幼児&美幼児(ブロマンス期)からの美青年×美青年(BL期)への成長を辿る長編BLです。 金髪碧眼美幼児のリヒトの前世は、隠れゲイでBL好きのおじさんだった。 享年52歳までプレイしていた乙女ゲーム『星鏡のレイラ』の攻略対象であるリヒトに転生したため、彼は推しだった不憫な攻略対象:カルロを不運な運命から救い、幸せにすることに全振りする。 見た目は美しい王子のリヒトだが、中身は52歳で、両親も乳母も護衛騎士もみんな年下。 気軽に話せるのは年上の帝国の皇帝や魔塔主だけ。 幼い推しへの高まる父性でカルロを溺愛しつつ、頑張る若者たち(両親etc)を温かく見守りながら、リヒトはヒロインとカルロが結ばれるように奮闘する! リヒト… エトワール王国の第一王子。カルロへの父性が暴走気味。 カルロ… リヒトの従者。リヒトは神様で唯一の居場所。リヒトへの想いが暴走気味。 魔塔主… 一人で国を滅ぼせるほどの魔法が使える自由人。ある意味厄災。リヒトを研究対象としている。 オーロ皇帝… 大帝国の皇帝。エトワールの悍ましい慣習を嫌っていたが、リヒトの利発さに興味を持つ。 ナタリア… 乙女ゲーム『星鏡のレイラ』のヒロイン。オーロ皇帝の孫娘。カルロとは恋のライバル。

貧乏Ωの憧れの人

ゆあ
BL
妊娠・出産に特化したΩの男性である大学1年の幸太には耐えられないほどの発情期が周期的に訪れる。そんな彼を救ってくれたのは生物的にも社会的にも恵まれたαである拓也だった。定期的に体の関係をもつようになった2人だが、なんと幸太は妊娠してしまう。中絶するには番の同意書と10万円が必要だが、貧乏学生であり、拓也の番になる気がない彼にはどちらの選択もハードルが高すぎて……。すれ違い拗らせオメガバースBL。 エブリスタにて紹介して頂いた時に書いて貰ったもの

転生するにしても、これは無いだろ! ~死ぬ間際に読んでいた小説の悪役に転生しましたが、自分を殺すはずの最強主人公が逃がしてくれません~

槿 資紀
BL
駅のホームでネット小説を読んでいたところ、不慮の事故で電車に撥ねられ、死んでしまった平凡な男子高校生。しかし、二度と目覚めるはずのなかった彼は、死ぬ直前まで読んでいた小説に登場する悪役として再び目覚める。このままでは、自分のことを憎む最強主人公に殺されてしまうため、何とか逃げ出そうとするのだが、当の最強主人公の態度は、小説とはどこか違って――――。 最強スパダリ主人公×薄幸悪役転生者 R‐18展開は今のところ予定しておりません。ご了承ください。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

処理中です...