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14話
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「エルヴィン」
「うん、俺、ついてるし」
「何が?」
「何って、ち……、……いや、何でもない。何でもないんだ。あー、えっと、そう。とにかく楽しもうニルス。おいしいあてもある。これなんかほら、この酒にとても合うんだぞ?」
思わず下品なことを口にしそうになり、もしかしたらやはり自分は少々酔っているのかもしれないと少し思った。例の変な声が聞こえてきたのも、もしかしたら酔っているからかもしれない。エルヴィンは気を取り直すようにグラスを掲げた。
「ほら、乾杯」
ニルスも渋々といった様子でグラスを掲げたが、見ていると一口しか飲んでいない。
「なあ、うまいだろ? この肉の燻製がまたすごく合うんだよ」
だからこれ食べて酒を飲んでと、エルヴィンはフォークで肉の燻製をさすとニルスの口元まで持って行った。だがニルスがとても困った顔をしてきたのでハッとなり、そのフォークをおろした。確かに困るだろう。エルヴィンだっていくら幼馴染とはいえ、男に「アーン」なんて感じで食べ物を差し出されたら多分困惑する。いや、エルヴィンはそんな感じで差し出してはいないけれども。
だいたい最近は同性同士の恋愛もあるみたいだが、少なくともエルヴィンは女性が対象だしニルスもそうだろう。
「悪い。確かに男からアーンなんてされて嬉しいわけないわな。でもほんと合うから食べてみて。そんでまた酒飲んでみて」
「……っい、いや。別に俺は……、……あ、ああ。食べてみよう」
ニルスは慌てて何か言いかけたものの、一旦口を閉じてから素直に肉を口にした。そして酒を飲む。
「……ああ。確かに合うな」
「っだろ!」
何となくニルスに認めてもらうと嬉しい。
「でも本当に何の祝いなんだ?」
「あー……そうだな……。ああそうそう。第一王子殿下の婚約が決まったそうじゃないか。それだよ。それ」
間違ってはいない。一応。
「ああ、そうだったな。……でもお前が個別で祝うほど嬉しいものか?」
「もちろん。我がラウ……ごほん。我がマヴァリージ王国の未来が輝かしいものになるかもしれないんだぞ? 嬉しいに決まってる。それはそうと婚約者殿ってどんな感じの女性なの?」
「……綺麗な方?」
「何で疑問形? あともうちょっとこう、何かないの」
「? 何か、とは?」
「いや……、うん、ニルスだしな。無茶ぶりか」
「どういう意味だ」
「おっぱいは大きい?」
「……そこは重要なのか?」
重要というか、ラヴィニアの胸がわりと大きかったので気になるというか。
「重要だよ」
「……どうだろうな。ちゃんと見てないからわからない」
「ニルスは胸の大きな子はタイプじゃないの?」
「別にそこでタイプを決めていない」
さすが男らしいな。
「じゃあ顔は? 派手な顔とかじゃない?」
少なくともラヴィニアはゴージャスな顔をしていた。
「お前は胸の大きな派手な顔の女性が好みなのか?」
「とんでもない。正反対だよ!」
「そうか」
「で? その令嬢はどうなの?」
「……。……どうだろうな、正直覚えてない」
「何だよー。まあ、少なくともニルスのタイプじゃなかったんだろうな」
「そうだな」
そこは即答なのか。
エルヴィンは苦笑した。
「まあ、いいや。とにかくおめでたいことだろう? 是非その令嬢と結婚までこぎつけていただきたいな」
「ああ、そうだな」
そうだなと言いつつ、ニルスはどうでもよさそうだ。リックに仕えているとはいえ、一応王族サヴェージ家に仕えているようなものでもあるというのにデニスに対してどうでもよさそうなニルスにエルヴィンは笑った。
「何故笑う? 酔ってるからか?」
「はは。もうそれでいいや。酔ってないけど酔ってるってことで。リックは?」
「は?」
「リックに婚約者ができたらニルスはもっと喜んだり祝ったりするんじゃないの?」
「……まあ、そう、だな」
「何だよ、歯切れ悪いな」
「……お前は?」
「え?」
「お前は……リックに誰か別の婚約者ができたら……」
リックはエルヴィンたちより二つ下だ。王子だから婚約者が早くできることも普通にあるだろうとはいえ、年下の幼馴染に先を越されるのは少々寂しいかもしれない。
「そうだな、ちょっと寂しいけど……」
でも嬉しいよと答える前に「そうか……」とニルスに頷かれてしまった。その後でニルスは一気に酒を飲み干した。
「わ、いい飲みっぷり。ニルスこそ酔ったりしないの?」
「俺は酔わない」
「ほんとかな。じゃあ飲み比べしてみる?」
「比べる前に、すでにお前はもう酔っている。やめておけ」
「大丈夫だよ」
「駄目だ。後できつくなる」
「でも」
「でもじゃない。やめないと……襲うぞ」
襲う? とは?
ああ、襲撃とかの襲う、か。
殴りかかられるくらい、やめさせたいと思われているのかとエルヴィンは苦笑した。
「わかった、わかった。でもほんと、今日はいい日だよ」
グラスを置き、エルヴィンは微笑んだ。できれば四年後もこうして微笑んでいられたらと願う。
まだ決定的ではない。婚約は百パーセント絶対ではない。万が一解消され、ラウラが結婚相手にならないとも限らない。もちろん現状では可能性はとても低いが、それこそこれもゼロではない。油断大敵だ。
でも、今日くらいはな。
エルヴィンはまた微笑み、事情はわからないまま付き合ってくれているニルスにも笑いかけた。
「うん、俺、ついてるし」
「何が?」
「何って、ち……、……いや、何でもない。何でもないんだ。あー、えっと、そう。とにかく楽しもうニルス。おいしいあてもある。これなんかほら、この酒にとても合うんだぞ?」
思わず下品なことを口にしそうになり、もしかしたらやはり自分は少々酔っているのかもしれないと少し思った。例の変な声が聞こえてきたのも、もしかしたら酔っているからかもしれない。エルヴィンは気を取り直すようにグラスを掲げた。
「ほら、乾杯」
ニルスも渋々といった様子でグラスを掲げたが、見ていると一口しか飲んでいない。
「なあ、うまいだろ? この肉の燻製がまたすごく合うんだよ」
だからこれ食べて酒を飲んでと、エルヴィンはフォークで肉の燻製をさすとニルスの口元まで持って行った。だがニルスがとても困った顔をしてきたのでハッとなり、そのフォークをおろした。確かに困るだろう。エルヴィンだっていくら幼馴染とはいえ、男に「アーン」なんて感じで食べ物を差し出されたら多分困惑する。いや、エルヴィンはそんな感じで差し出してはいないけれども。
だいたい最近は同性同士の恋愛もあるみたいだが、少なくともエルヴィンは女性が対象だしニルスもそうだろう。
「悪い。確かに男からアーンなんてされて嬉しいわけないわな。でもほんと合うから食べてみて。そんでまた酒飲んでみて」
「……っい、いや。別に俺は……、……あ、ああ。食べてみよう」
ニルスは慌てて何か言いかけたものの、一旦口を閉じてから素直に肉を口にした。そして酒を飲む。
「……ああ。確かに合うな」
「っだろ!」
何となくニルスに認めてもらうと嬉しい。
「でも本当に何の祝いなんだ?」
「あー……そうだな……。ああそうそう。第一王子殿下の婚約が決まったそうじゃないか。それだよ。それ」
間違ってはいない。一応。
「ああ、そうだったな。……でもお前が個別で祝うほど嬉しいものか?」
「もちろん。我がラウ……ごほん。我がマヴァリージ王国の未来が輝かしいものになるかもしれないんだぞ? 嬉しいに決まってる。それはそうと婚約者殿ってどんな感じの女性なの?」
「……綺麗な方?」
「何で疑問形? あともうちょっとこう、何かないの」
「? 何か、とは?」
「いや……、うん、ニルスだしな。無茶ぶりか」
「どういう意味だ」
「おっぱいは大きい?」
「……そこは重要なのか?」
重要というか、ラヴィニアの胸がわりと大きかったので気になるというか。
「重要だよ」
「……どうだろうな。ちゃんと見てないからわからない」
「ニルスは胸の大きな子はタイプじゃないの?」
「別にそこでタイプを決めていない」
さすが男らしいな。
「じゃあ顔は? 派手な顔とかじゃない?」
少なくともラヴィニアはゴージャスな顔をしていた。
「お前は胸の大きな派手な顔の女性が好みなのか?」
「とんでもない。正反対だよ!」
「そうか」
「で? その令嬢はどうなの?」
「……。……どうだろうな、正直覚えてない」
「何だよー。まあ、少なくともニルスのタイプじゃなかったんだろうな」
「そうだな」
そこは即答なのか。
エルヴィンは苦笑した。
「まあ、いいや。とにかくおめでたいことだろう? 是非その令嬢と結婚までこぎつけていただきたいな」
「ああ、そうだな」
そうだなと言いつつ、ニルスはどうでもよさそうだ。リックに仕えているとはいえ、一応王族サヴェージ家に仕えているようなものでもあるというのにデニスに対してどうでもよさそうなニルスにエルヴィンは笑った。
「何故笑う? 酔ってるからか?」
「はは。もうそれでいいや。酔ってないけど酔ってるってことで。リックは?」
「は?」
「リックに婚約者ができたらニルスはもっと喜んだり祝ったりするんじゃないの?」
「……まあ、そう、だな」
「何だよ、歯切れ悪いな」
「……お前は?」
「え?」
「お前は……リックに誰か別の婚約者ができたら……」
リックはエルヴィンたちより二つ下だ。王子だから婚約者が早くできることも普通にあるだろうとはいえ、年下の幼馴染に先を越されるのは少々寂しいかもしれない。
「そうだな、ちょっと寂しいけど……」
でも嬉しいよと答える前に「そうか……」とニルスに頷かれてしまった。その後でニルスは一気に酒を飲み干した。
「わ、いい飲みっぷり。ニルスこそ酔ったりしないの?」
「俺は酔わない」
「ほんとかな。じゃあ飲み比べしてみる?」
「比べる前に、すでにお前はもう酔っている。やめておけ」
「大丈夫だよ」
「駄目だ。後できつくなる」
「でも」
「でもじゃない。やめないと……襲うぞ」
襲う? とは?
ああ、襲撃とかの襲う、か。
殴りかかられるくらい、やめさせたいと思われているのかとエルヴィンは苦笑した。
「わかった、わかった。でもほんと、今日はいい日だよ」
グラスを置き、エルヴィンは微笑んだ。できれば四年後もこうして微笑んでいられたらと願う。
まだ決定的ではない。婚約は百パーセント絶対ではない。万が一解消され、ラウラが結婚相手にならないとも限らない。もちろん現状では可能性はとても低いが、それこそこれもゼロではない。油断大敵だ。
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