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40話
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「ちゃんとニルスに席を外させている俺を褒めてくれてもいいのに」
「こういう悪質ないたずらをこっそり忍ばせる相手を褒める口など、俺は持ち合わせておりません」
「敬語なのに、言うねえ」
「……不敬でしたら申し訳ありません」
「いいよそんなの。むしろエルヴィンなら敬語も外して欲しいのに」
「……はぁ。それは勘弁してください。呼び捨てだけでも俺としては結構がんばってるので。この国の王子なんですよ、リックは」
「王子だけどエルヴィンの幼馴染でもある。幼馴染ってもっと親しいものじゃない? あの一見義理堅そうなニルスですら、俺にはぞんざいな口を利くよ」
「ニルスと俺を一緒にしないでくださいよ……ニルスこそ、リックとどれだけずっと一緒にいるか」
物心ついた時からずっと一緒だと聞いている。仕えているのもあって普段からいつも一緒だったと。エルヴィンが少しモヤつくレベルでずっと一緒だった相手と比べられても困る。
……いや、何で俺がモヤつくんだよ。何にモヤつくっていうんだ。
色々面倒で、ついため息も出る。
「あー。エルヴィン、俺のこと鬱陶しがってため息ついたね?」
「少なくとも鬱陶しがられると思うのなら、もう少し色々と控えめでお願いします」
「やっぱエルヴィン、ニルスに似てきたよ。あはは。ニルスと心通わせてるからかな」
「確かに何度か心を読んでしまいましたが、通わせていません。もちろん大事な友人ですが」
「……まだそんなレベルなんだ。あいつほんと仕事以外できないな」
「は? 何の話ですか」
「何でも。とりあえず、さすがエルヴィンだよ。ブローチの力にすぐ、気づいたんでしょ?」
「気づかざるを得なかったともいいますけども。リック。何のためにそんな魔法、つけてきたんですか? 結構な力だと思うのですけど」
「だって楽しいでしょ」
聞き間違いだろうか。
「え?」
「楽しいでしょ」
「……え?」
「楽しいでしょ」
聞き間違いではないらしい。この国の王子が、遡る前にあれほどシリアスな様子で心配してくれていた人が、ただ楽しいからというだけで、国中かき集めてもこんな力を使える者などいないというレベルの魔法をこっそり仕掛けてきたという理由に、聞き間違いはないらしい。
「……リック」
「楽しくなかった?」
楽しくなかったかといえば嘘になる。正直エルヴィンも怖いと思うことはなく、わりとテンションが上がったりした。いや、ニルスのノンブレス呟きは少々怖いと思ったが、突然湧いた力のようなこの能力の原因がわからない段階でも少し楽しいと思ってはいた。
だがそれはそれ、これはこれだ。
「そういう問題ではありません。勝手に人の心を読んでしまうんですよ? 紳士としてどうかと思える下衆な行為です、リック」
「俺もね、エルヴィンだから安心して渡したんだよ。他のやつならそんなことしない。それこそ下手したら下衆な行動に走るだろうしね、好き勝手この能力を使って。君はどう? 多分最初はわからないのもあって試験的にわざと触れることもあったかもしれないけど、自分の欲望のために使おうとは思ったこと、ないんじゃない?」
「……それはそうですが……。では俺が利用しないだろうとわかった上で何故このような国家レベルの力を使ったんです……使わないなら楽しくもないでしょう?」
才能の無駄遣いとはこのことではないだろうか。
「はは」
いや、笑うところ、違う。
「殿下」
「ちょっと。リックでしょ。二人なんだからそういうかしこまった呼び方やめて」
「リック殿下、やめて欲しければちゃんと話してください。王子はいつもそうです。問題提起や発起したのはご自分のくせにすぐ弄ぶように話をそらしたり終わらせたり」
「俺のこと、よく知ってくれてるねえ。エルヴィンも俺の補佐する?」
ある意味結構な出世だ。冗談だとしても言質を取ってでもそうするのが貴族として正しいやり方だろう。だがエルヴィンは今の騎士としての仕事に満足しているし、そもそもリックに仕えたら心身ともに疲れ果てそうだ。振り回されて。ニルスはよくやっていると思う。
「結構です。そしてまたそらした。なら俺はリック殿下に対して今以上に遜りますからね」
「俺を脅すなんて、それこそ不敬では?」
「王子と呼ばれたくない人が、権力を俺に振りかざすんですか」
「うーん、降参。エルヴィンってさ、ニルスには優しいのに俺にはちょっと加虐嗜好気味じゃない?」
「俺をドエスの偏った性癖持ちみたいに言うの、やめてください。それにそう感じるのなら、それはリック、あなたのせいだと思います」
そもそもニルスに対して脅す必要も、つんけんと取り付く島もない態度を取る必要もない。無口ながらにいつだってエルヴィンを考慮した言動を取ろうとしてくれているのがわかる。特にこうしてリックと接すると嫌というほどわかる。
というか、元々エルヴィンはリックに麻薬事件の話を聞きたかったというのに、自分の話をするどころかこの調子では一向に話が進みそうにない。
「……リック」
「はいはい。わかったよ。あのブローチはちゃんと渡す時に言ったように、君のためにがんばったんだよ。ちゃんと魔除けだよ。お守り。毎日つけて欲しいって言ったの、覚えてる?」
「それは、はい」
「もちろん、本当に魔除けのお守りでもあるからね。あと、あれは人の考えなら何でも拾うわけじゃない」
「こういう悪質ないたずらをこっそり忍ばせる相手を褒める口など、俺は持ち合わせておりません」
「敬語なのに、言うねえ」
「……不敬でしたら申し訳ありません」
「いいよそんなの。むしろエルヴィンなら敬語も外して欲しいのに」
「……はぁ。それは勘弁してください。呼び捨てだけでも俺としては結構がんばってるので。この国の王子なんですよ、リックは」
「王子だけどエルヴィンの幼馴染でもある。幼馴染ってもっと親しいものじゃない? あの一見義理堅そうなニルスですら、俺にはぞんざいな口を利くよ」
「ニルスと俺を一緒にしないでくださいよ……ニルスこそ、リックとどれだけずっと一緒にいるか」
物心ついた時からずっと一緒だと聞いている。仕えているのもあって普段からいつも一緒だったと。エルヴィンが少しモヤつくレベルでずっと一緒だった相手と比べられても困る。
……いや、何で俺がモヤつくんだよ。何にモヤつくっていうんだ。
色々面倒で、ついため息も出る。
「あー。エルヴィン、俺のこと鬱陶しがってため息ついたね?」
「少なくとも鬱陶しがられると思うのなら、もう少し色々と控えめでお願いします」
「やっぱエルヴィン、ニルスに似てきたよ。あはは。ニルスと心通わせてるからかな」
「確かに何度か心を読んでしまいましたが、通わせていません。もちろん大事な友人ですが」
「……まだそんなレベルなんだ。あいつほんと仕事以外できないな」
「は? 何の話ですか」
「何でも。とりあえず、さすがエルヴィンだよ。ブローチの力にすぐ、気づいたんでしょ?」
「気づかざるを得なかったともいいますけども。リック。何のためにそんな魔法、つけてきたんですか? 結構な力だと思うのですけど」
「だって楽しいでしょ」
聞き間違いだろうか。
「え?」
「楽しいでしょ」
「……え?」
「楽しいでしょ」
聞き間違いではないらしい。この国の王子が、遡る前にあれほどシリアスな様子で心配してくれていた人が、ただ楽しいからというだけで、国中かき集めてもこんな力を使える者などいないというレベルの魔法をこっそり仕掛けてきたという理由に、聞き間違いはないらしい。
「……リック」
「楽しくなかった?」
楽しくなかったかといえば嘘になる。正直エルヴィンも怖いと思うことはなく、わりとテンションが上がったりした。いや、ニルスのノンブレス呟きは少々怖いと思ったが、突然湧いた力のようなこの能力の原因がわからない段階でも少し楽しいと思ってはいた。
だがそれはそれ、これはこれだ。
「そういう問題ではありません。勝手に人の心を読んでしまうんですよ? 紳士としてどうかと思える下衆な行為です、リック」
「俺もね、エルヴィンだから安心して渡したんだよ。他のやつならそんなことしない。それこそ下手したら下衆な行動に走るだろうしね、好き勝手この能力を使って。君はどう? 多分最初はわからないのもあって試験的にわざと触れることもあったかもしれないけど、自分の欲望のために使おうとは思ったこと、ないんじゃない?」
「……それはそうですが……。では俺が利用しないだろうとわかった上で何故このような国家レベルの力を使ったんです……使わないなら楽しくもないでしょう?」
才能の無駄遣いとはこのことではないだろうか。
「はは」
いや、笑うところ、違う。
「殿下」
「ちょっと。リックでしょ。二人なんだからそういうかしこまった呼び方やめて」
「リック殿下、やめて欲しければちゃんと話してください。王子はいつもそうです。問題提起や発起したのはご自分のくせにすぐ弄ぶように話をそらしたり終わらせたり」
「俺のこと、よく知ってくれてるねえ。エルヴィンも俺の補佐する?」
ある意味結構な出世だ。冗談だとしても言質を取ってでもそうするのが貴族として正しいやり方だろう。だがエルヴィンは今の騎士としての仕事に満足しているし、そもそもリックに仕えたら心身ともに疲れ果てそうだ。振り回されて。ニルスはよくやっていると思う。
「結構です。そしてまたそらした。なら俺はリック殿下に対して今以上に遜りますからね」
「俺を脅すなんて、それこそ不敬では?」
「王子と呼ばれたくない人が、権力を俺に振りかざすんですか」
「うーん、降参。エルヴィンってさ、ニルスには優しいのに俺にはちょっと加虐嗜好気味じゃない?」
「俺をドエスの偏った性癖持ちみたいに言うの、やめてください。それにそう感じるのなら、それはリック、あなたのせいだと思います」
そもそもニルスに対して脅す必要も、つんけんと取り付く島もない態度を取る必要もない。無口ながらにいつだってエルヴィンを考慮した言動を取ろうとしてくれているのがわかる。特にこうしてリックと接すると嫌というほどわかる。
というか、元々エルヴィンはリックに麻薬事件の話を聞きたかったというのに、自分の話をするどころかこの調子では一向に話が進みそうにない。
「……リック」
「はいはい。わかったよ。あのブローチはちゃんと渡す時に言ったように、君のためにがんばったんだよ。ちゃんと魔除けだよ。お守り。毎日つけて欲しいって言ったの、覚えてる?」
「それは、はい」
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