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17話
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間違いなくニルスはエルヴィンにドン引きしているのだろう。とてもわかる。エルヴィンとていくら友だちだとしてもわけのわからないことばかり言ってきたら戸惑うし、触れてくれとしつこければ何事かと引きもするだろう。
だがニルスは何も言わずエルヴィンの手の甲にそっと触れてきた。
優しい。
そう思いながらも集中してみる。何に集中すればいいのかもわからないが、とにかく集中してみる。
……何も聞こえてこないな?
やはり心の声が聞こえるなどと、勘違いも甚だしいのだろう。エルヴィンは自分がとても痛い人間のようにしか思えなかった。
「悪かった。ありがとうな、ニルス」
「いや……。これで何かわかるのか?」
「うーん、わかるというかわからなかったというか」
煮え切らないエルヴィンに、ニルスは首を傾げている。
「いや、ほんとうん、ありがとう」
ははは、と力なく笑いながらエルヴィンは手を離してきたニルスの同じく手の甲に軽く触れた。別に意味はなく、軽いジェスチャーのようなつもりだった。
『──けどでもそんなの別に気にならないしいっそもうひたすらずっと──』
「っ声ェェェ!」
「っえ?」
ニルスからすれば突然意味のわからない奇声を発したとしか思えないだろう。現にとても驚いたような顔をエルヴィンに向けてきた。
だがエルヴィンはそれどころではない。
今、間違いなく聞こえてきたよな?
何で?
俺、何した?
何したら聞こえてきた?
何とも言えない顔でニルスに見られているのは承知しているが、エルヴィンはひたすら先ほどの流れを思い返していた。
悪い、ありがとうって言って……そんで?
いやそれだけだろ?
え?
んぁ、違う。えっと確か……そうだ、ぽんぽんって感じで俺、ニルスの手に触れた……!
しかし先ほどはニルスに触れてもらったものの何も聞こえてこなかったはずだ。
いや、待てよ……? あ、ひょっとして?
エルヴィンはそっと手でニルスの手の甲に触れた。
『──とうに大丈夫なんだろうか。何か悩みでもあるとか……だったら打ち明けて欲しいけどでも俺が──』
「ああ……!」
ニルスが今度はびくりとしてくる。いい加減そろそろ「医者に診てもらえ」と言われかねない。
だがやはりエルヴィンはそれどころではなかった。正直少々興奮している。
俺に突然湧いた能力?
え、何、すごくないか?
時間遡るだけでなく心が読めるの?
っていうかこれ、俺の能力なのか?
時間遡ったのだって俺の力とは思えないしな。多分神様だろ?
じゃあこれも神様?
……いや、ほんとに?
とにかく、俺が触れたら聞こえてくるんだ、これ多分。
あ、待てよ? 俺が触れたらってのはわかったけど、どこに触れたらって限定あるのかな。
ハッとなり、エルヴィンはニルスの今度は手のひらを握ってみた。
『本当に一体どうしたんだ、嬉しいを通り越して心配……』
聞こえる。
あとかなり心配させてしまっている。
ごめんな、ニルス。でもあともう少しだけ調べさせて。
手だけなのか、それとも別のところに触れても聞こえるのか確認してみたかった。
エルヴィンはニルスの腕や肩、首筋、頬と触れていく。その度にニルスのおそらく心の声が聞こえてきたが、その声がどんどん不明瞭というか何を言っているのかわからなくなってきた。手から遠くなったからだろうかと思ったが、しかし聞こえにくいというよりは、ニルスそのものが心の中で言語化できていないといったほうが合っている気がする。
言語化できないくらい動揺してるのかな……そろそろ俺がやばいやつだって思ってる、とか?
本当にすまないという気持ちとともに「これは新しい発見か」とわくわくする気持ちもある。ニルスは、というか人は、だろうか。人は動揺が過ぎると心の中でも言語化できず何かを思っている。
まあ、俺も絶えず言語化してるわけでもないもんな。
そして言語化できていない思考は読み取れないということだ。
というか、ニルス限定なのかな。それともやっぱり他の人の心も読めるのかな。
色々試してみたいが、いくら読めるからといって断りもなく他人の心の中を覗く行為には抵抗もある。
……後で一人だけ試してみよう。そうだ、知人じゃないほうがいいかもしれないな。ニルスだけなのか、知人だけなのか、誰でもなのかわかりやすい。
うんうんと頷いているとニルスがますます心配そうな顔で見てくる。
「あの、えっと、俺、大丈夫なんで」
今までの流れを思い返してみるが、たくさん会話したような気になっているもののエルヴィンが手でニルスに触れてからニルスが実際発した声は「っえ?」だけのような気がする。心配そうな顔をしているが実際に「心配だ」とも「大丈夫か」とも言われていない。心の中では溢れんばかりの勢いで心配してくれていたが、言葉として発していない。
これじゃあ俺が一人で奇声発した後勝手に「大丈夫なんで」と言い出してきた本当に総合失調みたいな怪しい男でしかない気がする……!
また思わず「あああ」とでも発しそうになったが、その前にニルスが「そうか」とだけ返してきた。その顔を見るとわかりにくいが多分ホッとしたような表情をしているように見えた。
優しい……!
エルヴィンは心底思った。
だがニルスは何も言わずエルヴィンの手の甲にそっと触れてきた。
優しい。
そう思いながらも集中してみる。何に集中すればいいのかもわからないが、とにかく集中してみる。
……何も聞こえてこないな?
やはり心の声が聞こえるなどと、勘違いも甚だしいのだろう。エルヴィンは自分がとても痛い人間のようにしか思えなかった。
「悪かった。ありがとうな、ニルス」
「いや……。これで何かわかるのか?」
「うーん、わかるというかわからなかったというか」
煮え切らないエルヴィンに、ニルスは首を傾げている。
「いや、ほんとうん、ありがとう」
ははは、と力なく笑いながらエルヴィンは手を離してきたニルスの同じく手の甲に軽く触れた。別に意味はなく、軽いジェスチャーのようなつもりだった。
『──けどでもそんなの別に気にならないしいっそもうひたすらずっと──』
「っ声ェェェ!」
「っえ?」
ニルスからすれば突然意味のわからない奇声を発したとしか思えないだろう。現にとても驚いたような顔をエルヴィンに向けてきた。
だがエルヴィンはそれどころではない。
今、間違いなく聞こえてきたよな?
何で?
俺、何した?
何したら聞こえてきた?
何とも言えない顔でニルスに見られているのは承知しているが、エルヴィンはひたすら先ほどの流れを思い返していた。
悪い、ありがとうって言って……そんで?
いやそれだけだろ?
え?
んぁ、違う。えっと確か……そうだ、ぽんぽんって感じで俺、ニルスの手に触れた……!
しかし先ほどはニルスに触れてもらったものの何も聞こえてこなかったはずだ。
いや、待てよ……? あ、ひょっとして?
エルヴィンはそっと手でニルスの手の甲に触れた。
『──とうに大丈夫なんだろうか。何か悩みでもあるとか……だったら打ち明けて欲しいけどでも俺が──』
「ああ……!」
ニルスが今度はびくりとしてくる。いい加減そろそろ「医者に診てもらえ」と言われかねない。
だがやはりエルヴィンはそれどころではなかった。正直少々興奮している。
俺に突然湧いた能力?
え、何、すごくないか?
時間遡るだけでなく心が読めるの?
っていうかこれ、俺の能力なのか?
時間遡ったのだって俺の力とは思えないしな。多分神様だろ?
じゃあこれも神様?
……いや、ほんとに?
とにかく、俺が触れたら聞こえてくるんだ、これ多分。
あ、待てよ? 俺が触れたらってのはわかったけど、どこに触れたらって限定あるのかな。
ハッとなり、エルヴィンはニルスの今度は手のひらを握ってみた。
『本当に一体どうしたんだ、嬉しいを通り越して心配……』
聞こえる。
あとかなり心配させてしまっている。
ごめんな、ニルス。でもあともう少しだけ調べさせて。
手だけなのか、それとも別のところに触れても聞こえるのか確認してみたかった。
エルヴィンはニルスの腕や肩、首筋、頬と触れていく。その度にニルスのおそらく心の声が聞こえてきたが、その声がどんどん不明瞭というか何を言っているのかわからなくなってきた。手から遠くなったからだろうかと思ったが、しかし聞こえにくいというよりは、ニルスそのものが心の中で言語化できていないといったほうが合っている気がする。
言語化できないくらい動揺してるのかな……そろそろ俺がやばいやつだって思ってる、とか?
本当にすまないという気持ちとともに「これは新しい発見か」とわくわくする気持ちもある。ニルスは、というか人は、だろうか。人は動揺が過ぎると心の中でも言語化できず何かを思っている。
まあ、俺も絶えず言語化してるわけでもないもんな。
そして言語化できていない思考は読み取れないということだ。
というか、ニルス限定なのかな。それともやっぱり他の人の心も読めるのかな。
色々試してみたいが、いくら読めるからといって断りもなく他人の心の中を覗く行為には抵抗もある。
……後で一人だけ試してみよう。そうだ、知人じゃないほうがいいかもしれないな。ニルスだけなのか、知人だけなのか、誰でもなのかわかりやすい。
うんうんと頷いているとニルスがますます心配そうな顔で見てくる。
「あの、えっと、俺、大丈夫なんで」
今までの流れを思い返してみるが、たくさん会話したような気になっているもののエルヴィンが手でニルスに触れてからニルスが実際発した声は「っえ?」だけのような気がする。心配そうな顔をしているが実際に「心配だ」とも「大丈夫か」とも言われていない。心の中では溢れんばかりの勢いで心配してくれていたが、言葉として発していない。
これじゃあ俺が一人で奇声発した後勝手に「大丈夫なんで」と言い出してきた本当に総合失調みたいな怪しい男でしかない気がする……!
また思わず「あああ」とでも発しそうになったが、その前にニルスが「そうか」とだけ返してきた。その顔を見るとわかりにくいが多分ホッとしたような表情をしているように見えた。
優しい……!
エルヴィンは心底思った。
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