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21話
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頭を抱えたからか、ニルスが心配そうな様子で名前を呼んできた。エルヴィンはさらにもう一度ため息をついてからニルスを見上げる。
「……何なの。世にも恐ろしい強烈な魔物が俺を襲うだろうとかいったお告げでもあったのか?」
「? いや」
何やらポカンとしていたニルスが首を振る。
「ならわかるだろ、ニルス。男であり騎士でもある俺にここまで厳重な守りは必要ないって」
「何があるかわからない」
そこは即答なの?
いくらリックに言われたからとはいえ、何故ニルスはエルヴィンを守れというリックに対して疑問すら生じないのだろうか。もしくは疑問に思いすでに色々議論の上での結果なのだろうか。だがそれにしてはあまりに当たり前のように守ろうとしているニルスしか見えない。
「普段は素っ気ないほど淡々としてるお前に何があって、そこまで俺に対して頑なにリックの言われるがまま守る必要性を見出してるんだ……!」
ニルスの心の声ほどではないにしてもほぼノンブレスで言い放つ。だがニルスにはそっと首を傾げられただけだった。エルヴィンはため息をもう一度つく。ニルスに理由を説明させようとしていること自体間違っているのだろう。例え明確な理由があったとしても明確に説明する男ではない。
かといって心の中を覗いてやろうとまでは思わない。あれは便利だし何度も確認のためにわざと覗いたりしたとはいえ、自分が知りたいがために勝手に覗くことには抵抗がある。
兄属性としてはついこういう場合譲歩しがちだ。仕方ないなどと思ってしまう。いっそ弟属性だったならばよかった。ならもっとわがままになれたかもしれないし、ニルスにも駄々をこねるかのごとく「理由を言わなきゃ許さない」くらいは言えたかもしれない。
……いや、別にヴィリーはそこまで言わなさそうだな。理不尽なほどニルスのことで「二人きりになるな」「気をつけろ」などと言ってはくるけども。
ここはもう、リックやニルスに何らかの理由があるなり思いがあると仮定して、納得するしないに関わらず一旦受け入れるしかない。
ただ、そうした上でも嫌なことがある。
「守られるのが嫌って言うよりもさ、俺のせいでニルスに負担になって欲しくないんだよ」
わかるだろ? といった風に言えば頷いてくれそうな気がした。
気のせいでしかなかったが。
「負担じゃない」
即答な上に今度はじっと目を見ながら言われた。鋭いながらにあまりに美しい宝石のようなニルスの瞳に、エルヴィンでさえもつい吸い込まれそうになる。
そのイケメンな態度、無駄遣いするなよニルス……女の子に使ってやれよ……。
「……。お前、他に仕事ないの?」
「ある。だからエルヴィンにつきっきりではない。他の仕事もしている」
確かにちょくちょくエルヴィンの元へやっては来るが、二十四時間監視体制というわけではない。
ないけどさ。
「……だいたいリックに言われたからって、お前もおかしいとは思わないのか?」
何が、といった風に首を傾げられた。首を傾げ倒したいのはこちらだとエルヴィンは思う。だがここでまた追求しても堂々巡りなのだろう。
「もういいよ。わかった。じゃあニルスの負担にならない程度に俺を守って?」
そう言うしかない。諦めた。あとブローチもこれほど能力の高いオマケがついているということは多分魔除けとして性能の高いお守りであることは間違いないだろう。ありがたく享受させてもらう。
「ああ、守る」
庇護欲でも湧いたのか、ニルスが少々目を輝かせながらエルヴィンの手を取ってきた。さりげなく避けるには咄嗟すぎた。おかげでかえってむしろ、自分から触れるようにニルスの手に当たった。
一気にニルスの言葉が流れ込んでくる。だが何故か全く言語化されていないため、異国の不思議でいて怪しげな音楽のようだ。正直怖い。
結局さりげなさを装うことすらできずにニルスの手を振りほどいてしまったが、仕方がないだろうとエルヴィンは自分に言い聞かせる。だって言語化されていない言語で満たされるのは中々に怖かった。
だが男同士とはいえ親友から手を振りほどかれたのがショックだったのだろうか。ニルスがほんのり悲しそうな顔になる。基本表情が読みにくい男なので、ほんのりだろうが珍しいかもしれない。
「あ、その、悪かった。今のはあれだ、振りほどいたんじゃなくて」
振りほどいたんだけど。
「その、トイレ」
「は?」
「寒かっただろ、さっき。だから急にもよおしてきてさ。で、慌てて振りほどいたみたいになったんだ。悪い。ということでトイレ行ってくる」
「あ、ああ……」
もよおしてないけどね……!
何をやっているのだ俺はと、エルヴィンは微妙な気持ちになりながらとりあえずトイレを目指した。ニルスは戸惑った様子ではあったが、少なくとも悲しそうには見えなかった。それでよしとするしかない。
トイレへ向かうと、もよおしてなかったにも関わらず結局用を足した。
トイレ入ると出したくなってくるよな。
なんとなくホッとして洗った手をハンカチで拭きながら部屋へ戻ろうとするとヴィリーが向こうから真剣な顔で走ってくるのがわかった。
「兄様……! 今ニルスが来てるって……」
俺の弟かわいい、けど、ほんと何でそんなに?
難ではちっともないのだけれども、一難去ってまた一難という言葉がエルヴィンの頭によぎった。
「……何なの。世にも恐ろしい強烈な魔物が俺を襲うだろうとかいったお告げでもあったのか?」
「? いや」
何やらポカンとしていたニルスが首を振る。
「ならわかるだろ、ニルス。男であり騎士でもある俺にここまで厳重な守りは必要ないって」
「何があるかわからない」
そこは即答なの?
いくらリックに言われたからとはいえ、何故ニルスはエルヴィンを守れというリックに対して疑問すら生じないのだろうか。もしくは疑問に思いすでに色々議論の上での結果なのだろうか。だがそれにしてはあまりに当たり前のように守ろうとしているニルスしか見えない。
「普段は素っ気ないほど淡々としてるお前に何があって、そこまで俺に対して頑なにリックの言われるがまま守る必要性を見出してるんだ……!」
ニルスの心の声ほどではないにしてもほぼノンブレスで言い放つ。だがニルスにはそっと首を傾げられただけだった。エルヴィンはため息をもう一度つく。ニルスに理由を説明させようとしていること自体間違っているのだろう。例え明確な理由があったとしても明確に説明する男ではない。
かといって心の中を覗いてやろうとまでは思わない。あれは便利だし何度も確認のためにわざと覗いたりしたとはいえ、自分が知りたいがために勝手に覗くことには抵抗がある。
兄属性としてはついこういう場合譲歩しがちだ。仕方ないなどと思ってしまう。いっそ弟属性だったならばよかった。ならもっとわがままになれたかもしれないし、ニルスにも駄々をこねるかのごとく「理由を言わなきゃ許さない」くらいは言えたかもしれない。
……いや、別にヴィリーはそこまで言わなさそうだな。理不尽なほどニルスのことで「二人きりになるな」「気をつけろ」などと言ってはくるけども。
ここはもう、リックやニルスに何らかの理由があるなり思いがあると仮定して、納得するしないに関わらず一旦受け入れるしかない。
ただ、そうした上でも嫌なことがある。
「守られるのが嫌って言うよりもさ、俺のせいでニルスに負担になって欲しくないんだよ」
わかるだろ? といった風に言えば頷いてくれそうな気がした。
気のせいでしかなかったが。
「負担じゃない」
即答な上に今度はじっと目を見ながら言われた。鋭いながらにあまりに美しい宝石のようなニルスの瞳に、エルヴィンでさえもつい吸い込まれそうになる。
そのイケメンな態度、無駄遣いするなよニルス……女の子に使ってやれよ……。
「……。お前、他に仕事ないの?」
「ある。だからエルヴィンにつきっきりではない。他の仕事もしている」
確かにちょくちょくエルヴィンの元へやっては来るが、二十四時間監視体制というわけではない。
ないけどさ。
「……だいたいリックに言われたからって、お前もおかしいとは思わないのか?」
何が、といった風に首を傾げられた。首を傾げ倒したいのはこちらだとエルヴィンは思う。だがここでまた追求しても堂々巡りなのだろう。
「もういいよ。わかった。じゃあニルスの負担にならない程度に俺を守って?」
そう言うしかない。諦めた。あとブローチもこれほど能力の高いオマケがついているということは多分魔除けとして性能の高いお守りであることは間違いないだろう。ありがたく享受させてもらう。
「ああ、守る」
庇護欲でも湧いたのか、ニルスが少々目を輝かせながらエルヴィンの手を取ってきた。さりげなく避けるには咄嗟すぎた。おかげでかえってむしろ、自分から触れるようにニルスの手に当たった。
一気にニルスの言葉が流れ込んでくる。だが何故か全く言語化されていないため、異国の不思議でいて怪しげな音楽のようだ。正直怖い。
結局さりげなさを装うことすらできずにニルスの手を振りほどいてしまったが、仕方がないだろうとエルヴィンは自分に言い聞かせる。だって言語化されていない言語で満たされるのは中々に怖かった。
だが男同士とはいえ親友から手を振りほどかれたのがショックだったのだろうか。ニルスがほんのり悲しそうな顔になる。基本表情が読みにくい男なので、ほんのりだろうが珍しいかもしれない。
「あ、その、悪かった。今のはあれだ、振りほどいたんじゃなくて」
振りほどいたんだけど。
「その、トイレ」
「は?」
「寒かっただろ、さっき。だから急にもよおしてきてさ。で、慌てて振りほどいたみたいになったんだ。悪い。ということでトイレ行ってくる」
「あ、ああ……」
もよおしてないけどね……!
何をやっているのだ俺はと、エルヴィンは微妙な気持ちになりながらとりあえずトイレを目指した。ニルスは戸惑った様子ではあったが、少なくとも悲しそうには見えなかった。それでよしとするしかない。
トイレへ向かうと、もよおしてなかったにも関わらず結局用を足した。
トイレ入ると出したくなってくるよな。
なんとなくホッとして洗った手をハンカチで拭きながら部屋へ戻ろうとするとヴィリーが向こうから真剣な顔で走ってくるのがわかった。
「兄様……! 今ニルスが来てるって……」
俺の弟かわいい、けど、ほんと何でそんなに?
難ではちっともないのだけれども、一難去ってまた一難という言葉がエルヴィンの頭によぎった。
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