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22話
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「エルヴィン?」
頭を抱えだしたエルヴィンに、ニルスはとても心配になる。どうも最近、エルヴィンの様子がおかしい。気のせいかと思うこともあれば、突然何か言いだしたりして明らかにおかしい時もある。
疲れているのだろうか。
……それともやっぱりリックが留学してしまったから……?
そんなことを思っているとエルヴィンがため息をつきながら見上げてくる。心配はさておき、とてもかわいいと思う。
ひたすら思っていると何か言ってきていたようだ。
「──魔物が俺を襲うだろうといったお告げでもあったのか?」
どういう話の流れだと怪訝に思ったが、ブローチの話をしていたことを思い出す。魔除けの守りだからずっとつけさせててと言っていたリックの話だった。ブローチもエルヴィンを守ってくれると告げるとエルヴィンが頭を抱えだした。
リックの気持ちに感動して……にしては変な感動の仕方だな。嬉しくても頭を抱えるものか? とりあえずお告げがあったとは聞いていないな。
「いや」
「ならわかるだろ、ニルス。男であり騎士でもある俺にここまで厳重な守りは必要ないって」
「何があるかわからない」
確かに普通に考えるとエルヴィンをそこまで守る必要性はないだろう。か弱い女、子どもならまだしもエルヴィンは背も高くスラリとしていながらもおそらくつくべき筋肉も綺麗についているであろうとても魅力的な──ではなくてとにかく、男だ。しかも騎士として優秀だとニルスも知っている。
だが何故だろうか。別に知り合ってから今までエルヴィンが誘拐されたとか事件に巻き込まれたとか大きな怪我を負ったとか大病を患ったとか、そういったことは一切なかったというのに、どこか儚げというのだろうか、消えてしまうのではとさえ思ってしまうことがニルスにはあった。
実際は子どもの頃から風邪すら引かない健康優良児だったし、見ての通り魅力て……ではなく細身ながらにしっかりとした体つきだし、剣の腕前も相当なものだ。剣の稽古を一緒にしたことがあるが、まるで親の仇を取るかのようにやたら熱心に取り組んでいたエルヴィンの腕前が上達しないはずなどなかった。
今や成人男性として立派に成長している同じ年の幼馴染を守らなくてはならない必要性も理由もない。
だというのに何故ニルスの中で「消えてしまうのでは」といった微かながらに焦燥感にも似た感覚があるのか自分でもわからない。だがそのせいで、リックに言われた時もまるで当たり前かのように頷いていた。
「俺の留学に付き合わなくていいよニルス」
「だがそれが俺の仕事だ」
「お前の仕事は俺を守るだけじゃなく、俺の命じることを守ることでもあるだろ」
「お前に仕えているんだ、普通に考えて一緒に行くだろう」
「普通なんてもの、誰が決めたの? 俺がいらないと言ってるんだからいらない。リック・サヴェージが命じているんだ、言われたとおりにしろ」
「……はぁ。……わかったよ。だが俺がいないからって羽目を外すなよ」
何故それほどついて来なくていいと言うのかリックにはわからなかった。だが普段ヘラヘラとしているリックが珍しく命令までしてくるというのならリックなりの意味があるのだろう。
「わかってるって。かわいい子がいればお前にも紹介してやるから」
「……いらん」
「だよねえ。だってニルスにはすでにすごくかわいい子、ここにいるもんねえ」
ニコニコとリックが自分の心臓辺りを指先で軽くとんとんと叩いている。そのまま指に刺しぬかれてしまえとニルスが睨むも、気にした様子もない。この辺はいつものリックだ。
「言われたとおりついて行かないかわりにちょくちょく連絡だけは寄こすようにしろ」
「ニルスってば俺の保護者?」
「仕えている補佐役だ」
「真面目な返事ありがとう。代わりにエルヴィンについて守ってやってよ」
「わかった」
ニルスが頷くとリックも満足そうに頷いていた。
「ああ、そうそう。このブローチは魔道具なんだ。俺が作った。魔除けでもありお守りでもある」
「……俺にくれるのか?」
「嫌そうな顔で言わないでくれるかな。あと何で俺がニルスに。これはエルヴィンにあげるんだよ」
ニコニコと言われ、ニルスはただ頷いた。
エルヴィンと出会ってから、リックはことあるごとにエルヴィンを気にかけているように思える。もしかしたらそういう意味でエルヴィンを好いているのだろうかと思ったが、もし聞いたとしても「うんうん、大好きだよ。ニルスのことも大好きだしね」などと茶化したような返事しか来ないような気がして黙っている。
「楽しくない反応だなあ。まあいいや。とにかく真心と力を込めた魔道具だからさ、エルヴィンにはつけさせておいてね。さすがにエルヴィンにずっとついてられないでしょ。でもニルスだけでなくそのブローチもエルヴィンを守ってくれるだろうから」
「わかった」
そうしてリックは満足そうに留学先となる風の国、ミレノールへと旅立った。竜馬なら一日と半日くらいで着くだろうが、馬車で向かったので二週間はかかるだろう。
「──守る必要性を見出してるんだ……!」
ニルスが思い返している間にエルヴィンが何かを強く言っていたようだ。申し訳ないことにちゃんと聞いていなかったため、ニルスは首を傾げる。するとため息をつかれた。
駄目だな、ちゃんと話聞かないと。
つい逸れがちになってしまったため、ニルスはじっとエルヴィンを見て返答することにした。あまり見てしまうと逆に集中できなくなりそうだが、エルヴィンの話はちゃんと聞きたい。例えちょくちょく意味がわからなくても。
「守られるのが嫌って言うよりもさ、俺のせいでニルスに負担になって欲しくないんだよ」
先ほどは何やら強い口調だったエルヴィンが譲歩するかのような優しい口調で言ってきた。言っていることも優しい。さすがエルヴィンだと思うしかわいいと思う。考えるまでもなく「負担じゃない」と即答していた。
じっと見すぎたのか、少々気まずそうに「……。お前、他に仕事ないの?」と今度は聞かれた。
頭を抱えだしたエルヴィンに、ニルスはとても心配になる。どうも最近、エルヴィンの様子がおかしい。気のせいかと思うこともあれば、突然何か言いだしたりして明らかにおかしい時もある。
疲れているのだろうか。
……それともやっぱりリックが留学してしまったから……?
そんなことを思っているとエルヴィンがため息をつきながら見上げてくる。心配はさておき、とてもかわいいと思う。
ひたすら思っていると何か言ってきていたようだ。
「──魔物が俺を襲うだろうといったお告げでもあったのか?」
どういう話の流れだと怪訝に思ったが、ブローチの話をしていたことを思い出す。魔除けの守りだからずっとつけさせててと言っていたリックの話だった。ブローチもエルヴィンを守ってくれると告げるとエルヴィンが頭を抱えだした。
リックの気持ちに感動して……にしては変な感動の仕方だな。嬉しくても頭を抱えるものか? とりあえずお告げがあったとは聞いていないな。
「いや」
「ならわかるだろ、ニルス。男であり騎士でもある俺にここまで厳重な守りは必要ないって」
「何があるかわからない」
確かに普通に考えるとエルヴィンをそこまで守る必要性はないだろう。か弱い女、子どもならまだしもエルヴィンは背も高くスラリとしていながらもおそらくつくべき筋肉も綺麗についているであろうとても魅力的な──ではなくてとにかく、男だ。しかも騎士として優秀だとニルスも知っている。
だが何故だろうか。別に知り合ってから今までエルヴィンが誘拐されたとか事件に巻き込まれたとか大きな怪我を負ったとか大病を患ったとか、そういったことは一切なかったというのに、どこか儚げというのだろうか、消えてしまうのではとさえ思ってしまうことがニルスにはあった。
実際は子どもの頃から風邪すら引かない健康優良児だったし、見ての通り魅力て……ではなく細身ながらにしっかりとした体つきだし、剣の腕前も相当なものだ。剣の稽古を一緒にしたことがあるが、まるで親の仇を取るかのようにやたら熱心に取り組んでいたエルヴィンの腕前が上達しないはずなどなかった。
今や成人男性として立派に成長している同じ年の幼馴染を守らなくてはならない必要性も理由もない。
だというのに何故ニルスの中で「消えてしまうのでは」といった微かながらに焦燥感にも似た感覚があるのか自分でもわからない。だがそのせいで、リックに言われた時もまるで当たり前かのように頷いていた。
「俺の留学に付き合わなくていいよニルス」
「だがそれが俺の仕事だ」
「お前の仕事は俺を守るだけじゃなく、俺の命じることを守ることでもあるだろ」
「お前に仕えているんだ、普通に考えて一緒に行くだろう」
「普通なんてもの、誰が決めたの? 俺がいらないと言ってるんだからいらない。リック・サヴェージが命じているんだ、言われたとおりにしろ」
「……はぁ。……わかったよ。だが俺がいないからって羽目を外すなよ」
何故それほどついて来なくていいと言うのかリックにはわからなかった。だが普段ヘラヘラとしているリックが珍しく命令までしてくるというのならリックなりの意味があるのだろう。
「わかってるって。かわいい子がいればお前にも紹介してやるから」
「……いらん」
「だよねえ。だってニルスにはすでにすごくかわいい子、ここにいるもんねえ」
ニコニコとリックが自分の心臓辺りを指先で軽くとんとんと叩いている。そのまま指に刺しぬかれてしまえとニルスが睨むも、気にした様子もない。この辺はいつものリックだ。
「言われたとおりついて行かないかわりにちょくちょく連絡だけは寄こすようにしろ」
「ニルスってば俺の保護者?」
「仕えている補佐役だ」
「真面目な返事ありがとう。代わりにエルヴィンについて守ってやってよ」
「わかった」
ニルスが頷くとリックも満足そうに頷いていた。
「ああ、そうそう。このブローチは魔道具なんだ。俺が作った。魔除けでもありお守りでもある」
「……俺にくれるのか?」
「嫌そうな顔で言わないでくれるかな。あと何で俺がニルスに。これはエルヴィンにあげるんだよ」
ニコニコと言われ、ニルスはただ頷いた。
エルヴィンと出会ってから、リックはことあるごとにエルヴィンを気にかけているように思える。もしかしたらそういう意味でエルヴィンを好いているのだろうかと思ったが、もし聞いたとしても「うんうん、大好きだよ。ニルスのことも大好きだしね」などと茶化したような返事しか来ないような気がして黙っている。
「楽しくない反応だなあ。まあいいや。とにかく真心と力を込めた魔道具だからさ、エルヴィンにはつけさせておいてね。さすがにエルヴィンにずっとついてられないでしょ。でもニルスだけでなくそのブローチもエルヴィンを守ってくれるだろうから」
「わかった」
そうしてリックは満足そうに留学先となる風の国、ミレノールへと旅立った。竜馬なら一日と半日くらいで着くだろうが、馬車で向かったので二週間はかかるだろう。
「──守る必要性を見出してるんだ……!」
ニルスが思い返している間にエルヴィンが何かを強く言っていたようだ。申し訳ないことにちゃんと聞いていなかったため、ニルスは首を傾げる。するとため息をつかれた。
駄目だな、ちゃんと話聞かないと。
つい逸れがちになってしまったため、ニルスはじっとエルヴィンを見て返答することにした。あまり見てしまうと逆に集中できなくなりそうだが、エルヴィンの話はちゃんと聞きたい。例えちょくちょく意味がわからなくても。
「守られるのが嫌って言うよりもさ、俺のせいでニルスに負担になって欲しくないんだよ」
先ほどは何やら強い口調だったエルヴィンが譲歩するかのような優しい口調で言ってきた。言っていることも優しい。さすがエルヴィンだと思うしかわいいと思う。考えるまでもなく「負担じゃない」と即答していた。
じっと見すぎたのか、少々気まずそうに「……。お前、他に仕事ないの?」と今度は聞かれた。
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