28 / 193
28話
しおりを挟む
あの後エルヴィンは気分が悪くなり、ニルスに付き添ってもらって控室として準備されている部屋まで連れてきてもらった。
情けないとは思うが、まともに立っていられないくらいに怒りと悲しみと憎しみでどうにかなりそうだった。ラヴィニアにだけは、会うのではなかったと心底後悔した。
今のラヴィニアはまだ何もしていない。例え遡る前にあれほどのことをしていても、今それを断罪するわけにはいかない。
「水を……」
「うん。ありがとうニルス。でもここで少し休んでたら大丈夫だから、ニルスは会場へ戻って」
ニルスもパーティーはあまり好きそうではないが、それでもせっかく出席したのなら楽しんで欲しい。ソファーに座っていたエルヴィンがなんとか笑みを作ってニルスを見上げると首を振ってきた。
「大丈夫だって、ほんとに」
「……俺がいると休めない、か」
「いや……ああ、うん、そうかもだな。ちょっと座ったまま居眠りするよ。だから戻って」
物静かなニルスが邪魔になることなどない。遡ってからのエルヴィンはずっと昔から親しくしてきたのだ、何も喋らなくてもニルスといて落ち着かないなんてこともない。
むしろ落ち着くよな。今だってニルスにいてもらってよかったと思ってるし。
だがいくら親しい友人であっても迷惑をかけることは落ち着かない。エルヴィンが深くソファーに座りなおすとニルスは頷き「また様子を見に来る」と言って部屋から出ていった。それを見届け、エルヴィンは深くため息をつく。
これほどラヴィニアを憎んでいるとはな。
当たり前と言えば当たり前だが、デニスが案外大丈夫だったからラヴィニアも同じようにとらえていた。
これでまたラヴィニアがデニスとそういう関係になってしまったらと思うと、想像するだけでも吐きそうな気分になる。いくらラウラが今のデニスと婚約関係にないとはいえ、将来ラウラがデニスと結婚する可能性がかなり低くなったとはいえ、耐え難い。今の婚約者の令嬢がどんな人かさえよく知らないが、だからといってラウラじゃないからどうなってもいいとは思えないし、どのみちこのマヴァリージ王国の将来が危ぶまれる。どうにかしてそれは阻止したい。
ラヴィニアがデニスとくっつかなければ問題ないのではないだろうか。とはいえもう一人の王子であるリックとくっつくのも、いくらリックがしっかりしていても安心はできない気がする。サヴェージ家からかけ離れたところにいて欲しい。
なら、王子だけでなくおそらく家柄が大公爵家であり王族の血を引き、本人もすでに侯爵の身分を持つニルスにも目をつけているはずのラヴィニアとニルスがくっつけばどうだろうか。
そう考えてみたが、とてつもなくモヤモヤとする。ニルスならばいくら身分が高い上に王族の血を引くと言えども、さすがにマヴァリージ王国の将来まで傾くほどではないのではと思えるというのに。
安パイじゃないか。ラウラは不幸にならない。今のデニス王子の婚約者も不幸にならない。マヴァリージも傾かない。なのに何でこんなモヤつくんだ。
ああ、ニルスみたいないいやつにあの悪女を押し付けるからか?
だが遡る前、ラヴィニアと一緒になったデニスがそれを後悔している様子はなかった。むしろますます夢中になっていったからこそ、どんどんマヴァリージ王国は駄目になっていったのではないだろうか。ということは金や身分やそういった諸々目当てであったとしても、少なくともラヴィニアは相手の男にだけは悪くないどころかいい女だったということではないだろうか。憶測でしかないが。
俺は大嫌いだけど、でも見た目は確かにいい女なんだろうよ。大嫌いだけどな俺は。
だとしたら王子が駄目でも王族であり将来有望すぎるニルス相手ならラヴィニアはきっとニルスにだけは悪女とならないはずだ。
だろ?
エルヴィンは自分に言い聞かせてみるが、それでもモヤモヤするどころかニルスとラヴィニアがくっつくのは嫌だと先ほどよりも明確に思った。
まあ、そうだわな。いくらニルスにとってもいい女になるかもしれないとしても、自分が吐き気するほど嫌いな女と、自分の大切な友人がくっつけばいいなんて、到底思えないわな。そういうことだよな。
「……はぁ」
ため息をつき、エルヴィンは深くもたれたソファーに顔を押しつけた。
ニルスに会場へ戻ってもらうために「居眠りする」と言ったが、本当に少し眠ろうと思った。寝たら少しはすっきりするだろう。
今のエルヴィンにできることはあまりない。身内が絡むことなら、例えば遡る前と違って弟妹とともに今度は社交的になってみる、だのやりようもあるし、実際それでずいぶん変わったと思える。だがラヴィニアやデニスに関してはエルヴィンが何かして影響を与えるといったことは難しい。
また、ラヴィニアと接触すること自体、今のエルヴィンにはきつい。ましてやラヴィニアが王子たちやニルスと恋愛関係にならないよう例えば他に誰かに興味を持たせるといった方法にも無理がある。
……ニルスが言ってくれた「あまりミス・ラヴィニアが殿下やリックに近づくことのないよう俺も気にしていよう」という言葉に頼るしかないよな。
やり直し人生ではニルスにかなり頼っている気がする。エルヴィンは「ごめん、ニルス……」と呟くように謝りつつ、眠りに陥った。
情けないとは思うが、まともに立っていられないくらいに怒りと悲しみと憎しみでどうにかなりそうだった。ラヴィニアにだけは、会うのではなかったと心底後悔した。
今のラヴィニアはまだ何もしていない。例え遡る前にあれほどのことをしていても、今それを断罪するわけにはいかない。
「水を……」
「うん。ありがとうニルス。でもここで少し休んでたら大丈夫だから、ニルスは会場へ戻って」
ニルスもパーティーはあまり好きそうではないが、それでもせっかく出席したのなら楽しんで欲しい。ソファーに座っていたエルヴィンがなんとか笑みを作ってニルスを見上げると首を振ってきた。
「大丈夫だって、ほんとに」
「……俺がいると休めない、か」
「いや……ああ、うん、そうかもだな。ちょっと座ったまま居眠りするよ。だから戻って」
物静かなニルスが邪魔になることなどない。遡ってからのエルヴィンはずっと昔から親しくしてきたのだ、何も喋らなくてもニルスといて落ち着かないなんてこともない。
むしろ落ち着くよな。今だってニルスにいてもらってよかったと思ってるし。
だがいくら親しい友人であっても迷惑をかけることは落ち着かない。エルヴィンが深くソファーに座りなおすとニルスは頷き「また様子を見に来る」と言って部屋から出ていった。それを見届け、エルヴィンは深くため息をつく。
これほどラヴィニアを憎んでいるとはな。
当たり前と言えば当たり前だが、デニスが案外大丈夫だったからラヴィニアも同じようにとらえていた。
これでまたラヴィニアがデニスとそういう関係になってしまったらと思うと、想像するだけでも吐きそうな気分になる。いくらラウラが今のデニスと婚約関係にないとはいえ、将来ラウラがデニスと結婚する可能性がかなり低くなったとはいえ、耐え難い。今の婚約者の令嬢がどんな人かさえよく知らないが、だからといってラウラじゃないからどうなってもいいとは思えないし、どのみちこのマヴァリージ王国の将来が危ぶまれる。どうにかしてそれは阻止したい。
ラヴィニアがデニスとくっつかなければ問題ないのではないだろうか。とはいえもう一人の王子であるリックとくっつくのも、いくらリックがしっかりしていても安心はできない気がする。サヴェージ家からかけ離れたところにいて欲しい。
なら、王子だけでなくおそらく家柄が大公爵家であり王族の血を引き、本人もすでに侯爵の身分を持つニルスにも目をつけているはずのラヴィニアとニルスがくっつけばどうだろうか。
そう考えてみたが、とてつもなくモヤモヤとする。ニルスならばいくら身分が高い上に王族の血を引くと言えども、さすがにマヴァリージ王国の将来まで傾くほどではないのではと思えるというのに。
安パイじゃないか。ラウラは不幸にならない。今のデニス王子の婚約者も不幸にならない。マヴァリージも傾かない。なのに何でこんなモヤつくんだ。
ああ、ニルスみたいないいやつにあの悪女を押し付けるからか?
だが遡る前、ラヴィニアと一緒になったデニスがそれを後悔している様子はなかった。むしろますます夢中になっていったからこそ、どんどんマヴァリージ王国は駄目になっていったのではないだろうか。ということは金や身分やそういった諸々目当てであったとしても、少なくともラヴィニアは相手の男にだけは悪くないどころかいい女だったということではないだろうか。憶測でしかないが。
俺は大嫌いだけど、でも見た目は確かにいい女なんだろうよ。大嫌いだけどな俺は。
だとしたら王子が駄目でも王族であり将来有望すぎるニルス相手ならラヴィニアはきっとニルスにだけは悪女とならないはずだ。
だろ?
エルヴィンは自分に言い聞かせてみるが、それでもモヤモヤするどころかニルスとラヴィニアがくっつくのは嫌だと先ほどよりも明確に思った。
まあ、そうだわな。いくらニルスにとってもいい女になるかもしれないとしても、自分が吐き気するほど嫌いな女と、自分の大切な友人がくっつけばいいなんて、到底思えないわな。そういうことだよな。
「……はぁ」
ため息をつき、エルヴィンは深くもたれたソファーに顔を押しつけた。
ニルスに会場へ戻ってもらうために「居眠りする」と言ったが、本当に少し眠ろうと思った。寝たら少しはすっきりするだろう。
今のエルヴィンにできることはあまりない。身内が絡むことなら、例えば遡る前と違って弟妹とともに今度は社交的になってみる、だのやりようもあるし、実際それでずいぶん変わったと思える。だがラヴィニアやデニスに関してはエルヴィンが何かして影響を与えるといったことは難しい。
また、ラヴィニアと接触すること自体、今のエルヴィンにはきつい。ましてやラヴィニアが王子たちやニルスと恋愛関係にならないよう例えば他に誰かに興味を持たせるといった方法にも無理がある。
……ニルスが言ってくれた「あまりミス・ラヴィニアが殿下やリックに近づくことのないよう俺も気にしていよう」という言葉に頼るしかないよな。
やり直し人生ではニルスにかなり頼っている気がする。エルヴィンは「ごめん、ニルス……」と呟くように謝りつつ、眠りに陥った。
5
お気に入りに追加
497
あなたにおすすめの小説
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃんでした。
実際に逢ってみたら、え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこいー伴侶がいますので!
おじいちゃんと孫じゃないよ!
【BL】こんな恋、したくなかった
のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】
人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。
ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。
※ご都合主義、ハッピーエンド
不憫な推しキャラを救おうとしただけなのに
はぴねこ
BL
美幼児&美幼児(ブロマンス期)からの美青年×美青年(BL期)への成長を辿る長編BLです。
金髪碧眼美幼児のリヒトの前世は、隠れゲイでBL好きのおじさんだった。
享年52歳までプレイしていた乙女ゲーム『星鏡のレイラ』の攻略対象であるリヒトに転生したため、彼は推しだった不憫な攻略対象:カルロを不運な運命から救い、幸せにすることに全振りする。
見た目は美しい王子のリヒトだが、中身は52歳で、両親も乳母も護衛騎士もみんな年下。
気軽に話せるのは年上の帝国の皇帝や魔塔主だけ。
幼い推しへの高まる父性でカルロを溺愛しつつ、頑張る若者たち(両親etc)を温かく見守りながら、リヒトはヒロインとカルロが結ばれるように奮闘する!
リヒト… エトワール王国の第一王子。カルロへの父性が暴走気味。
カルロ… リヒトの従者。リヒトは神様で唯一の居場所。リヒトへの想いが暴走気味。
魔塔主… 一人で国を滅ぼせるほどの魔法が使える自由人。ある意味厄災。リヒトを研究対象としている。
オーロ皇帝… 大帝国の皇帝。エトワールの悍ましい慣習を嫌っていたが、リヒトの利発さに興味を持つ。
ナタリア… 乙女ゲーム『星鏡のレイラ』のヒロイン。オーロ皇帝の孫娘。カルロとは恋のライバル。
貧乏Ωの憧れの人
ゆあ
BL
妊娠・出産に特化したΩの男性である大学1年の幸太には耐えられないほどの発情期が周期的に訪れる。そんな彼を救ってくれたのは生物的にも社会的にも恵まれたαである拓也だった。定期的に体の関係をもつようになった2人だが、なんと幸太は妊娠してしまう。中絶するには番の同意書と10万円が必要だが、貧乏学生であり、拓也の番になる気がない彼にはどちらの選択もハードルが高すぎて……。すれ違い拗らせオメガバースBL。
エブリスタにて紹介して頂いた時に書いて貰ったもの
転生するにしても、これは無いだろ! ~死ぬ間際に読んでいた小説の悪役に転生しましたが、自分を殺すはずの最強主人公が逃がしてくれません~
槿 資紀
BL
駅のホームでネット小説を読んでいたところ、不慮の事故で電車に撥ねられ、死んでしまった平凡な男子高校生。しかし、二度と目覚めるはずのなかった彼は、死ぬ直前まで読んでいた小説に登場する悪役として再び目覚める。このままでは、自分のことを憎む最強主人公に殺されてしまうため、何とか逃げ出そうとするのだが、当の最強主人公の態度は、小説とはどこか違って――――。
最強スパダリ主人公×薄幸悪役転生者
R‐18展開は今のところ予定しておりません。ご了承ください。
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる