彼は最後に微笑んだ

Guidepost

文字の大きさ
上 下
33 / 193

33話

しおりを挟む
 何だかあっけないというか拍子抜けさえしつつも、結果よければとエルヴィンは思うことにした。
 ただラヴィニア自体が結構なトラウマだったようで、今もどこかにいるのであろうラヴィニアが何らかのツテを使って王城や王宮にメイドとしてなどで近づいてきたらどうしよう、といった心配がたまによぎる。ラウラにいまだ勧められる恋愛小説の中にも、メイドとして王族に仕える男爵や子爵の令嬢が王子に見初められて甘ったるい日々を過ごすといった話があった。普通に考えると身分が違うしそもそもそんな簡単に王子などに会えないと思うのだが、ラヴィニアに関してのみあり得そうで怖い。実際遡る前も男爵令嬢に関わらず、公爵家の出である妻がいる王子を骨抜きにしていたし、あのメリハリボディに収まりきるか謎かもしれないメイド服を着て王族を誘惑するところを想像するのは容易い。
 とりあえず保険としてニルスには「王子や王女絡みで新しく使用人を雇う時には身元に気をつけて」と言っておいた。

「俺は別に面接する担当ではないが」
「知ってる。でも一応。一応。お願い」
「わかった」

 お願いと頼んだところで、それ以上聞いてくることもなく即答で「わかった」と言ってくれた。相変わらず優しい。

「そういえばニルスには見合いとかそういう話、結構くるんじゃないのか」
「来ない」

 いや、それは嘘では。

 また即答してきたニルスを、エルヴィンは微妙な顔で見る。何故しれっと嘘をつく必要があるのか。
 いくら次男とはいえ、王族の血を引くウィスラー家の息子だ。長男はもう結婚して子どももいるから、独身であるニルスを狙っている親や令嬢がいないはずない。
 最近は同性同士で恋愛することもあまり大っぴらではないもののあると聞く。もしかしたら狙っている令息などもいるかもしれない。

 いや、どうだろ。ニルスって美形イケメンだし背もすごく高いし家柄はあの通りだけど、男にもモテるものなのかな。

 友人としてならあれほど無口で無表情ではあるものの案外好かれると思う。一見怖そうだとしても男同士なら少なくとも怯えて近づけないなどといったことはないだろうし、知ってみればあんなに頼りがいのある優しい人はいない。
 だが恋人としてだと、どうなのだろうか。男同士の恋愛は対象外だからわからないが、聞いたところによると男がそういう意味で好きになる男にもタイプがあるらしい。
 うーん、と考えていると首を傾げられた。

「ああいや、ニルスって男から恋愛的な意味で好かれることあるのかなって」
「……何故」

 確かに何故、だろう。見合いの話があるのではと聞けば「来ない」と言われ、それについて考えるならまだしも、普通に謎だろう。

 一応流れはあったけどさ。

「ですよね。つか見合い話来ないのは嘘だろ。ニルスに来ないわけないし。お前に来なけりゃ俺らにも来ないよ」
「来るのか?」

 食い気味で聞かれた。

「えっと、まあ来てるみたいだけど、今のところ興味なくて」

 少なくともラウラが絶対に大丈夫とわかるまでは自分の恋愛どころではない。それに遡る前なら結婚はしていないものの何人かと恋愛しているし朝を迎えたこともあるしで、この間十八歳になってしまったものの焦りもない。別に恋愛しなくとも死なないが、デニスやラヴィニアによって大事な家族がひどいことになる上で死ぬことはある。
 ついでに「ヴィリー選考」がどうやらかなり厳しいらしい。母親がこぼしていた。

「これも駄目、あれも駄目とうるさいのよ。何故あなたがお兄様の相手を決めるのって言ったら弟だから、ですって。そんなの理由になりませんよって言ったら弟として当然の理由じゃないですかってむしろ怪訝そうな顔されちゃったのよ。あの子、あんなでそれこそちゃんといい人連れてきてくれるのかしら」

 俺の弟がかわいい。けど、確かにちょっと心配。

「俺のほうからも誰か気になる人はいないのか聞いておきます」
「ありがとう、エルヴィン。でもあなたこそ、誰かいい人、いないの」

 そして墓穴を掘った。
 ところでニルスに、興味なくてと答えると「そうか」と頷いてきた。

「で、ニスルは? 絶対お前には山のように来ていると思うんだけど」
「興味ない」
「なるほど」

 勿体ないと思うが、こればかりはエルヴィンが無理強いするものでもない。

「で、何故急に男から恋愛的な意味で好かれるのかと聞いてきた?」

 また食い気味に聞かれた。むしろ見合いなどよりこっちのほうが興味あると言わんばかりだと思ってしまい、エルヴィンは苦笑する。

「何となくだよ。ほら、ニルスって無口なわりに結構令嬢からモテるだろ?」
「さあ」

 ほんと興味ないんだな。

「モテるんだよ。で、そういえば令息からもモテるのかな、って思ってさ」
「そういうことか」

 今度はどうでもよさげに言われた。

「で、どうなの?」
「さあ」

 ですよね。

 令嬢からモテていることすら興味なくて知らないなら令息からどうかなど、なおさら知らないだろう。

 今度ニアキスに聞いてみよう。

 ラウラが好きで仕方がないせいで恋愛脳のニアキスならニルスのことでも何か意見が聞けるかもしれない。別にどうしても知りたいわけではないが、ちょっとだけ知りたい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃんでした。 実際に逢ってみたら、え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこいー伴侶がいますので! おじいちゃんと孫じゃないよ!

【BL】こんな恋、したくなかった

のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】  人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。  ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。 ※ご都合主義、ハッピーエンド

不憫な推しキャラを救おうとしただけなのに

はぴねこ
BL
美幼児&美幼児(ブロマンス期)からの美青年×美青年(BL期)への成長を辿る長編BLです。 金髪碧眼美幼児のリヒトの前世は、隠れゲイでBL好きのおじさんだった。 享年52歳までプレイしていた乙女ゲーム『星鏡のレイラ』の攻略対象であるリヒトに転生したため、彼は推しだった不憫な攻略対象:カルロを不運な運命から救い、幸せにすることに全振りする。 見た目は美しい王子のリヒトだが、中身は52歳で、両親も乳母も護衛騎士もみんな年下。 気軽に話せるのは年上の帝国の皇帝や魔塔主だけ。 幼い推しへの高まる父性でカルロを溺愛しつつ、頑張る若者たち(両親etc)を温かく見守りながら、リヒトはヒロインとカルロが結ばれるように奮闘する! リヒト… エトワール王国の第一王子。カルロへの父性が暴走気味。 カルロ… リヒトの従者。リヒトは神様で唯一の居場所。リヒトへの想いが暴走気味。 魔塔主… 一人で国を滅ぼせるほどの魔法が使える自由人。ある意味厄災。リヒトを研究対象としている。 オーロ皇帝… 大帝国の皇帝。エトワールの悍ましい慣習を嫌っていたが、リヒトの利発さに興味を持つ。 ナタリア… 乙女ゲーム『星鏡のレイラ』のヒロイン。オーロ皇帝の孫娘。カルロとは恋のライバル。

貧乏Ωの憧れの人

ゆあ
BL
妊娠・出産に特化したΩの男性である大学1年の幸太には耐えられないほどの発情期が周期的に訪れる。そんな彼を救ってくれたのは生物的にも社会的にも恵まれたαである拓也だった。定期的に体の関係をもつようになった2人だが、なんと幸太は妊娠してしまう。中絶するには番の同意書と10万円が必要だが、貧乏学生であり、拓也の番になる気がない彼にはどちらの選択もハードルが高すぎて……。すれ違い拗らせオメガバースBL。 エブリスタにて紹介して頂いた時に書いて貰ったもの

転生するにしても、これは無いだろ! ~死ぬ間際に読んでいた小説の悪役に転生しましたが、自分を殺すはずの最強主人公が逃がしてくれません~

槿 資紀
BL
駅のホームでネット小説を読んでいたところ、不慮の事故で電車に撥ねられ、死んでしまった平凡な男子高校生。しかし、二度と目覚めるはずのなかった彼は、死ぬ直前まで読んでいた小説に登場する悪役として再び目覚める。このままでは、自分のことを憎む最強主人公に殺されてしまうため、何とか逃げ出そうとするのだが、当の最強主人公の態度は、小説とはどこか違って――――。 最強スパダリ主人公×薄幸悪役転生者 R‐18展開は今のところ予定しておりません。ご了承ください。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

処理中です...