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54話
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「ヴィリーが変でおかしい、ですか?」
かわいらしく首を傾げてきたラウラに、エルヴィンは苦笑しながら手を振った。
「そこまでは言ってないぞ。何となく、どうなんだろうなぁ、というか、だな」
「ヴィリーが?」
ラウラはまだ首を傾げている。そんな様子の妹もかわいすぎてエルヴィンは苦笑から顔が本格的に緩んでくる。
やり直し人生を始めてからはとにかくラウラとデニスが結婚しないよう心を配っていたのもあり、思い返せばあまりラウラと二人でゆっくり話をする機会はなかったかもしれない。ラウラにはたくさんの人と接して欲しくて、エルヴィンがラウラと接する時は大抵誰か他にもいた気がする。
「ラウラの婚約が決まった時、あいつニアキスに対して憤慨しつつもわりと認めてる感じだったと思うんだけどさ」
「そ、そうですね」
ニアキスの名前が出た途端、ラウラの頬がほんのりと赤くなった。初々しすぎて思わず抱きしめたくなるのをエルヴィンは堪える。
職場にエルヴィンに負けず劣らずシスコンである同僚がいる。その同僚が「妹が年々素っ気なくなっていく」と嘆いていたことがある。エルヴィンと似たような年齢であり、彼の妹とラウラも似たような年齢だ。そして今でも妹がかわいい同僚が、あまりにかわいいが過ぎて妹に抱きつくと「いい加減になさってくださいませ」と言われるだけでなく、とうとう「鬱陶しい」とまで言われてしまったそうだ。
明日は我が身としか思えず、その話を同僚から聞いたエルヴィンは「絶対に気をつけよう」と心に誓った。そのため今も堪えている。
「実は二人の時とかにさ、何でニアキスなんだと詰め寄られたり、あいつのこと認めないからとか言われたりしなかったか?」
「……いえ?」
ラウラがとてつもなく怪訝な顔でエルヴィンを見てきた。だがエルヴィンとしても怪訝な顔をしたくなるというか、実際怪訝に思う。もちろん、ラウラにではない。
「されてないの?」
「はい」
「え、あんなの、義兄さんなんて絶対に呼ばないとか言ってこなかった?」
「は、ぁ。……ふ、ふふ。ふふっ、どうされたんです、お兄様ったら。何でそんなこと。ヴィリーがそこまで言うわけないじゃないですか」
「だ、だよ、な?」
いや、俺には言ってきたんだけどな? それも実際俺の恋人でもなんでもない親友との関係について先走りまくって。
「……は! ま、まさか、その、もしかして実はお兄様がそう思われてる、ってこと、は……」
「ない! ないよ。ぜんっぜんないから! お前とニアキスとの婚約、誰よりも喜んでるのが俺だよ! 俺ほど喜んでるやついないって勢いなんだぞ、あるわけない!」
血の涙が出てもおかしくないくらい、心底喜んだんだからな……あと心から安心したし神に感謝すらしたよ本当に。
「お兄様ったら。……でも嬉しい。ありがとうございます」
ラウラが本当に嬉しそうに顔を綻ばせている。外はとてつもなく寒いが、ここだけは早くも花が咲き乱れる暖かい季節になったかのようだ。
あーやっぱ抱きしめたい。かわいい。俺の妹がほんとかわいい。
「お兄様、手、どうされたんですか。なんだかむずむずされてるような……? は! ま、まさか高熱の後遺症では……! い、医師、医師を呼ばなくては……! ヘルタ? ヘルタはいないの……っ? お兄様が、お兄さ……」
「ま、待って! 大丈夫だから! ラウラ、大丈夫」
普段はとても静かで落ち着いているラウラだけに、先ほどや今の動揺っぷりにエルヴィンも焦る。遡る前は今よりラウラと二人きりで接することもあったはずだが、おとなしすぎたからかあまりこういう風に慌てているラウラを見た記憶がない。
うっかりさんみたいな感じでかわいくもあるけど、何だろ、結婚前だからっていう情緒不安定とかじゃないよな?
「ですが……」
「本当に大丈夫。えっと、手がむずむずしてたんだっけ? あー、その、あれだ。鬱陶しいって思われそうだから言いたくないんだけど」
「おっしゃってください」
「あまりにラウラがかわいくて、つい抱きしめたくなるのを我慢してたんだよ……。あー、ほんと嫌わないで! 鬱陶しいと思っても口にしないで!」
「何故そんなお兄様を嫌いだと思うんです? むしろ嬉しい」
「え?」
「お兄様がしたい時はいくらでもぎゅっとなさってくださいませ」
やっぱり俺の妹、かわいい……!
嬉しさが一気にこみ上げ、エルヴィンは遠慮なくラウラとぎゅっと抱きしめた。そのままホッと一息ついてから離すとラウラが楽しそうに笑ってくる。
「何?」
「嬉しくて。だってお兄様って昔からお忙しいからか、私とあまり一緒にいてくださらなかったでしょう。今日は宝物の日ね。お兄様が私と二人でゆっくりなさってくれている上にぎゅっとしてくださって」
「……も、もう一度ぎゅっとしていい?」
「はい! いくらでも!」
はーっ、俺の妹がかわいすぎる。
「……ところでほんとにヴィリーは認めないとか納得いかないとか、言ってこない?」
抱きしめたまま改めて聞くも、ラウラはエルヴィンの胸の中から「ないですよ」と即答してきた。
……何で俺だけ? しかも何でニルス?
「あー! ずるい! ずるい! ラウラずるいぞ! 何で俺の兄様に抱きしめられてんの!」
そのヴィリーの声がしてきた。思わずびっくりしてラウラを抱きしめる腕を緩めて振り返るとヴィリーが昔のように頬を膨らませながら二人を見ている。
「ずるくないわよ。だってヴィリーのほうが今までお兄様と二人で過ごすこと多かったじゃない。そっちのほうがずるい!」
「でも俺だって兄様に抱きしめられたい、っていうか抱きしめたい!」
「駄目。今は私と過ごしてるの」
「ずるい!」
「ずるくない!」
何だこれは。
えっと、俺のために争わないで……とか言うシーンかな?
突然子どもの喧嘩のような言い合いをエルヴィンを挟んでやりだした双子に、エルヴィンは苦笑しつつも「やっぱ俺の弟と妹かわいい……」としみじみした。
かわいらしく首を傾げてきたラウラに、エルヴィンは苦笑しながら手を振った。
「そこまでは言ってないぞ。何となく、どうなんだろうなぁ、というか、だな」
「ヴィリーが?」
ラウラはまだ首を傾げている。そんな様子の妹もかわいすぎてエルヴィンは苦笑から顔が本格的に緩んでくる。
やり直し人生を始めてからはとにかくラウラとデニスが結婚しないよう心を配っていたのもあり、思い返せばあまりラウラと二人でゆっくり話をする機会はなかったかもしれない。ラウラにはたくさんの人と接して欲しくて、エルヴィンがラウラと接する時は大抵誰か他にもいた気がする。
「ラウラの婚約が決まった時、あいつニアキスに対して憤慨しつつもわりと認めてる感じだったと思うんだけどさ」
「そ、そうですね」
ニアキスの名前が出た途端、ラウラの頬がほんのりと赤くなった。初々しすぎて思わず抱きしめたくなるのをエルヴィンは堪える。
職場にエルヴィンに負けず劣らずシスコンである同僚がいる。その同僚が「妹が年々素っ気なくなっていく」と嘆いていたことがある。エルヴィンと似たような年齢であり、彼の妹とラウラも似たような年齢だ。そして今でも妹がかわいい同僚が、あまりにかわいいが過ぎて妹に抱きつくと「いい加減になさってくださいませ」と言われるだけでなく、とうとう「鬱陶しい」とまで言われてしまったそうだ。
明日は我が身としか思えず、その話を同僚から聞いたエルヴィンは「絶対に気をつけよう」と心に誓った。そのため今も堪えている。
「実は二人の時とかにさ、何でニアキスなんだと詰め寄られたり、あいつのこと認めないからとか言われたりしなかったか?」
「……いえ?」
ラウラがとてつもなく怪訝な顔でエルヴィンを見てきた。だがエルヴィンとしても怪訝な顔をしたくなるというか、実際怪訝に思う。もちろん、ラウラにではない。
「されてないの?」
「はい」
「え、あんなの、義兄さんなんて絶対に呼ばないとか言ってこなかった?」
「は、ぁ。……ふ、ふふ。ふふっ、どうされたんです、お兄様ったら。何でそんなこと。ヴィリーがそこまで言うわけないじゃないですか」
「だ、だよ、な?」
いや、俺には言ってきたんだけどな? それも実際俺の恋人でもなんでもない親友との関係について先走りまくって。
「……は! ま、まさか、その、もしかして実はお兄様がそう思われてる、ってこと、は……」
「ない! ないよ。ぜんっぜんないから! お前とニアキスとの婚約、誰よりも喜んでるのが俺だよ! 俺ほど喜んでるやついないって勢いなんだぞ、あるわけない!」
血の涙が出てもおかしくないくらい、心底喜んだんだからな……あと心から安心したし神に感謝すらしたよ本当に。
「お兄様ったら。……でも嬉しい。ありがとうございます」
ラウラが本当に嬉しそうに顔を綻ばせている。外はとてつもなく寒いが、ここだけは早くも花が咲き乱れる暖かい季節になったかのようだ。
あーやっぱ抱きしめたい。かわいい。俺の妹がほんとかわいい。
「お兄様、手、どうされたんですか。なんだかむずむずされてるような……? は! ま、まさか高熱の後遺症では……! い、医師、医師を呼ばなくては……! ヘルタ? ヘルタはいないの……っ? お兄様が、お兄さ……」
「ま、待って! 大丈夫だから! ラウラ、大丈夫」
普段はとても静かで落ち着いているラウラだけに、先ほどや今の動揺っぷりにエルヴィンも焦る。遡る前は今よりラウラと二人きりで接することもあったはずだが、おとなしすぎたからかあまりこういう風に慌てているラウラを見た記憶がない。
うっかりさんみたいな感じでかわいくもあるけど、何だろ、結婚前だからっていう情緒不安定とかじゃないよな?
「ですが……」
「本当に大丈夫。えっと、手がむずむずしてたんだっけ? あー、その、あれだ。鬱陶しいって思われそうだから言いたくないんだけど」
「おっしゃってください」
「あまりにラウラがかわいくて、つい抱きしめたくなるのを我慢してたんだよ……。あー、ほんと嫌わないで! 鬱陶しいと思っても口にしないで!」
「何故そんなお兄様を嫌いだと思うんです? むしろ嬉しい」
「え?」
「お兄様がしたい時はいくらでもぎゅっとなさってくださいませ」
やっぱり俺の妹、かわいい……!
嬉しさが一気にこみ上げ、エルヴィンは遠慮なくラウラとぎゅっと抱きしめた。そのままホッと一息ついてから離すとラウラが楽しそうに笑ってくる。
「何?」
「嬉しくて。だってお兄様って昔からお忙しいからか、私とあまり一緒にいてくださらなかったでしょう。今日は宝物の日ね。お兄様が私と二人でゆっくりなさってくれている上にぎゅっとしてくださって」
「……も、もう一度ぎゅっとしていい?」
「はい! いくらでも!」
はーっ、俺の妹がかわいすぎる。
「……ところでほんとにヴィリーは認めないとか納得いかないとか、言ってこない?」
抱きしめたまま改めて聞くも、ラウラはエルヴィンの胸の中から「ないですよ」と即答してきた。
……何で俺だけ? しかも何でニルス?
「あー! ずるい! ずるい! ラウラずるいぞ! 何で俺の兄様に抱きしめられてんの!」
そのヴィリーの声がしてきた。思わずびっくりしてラウラを抱きしめる腕を緩めて振り返るとヴィリーが昔のように頬を膨らませながら二人を見ている。
「ずるくないわよ。だってヴィリーのほうが今までお兄様と二人で過ごすこと多かったじゃない。そっちのほうがずるい!」
「でも俺だって兄様に抱きしめられたい、っていうか抱きしめたい!」
「駄目。今は私と過ごしてるの」
「ずるい!」
「ずるくない!」
何だこれは。
えっと、俺のために争わないで……とか言うシーンかな?
突然子どもの喧嘩のような言い合いをエルヴィンを挟んでやりだした双子に、エルヴィンは苦笑しつつも「やっぱ俺の弟と妹かわいい……」としみじみした。
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