彼は最後に微笑んだ

Guidepost

文字の大きさ
上 下
7 / 193

7話

しおりを挟む
 エルヴィンはリックの招待を受け、来てくれた。その際に別の見知らぬ少年を伴ってきて、ニルスとしてはそれが誰でどういった関係か少々気になった。

「普通に友だちでしょ。他にどういう関係があるというの」
「……リック。お前は魔力が高すぎてまさか人の考えが読める能力を身につけたんじゃないだろうな……」

 考えていたことをそのまま言われたようなものだ。ドン引きしたようにニルスはリックを見た。

「まさか。たかだが八歳のいたいけな少年がそんなことできると思う? にしても考えが読める……か。面白いね」

 白々しいもの言いにニルスは無言のまま微妙な顔をリックへ向けた。リックはにこにこと見返してくる。

「多分あれはバウム家のご長男だよ」

 性格はアレでも、腐っても第二王子だ。少なくともニルスよりは知っている貴族も多いのかもしれない。それにバウム家なら名前は知っている。納得し、ニルスは頷いた。
 ちなみにニルスも王族ではある。父親デトレフ・ウィスラーが王の補佐をしているだけでなく、ラフェド王の腹違いの弟でもあるからだ。家柄は大公爵の家ではあるが、ニルスの上にユルゲン・ウィスラーという五歳上の兄がいるため、跡継ぎではない。それもあり、今のところ気楽にリックのおつきとして仕えている。
 実際エルヴィンからも「ニアキス・バウム。私の友人です」と紹介された。本人の口から淡々とした様子で聞くとさらに納得できた。ニアキスは少し気の強そうなところはありそうだが、明るくはきはきとした様子でおそらく人からの好感度も高いだろう。
 だがそれでも何となくニルスとしてはすっきりしないようなもやもやとするようなよくわからない気分にさせられたので少々逆恨みしそうだ。なので無難にも少し離れておいた。
 しばらくの間エルヴィンはニアキスと一緒に軽食をとっていたが、改めてリックが話に行こうとした時は一人で何やら考えているようだった。

「もしかして具合でも悪いのかな? だとしたらそんな日に誘ってしまって申し訳ないんだけど」

 ニルスも無言のままリックのそばについていたが、具合が悪いのだろうかと内心心配になっていた。だがハッとした様子のエルヴィンは笑顔を見せてくる。

「殿下、とんでもない。誘ってもらって嬉しいですし、具合も悪くありません。多分少々緊張してしまったんだと思います」
「緊張はいらないよ。公的な場ではないからね。どうか気楽にして俺とも接して欲しいな」
「しかし……」

 でた。リックの無茶ぶりだ。こいつ絶対自分の立場わかってていつも無茶ぶりしてくるとしか思えないんだが。
 微妙な気持ちになりながらも会話に口を挟むことなくニルスは黙っていた。だがひたすら積極的に無茶ぶりしているリックと、実際困ってそうなエルヴィンを見ているとそれ以上は黙っていられなくなった。

「リック……いい加減にしろ」

 ため息をつきながら言えば、リックは不満そうに見返してきた。反面、エルヴィンは明らかにホッとした様子で見てくる。その視線が妙に落ち着かなくてニルスは顔をそらした。するとどこか楽しげにリックが余計なことを言ってくる。

「いい加減にするのはニルスでしょ。そんな顔と態度ではエルヴィンに誤解されちゃうよ? エルヴィン、安心して。ニルスはこんなだけど君のことは本当に感謝していた上にかなり好意的なんだから」
「リック……!」

 なんてことを言うんだとニルスが慌ててリックの口を塞いでやろうと考えているとエルヴィンが「え? そ、そうなんですか?」とニルスを見てくる。きっと好意的などと言われて戸惑っているのだろう。少なくとも引いたように見てこられなくてよかったと内心ホッとしてため息がまた出た。

「悪い。俺は無口だし顔にもあまり出ないらしい。だが確かに感謝している」

 なるべく不審がられないよう心を配りながら口にし、ニルスは手を差し出した。するとエルヴィンがまた笑顔で「感謝なんて」と言いながらその手を握り返してきた。
 その後はニアキスも加わり、四人で茶を楽しみながら会話した。と言ってもニルスはほぼ無言だったが。
 ただ、エルヴィンの瞳から目が離せなくて困った。自分でもよくわからない。だがずっと見ていたい気にさせられた。
 リックがそんなニルスを見てきて微笑んでくる。その笑みは度々見せられる何か裏がありそうな笑みとかではなく、純粋に微笑んだといった感じの笑みで、ニルスとしては二重に意味がわからない。とはいえエルヴィンとニアキスがいる中で「何だよ」とリックに詰め寄るわけにもいかない。ついでにエルヴィンに「何故か君から目が離せないんだ」とも言えない。ニルスはひたすらこっそり首を傾げるに留めていた。
 とりあえずその茶会以降、エルヴィンとついでにニアキスとはリックともども親しく付き合うようになった。元々年の近い子ども同士だ。気づけば親友と呼んでも差し支えないような関係になったのではとニルスは思う。
 ただ、王宮などは落ち着かないというエルヴィンとついでにニアキスに、四人は集まる場合エルヴィンかニアキスの屋敷で集まることが増えた。エルヴィンもニアキスも騎士の家系でもあるため、集まって会話を楽しむだけでなく、剣を交えることもよくあった。エルヴィンの屋敷で集まる時はたまにそこにエルヴィンの弟であるヴィリーが加わることもあった。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...