彼は最後に微笑んだ

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64話

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 デニスは第一王子でもあるため、それなりに早い時期から婚約者についての話は出ていた。これは遡る前も後も同じだ。そしてデニス自身あまり興味がなさそうなのも同じ。
 デニスの性格を考えると、ラヴィニアのようなタイプはハマりやすいのだろう。デニスはいい意味で単純だし扱いやすい。いい意味で。

 いや、ラヴィニアを思うと俺的には悪い意味でも扱いやすい、かな。

 とにかく何が何でも会わせたくない。そうするとまず二つ目をどうにかするのに一番いいのはラヴィニアをそのパーティーへ行かせないようにすることだろう。デニスのパーティー参加は娯楽というより義務に近いため、外すわけにもいかない。
 リックは以前のラヴィニアやヒュープナー家のことを思い返す。
 ラヴィニアのことは正直あまりよく知っているわけではない。マヴァリージ王国へ完全に戻ってきた時にはすでに王妃となっていたのだが、あまり直接会う機会はなかった。国の現状を知り、水面下で動いていたせいもある。

 でも、今思えばよく知っておけばよかったかもね。

 ただ、ヒュープナー家のことは多少把握している。元々第二王子として貴族に関してはある程度知っていたし、当時戻ってきてからはさらに詳しく知るようになった。また、時間を遡ってからは王子としての教育を受ける際、子どもながら積極的に貴族についてもよく勉強したつもりだ。
 ヒュープナー家の当主はとにかく腹黒い。由緒正しい貴族ではなく、どちらかと言えば成り上がりの貴族だ。成り上がることは悪くないが、その成り上がり方に少々後ろ暗いところがあるとリックは踏んでいる。とはいえ遡る前は特に不祥事などで話題になることもなかった。上手くやっていたのだろう。

 でも、それなら煙を俺が立ててあげればいいよね。

 火のない所に煙は立たないなら、リックがその火付け役になればいい。
 ただ、留学の話はもうすでに来ている。予定も以前と変わらず十四歳になれば行くことになるだろう。そうなれば帰ってくるのは多分十九歳前後だろうか。もちろん、それよりも早く帰るつもりしかないが、こればかりはいつに戻ると決めることは難しい。
 あの頃、政治経済など学ぶかたわら、アメーリアに魔術を教えてもらっていた。アメーリアに話を聞いたり、彼女が所有している本を読むのも楽しかったというのもあったが、思っていた以上に魔力を持ち合わせていたのもあり、とにかくアメーリアはリックの魔術の才能を気に入ってくれたおかげで色々教えてもらった。そのため帰国が遅くなった。
 父親であり国王であったラフェドの訃報を聞いて急ぎ一時帰国したものの、やることを残していたため、その後また留学先であるミレノールへ戻ったのもある。
 一時帰国した際にとにかく国の変わりようにリックは唖然とさせられた。

 ほんと、いったい何が起こったんだって立ち尽くしそうになったよね……。

 デニスは以前のデニスではなくなっていて、王代理という身で公妾に溺れ、権力や武力で好き勝手していた。リックは父親の葬儀にすら間に合わせてもらえなかった。
 ようやくすべて片づけて正式に帰国した時にはさらに事態は悪化していた。
 今回アメーリアに出会ってからどうなるかはわからない。ただ時間を遡った今でも、教えてもらった魔術はどれも普通に使うことができるため、もしかしたら早く帰られるかもしれない。逆にさらに気に入ってもらえ中々帰られないかもしれない。
 デニスがラヴィニアと出会ったのは確かデニスが二十歳の頃だったと聞いた。当時、エルヴィンが十八歳、おそらくラウラがリックと同じ歳だったはずだから十六歳の時だ。
 よって、それより前にことを起こさなければならない。リックはもしかしたら留学中かもしれないが、どうにかするしかない。
 メモ帳にいくつもメモ書きをしていく。計画を着実に立てるためだ。まだ今の年齢のリックでは行動を起こせない。その分、今は準備期間だと割り切るしかない。
 そして三つ目の暗殺だが、これはおそらく王妃の座というものに欲を出したラヴィニアによるものだとリックは踏んでいる。当時現場に居合わせたわけではなく、話を聞いたり後々調べたりするしかなかったため、状況証拠でしかない。
 ただ、元々公妾に子どもが生まれても王位継承権は与えられないと法律で決められており、覆す権利のある王、ラフェドもこれについて賛成していた。また、地位の低い貴族の令嬢もよほどのことがない限り王妃にはなり得なかったし、ラフェドも侯爵家との結婚を、繋がりを確固たるものにするためとして選んでいた。
 それが気に食わないであろうラヴィニアが、邪魔な存在として王の暗殺を企てたと思われる。その上、デニスが王になったことにより、ラウラも王妃となったわけだが、そのラウラも出産してすぐに亡くなった。
 どちらもラヴィニアによる毒殺だとリックは見ていた。
 ラフェドの葬儀にすら間に合わせてもらえなかったのはもしかしたら故意に連絡を遅らせてきたのかもしれないと当時から考えていた。間に合っていれば、父親の遺体を見て疑問に思ったリックはすぐに遺体を調べさせていただろう。ラウラもそうだ。
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