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70話
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その後は婚約パーティーに向けて着々と準備が進められているらしいと、ニルスを通してリックは知った。
デニスの婚約者はおそらく親の指示によるものだろうが、元々比較的色んなパーティーに顔を出していた。それもあり、二人で会う口実としてリックは「最近パーティーでおかしなものを売る者はいないか」といった質問をさせてもらっていた。これに関してはでっち上げではなく、いずれ調べ上げなければならない事件絡みだ。
とはいえ今しばらくは水面下で動きたい事柄でもある。本当ならばデニスの弟として婚約パーティーに出席して盛大に祝うべきなのだろう。だが基本的に他言はしないであろうものの、何も知らないデニスの婚約者に無邪気な様子でその事柄に関して口にされても困るのもあり、今しばらくは直接会うのを控えようと思った。
そんなことを当然知らないニルスからは何度か「兄上の婚約パーティーだぞ」「今まで散々無駄に帰国していたくせに」と呆れたように言われたが「ちょっと最近手が離せない案件があって」などと誤魔化しつつパーティーには出席しないと言い切っていた。パーティー前日にも別の用件がてらに通信機を通して「……あとお前は婚約パーティ、来ないのか?」と最終通告のように聞かれたが「明日でしょ。馬車で二週間かかる距離の俺に無茶ぶりそれ以上してこないで」と返しておいた。
まあ、一瞬で帰られるんだけどね。
婚約パーティーは結局盛大な様子で無事終わったようだ。デニスも予想以上に相手の令嬢を気に入っているらしい。
うまく進んでいるようでよかったと思っていたら、ある日ニルスがまた通信機で妙なことを聞いてきた。
『……お前はヒュープナー家のご令嬢を知っているか?』
知っているも何も、とリックは内心複雑な気持ちになりつつ「どうかしたの?」と何でもないように聞き返す。
『そのご令嬢はミス・ラヴィニアという人なんだが……』
「へえ」
『……あー、その、あれだ。お前また帰国してきても関わるなよ』
これはどうやらエルヴィンに何か言われるか聞かれるかしたのかもしれないとリックはにこにこしたまま考える。
「何故?」
『何でもだ』
「……それじゃあわからないよニルス。もしかして君、そのご令嬢のこと気になるの?」
まあ、エルヴィンしか見ていないだろうしあり得ないけども。
『まさか。エルヴィンはでも気にしてる』
「ああ、なるほど。じゃあもしかしてエルヴィンに、あまり関わらないで欲しいとか言われたのかな」
『何故わかる』
実際のところ事情を知っているからではあるが、それがなくともこのニルスの様子だとわからない方がおかしい。
「はは。俺を馬鹿だとでも思ってんのかな?」
『どういう意味だ?』
「別に。あとニルスはちょっと隠し事やはかりごとが苦手過ぎるよね。そんなじゃ立派な貴族として出世できないかもだよ?」
『それが得意じゃないと出世できないというならそれでいい。とにかくわかったか?』
普通だったらわからないだろうね。言葉が足りなさすぎるんだよニルスは本当に。幸い俺はわかるけども。
「わかった。まあよくわからないけどもね。俺に関わるなということは、兄上もかな?」
『そうだな。よくわかったな……』
少し驚いているということは、自分でも言葉足らずだと自覚はあるのだろう。
そこでもっとちゃんと言わないとと自己嫌悪に陥らないところがニルスらしいよね。
「まあね」
『……その……エルヴィンはミス・ラヴィニアのこと、興味あるんだろうか……』
それも普通だったら俺がわかることじゃないよね! ほんとニルスは。まあこれも絶対にないと俺はわかるけども。
「ないんじゃないかな」
『そうだろうか』
「ないよ。ない」
『……ただ、エルヴィンはもしかしたらお前の……いや、何でもない』
何が言いたかったんだろうと思った後にふと浮かんだのは「エルヴィンはもしかしてリックのことが好きなのでは」的な内容だろうか。ニルスなら軽率に勘違いしそうな気がするし今の言いかけた感じだとそう思えてくる。
ただ、もし本当にそんな勘違いをしているなら、思っている以上に二人の仲は進んでいないとも言える。
エルヴィン……もっとちゃんとニルスの気持ち読んでくれないかな!
「……何を言いかけたのかは知らないけど、とにかくミス・ラヴィニアには関わらないようにするよ。どのみちあの男爵家については俺も少々調べたいこともある。ご令嬢に興味を持っている余裕はないな」
『何を調べるんだ?』
「まあそれはまだ明確じゃないかな」
『? 何か手がいるなら言ってくれ』
「ありがとう。とりあえずニルスは引き続きエルヴィンを守っていてくれ」
『……ああ、問題ない』
後日、エルヴィンはとあるパーティーでラヴィニアを直接目の当たりにして倒れたらしい。ニルスから聞いた。改めてエルヴィンの傷の深さをリックは実感した。
絶対、何があっても繰り返すようなことにはならないよエルヴィン。
ニルスから話を聞いた時、リックは心の中で呟いた。
ならないし、させない。
リックも未来を変えるためできることをしてきたし、エルヴィンやラウラを見ていると多分エルヴィンもがんばってきたであろうことがわかる。
その上リックは時間を遡らせた張本人だし、デニスやラヴィニアの様子などが窺いやすい立場だ。直接、王や第一王子と基本的に接することのないエルヴィンとは違う。
だからこそ、なおさら俺はあれこれ動かないとね。
やるべきことの二つ目、そして三つ目にも関わることだ。それらを潰すため、無事デニスの婚約者が解決した今、リックは次の予定に取り掛かっていた。
デニスの婚約者はおそらく親の指示によるものだろうが、元々比較的色んなパーティーに顔を出していた。それもあり、二人で会う口実としてリックは「最近パーティーでおかしなものを売る者はいないか」といった質問をさせてもらっていた。これに関してはでっち上げではなく、いずれ調べ上げなければならない事件絡みだ。
とはいえ今しばらくは水面下で動きたい事柄でもある。本当ならばデニスの弟として婚約パーティーに出席して盛大に祝うべきなのだろう。だが基本的に他言はしないであろうものの、何も知らないデニスの婚約者に無邪気な様子でその事柄に関して口にされても困るのもあり、今しばらくは直接会うのを控えようと思った。
そんなことを当然知らないニルスからは何度か「兄上の婚約パーティーだぞ」「今まで散々無駄に帰国していたくせに」と呆れたように言われたが「ちょっと最近手が離せない案件があって」などと誤魔化しつつパーティーには出席しないと言い切っていた。パーティー前日にも別の用件がてらに通信機を通して「……あとお前は婚約パーティ、来ないのか?」と最終通告のように聞かれたが「明日でしょ。馬車で二週間かかる距離の俺に無茶ぶりそれ以上してこないで」と返しておいた。
まあ、一瞬で帰られるんだけどね。
婚約パーティーは結局盛大な様子で無事終わったようだ。デニスも予想以上に相手の令嬢を気に入っているらしい。
うまく進んでいるようでよかったと思っていたら、ある日ニルスがまた通信機で妙なことを聞いてきた。
『……お前はヒュープナー家のご令嬢を知っているか?』
知っているも何も、とリックは内心複雑な気持ちになりつつ「どうかしたの?」と何でもないように聞き返す。
『そのご令嬢はミス・ラヴィニアという人なんだが……』
「へえ」
『……あー、その、あれだ。お前また帰国してきても関わるなよ』
これはどうやらエルヴィンに何か言われるか聞かれるかしたのかもしれないとリックはにこにこしたまま考える。
「何故?」
『何でもだ』
「……それじゃあわからないよニルス。もしかして君、そのご令嬢のこと気になるの?」
まあ、エルヴィンしか見ていないだろうしあり得ないけども。
『まさか。エルヴィンはでも気にしてる』
「ああ、なるほど。じゃあもしかしてエルヴィンに、あまり関わらないで欲しいとか言われたのかな」
『何故わかる』
実際のところ事情を知っているからではあるが、それがなくともこのニルスの様子だとわからない方がおかしい。
「はは。俺を馬鹿だとでも思ってんのかな?」
『どういう意味だ?』
「別に。あとニルスはちょっと隠し事やはかりごとが苦手過ぎるよね。そんなじゃ立派な貴族として出世できないかもだよ?」
『それが得意じゃないと出世できないというならそれでいい。とにかくわかったか?』
普通だったらわからないだろうね。言葉が足りなさすぎるんだよニルスは本当に。幸い俺はわかるけども。
「わかった。まあよくわからないけどもね。俺に関わるなということは、兄上もかな?」
『そうだな。よくわかったな……』
少し驚いているということは、自分でも言葉足らずだと自覚はあるのだろう。
そこでもっとちゃんと言わないとと自己嫌悪に陥らないところがニルスらしいよね。
「まあね」
『……その……エルヴィンはミス・ラヴィニアのこと、興味あるんだろうか……』
それも普通だったら俺がわかることじゃないよね! ほんとニルスは。まあこれも絶対にないと俺はわかるけども。
「ないんじゃないかな」
『そうだろうか』
「ないよ。ない」
『……ただ、エルヴィンはもしかしたらお前の……いや、何でもない』
何が言いたかったんだろうと思った後にふと浮かんだのは「エルヴィンはもしかしてリックのことが好きなのでは」的な内容だろうか。ニルスなら軽率に勘違いしそうな気がするし今の言いかけた感じだとそう思えてくる。
ただ、もし本当にそんな勘違いをしているなら、思っている以上に二人の仲は進んでいないとも言える。
エルヴィン……もっとちゃんとニルスの気持ち読んでくれないかな!
「……何を言いかけたのかは知らないけど、とにかくミス・ラヴィニアには関わらないようにするよ。どのみちあの男爵家については俺も少々調べたいこともある。ご令嬢に興味を持っている余裕はないな」
『何を調べるんだ?』
「まあそれはまだ明確じゃないかな」
『? 何か手がいるなら言ってくれ』
「ありがとう。とりあえずニルスは引き続きエルヴィンを守っていてくれ」
『……ああ、問題ない』
後日、エルヴィンはとあるパーティーでラヴィニアを直接目の当たりにして倒れたらしい。ニルスから聞いた。改めてエルヴィンの傷の深さをリックは実感した。
絶対、何があっても繰り返すようなことにはならないよエルヴィン。
ニルスから話を聞いた時、リックは心の中で呟いた。
ならないし、させない。
リックも未来を変えるためできることをしてきたし、エルヴィンやラウラを見ていると多分エルヴィンもがんばってきたであろうことがわかる。
その上リックは時間を遡らせた張本人だし、デニスやラヴィニアの様子などが窺いやすい立場だ。直接、王や第一王子と基本的に接することのないエルヴィンとは違う。
だからこそ、なおさら俺はあれこれ動かないとね。
やるべきことの二つ目、そして三つ目にも関わることだ。それらを潰すため、無事デニスの婚約者が解決した今、リックは次の予定に取り掛かっていた。
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