彼は最後に微笑んだ

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66話

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 まるでついでに思い出したといった風に持ちかける。

「ああ、そうそう。このブローチは魔道具なんだ。俺が作った。魔除けでもありお守りでもある」
「……俺にくれるのか?」

 ニルスがとてつもなく微妙な顔をしてきた。他の者からすれば無表情であるニルスだが、リックやニルスの兄ユルゲンからすれば意外にも表情豊かだったりする。

「嫌そうな顔で言わないでくれるかな。あと何で俺がニルスに。これはエルヴィンにあげるんだよ」

 ここまでするとさすがにリックがエルヴィンを好きなのではと疑ってくるだろうかと思っていたが、またもやニルスはあっさり頷いてきた。

「楽しくない反応だなあ。まあいいや。とにかく真心と力を込めた魔道具だからさ、エルヴィンにはつけさせておいてね。さすがにエルヴィンにずっとついてられないでしょ。でもニルスだけでなくそのブローチもエルヴィンを守ってくれるだろうから」

 というか、これでお前たちの仲が近づくかもしれないよ。

 そんな風に思いながら、リックはさらに「わかった」と素直に頷いてくるニルスをにこにこ見ていた。
 旅立つ前日には、リックはエルヴィンの元を訪れた。もちろんブローチを渡すためだ。

「どうされたんですか」

 楽しみすぎて少しそわそわしそうな気持を抑えつつ、茶を用意してくれたエルヴィンを見ればエルヴィンのほうがそわそわしていた。
 何故エルヴィンがそわそわする必要があるのかとリックはこっそり首を傾げる。少なくともリックをそういう意味で好きだから落ち着かない、という理由ではなさそうだ。むしろ迷惑ほどではないがとても困惑している気がする。

 もしかしたら俺が遡る前と同じように、十四歳で変わらず留学することを気にしてるのかな?

 記憶を持っていることを内緒にしているため、エルヴィンに直接「今はどんな感じ? 以前とは何か違う?」などと聞けないため憶測でしかないが、エルヴィンはエルヴィンで色々画策しながらも未来を憂えて心配しているように見える。
 本当ならばそんな心配などしないくらい、以前と全然違う様子をエルヴィンに見せたいと思うが、さすがにこればかりはたくさんの人が絡むことだけにリックとて難しい。一応以前とは違う流れになっているのではと感じてはいるが、百パーセント間違いなくとはリックでも自信を持って言えはしない。

 君には本当に幸せになってもらいたいし、日々安心して暮らして欲しいんだよ。

 そんな風に考えていることなど少しも見せずに、リックはにこにことエルヴィンに「長らく君にも会えないしね、挨拶だよ」と気軽な様子で返答した。

「それは嬉しいですが、ニルスもつけずに?」
「ニルスに会いたかった?」
「いや、それは別にないですが……」

 ないのかあ。ニルス、残念。でもこれからだから、俺がいない間にがんばってね。

「何故笑うんです」
「いやぁ、これは君を笑ったんじゃなくて、そうだね、ニルスを笑ったんだよ」
「……、……明日には旅立たれるんですよね。今日はゆっくりなさったほうが……」
「君はいくら成人したとはいえまだ十六歳なんだから、そういう成熟した大人のような気遣いは不要だよ」
「どうやら俺は昔から大人びてるそうで」

 エルヴィンが口元を引きつらせながら微笑んで くる。

 前からたまに思うんだけど、エルヴィンも俺みたいな性質、絶対あるよね。腹に一物あっても笑顔で何でもないふりしたり、ちくりと刺してきたり。まあ、とりあえずそろそろ本題に入るかな。

「うんうん。ああ、そうそう。用事もあったんだ」
「…………用事とは?」
「これ」

 今も明らかに色々思うとこがありそうだったなとおかしく思いつつ、リックはあえてよく見えないようにしてブローチをエルヴィンの前に差し出す。ニルスなら素直に手を出してくれるところだが、エルヴィンは怪訝な顔をしながら警戒を解いてくれない。

「手を出して」

 さすがエルヴィン、と笑いながらねだればようやく渋々手を出してくれた。そこへそっとブローチを置く。エルヴィンにとても似合う色の宝石にリックが魔力を込めた代物だ。

「こ……れはブローチ?」
「うん。大丈夫、ちゃんと男性用だよ」
「は、ぁ」
「魔術具なんだ。俺が作った」
「リックが?」

 エルヴィンはとてつもなく唖然としている。確かにこの国で魔術具を作れる者などリックを除いて誰もいないだろう。リックとて、時間を遡っているのでなければまだ無理だった。

「そんな唖然とされるなんて。俺は結構魔力あるほうなのになあ」
「そ、れは知ってますが……魔術具を作るのって確か難しいのでは」
「君のためにがんばったんだよ。いいからこれ、つけてて。綺麗でしょ。魔除けだよ。お守り。幼馴染の君につけてもらいたいんだ。毎日ちゃんとつけててね」
「は、ぁ。……あ、えっと、ありがとうございます」

 エルヴィンはまだ少々困惑しているようではあるが、礼を言いながら上着に青が美しいブローチをつけてくれた。

「うん。やはり君にとても似合っているよ」
「それは、えっと、ありがとうございます」
「だからずっとつけていてね。お守りだしね」
「わかりました」

 よし、とリックは満足した。できるのであればこっそりこれからのニルスとエルヴィンをせめて少しでも窺っていたいところだが、そういうわけにはいかない。早く帰ってくるためにも、出発を引き延ばすのは避けたかった。
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