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68話
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滅多にリックは国に帰っていないようにエルヴィン辺りは思っているかもしれないが、実はちょくちょく帰ってはいる。
今回帰ってきたのは兄、デニスの婚約者のことでだった。ちなみにニルスに隠れて帰るわけにもいかず、そろそろ呆れられている。
「そんな度々帰ってきて、お前はちゃんと留学先で勉強してるのか?」
「ニルスは保護者かな? してるよ。ほら、今回は政治に関する所見についてレポートしてきたから、後でお前の父親に渡しといて」
「自分で渡せ……」
「それが自分の主であり、王子に言うこと? それに俺、公の帰国じゃない限り、基本的に帰国してるの秘密にしておきたいんだよね。ほら、俺、王子だし? 何かにつけて大げさになりそうでしょ? パーティー開かれたりとかさ」
「気持ちはわかるが……それも仕事だろ」
「気持ちはわかるんでしょ」
「……はぁ。わかった。でもエルヴィンやニアキスには……」
「彼らにも言わなくていいよ。あ、別に彼らを信用してないとかじゃないからね? 単に大げさにしたくないってだけ。あと俺はそもそも遊びじゃなくて仕事で帰ってるんだからね。これでも忙しいんだ」
「忙しいって……帰ってきてからだらだらしてるようにしか見えないが」
「気のせいだよ」
リックはニルスに微笑んだ。ニルスに手伝ってもらいたいことがあれば遠慮なく手伝ってもらうが、今回のことは無理だろう。エルヴィン以外はどんな令嬢であっても全く興味がないであろうニルスにしてもらうことは何もない。ニルスの性格を思えば、どうせ見てもらっても次の瞬間には顔も覚えていないだろう。ということで、だらだらしているように見えるならそれはそれでいい。
一応別の者からも度々令嬢の資料はもらっていた。もしかしたらリック自身の婚約について自分で調べていると勘違いされている可能性もあるが、別に勘違いされていても構わない。極力リックが行うことについて知らない者ばかりなほうが動きやすい。
とりあえず、目ぼしい令嬢は何人かピックアップしてある。あとは実際この国で自分自身が知ればいい。噂が大好きな貴族は多いため、周りからの噂は容易に収集できる。令嬢自身には一度だけは会うべきだろうと考え、各々令嬢を毎回一人だけ招待しリックとの茶会を付き合ってもらった。
もちろん変な勘違いをされないよう、仕事にかこつけた用件を毎回考えた。一回の帰国で全員に会うのは無理なため、何度かに分けて行ったものの、それ自体は全然面倒ではなかった。ニルスは毎回馬車で帰っているのかと思っているようで、改めて「本当に度々帰りすぎでは」と言われたものの、とにかく何より面倒だったのが令嬢に会うために毎回考えた用件だろうか。とはいえ単に「会いたいので」だと語弊がありそうなため仕方ない。
あとは令嬢本人に「今日はお付き合いくださいましてありがとうございます。仕事絡みだと承知していただけたと思いますので、今日私に会ったことも秘密にしておいていただければ」と毎回お願いしておいた。それでも漏れてしまうならそれはそれでいい。その令嬢は候補から外すだけだ。
そういった地味な活動を他のできることと併用してこそこそ行っていたわけだが、成果はあった。たまにリックと会ったと漏らす令嬢もやはりいて、一部の貴族たちにも「リック王子は時折帰ってきている」と知られた。ちなみにエルヴィンは相変わらず噂話に疎そうなため、どうやらリックが度々帰国していることは今のところ知らないようだ。
とはいえそれくらいなら別に問題ない。噂になったとして、実際政治や軍関連の資料を渡したりといった公向きの仕事もこなしているし、その令嬢は迷うことなく対象外にできる。何より、デニスにぴったりなとある侯爵令嬢を見つけた。おとなしそうではあるものの、とてもしっかりしていて自分の意見はちゃんと言える人だ。
デニスにはこういう人がいい。もしかしたら今のラウラならデニスを上手く引っ張ってくれるかもしれないとも思えたが、エルヴィンを見ていると到底そんな考えを実行しようとは思えない。
ちなみに留学前にニルスから「デニス殿下はもしかしておとなしいおしとやかなご令嬢には興味ないのか?」と聞かれたことがある。
「ああ、ニルスにしては鋭いね」
「俺にしては……?」
「だってそういう恋愛絡みのこと、ニルスって鈍そうじゃない」
「そんなことない」
「へえ? じゃあ女性でも男性でも、ニルスは手玉に取っちゃうんだ?」
あえてそう言えば憮然とした様子で「あり得ない」と返ってきた。
楽し、いや、かわい……じゃなくてニルスって感じだよね。
「兄上は多分さ、グラマラスでゴージャスな感じの女性が好きなんだよ」
好きというか、基本的な外見好みというかさ。ラヴィニアみたいなね。
とはいえ実際親しくなればしっかりした女性が合うと自分でも気づくのではとリックは踏んでいる。
「……いい家柄の淑女としてあまりピンとこない」
「頭、悪そうだよね。っていうか兄上が頭悪そうだよまるで」
「……言いすぎでは」
ニルスがとてつもなく微妙な顔をしてくる。リックはにこにこした。
「まあ、そういう女性、俺も嫌いじゃないけどさ。見た目が華やかでいて中身は淑女とか、そんな人がいるならできれば俺もお付き合いしてみたいね」
エルヴィンみたいなね。
エルヴィンはもちろん女性ではないが、外見はとても華があるし中身は浮ついたところがなくしっかりしている。そしてわざとそう示唆するような言い方をした自覚はある。案の定ニルスにエルヴィンが浮かんだであろう様子が伝わってくるとリックはますますにこにこした。
さすがにいくら恋愛に疎くてもそろそろ自覚しているのではと思う。実際もっと小さかった頃のようにエルヴィンを見て怪訝そうに首を傾げる様子はない。この気持ちは一体何だろうと思うことはなくなったのではないだろうか。
今回帰ってきたのは兄、デニスの婚約者のことでだった。ちなみにニルスに隠れて帰るわけにもいかず、そろそろ呆れられている。
「そんな度々帰ってきて、お前はちゃんと留学先で勉強してるのか?」
「ニルスは保護者かな? してるよ。ほら、今回は政治に関する所見についてレポートしてきたから、後でお前の父親に渡しといて」
「自分で渡せ……」
「それが自分の主であり、王子に言うこと? それに俺、公の帰国じゃない限り、基本的に帰国してるの秘密にしておきたいんだよね。ほら、俺、王子だし? 何かにつけて大げさになりそうでしょ? パーティー開かれたりとかさ」
「気持ちはわかるが……それも仕事だろ」
「気持ちはわかるんでしょ」
「……はぁ。わかった。でもエルヴィンやニアキスには……」
「彼らにも言わなくていいよ。あ、別に彼らを信用してないとかじゃないからね? 単に大げさにしたくないってだけ。あと俺はそもそも遊びじゃなくて仕事で帰ってるんだからね。これでも忙しいんだ」
「忙しいって……帰ってきてからだらだらしてるようにしか見えないが」
「気のせいだよ」
リックはニルスに微笑んだ。ニルスに手伝ってもらいたいことがあれば遠慮なく手伝ってもらうが、今回のことは無理だろう。エルヴィン以外はどんな令嬢であっても全く興味がないであろうニルスにしてもらうことは何もない。ニルスの性格を思えば、どうせ見てもらっても次の瞬間には顔も覚えていないだろう。ということで、だらだらしているように見えるならそれはそれでいい。
一応別の者からも度々令嬢の資料はもらっていた。もしかしたらリック自身の婚約について自分で調べていると勘違いされている可能性もあるが、別に勘違いされていても構わない。極力リックが行うことについて知らない者ばかりなほうが動きやすい。
とりあえず、目ぼしい令嬢は何人かピックアップしてある。あとは実際この国で自分自身が知ればいい。噂が大好きな貴族は多いため、周りからの噂は容易に収集できる。令嬢自身には一度だけは会うべきだろうと考え、各々令嬢を毎回一人だけ招待しリックとの茶会を付き合ってもらった。
もちろん変な勘違いをされないよう、仕事にかこつけた用件を毎回考えた。一回の帰国で全員に会うのは無理なため、何度かに分けて行ったものの、それ自体は全然面倒ではなかった。ニルスは毎回馬車で帰っているのかと思っているようで、改めて「本当に度々帰りすぎでは」と言われたものの、とにかく何より面倒だったのが令嬢に会うために毎回考えた用件だろうか。とはいえ単に「会いたいので」だと語弊がありそうなため仕方ない。
あとは令嬢本人に「今日はお付き合いくださいましてありがとうございます。仕事絡みだと承知していただけたと思いますので、今日私に会ったことも秘密にしておいていただければ」と毎回お願いしておいた。それでも漏れてしまうならそれはそれでいい。その令嬢は候補から外すだけだ。
そういった地味な活動を他のできることと併用してこそこそ行っていたわけだが、成果はあった。たまにリックと会ったと漏らす令嬢もやはりいて、一部の貴族たちにも「リック王子は時折帰ってきている」と知られた。ちなみにエルヴィンは相変わらず噂話に疎そうなため、どうやらリックが度々帰国していることは今のところ知らないようだ。
とはいえそれくらいなら別に問題ない。噂になったとして、実際政治や軍関連の資料を渡したりといった公向きの仕事もこなしているし、その令嬢は迷うことなく対象外にできる。何より、デニスにぴったりなとある侯爵令嬢を見つけた。おとなしそうではあるものの、とてもしっかりしていて自分の意見はちゃんと言える人だ。
デニスにはこういう人がいい。もしかしたら今のラウラならデニスを上手く引っ張ってくれるかもしれないとも思えたが、エルヴィンを見ていると到底そんな考えを実行しようとは思えない。
ちなみに留学前にニルスから「デニス殿下はもしかしておとなしいおしとやかなご令嬢には興味ないのか?」と聞かれたことがある。
「ああ、ニルスにしては鋭いね」
「俺にしては……?」
「だってそういう恋愛絡みのこと、ニルスって鈍そうじゃない」
「そんなことない」
「へえ? じゃあ女性でも男性でも、ニルスは手玉に取っちゃうんだ?」
あえてそう言えば憮然とした様子で「あり得ない」と返ってきた。
楽し、いや、かわい……じゃなくてニルスって感じだよね。
「兄上は多分さ、グラマラスでゴージャスな感じの女性が好きなんだよ」
好きというか、基本的な外見好みというかさ。ラヴィニアみたいなね。
とはいえ実際親しくなればしっかりした女性が合うと自分でも気づくのではとリックは踏んでいる。
「……いい家柄の淑女としてあまりピンとこない」
「頭、悪そうだよね。っていうか兄上が頭悪そうだよまるで」
「……言いすぎでは」
ニルスがとてつもなく微妙な顔をしてくる。リックはにこにこした。
「まあ、そういう女性、俺も嫌いじゃないけどさ。見た目が華やかでいて中身は淑女とか、そんな人がいるならできれば俺もお付き合いしてみたいね」
エルヴィンみたいなね。
エルヴィンはもちろん女性ではないが、外見はとても華があるし中身は浮ついたところがなくしっかりしている。そしてわざとそう示唆するような言い方をした自覚はある。案の定ニルスにエルヴィンが浮かんだであろう様子が伝わってくるとリックはますますにこにこした。
さすがにいくら恋愛に疎くてもそろそろ自覚しているのではと思う。実際もっと小さかった頃のようにエルヴィンを見て怪訝そうに首を傾げる様子はない。この気持ちは一体何だろうと思うことはなくなったのではないだろうか。
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