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57話
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エルヴィンが熱を出してから数か月後、リックの誕生日を祝うパーティーが王宮で開かれた。普段はなるべく遠慮させてもらっているエルヴィンも、これは出席せざるを得ない。かなり盛大なパーティーであろうが、リックの誕生祝いであればもちろん祝いたい。
ラウラはニアキスにエスコートされ、そしてエルヴィンはテレーゼをエスコートした。ヴィリーはコルメリア・ロンメルという伯爵令嬢をエスコートしている。ラウラとテレーゼ共通の友だちであり、エルヴィンが時間を遡ってからラウラ、ヴィリーとともに初めて参加した子どもたちの交流会を主催していた家の令嬢でもある。
その後も交流は続いていてラウラと仲がいいのもあり、エルヴィンやヴィリーとも顔見知りではある。ついでに言うとラウラを恋愛小説の世界に引き込んだ一派でもある。
エルヴィンも顔を合わせるたびに少々ミーハーな様子で明るく声をかけられていた。悪い子ではないが、いつもほんの少しだけ引き気味で応対してしまう。とはいえ本当に悪い子ではないし、何よりラウラを変えるきっかけとなった家であり令嬢である。引き気味ながらに好意的には見ている。
ヴィリーはそこの令息、エルンスト・ロンメルと親しいのもあり、エルヴィンよりもう少しだけコルメリアとも近しいかもしれない。パーティ会場に着いた今もぞんざいな口を利くヴィリーに対しコルメリアが窘めている。
「ヴィリー、駄目よ。こういう場では私を崇めるくらいの言動をとってくださらないと」
「それはやりすぎだろ」
「そんなことありません。それが由緒正しいアルスラン家のご子息であり素敵な紳士がなさることなんだから」
エルヴィンとしてはコルメリアとヴィリーが恋人になればいいなとほんのり思ったりもするが、これもひょっとしたら今もたまに読まされている恋愛小説の影響かもしれない。かわいらしいやり取りにニコニコしてからテレーゼの手を取り、歩いていく。
その後もヴィリーとコルメリアのやり取りは続いていた。
「……お前夢見すぎ」
「安心なさって。ヴィリーには夢なんて見てませんから」
「何だと」
「あなたのお兄様、ノルデルハウゼン卿は本当に格好がよくてキラキラなさっててまるで王子様みたいですけど、ヴィリー卿、あなたはまだまだですもの」
「兄様がキラキラした王子様だっていうのには完全に同意だ。だが俺がまだまだというのは聞き捨てならないんだけど」
「だってヴィリーは恰好がいいというよりかわいい感じでしょう?」
「は? 俺に対してかわいいなんて言うな」
「何故? 素敵だと思うんだけど、かわいい男子も」
「す……っ? 煩い。俺は兄様を目指してるんだ。かわいいじゃ駄目なんだよ!」
「えぇ? 私は好きよ、かわいい人」
「……お前は俺がどこかの令息と恋人関係になる様子を勝手に想像しての好き、だろうが」
「あら、それだけじゃありませんのに」
「え?」
「ところでノルデルハウゼン卿はテレーゼと恋仲なのかしら。テレーゼは違うっておっしゃるんですけど……」
「……それは違うと俺も思うけど」
「ですよね! 私としてはあなたのお兄様はね、カイセルヘルム侯爵とお似合いじゃないかと……っ、きゃっ」
とてつもなく嬉しそうに話してきたコルメリアが夢中のあまりかドレスの裾に足を引っかけてしまったようだ。躓きそうになったところをヴィリーは呆れながらも支えた。
「馬鹿なこと言ってるからだ。気をつけろ」
「ありがとうございます、ヴィリー卿」
そうしてそのまま手を取り合ったまま進んでいった。
「……今の、見てらした?」
「うん」
「ヴィリーとコルメリアってお似合いよね? 絶対。そう思わない? ニアキス。絶対かわいいカップルになってよ」
「あー……そう、なの、かな? 俺としてはレディ・コルメリアの会話が微妙に気になってちょっとちゃんとそういう雰囲気感じ取れてないというか……」
「コルメリアの会話?」
「ヴィリーとどっかの令息が恋仲とか、エルヴィンとニルスがお似合い的な……」
「ああ、それは流してくれたらいいの」
「え、でも」
「気にしないのが一番よニアキス」
「ラウラがそう言うなら……」
「ええ、そうなさって」
「わかった。……ちなみにラウラはその、エルヴィンとテレーゼがお似合いだって思ってる、よな?」
まだ諦めきれていないニアキスがおずおずと聞くとラウラはにっこりと笑ってきた。
「もちろん、思ってるわ」
「だ、だよな!」
「でも、私はお兄様もテレーゼも大好きですから、二人ともが本当に好きな方とお付き合いできるのであれば、どなたがお相手でもいいんです。それこそお兄様とカイセルヘルム侯爵であっても」
「ええ……」
微妙な顔になるニアキスに、ラウラはにっこりと手を差し出した。するとニアキスも破顔しながらラウラの手を取った。
パーティーは賑やかだった。ラフェド王とリックの挨拶から始まり、ダンスへと移行していく。
エルヴィンはテレーゼと一曲踊った後「ちょっと避難してもいい?」と聞いた。
「ええ、もちろん。エルヴィンはこういうとこ苦手ですもんね」
「テレーゼもあまり好きじゃないだろ」
「でもダンスは好きだから。誰かと適当に踊ってるわよ」
テレーゼに見送られ、エルヴィンは庭園へと避難した。
庭園の中を歩きながら、この庭園のベンチでよく悲しげに城を見上げていたラウラをエルヴィンは思い出す。だが今のラウラはとても幸せそうだ。それにニアキスは間違いなくそんなラウラをもっと幸せにしてくれるだろう。
エルヴィンはそのベンチに腰掛け「よかった……」と静かに呟いた。
ラウラはニアキスにエスコートされ、そしてエルヴィンはテレーゼをエスコートした。ヴィリーはコルメリア・ロンメルという伯爵令嬢をエスコートしている。ラウラとテレーゼ共通の友だちであり、エルヴィンが時間を遡ってからラウラ、ヴィリーとともに初めて参加した子どもたちの交流会を主催していた家の令嬢でもある。
その後も交流は続いていてラウラと仲がいいのもあり、エルヴィンやヴィリーとも顔見知りではある。ついでに言うとラウラを恋愛小説の世界に引き込んだ一派でもある。
エルヴィンも顔を合わせるたびに少々ミーハーな様子で明るく声をかけられていた。悪い子ではないが、いつもほんの少しだけ引き気味で応対してしまう。とはいえ本当に悪い子ではないし、何よりラウラを変えるきっかけとなった家であり令嬢である。引き気味ながらに好意的には見ている。
ヴィリーはそこの令息、エルンスト・ロンメルと親しいのもあり、エルヴィンよりもう少しだけコルメリアとも近しいかもしれない。パーティ会場に着いた今もぞんざいな口を利くヴィリーに対しコルメリアが窘めている。
「ヴィリー、駄目よ。こういう場では私を崇めるくらいの言動をとってくださらないと」
「それはやりすぎだろ」
「そんなことありません。それが由緒正しいアルスラン家のご子息であり素敵な紳士がなさることなんだから」
エルヴィンとしてはコルメリアとヴィリーが恋人になればいいなとほんのり思ったりもするが、これもひょっとしたら今もたまに読まされている恋愛小説の影響かもしれない。かわいらしいやり取りにニコニコしてからテレーゼの手を取り、歩いていく。
その後もヴィリーとコルメリアのやり取りは続いていた。
「……お前夢見すぎ」
「安心なさって。ヴィリーには夢なんて見てませんから」
「何だと」
「あなたのお兄様、ノルデルハウゼン卿は本当に格好がよくてキラキラなさっててまるで王子様みたいですけど、ヴィリー卿、あなたはまだまだですもの」
「兄様がキラキラした王子様だっていうのには完全に同意だ。だが俺がまだまだというのは聞き捨てならないんだけど」
「だってヴィリーは恰好がいいというよりかわいい感じでしょう?」
「は? 俺に対してかわいいなんて言うな」
「何故? 素敵だと思うんだけど、かわいい男子も」
「す……っ? 煩い。俺は兄様を目指してるんだ。かわいいじゃ駄目なんだよ!」
「えぇ? 私は好きよ、かわいい人」
「……お前は俺がどこかの令息と恋人関係になる様子を勝手に想像しての好き、だろうが」
「あら、それだけじゃありませんのに」
「え?」
「ところでノルデルハウゼン卿はテレーゼと恋仲なのかしら。テレーゼは違うっておっしゃるんですけど……」
「……それは違うと俺も思うけど」
「ですよね! 私としてはあなたのお兄様はね、カイセルヘルム侯爵とお似合いじゃないかと……っ、きゃっ」
とてつもなく嬉しそうに話してきたコルメリアが夢中のあまりかドレスの裾に足を引っかけてしまったようだ。躓きそうになったところをヴィリーは呆れながらも支えた。
「馬鹿なこと言ってるからだ。気をつけろ」
「ありがとうございます、ヴィリー卿」
そうしてそのまま手を取り合ったまま進んでいった。
「……今の、見てらした?」
「うん」
「ヴィリーとコルメリアってお似合いよね? 絶対。そう思わない? ニアキス。絶対かわいいカップルになってよ」
「あー……そう、なの、かな? 俺としてはレディ・コルメリアの会話が微妙に気になってちょっとちゃんとそういう雰囲気感じ取れてないというか……」
「コルメリアの会話?」
「ヴィリーとどっかの令息が恋仲とか、エルヴィンとニルスがお似合い的な……」
「ああ、それは流してくれたらいいの」
「え、でも」
「気にしないのが一番よニアキス」
「ラウラがそう言うなら……」
「ええ、そうなさって」
「わかった。……ちなみにラウラはその、エルヴィンとテレーゼがお似合いだって思ってる、よな?」
まだ諦めきれていないニアキスがおずおずと聞くとラウラはにっこりと笑ってきた。
「もちろん、思ってるわ」
「だ、だよな!」
「でも、私はお兄様もテレーゼも大好きですから、二人ともが本当に好きな方とお付き合いできるのであれば、どなたがお相手でもいいんです。それこそお兄様とカイセルヘルム侯爵であっても」
「ええ……」
微妙な顔になるニアキスに、ラウラはにっこりと手を差し出した。するとニアキスも破顔しながらラウラの手を取った。
パーティーは賑やかだった。ラフェド王とリックの挨拶から始まり、ダンスへと移行していく。
エルヴィンはテレーゼと一曲踊った後「ちょっと避難してもいい?」と聞いた。
「ええ、もちろん。エルヴィンはこういうとこ苦手ですもんね」
「テレーゼもあまり好きじゃないだろ」
「でもダンスは好きだから。誰かと適当に踊ってるわよ」
テレーゼに見送られ、エルヴィンは庭園へと避難した。
庭園の中を歩きながら、この庭園のベンチでよく悲しげに城を見上げていたラウラをエルヴィンは思い出す。だが今のラウラはとても幸せそうだ。それにニアキスは間違いなくそんなラウラをもっと幸せにしてくれるだろう。
エルヴィンはそのベンチに腰掛け「よかった……」と静かに呟いた。
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