52 / 193
52話
しおりを挟む
その日のうちにエルヴィンが自宅へ帰ると、ヴィリーとラウラが駆けつけてきた。
「熱を出されたと聞きました。もう大丈夫なのですか?」
二人からほぼ同じような言葉をほぼ同時に言われ、何気に「さすが双子」と感心してしまう。
「ああ、もう大丈夫。熱も下がったし元気だよ」
「よかった……昨日の朝から具合が悪そうでしたのでとても心配でした」
「本当に? お兄様、本当にもう大丈夫なの? 私、気が気じゃなくて」
二人が心底ホッとした顔になる。改めて「俺の弟と妹かわいい」と思いつつ、ラウラの恰好が気になった。
「ありがとう。本当に大丈夫。心配かけてごめんな二人とも。……ところでラウラ」
「はい」
「お前のその恰好は……?」
「あ」
エルヴィンに聞かれ、ハッとなったラウラは顔を赤らめる。
「……その、シーチングで作られた仮縫いドレスの試着と合わせを……」
どうやらウエディングドレスを作っている過程での試着をしていたようだ。別に下着姿でもないしドレスもそれなりの形にはなっているものの、上はビスチェのままといった風だし少なくとも絶対にこれで外へは出られない。
元々おとなしくて恥ずかしがり屋だったであろうラウラも今ではずいぶん変わった。だがさすがに今さらながらに恥ずかしくなったようだ。見えている肩まで真っ赤になっている。
ただ、そんな姿でも我を忘れる勢いでエルヴィンを心配して駆けつけてきてくれたのだと思うと愛しさがこみ上げる。エルヴィンは微笑みながらマントを脱いでラウラにかけた。
「ほんと心配してくれてありがとうな、ラウラ。でも今頃仕立て屋やメイドがお前を心配してるだろうよ。早く戻ってあげなさい」
「はい」
では、とラウラが戻っていく際に、とりあえずラウラと一緒についてきていたメイドの一人が困ったような笑みをエルヴィンへ向けつつ頭を下げてきた。それを苦笑しながら見送っているとヴィリーに「兄様」と呼ばれる。
「うん?」
「とにかくお元気になられて本当によかったです」
「ありがとう」
「ですが……何故ニルスのところになんか」
「何故って、そこは俺も倒れてたから詳しい過程は知らないけど……城で倒れた俺を運んで医師まで呼んで介抱してくれた相手だぞ。だいたいお前は相変わらず俺の親友を何だと思ってるんだ」
いまだに何故かニルスに対し、まるで敵対心のような何か思うところがあるヴィリーに、エルヴィンは呆れた顔を向けた。
「ニルスは兄様のことをよからぬ風に見てます」
「何だよそれ……。ほんとにヴィリーはもう」
ヴィリーはとてつもなくいい子なのだが、ニルスに限らず何故かエルヴィンの友人に対して何というのだろうか。
……シビア? ちょっと違うけど何かそんな感じ。
「だって俺がいつも、ニルスには気をつけてって言ってるのに兄様、全然気をつけてくださらないし無防備だ」
「何だよ無防備って。だいたい親友に対して警戒する必要ないだろ」
「兄様はわかっておられません。で?」
「で?」
何を問われているのかわからず、エルヴィンは首を傾げた。
「何もされてませんよね?」
「何をされるって……」
呆れて言いかけたところで、夢で見たのであろうニルスとのキスが頭によぎった。
「ゴホ」
「兄様っ? 申し訳ございません、まだ病み上がりでしょうに俺としたことが……! 早く部屋で横になってください。部屋は多分もう暖められていますから」
「いや、ああ、うん、そうだね……ありがとう」
違うと否定しようとして、だが「そうじゃなくて変な夢見たらしくてさ、ニルスとキスしたっていう」などと言えば多分ヴィリーに呆れられそうな気がする。なので言うのはやめておいた。
だがその後しばらくヴィリーが必死になって看病してこようとしたので「もうほんと大丈夫だから」と何度も言う羽目になった。
「ですが咳き込んでおられました」
「あー、うん、あれね……。その、たまたまだよ。たまたま。ほんとに大丈夫。そうだ、ヴィリー。どうせなら久しぶりに一緒にお茶しよう。夕食までもうそんなに時間ないかもだけど、ヴィリーならいけるだろ?」
「本当に大丈夫ですか……?」
「ああ」
「では、はい! 是非」
嬉しそうににこにこと頷くヴィリーを見て、改めて「俺の弟かわいい」と心底思う。
これほど嬉しそうなのは、エルヴィンを慕ってくれているのもあるが、多分いまだに甘い菓子が好きだからもあるのではとエルヴィンは微笑ましく思った。
時間を遡ってからラウラを社交的にさせるため出かけることが多くなった絡みか、以前より頻繁にヴィリーが甘い菓子を食べている姿を見るようになっていた。そんな姿につい「太らなければいいが」なんて思ったりもしたが、それに関しては杞憂だったようだ。騎士を目指して日々訓練していたエルヴィンに倣い、ヴィリーもすぐにひたすら剣の稽古をするようになった。そのためもあってか、今のところ甘い菓子が大好きなままでも中々のスタイルを維持している。
おかげでかヴィリーも結構モテていると聞く。そのわりに、人のことを一切言えないが全く浮ついた噂一つ聞かない。もったいないと思う。
「熱を出されたと聞きました。もう大丈夫なのですか?」
二人からほぼ同じような言葉をほぼ同時に言われ、何気に「さすが双子」と感心してしまう。
「ああ、もう大丈夫。熱も下がったし元気だよ」
「よかった……昨日の朝から具合が悪そうでしたのでとても心配でした」
「本当に? お兄様、本当にもう大丈夫なの? 私、気が気じゃなくて」
二人が心底ホッとした顔になる。改めて「俺の弟と妹かわいい」と思いつつ、ラウラの恰好が気になった。
「ありがとう。本当に大丈夫。心配かけてごめんな二人とも。……ところでラウラ」
「はい」
「お前のその恰好は……?」
「あ」
エルヴィンに聞かれ、ハッとなったラウラは顔を赤らめる。
「……その、シーチングで作られた仮縫いドレスの試着と合わせを……」
どうやらウエディングドレスを作っている過程での試着をしていたようだ。別に下着姿でもないしドレスもそれなりの形にはなっているものの、上はビスチェのままといった風だし少なくとも絶対にこれで外へは出られない。
元々おとなしくて恥ずかしがり屋だったであろうラウラも今ではずいぶん変わった。だがさすがに今さらながらに恥ずかしくなったようだ。見えている肩まで真っ赤になっている。
ただ、そんな姿でも我を忘れる勢いでエルヴィンを心配して駆けつけてきてくれたのだと思うと愛しさがこみ上げる。エルヴィンは微笑みながらマントを脱いでラウラにかけた。
「ほんと心配してくれてありがとうな、ラウラ。でも今頃仕立て屋やメイドがお前を心配してるだろうよ。早く戻ってあげなさい」
「はい」
では、とラウラが戻っていく際に、とりあえずラウラと一緒についてきていたメイドの一人が困ったような笑みをエルヴィンへ向けつつ頭を下げてきた。それを苦笑しながら見送っているとヴィリーに「兄様」と呼ばれる。
「うん?」
「とにかくお元気になられて本当によかったです」
「ありがとう」
「ですが……何故ニルスのところになんか」
「何故って、そこは俺も倒れてたから詳しい過程は知らないけど……城で倒れた俺を運んで医師まで呼んで介抱してくれた相手だぞ。だいたいお前は相変わらず俺の親友を何だと思ってるんだ」
いまだに何故かニルスに対し、まるで敵対心のような何か思うところがあるヴィリーに、エルヴィンは呆れた顔を向けた。
「ニルスは兄様のことをよからぬ風に見てます」
「何だよそれ……。ほんとにヴィリーはもう」
ヴィリーはとてつもなくいい子なのだが、ニルスに限らず何故かエルヴィンの友人に対して何というのだろうか。
……シビア? ちょっと違うけど何かそんな感じ。
「だって俺がいつも、ニルスには気をつけてって言ってるのに兄様、全然気をつけてくださらないし無防備だ」
「何だよ無防備って。だいたい親友に対して警戒する必要ないだろ」
「兄様はわかっておられません。で?」
「で?」
何を問われているのかわからず、エルヴィンは首を傾げた。
「何もされてませんよね?」
「何をされるって……」
呆れて言いかけたところで、夢で見たのであろうニルスとのキスが頭によぎった。
「ゴホ」
「兄様っ? 申し訳ございません、まだ病み上がりでしょうに俺としたことが……! 早く部屋で横になってください。部屋は多分もう暖められていますから」
「いや、ああ、うん、そうだね……ありがとう」
違うと否定しようとして、だが「そうじゃなくて変な夢見たらしくてさ、ニルスとキスしたっていう」などと言えば多分ヴィリーに呆れられそうな気がする。なので言うのはやめておいた。
だがその後しばらくヴィリーが必死になって看病してこようとしたので「もうほんと大丈夫だから」と何度も言う羽目になった。
「ですが咳き込んでおられました」
「あー、うん、あれね……。その、たまたまだよ。たまたま。ほんとに大丈夫。そうだ、ヴィリー。どうせなら久しぶりに一緒にお茶しよう。夕食までもうそんなに時間ないかもだけど、ヴィリーならいけるだろ?」
「本当に大丈夫ですか……?」
「ああ」
「では、はい! 是非」
嬉しそうににこにこと頷くヴィリーを見て、改めて「俺の弟かわいい」と心底思う。
これほど嬉しそうなのは、エルヴィンを慕ってくれているのもあるが、多分いまだに甘い菓子が好きだからもあるのではとエルヴィンは微笑ましく思った。
時間を遡ってからラウラを社交的にさせるため出かけることが多くなった絡みか、以前より頻繁にヴィリーが甘い菓子を食べている姿を見るようになっていた。そんな姿につい「太らなければいいが」なんて思ったりもしたが、それに関しては杞憂だったようだ。騎士を目指して日々訓練していたエルヴィンに倣い、ヴィリーもすぐにひたすら剣の稽古をするようになった。そのためもあってか、今のところ甘い菓子が大好きなままでも中々のスタイルを維持している。
おかげでかヴィリーも結構モテていると聞く。そのわりに、人のことを一切言えないが全く浮ついた噂一つ聞かない。もったいないと思う。
16
お気に入りに追加
506
あなたにおすすめの小説



新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

心からの愛してる
マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。
全寮制男子校
嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります
※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる