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41話
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確かにそうだった。最初の頃に検証してみてエルヴィンも気づいていたが、ぼんやりとしている人の心は多少雑音が聞こえる程度だった。
エルヴィンが頷くと「さすが君。気づいてたんだ」とリックが微笑んできた。
「強い感情を読み取る魔法だよ。善悪関わらず、ね」
善悪。
ということは、もし万が一遡る前のような展開へなろうとした場合でも、この力があれば多少なりとも危機を避けたり逃したりすることができたかもしれない。
さすがにリックはそういったことは知らないだろうから、普通に何か悪意のある者がエルヴィンに近づいても避けることが可能だと言いたいだけろう。
考えているエルヴィンの顔を見て、リックは「ね、お守りでしょう?」とまた微笑んでくる。
「まあ、確かに」
そういえばリックはニルスに「エルヴィンを守るように」とさえ言っていた。むしろ何故こんな高度な魔法を使った上でニルスまで使ってエルヴィンを守ろうと考えるのか謎でしかないが、ありがたいといえばありがたいのだろうが、謎だ。
「……というかリックは俺が何もできないヤツとでも思ってんですか」
「まさか。何故?」
「こんなブローチを作って渡してくださったり、ニルスに俺を守るよう言ったり。普通、大人の男を守らせようなんてしないでしょう。要人ならまだしも」
「俺の大事な幼馴染だからね。それにエルヴィンに注意を払うことでニルスも危機管理に集中するだろ? エルヴィンを守ることで自分も守るってわけ。あいつは自分のことには無頓着だからね。俺がいない間、心配でしょ? ニルスも俺の大事な幼馴染だ。だから一石二鳥だよ」
確かにニルスが自分に無頓着というのはわかる。だが、本当にそういう理由なのだろうか。
「あと、一見何考えてるかわからないニルスの心を読むことで、ずいぶんニルスのこと、知れたんじゃない?」
……あんた、むしろそっちがブローチを渡してきた本命では。
楽しそうに言うリックに、エルヴィンは微妙な顔を向けた。
確かに知れたかもしれない。ニルスが心の中で強く考えていることが、よくわからないながらにあれほど饒舌だとはまさか思いもしない。
とはいえ、それは別に知らなくてもよかったのではとも思う。何よりニルスに申し訳ない。
「読むことで知ったことは、多分知らなくてもよかったことではないかと思うのですが。ニルスが実は心の中では饒舌だったなんて、別に知らなくても俺はニルスを大事な友人だと思ってますし」
「……そこだけ? 感じたのは」
「はい?」
「……うーん。ニルスだけじゃなくこっちもかぁ。ほんともう……」
「何です?」
「何でもないよ」
ニッコリと言ってきたリックを見る限り、絶対何でもなくはない。だがそろそろこの話ばかりしていられない。
「はぁ。とりあえずリックの話はブローチのこと、でいいんですね」
「まあ、ね。知りたかったことは知れたかな」
「それはよかった。あと、効能に関してはさておき、改めてブローチ、ありがとうございました」
「返そうとか考えてない?」
「リックから頂いたものを返すほど、俺はリックに失礼じゃないつもりですよ。せっかくですのでありがたく頂戴しておきます。とはいえ、その魔法に関しては今後も俺はあまり使うことないと思いますが、構いませんか」
「もちろんだよ。それは君のものだ。好きに使うといい」
「ありがとうございます。ではリック。お時間まだ大丈夫でしょうか」
「うん?」
「俺もリックに聞きたいことがありまして」
「ブローチ以外に?」
「まあ、そうですね」
「いいよ。どうぞ」
「では、ありがたく」
エルヴィンは軽く頭を下げると、続けた。
「数日前に発覚した、公爵家子息の麻薬取引の件ですが」
「ああ。エルヴィンもそういうホーム・ニュース的なゴシップに興味、あるんだ? ちょっと意外だね」
ニコニコと言うリックにエルヴィンは首を振った。
「ゴシップは基本あまり好きではありませんが……今回の事件はその、予想外というか」
遡る前にはなかった事件なので、とは言えない。何と表現しようかと言葉を探しているとリックが続けてきた。
「まあ、驚く事件だよね確かに。あそこの公爵自体はいい人だし、しっかりしているものね。まさか息子がそんなろくでなしなどと、父親も予想外だったんじゃない?」
まるで助け舟かのようなリックの言葉にエルヴィンは乗ることにした。
「そ、そうですよね。なので俺もちょっと気になって。そいつはずっと前から麻薬に手を出してたんでしょうか」
「そうみたいだよ。それに開かれるパーティーの裏でもちょくちょく取引はしてたみたい。エルヴィンが知らないのも、でも無理はないよ。あまりパーティーには出席してなかったんでしょ? それに後ろ暗いもの抱えた人でもなければ、まさかパーティーの裏でそんなことが行われているなんて、気づかないものじゃないかな」
リックの言うことは至極当然だしもっともだ。知らなかったのも無理はないとエルヴィンも思える。遡る前を知らなければ。
「では、リックは何故知ったんですか。そもそも留学から帰ってきたばかりだというのに」
「この国を離れててもね、この国の情報はニルスや他の者から流れるようにしていたからかな」
そう言われるとすごくしっくりくる。確かに王子だけにそれくらいするだろうし、遡る前ならばもしかしたらニルスも一緒に留学先へ行っていたかもしれないため、状況なども変わっているだろう。
だからか、な。
「例の子息の話もそれで耳にはしていたんだ。だから帰国後すぐ調べさせていた。ニルスに手伝ってもらってね。最近、ニルスとあまり接すること、なかったんじゃない?」
確かに、とエルヴィンは頷いた。
エルヴィンが頷くと「さすが君。気づいてたんだ」とリックが微笑んできた。
「強い感情を読み取る魔法だよ。善悪関わらず、ね」
善悪。
ということは、もし万が一遡る前のような展開へなろうとした場合でも、この力があれば多少なりとも危機を避けたり逃したりすることができたかもしれない。
さすがにリックはそういったことは知らないだろうから、普通に何か悪意のある者がエルヴィンに近づいても避けることが可能だと言いたいだけろう。
考えているエルヴィンの顔を見て、リックは「ね、お守りでしょう?」とまた微笑んでくる。
「まあ、確かに」
そういえばリックはニルスに「エルヴィンを守るように」とさえ言っていた。むしろ何故こんな高度な魔法を使った上でニルスまで使ってエルヴィンを守ろうと考えるのか謎でしかないが、ありがたいといえばありがたいのだろうが、謎だ。
「……というかリックは俺が何もできないヤツとでも思ってんですか」
「まさか。何故?」
「こんなブローチを作って渡してくださったり、ニルスに俺を守るよう言ったり。普通、大人の男を守らせようなんてしないでしょう。要人ならまだしも」
「俺の大事な幼馴染だからね。それにエルヴィンに注意を払うことでニルスも危機管理に集中するだろ? エルヴィンを守ることで自分も守るってわけ。あいつは自分のことには無頓着だからね。俺がいない間、心配でしょ? ニルスも俺の大事な幼馴染だ。だから一石二鳥だよ」
確かにニルスが自分に無頓着というのはわかる。だが、本当にそういう理由なのだろうか。
「あと、一見何考えてるかわからないニルスの心を読むことで、ずいぶんニルスのこと、知れたんじゃない?」
……あんた、むしろそっちがブローチを渡してきた本命では。
楽しそうに言うリックに、エルヴィンは微妙な顔を向けた。
確かに知れたかもしれない。ニルスが心の中で強く考えていることが、よくわからないながらにあれほど饒舌だとはまさか思いもしない。
とはいえ、それは別に知らなくてもよかったのではとも思う。何よりニルスに申し訳ない。
「読むことで知ったことは、多分知らなくてもよかったことではないかと思うのですが。ニルスが実は心の中では饒舌だったなんて、別に知らなくても俺はニルスを大事な友人だと思ってますし」
「……そこだけ? 感じたのは」
「はい?」
「……うーん。ニルスだけじゃなくこっちもかぁ。ほんともう……」
「何です?」
「何でもないよ」
ニッコリと言ってきたリックを見る限り、絶対何でもなくはない。だがそろそろこの話ばかりしていられない。
「はぁ。とりあえずリックの話はブローチのこと、でいいんですね」
「まあ、ね。知りたかったことは知れたかな」
「それはよかった。あと、効能に関してはさておき、改めてブローチ、ありがとうございました」
「返そうとか考えてない?」
「リックから頂いたものを返すほど、俺はリックに失礼じゃないつもりですよ。せっかくですのでありがたく頂戴しておきます。とはいえ、その魔法に関しては今後も俺はあまり使うことないと思いますが、構いませんか」
「もちろんだよ。それは君のものだ。好きに使うといい」
「ありがとうございます。ではリック。お時間まだ大丈夫でしょうか」
「うん?」
「俺もリックに聞きたいことがありまして」
「ブローチ以外に?」
「まあ、そうですね」
「いいよ。どうぞ」
「では、ありがたく」
エルヴィンは軽く頭を下げると、続けた。
「数日前に発覚した、公爵家子息の麻薬取引の件ですが」
「ああ。エルヴィンもそういうホーム・ニュース的なゴシップに興味、あるんだ? ちょっと意外だね」
ニコニコと言うリックにエルヴィンは首を振った。
「ゴシップは基本あまり好きではありませんが……今回の事件はその、予想外というか」
遡る前にはなかった事件なので、とは言えない。何と表現しようかと言葉を探しているとリックが続けてきた。
「まあ、驚く事件だよね確かに。あそこの公爵自体はいい人だし、しっかりしているものね。まさか息子がそんなろくでなしなどと、父親も予想外だったんじゃない?」
まるで助け舟かのようなリックの言葉にエルヴィンは乗ることにした。
「そ、そうですよね。なので俺もちょっと気になって。そいつはずっと前から麻薬に手を出してたんでしょうか」
「そうみたいだよ。それに開かれるパーティーの裏でもちょくちょく取引はしてたみたい。エルヴィンが知らないのも、でも無理はないよ。あまりパーティーには出席してなかったんでしょ? それに後ろ暗いもの抱えた人でもなければ、まさかパーティーの裏でそんなことが行われているなんて、気づかないものじゃないかな」
リックの言うことは至極当然だしもっともだ。知らなかったのも無理はないとエルヴィンも思える。遡る前を知らなければ。
「では、リックは何故知ったんですか。そもそも留学から帰ってきたばかりだというのに」
「この国を離れててもね、この国の情報はニルスや他の者から流れるようにしていたからかな」
そう言われるとすごくしっくりくる。確かに王子だけにそれくらいするだろうし、遡る前ならばもしかしたらニルスも一緒に留学先へ行っていたかもしれないため、状況なども変わっているだろう。
だからか、な。
「例の子息の話もそれで耳にはしていたんだ。だから帰国後すぐ調べさせていた。ニルスに手伝ってもらってね。最近、ニルスとあまり接すること、なかったんじゃない?」
確かに、とエルヴィンは頷いた。
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