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33話
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何だかあっけないというか拍子抜けさえしつつも、結果よければとエルヴィンは思うことにした。
ただラヴィニア自体が結構なトラウマだったようで、今もどこかにいるのであろうラヴィニアが何らかのツテを使って王城や王宮にメイドとしてなどで近づいてきたらどうしよう、といった心配がたまによぎる。ラウラにいまだ勧められる恋愛小説の中にも、メイドとして王族に仕える男爵や子爵の令嬢が王子に見初められて甘ったるい日々を過ごすといった話があった。普通に考えると身分が違うしそもそもそんな簡単に王子などに会えないと思うのだが、ラヴィニアに関してのみあり得そうで怖い。実際遡る前も男爵令嬢に関わらず、公爵家の出である妻がいる王子を骨抜きにしていたし、あのメリハリボディに収まりきるか謎かもしれないメイド服を着て王族を誘惑するところを想像するのは容易い。
とりあえず保険としてニルスには「王子や王女絡みで新しく使用人を雇う時には身元に気をつけて」と言っておいた。
「俺は別に面接する担当ではないが」
「知ってる。でも一応。一応。お願い」
「わかった」
お願いと頼んだところで、それ以上聞いてくることもなく即答で「わかった」と言ってくれた。相変わらず優しい。
「そういえばニルスには見合いとかそういう話、結構くるんじゃないのか」
「来ない」
いや、それは嘘では。
また即答してきたニルスを、エルヴィンは微妙な顔で見る。何故しれっと嘘をつく必要があるのか。
いくら次男とはいえ、王族の血を引くウィスラー家の息子だ。長男はもう結婚して子どももいるから、独身であるニルスを狙っている親や令嬢がいないはずない。
最近は同性同士で恋愛することもあまり大っぴらではないもののあると聞く。もしかしたら狙っている令息などもいるかもしれない。
いや、どうだろ。ニルスって美形イケメンだし背もすごく高いし家柄はあの通りだけど、男にもモテるものなのかな。
友人としてならあれほど無口で無表情ではあるものの案外好かれると思う。一見怖そうだとしても男同士なら少なくとも怯えて近づけないなどといったことはないだろうし、知ってみればあんなに頼りがいのある優しい人はいない。
だが恋人としてだと、どうなのだろうか。男同士の恋愛は対象外だからわからないが、聞いたところによると男がそういう意味で好きになる男にもタイプがあるらしい。
うーん、と考えていると首を傾げられた。
「ああいや、ニルスって男から恋愛的な意味で好かれることあるのかなって」
「……何故」
確かに何故、だろう。見合いの話があるのではと聞けば「来ない」と言われ、それについて考えるならまだしも、普通に謎だろう。
一応流れはあったけどさ。
「ですよね。つか見合い話来ないのは嘘だろ。ニルスに来ないわけないし。お前に来なけりゃ俺らにも来ないよ」
「来るのか?」
食い気味で聞かれた。
「えっと、まあ来てるみたいだけど、今のところ興味なくて」
少なくともラウラが絶対に大丈夫とわかるまでは自分の恋愛どころではない。それに遡る前なら結婚はしていないものの何人かと恋愛しているし朝を迎えたこともあるしで、この間十八歳になってしまったものの焦りもない。別に恋愛しなくとも死なないが、デニスやラヴィニアによって大事な家族がひどいことになる上で死ぬことはある。
ついでに「ヴィリー選考」がどうやらかなり厳しいらしい。母親がこぼしていた。
「これも駄目、あれも駄目とうるさいのよ。何故あなたがお兄様の相手を決めるのって言ったら弟だから、ですって。そんなの理由になりませんよって言ったら弟として当然の理由じゃないですかってむしろ怪訝そうな顔されちゃったのよ。あの子、あんなでそれこそちゃんといい人連れてきてくれるのかしら」
俺の弟がかわいい。けど、確かにちょっと心配。
「俺のほうからも誰か気になる人はいないのか聞いておきます」
「ありがとう、エルヴィン。でもあなたこそ、誰かいい人、いないの」
そして墓穴を掘った。
ところでニルスに、興味なくてと答えると「そうか」と頷いてきた。
「で、ニスルは? 絶対お前には山のように来ていると思うんだけど」
「興味ない」
「なるほど」
勿体ないと思うが、こればかりはエルヴィンが無理強いするものでもない。
「で、何故急に男から恋愛的な意味で好かれるのかと聞いてきた?」
また食い気味に聞かれた。むしろ見合いなどよりこっちのほうが興味あると言わんばかりだと思ってしまい、エルヴィンは苦笑する。
「何となくだよ。ほら、ニルスって無口なわりに結構令嬢からモテるだろ?」
「さあ」
ほんと興味ないんだな。
「モテるんだよ。で、そういえば令息からもモテるのかな、って思ってさ」
「そういうことか」
今度はどうでもよさげに言われた。
「で、どうなの?」
「さあ」
ですよね。
令嬢からモテていることすら興味なくて知らないなら令息からどうかなど、なおさら知らないだろう。
今度ニアキスに聞いてみよう。
ラウラが好きで仕方がないせいで恋愛脳のニアキスならニルスのことでも何か意見が聞けるかもしれない。別にどうしても知りたいわけではないが、ちょっとだけ知りたい。
ただラヴィニア自体が結構なトラウマだったようで、今もどこかにいるのであろうラヴィニアが何らかのツテを使って王城や王宮にメイドとしてなどで近づいてきたらどうしよう、といった心配がたまによぎる。ラウラにいまだ勧められる恋愛小説の中にも、メイドとして王族に仕える男爵や子爵の令嬢が王子に見初められて甘ったるい日々を過ごすといった話があった。普通に考えると身分が違うしそもそもそんな簡単に王子などに会えないと思うのだが、ラヴィニアに関してのみあり得そうで怖い。実際遡る前も男爵令嬢に関わらず、公爵家の出である妻がいる王子を骨抜きにしていたし、あのメリハリボディに収まりきるか謎かもしれないメイド服を着て王族を誘惑するところを想像するのは容易い。
とりあえず保険としてニルスには「王子や王女絡みで新しく使用人を雇う時には身元に気をつけて」と言っておいた。
「俺は別に面接する担当ではないが」
「知ってる。でも一応。一応。お願い」
「わかった」
お願いと頼んだところで、それ以上聞いてくることもなく即答で「わかった」と言ってくれた。相変わらず優しい。
「そういえばニルスには見合いとかそういう話、結構くるんじゃないのか」
「来ない」
いや、それは嘘では。
また即答してきたニルスを、エルヴィンは微妙な顔で見る。何故しれっと嘘をつく必要があるのか。
いくら次男とはいえ、王族の血を引くウィスラー家の息子だ。長男はもう結婚して子どももいるから、独身であるニルスを狙っている親や令嬢がいないはずない。
最近は同性同士で恋愛することもあまり大っぴらではないもののあると聞く。もしかしたら狙っている令息などもいるかもしれない。
いや、どうだろ。ニルスって美形イケメンだし背もすごく高いし家柄はあの通りだけど、男にもモテるものなのかな。
友人としてならあれほど無口で無表情ではあるものの案外好かれると思う。一見怖そうだとしても男同士なら少なくとも怯えて近づけないなどといったことはないだろうし、知ってみればあんなに頼りがいのある優しい人はいない。
だが恋人としてだと、どうなのだろうか。男同士の恋愛は対象外だからわからないが、聞いたところによると男がそういう意味で好きになる男にもタイプがあるらしい。
うーん、と考えていると首を傾げられた。
「ああいや、ニルスって男から恋愛的な意味で好かれることあるのかなって」
「……何故」
確かに何故、だろう。見合いの話があるのではと聞けば「来ない」と言われ、それについて考えるならまだしも、普通に謎だろう。
一応流れはあったけどさ。
「ですよね。つか見合い話来ないのは嘘だろ。ニルスに来ないわけないし。お前に来なけりゃ俺らにも来ないよ」
「来るのか?」
食い気味で聞かれた。
「えっと、まあ来てるみたいだけど、今のところ興味なくて」
少なくともラウラが絶対に大丈夫とわかるまでは自分の恋愛どころではない。それに遡る前なら結婚はしていないものの何人かと恋愛しているし朝を迎えたこともあるしで、この間十八歳になってしまったものの焦りもない。別に恋愛しなくとも死なないが、デニスやラヴィニアによって大事な家族がひどいことになる上で死ぬことはある。
ついでに「ヴィリー選考」がどうやらかなり厳しいらしい。母親がこぼしていた。
「これも駄目、あれも駄目とうるさいのよ。何故あなたがお兄様の相手を決めるのって言ったら弟だから、ですって。そんなの理由になりませんよって言ったら弟として当然の理由じゃないですかってむしろ怪訝そうな顔されちゃったのよ。あの子、あんなでそれこそちゃんといい人連れてきてくれるのかしら」
俺の弟がかわいい。けど、確かにちょっと心配。
「俺のほうからも誰か気になる人はいないのか聞いておきます」
「ありがとう、エルヴィン。でもあなたこそ、誰かいい人、いないの」
そして墓穴を掘った。
ところでニルスに、興味なくてと答えると「そうか」と頷いてきた。
「で、ニスルは? 絶対お前には山のように来ていると思うんだけど」
「興味ない」
「なるほど」
勿体ないと思うが、こればかりはエルヴィンが無理強いするものでもない。
「で、何故急に男から恋愛的な意味で好かれるのかと聞いてきた?」
また食い気味に聞かれた。むしろ見合いなどよりこっちのほうが興味あると言わんばかりだと思ってしまい、エルヴィンは苦笑する。
「何となくだよ。ほら、ニルスって無口なわりに結構令嬢からモテるだろ?」
「さあ」
ほんと興味ないんだな。
「モテるんだよ。で、そういえば令息からもモテるのかな、って思ってさ」
「そういうことか」
今度はどうでもよさげに言われた。
「で、どうなの?」
「さあ」
ですよね。
令嬢からモテていることすら興味なくて知らないなら令息からどうかなど、なおさら知らないだろう。
今度ニアキスに聞いてみよう。
ラウラが好きで仕方がないせいで恋愛脳のニアキスならニルスのことでも何か意見が聞けるかもしれない。別にどうしても知りたいわけではないが、ちょっとだけ知りたい。
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