22 / 193
22話
しおりを挟む
「エルヴィン?」
頭を抱えだしたエルヴィンに、ニルスはとても心配になる。どうも最近、エルヴィンの様子がおかしい。気のせいかと思うこともあれば、突然何か言いだしたりして明らかにおかしい時もある。
疲れているのだろうか。
……それともやっぱりリックが留学してしまったから……?
そんなことを思っているとエルヴィンがため息をつきながら見上げてくる。心配はさておき、とてもかわいいと思う。
ひたすら思っていると何か言ってきていたようだ。
「──魔物が俺を襲うだろうといったお告げでもあったのか?」
どういう話の流れだと怪訝に思ったが、ブローチの話をしていたことを思い出す。魔除けの守りだからずっとつけさせててと言っていたリックの話だった。ブローチもエルヴィンを守ってくれると告げるとエルヴィンが頭を抱えだした。
リックの気持ちに感動して……にしては変な感動の仕方だな。嬉しくても頭を抱えるものか? とりあえずお告げがあったとは聞いていないな。
「いや」
「ならわかるだろ、ニルス。男であり騎士でもある俺にここまで厳重な守りは必要ないって」
「何があるかわからない」
確かに普通に考えるとエルヴィンをそこまで守る必要性はないだろう。か弱い女、子どもならまだしもエルヴィンは背も高くスラリとしていながらもおそらくつくべき筋肉も綺麗についているであろうとても魅力的な──ではなくてとにかく、男だ。しかも騎士として優秀だとニルスも知っている。
だが何故だろうか。別に知り合ってから今までエルヴィンが誘拐されたとか事件に巻き込まれたとか大きな怪我を負ったとか大病を患ったとか、そういったことは一切なかったというのに、どこか儚げというのだろうか、消えてしまうのではとさえ思ってしまうことがニルスにはあった。
実際は子どもの頃から風邪すら引かない健康優良児だったし、見ての通り魅力て……ではなく細身ながらにしっかりとした体つきだし、剣の腕前も相当なものだ。剣の稽古を一緒にしたことがあるが、まるで親の仇を取るかのようにやたら熱心に取り組んでいたエルヴィンの腕前が上達しないはずなどなかった。
今や成人男性として立派に成長している同じ年の幼馴染を守らなくてはならない必要性も理由もない。
だというのに何故ニルスの中で「消えてしまうのでは」といった微かながらに焦燥感にも似た感覚があるのか自分でもわからない。だがそのせいで、リックに言われた時もまるで当たり前かのように頷いていた。
「俺の留学に付き合わなくていいよニルス」
「だがそれが俺の仕事だ」
「お前の仕事は俺を守るだけじゃなく、俺の命じることを守ることでもあるだろ」
「お前に仕えているんだ、普通に考えて一緒に行くだろう」
「普通なんてもの、誰が決めたの? 俺がいらないと言ってるんだからいらない。リック・サヴェージが命じているんだ、言われたとおりにしろ」
「……はぁ。……わかったよ。だが俺がいないからって羽目を外すなよ」
何故それほどついて来なくていいと言うのかリックにはわからなかった。だが普段ヘラヘラとしているリックが珍しく命令までしてくるというのならリックなりの意味があるのだろう。
「わかってるって。かわいい子がいればお前にも紹介してやるから」
「……いらん」
「だよねえ。だってニルスにはすでにすごくかわいい子、ここにいるもんねえ」
ニコニコとリックが自分の心臓辺りを指先で軽くとんとんと叩いている。そのまま指に刺しぬかれてしまえとニルスが睨むも、気にした様子もない。この辺はいつものリックだ。
「言われたとおりついて行かないかわりにちょくちょく連絡だけは寄こすようにしろ」
「ニルスってば俺の保護者?」
「仕えている補佐役だ」
「真面目な返事ありがとう。代わりにエルヴィンについて守ってやってよ」
「わかった」
ニルスが頷くとリックも満足そうに頷いていた。
「ああ、そうそう。このブローチは魔道具なんだ。俺が作った。魔除けでもありお守りでもある」
「……俺にくれるのか?」
「嫌そうな顔で言わないでくれるかな。あと何で俺がニルスに。これはエルヴィンにあげるんだよ」
ニコニコと言われ、ニルスはただ頷いた。
エルヴィンと出会ってから、リックはことあるごとにエルヴィンを気にかけているように思える。もしかしたらそういう意味でエルヴィンを好いているのだろうかと思ったが、もし聞いたとしても「うんうん、大好きだよ。ニルスのことも大好きだしね」などと茶化したような返事しか来ないような気がして黙っている。
「楽しくない反応だなあ。まあいいや。とにかく真心と力を込めた魔道具だからさ、エルヴィンにはつけさせておいてね。さすがにエルヴィンにずっとついてられないでしょ。でもニルスだけでなくそのブローチもエルヴィンを守ってくれるだろうから」
「わかった」
そうしてリックは満足そうに留学先となる風の国、ミレノールへと旅立った。竜馬なら一日と半日くらいで着くだろうが、馬車で向かったので二週間はかかるだろう。
「──守る必要性を見出してるんだ……!」
ニルスが思い返している間にエルヴィンが何かを強く言っていたようだ。申し訳ないことにちゃんと聞いていなかったため、ニルスは首を傾げる。するとため息をつかれた。
駄目だな、ちゃんと話聞かないと。
つい逸れがちになってしまったため、ニルスはじっとエルヴィンを見て返答することにした。あまり見てしまうと逆に集中できなくなりそうだが、エルヴィンの話はちゃんと聞きたい。例えちょくちょく意味がわからなくても。
「守られるのが嫌って言うよりもさ、俺のせいでニルスに負担になって欲しくないんだよ」
先ほどは何やら強い口調だったエルヴィンが譲歩するかのような優しい口調で言ってきた。言っていることも優しい。さすがエルヴィンだと思うしかわいいと思う。考えるまでもなく「負担じゃない」と即答していた。
じっと見すぎたのか、少々気まずそうに「……。お前、他に仕事ないの?」と今度は聞かれた。
頭を抱えだしたエルヴィンに、ニルスはとても心配になる。どうも最近、エルヴィンの様子がおかしい。気のせいかと思うこともあれば、突然何か言いだしたりして明らかにおかしい時もある。
疲れているのだろうか。
……それともやっぱりリックが留学してしまったから……?
そんなことを思っているとエルヴィンがため息をつきながら見上げてくる。心配はさておき、とてもかわいいと思う。
ひたすら思っていると何か言ってきていたようだ。
「──魔物が俺を襲うだろうといったお告げでもあったのか?」
どういう話の流れだと怪訝に思ったが、ブローチの話をしていたことを思い出す。魔除けの守りだからずっとつけさせててと言っていたリックの話だった。ブローチもエルヴィンを守ってくれると告げるとエルヴィンが頭を抱えだした。
リックの気持ちに感動して……にしては変な感動の仕方だな。嬉しくても頭を抱えるものか? とりあえずお告げがあったとは聞いていないな。
「いや」
「ならわかるだろ、ニルス。男であり騎士でもある俺にここまで厳重な守りは必要ないって」
「何があるかわからない」
確かに普通に考えるとエルヴィンをそこまで守る必要性はないだろう。か弱い女、子どもならまだしもエルヴィンは背も高くスラリとしていながらもおそらくつくべき筋肉も綺麗についているであろうとても魅力的な──ではなくてとにかく、男だ。しかも騎士として優秀だとニルスも知っている。
だが何故だろうか。別に知り合ってから今までエルヴィンが誘拐されたとか事件に巻き込まれたとか大きな怪我を負ったとか大病を患ったとか、そういったことは一切なかったというのに、どこか儚げというのだろうか、消えてしまうのではとさえ思ってしまうことがニルスにはあった。
実際は子どもの頃から風邪すら引かない健康優良児だったし、見ての通り魅力て……ではなく細身ながらにしっかりとした体つきだし、剣の腕前も相当なものだ。剣の稽古を一緒にしたことがあるが、まるで親の仇を取るかのようにやたら熱心に取り組んでいたエルヴィンの腕前が上達しないはずなどなかった。
今や成人男性として立派に成長している同じ年の幼馴染を守らなくてはならない必要性も理由もない。
だというのに何故ニルスの中で「消えてしまうのでは」といった微かながらに焦燥感にも似た感覚があるのか自分でもわからない。だがそのせいで、リックに言われた時もまるで当たり前かのように頷いていた。
「俺の留学に付き合わなくていいよニルス」
「だがそれが俺の仕事だ」
「お前の仕事は俺を守るだけじゃなく、俺の命じることを守ることでもあるだろ」
「お前に仕えているんだ、普通に考えて一緒に行くだろう」
「普通なんてもの、誰が決めたの? 俺がいらないと言ってるんだからいらない。リック・サヴェージが命じているんだ、言われたとおりにしろ」
「……はぁ。……わかったよ。だが俺がいないからって羽目を外すなよ」
何故それほどついて来なくていいと言うのかリックにはわからなかった。だが普段ヘラヘラとしているリックが珍しく命令までしてくるというのならリックなりの意味があるのだろう。
「わかってるって。かわいい子がいればお前にも紹介してやるから」
「……いらん」
「だよねえ。だってニルスにはすでにすごくかわいい子、ここにいるもんねえ」
ニコニコとリックが自分の心臓辺りを指先で軽くとんとんと叩いている。そのまま指に刺しぬかれてしまえとニルスが睨むも、気にした様子もない。この辺はいつものリックだ。
「言われたとおりついて行かないかわりにちょくちょく連絡だけは寄こすようにしろ」
「ニルスってば俺の保護者?」
「仕えている補佐役だ」
「真面目な返事ありがとう。代わりにエルヴィンについて守ってやってよ」
「わかった」
ニルスが頷くとリックも満足そうに頷いていた。
「ああ、そうそう。このブローチは魔道具なんだ。俺が作った。魔除けでもありお守りでもある」
「……俺にくれるのか?」
「嫌そうな顔で言わないでくれるかな。あと何で俺がニルスに。これはエルヴィンにあげるんだよ」
ニコニコと言われ、ニルスはただ頷いた。
エルヴィンと出会ってから、リックはことあるごとにエルヴィンを気にかけているように思える。もしかしたらそういう意味でエルヴィンを好いているのだろうかと思ったが、もし聞いたとしても「うんうん、大好きだよ。ニルスのことも大好きだしね」などと茶化したような返事しか来ないような気がして黙っている。
「楽しくない反応だなあ。まあいいや。とにかく真心と力を込めた魔道具だからさ、エルヴィンにはつけさせておいてね。さすがにエルヴィンにずっとついてられないでしょ。でもニルスだけでなくそのブローチもエルヴィンを守ってくれるだろうから」
「わかった」
そうしてリックは満足そうに留学先となる風の国、ミレノールへと旅立った。竜馬なら一日と半日くらいで着くだろうが、馬車で向かったので二週間はかかるだろう。
「──守る必要性を見出してるんだ……!」
ニルスが思い返している間にエルヴィンが何かを強く言っていたようだ。申し訳ないことにちゃんと聞いていなかったため、ニルスは首を傾げる。するとため息をつかれた。
駄目だな、ちゃんと話聞かないと。
つい逸れがちになってしまったため、ニルスはじっとエルヴィンを見て返答することにした。あまり見てしまうと逆に集中できなくなりそうだが、エルヴィンの話はちゃんと聞きたい。例えちょくちょく意味がわからなくても。
「守られるのが嫌って言うよりもさ、俺のせいでニルスに負担になって欲しくないんだよ」
先ほどは何やら強い口調だったエルヴィンが譲歩するかのような優しい口調で言ってきた。言っていることも優しい。さすがエルヴィンだと思うしかわいいと思う。考えるまでもなく「負担じゃない」と即答していた。
じっと見すぎたのか、少々気まずそうに「……。お前、他に仕事ないの?」と今度は聞かれた。
5
お気に入りに追加
506
あなたにおすすめの小説


新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

心からの愛してる
マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。
全寮制男子校
嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります
※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる