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65話
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ラフェド亡き後、代理ではなく正式に王となったデニスはますます圧政を行った。国民の不満も高まっていた。
ニルスの父親であり、ラフェドの補佐官であったデトレフの意見も全く聞こうとしない。また、デニスに仕えていたジェムもただの操り人形のようになっていた。リックの記憶ではジェムはもう少し骨のある人物だったように思ったが、もしかしたらそうなっていくしかなかったのかもしれない。
当時、リックはニルスやデトレフ、そしてエルヴィンの父親でありラフェドに仕えていた騎士団総長であるウーヴェと相談し、どうにか国を立て直せないか水面下で話し合っていた。それなりの案も出、リックも他の信用に値する貴族たちと交渉したりして味方を増やしていたところでヴィリーがついに行動を起こしてしまった。
ウーヴェの落ち込み具合は半端なかった。厳格な父親でありながらも、ウーヴェが我が子をとても愛しているのはいつも伝わってきていたため、リックも心が痛んだ。
しかもそのウーヴェが自害した。周りは「あのウーヴェが……」と動揺していたが、リックにはすぐわかった。
妻も愛娘もそして次男も亡くしたウーヴェにとって、エルヴィンはある意味最後の砦のようなものだっただろう。それこそ自分の命と引き換えにしても、何があっても守りたい、助けたいと思っていただろう。おまけにリックと何度もやり取りをしていたウーヴェは、動き出す前にヴィリーが行動してしまったことに対し、とても責任感と後悔を覚えていた。事情を話せないにしても、せめてもう少し何か言っていればと思ったのかもしれない。
そしてラヴィニアに入れ知恵をされていたのであろうデニスにより、存在を煙たがられていたウーヴェは自害を持ちかけられたのだと思われる。
「ヴィリーが犯した罪は本人だけでは賄えないほど重い。我が子であるエルヴィンを助けたければそなたが責任を──」
そんな風に言われたに違いない。
だが結局、エルヴィンも投獄された。その後もすべて後手にまわり、シュテファンを救うことすらできなかった。エルヴィンも毒殺された。これもおそらくラヴィニアによるものだとリックは踏んでいた。
その後ようやく使える限りの証拠を用意し、リックはデニスとラヴィニアを捕らえることができた。だが何もかも遅すぎた。ニルスまでもが、エルヴィンのことで立ち直れないほどのショックを受けていた。
改めて過去を思い返し、リックはメモ帳をじっと睨みつけた。
三度目はない。そしてもう二度と、あんな後悔や悲しみ、苦しみを味わう気もない。
何があっても二つ目のラヴィニアとデニスの出会いを潰すことと、三つ目の父親の暗殺を阻止することは全うしなければならない。
その後リックが留学する日が近づいてきた。
「俺の留学に付き合わなくていいよニルス」
ニルスにニコニコと告げると大いに不満そうな顔をされた。
「だがそれが俺の仕事だ」
「お前の仕事は俺を守るだけじゃなく、俺の命じることを守ることでもあるだろ」
「お前に仕えているんだ、普通に考えて一緒に行くだろう」
まあ、そうだろうけどもね。
「普通なんてもの、誰が決めたの? 俺がいらないと言ってるんだからいらない。リック・サヴェージが命じているんだ、言われたとおりにしろ」
ここまで言うと、ニルスも「……はぁ。……わかったよ。だが俺がいないからって羽目を外すなよ」とため息をついてきた。
悪いね、ニルス。留学先にいるであろうアメーリアには今回、俺一人で会いたいんだ。それにお前には残ってエルヴィンを見守っていて欲しい。
「わかってるって。かわいい子がいればお前にも紹介してやるから」
「……いらん」
「だよねえ。だってニルスにはすでにすごくかわいい子、ここにいるもんねえ」
リックはにこにことしながらあえて茶化すように自分の胸元を指先で軽く叩いた。単純なニルスは忌々しげに睨んでいる。改めてかわいいと思う。以前のニルスもリックからすればそれなりにわかりやすかったが、今のニルスは付き合いがある意味二度目なのもあり、手のひらで転がせるほど扱いやすい。
ちなみに兄姉であるデニスやアリアネもそうだ。以前はもう少し困った人たちだと思っていたが、今回は申し訳ないほど扱いやすい人たちだと思うようになっていた。下手をすれば色々画策しなくても悲劇を回避できるのではと思いそうになるほどだ。
ただ、やはりそれでも何があるかわからない。ラヴィニアと出会うことによって以前とは違うデニスであっても同じように溺れるかもしれない。危険な橋を渡るつもりはない。
ところでもちろん、扱いやすいと表現してはいるがニルスも兄姉もリックにとって大切な人たちには変わりない。それだけは絶対だ。
「言われたとおりついて行かないかわりにちょくちょく連絡だけは寄こすようにしろ」
呆れたような顔をしながらニルスが渋々といった風に言ってきた。
「ニルスってば俺の保護者?」
「仕えている補佐役だ」
「真面目な返事ありがとう。代わりにエルヴィンについて守ってやってよ」
お願いしたかったことをわりと自然な流れで言えたのではないだろうかとにこにこ思っていると、ニルスは「わかった」とむしろあっけないほどさらりと頷いてきた。リックが守るよう言ってくることに疑問もないといった様子に、リックも満足げに頷く。
そうしてもう一つの楽しみ、いや、目的を告げようとまたにこにことニルスを見た。
ニルスの父親であり、ラフェドの補佐官であったデトレフの意見も全く聞こうとしない。また、デニスに仕えていたジェムもただの操り人形のようになっていた。リックの記憶ではジェムはもう少し骨のある人物だったように思ったが、もしかしたらそうなっていくしかなかったのかもしれない。
当時、リックはニルスやデトレフ、そしてエルヴィンの父親でありラフェドに仕えていた騎士団総長であるウーヴェと相談し、どうにか国を立て直せないか水面下で話し合っていた。それなりの案も出、リックも他の信用に値する貴族たちと交渉したりして味方を増やしていたところでヴィリーがついに行動を起こしてしまった。
ウーヴェの落ち込み具合は半端なかった。厳格な父親でありながらも、ウーヴェが我が子をとても愛しているのはいつも伝わってきていたため、リックも心が痛んだ。
しかもそのウーヴェが自害した。周りは「あのウーヴェが……」と動揺していたが、リックにはすぐわかった。
妻も愛娘もそして次男も亡くしたウーヴェにとって、エルヴィンはある意味最後の砦のようなものだっただろう。それこそ自分の命と引き換えにしても、何があっても守りたい、助けたいと思っていただろう。おまけにリックと何度もやり取りをしていたウーヴェは、動き出す前にヴィリーが行動してしまったことに対し、とても責任感と後悔を覚えていた。事情を話せないにしても、せめてもう少し何か言っていればと思ったのかもしれない。
そしてラヴィニアに入れ知恵をされていたのであろうデニスにより、存在を煙たがられていたウーヴェは自害を持ちかけられたのだと思われる。
「ヴィリーが犯した罪は本人だけでは賄えないほど重い。我が子であるエルヴィンを助けたければそなたが責任を──」
そんな風に言われたに違いない。
だが結局、エルヴィンも投獄された。その後もすべて後手にまわり、シュテファンを救うことすらできなかった。エルヴィンも毒殺された。これもおそらくラヴィニアによるものだとリックは踏んでいた。
その後ようやく使える限りの証拠を用意し、リックはデニスとラヴィニアを捕らえることができた。だが何もかも遅すぎた。ニルスまでもが、エルヴィンのことで立ち直れないほどのショックを受けていた。
改めて過去を思い返し、リックはメモ帳をじっと睨みつけた。
三度目はない。そしてもう二度と、あんな後悔や悲しみ、苦しみを味わう気もない。
何があっても二つ目のラヴィニアとデニスの出会いを潰すことと、三つ目の父親の暗殺を阻止することは全うしなければならない。
その後リックが留学する日が近づいてきた。
「俺の留学に付き合わなくていいよニルス」
ニルスにニコニコと告げると大いに不満そうな顔をされた。
「だがそれが俺の仕事だ」
「お前の仕事は俺を守るだけじゃなく、俺の命じることを守ることでもあるだろ」
「お前に仕えているんだ、普通に考えて一緒に行くだろう」
まあ、そうだろうけどもね。
「普通なんてもの、誰が決めたの? 俺がいらないと言ってるんだからいらない。リック・サヴェージが命じているんだ、言われたとおりにしろ」
ここまで言うと、ニルスも「……はぁ。……わかったよ。だが俺がいないからって羽目を外すなよ」とため息をついてきた。
悪いね、ニルス。留学先にいるであろうアメーリアには今回、俺一人で会いたいんだ。それにお前には残ってエルヴィンを見守っていて欲しい。
「わかってるって。かわいい子がいればお前にも紹介してやるから」
「……いらん」
「だよねえ。だってニルスにはすでにすごくかわいい子、ここにいるもんねえ」
リックはにこにことしながらあえて茶化すように自分の胸元を指先で軽く叩いた。単純なニルスは忌々しげに睨んでいる。改めてかわいいと思う。以前のニルスもリックからすればそれなりにわかりやすかったが、今のニルスは付き合いがある意味二度目なのもあり、手のひらで転がせるほど扱いやすい。
ちなみに兄姉であるデニスやアリアネもそうだ。以前はもう少し困った人たちだと思っていたが、今回は申し訳ないほど扱いやすい人たちだと思うようになっていた。下手をすれば色々画策しなくても悲劇を回避できるのではと思いそうになるほどだ。
ただ、やはりそれでも何があるかわからない。ラヴィニアと出会うことによって以前とは違うデニスであっても同じように溺れるかもしれない。危険な橋を渡るつもりはない。
ところでもちろん、扱いやすいと表現してはいるがニルスも兄姉もリックにとって大切な人たちには変わりない。それだけは絶対だ。
「言われたとおりついて行かないかわりにちょくちょく連絡だけは寄こすようにしろ」
呆れたような顔をしながらニルスが渋々といった風に言ってきた。
「ニルスってば俺の保護者?」
「仕えている補佐役だ」
「真面目な返事ありがとう。代わりにエルヴィンについて守ってやってよ」
お願いしたかったことをわりと自然な流れで言えたのではないだろうかとにこにこ思っていると、ニルスは「わかった」とむしろあっけないほどさらりと頷いてきた。リックが守るよう言ってくることに疑問もないといった様子に、リックも満足げに頷く。
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