銀色の魔物

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120話

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 子どもは腰丈の、フードがついた茶色いマントを着ていた。フードを被っているのではっきりとは見えないが、綺麗な淡い金色の髪をしている。やたらと整った顔立ちは上品で、吸い込まれそうな青い目はサファルの青い目とまた違った色合いをしていた。
 そして大丈夫かと聞いたサファルの袖を、すがるかのようにつかんできた。

「お前、小さな可愛らしい女の子を連れた、僕ぐらいの男の子二人を見なかったか?」

 必死ながらに所作もとても気品があったが、口調がどうにも上から目線な気がする。最初は敬語で話すタイプのサファルとしては思わずそこを突っ込みたくなったが、少年があまりにも必死そうだったためとりあえず言葉を飲み込んだ。

「えっと、見てないけど、どうかしたの? 迷子?」
「……見てないのならいい。すまなかった」

 サファルの質問を受け流すように、少年はサファルの袖から手を離し、立ち去ろうとした。気づくと仲間だろうか、マントは羽織っていない二人の少年もいて、気落ちしているマントの少年を気遣うようにしつつも同じく気を落としているように見えた。

「待って。妹とかなのかな。俺にね、すごく可愛くて大事な妹がいて。小さな頃からほんと大事で。だからかな、何か放っておけないよ。一緒に探させてくれないか? 特徴を教えてくれ」

 心配になってきて言えば、サファルの言葉に何か感じ取ってくれたのか、大人に対して警戒することもなく三人はコクリと頷いてきた。
 いなくなったのは九歳と六歳の男児、そして四歳の女児らしい。教えてくれたのは生地の素材は間違いなくよさそうなのに地味な恰好をした二人の内一人だった。ちなみにもう一人はサファルにとって妙に馴染みのある雰囲気をした服装だった。あえていうなら故郷を思い出させる。
 九歳がコールドという名前で、マントの少年と違って色の濃い金髪に茶色の目をしているらしい。同じマントを羽織っているだろうとのことだった。
 六歳がレインラという名前でこの二人と同じく地味な恰好だがこのイント王国でよく見かけるような服装らしい。茶色の髪と青い目をしていると聞いてサファルが「じゃあ俺みたいな感じ?」と聞けば「あなたのほうが美しい瞳の色をしています」と恐らく十歳になるかならないかといった相手からニッコリ言われた。ふとイントに来る前まで滞在していたフィート王国を思い出し、サファルは苦笑した。
 四歳がリーナという名前で、白銀の髪色と青い目をした愛らしい少女らしい。長めの髪は桃色のリボンで結っており、そのリボンと同じ色をしたふわりと可愛らしい桃色のドレスを着ているという。やはりマントを着てはいるが、腰丈なのでドレスの色は見えるだろうとのことだった。

「分かった。とりあえず別れて探そうか」

 すると今まで黙っていたカジャックが口を開いた。

「そのマントの少年とそちらの少年、そしてサファルとそちらの少年で別れるといい。俺は一人で探す」

 見ればフードを深く被っている。おそらくは子どもを目付きの悪さで怯えさせないようにだろうとサファルは苦笑した。ただ、カジャックだけだと見つけた時、下手をすればその目付きのせいで連れてこようにも人さらいみたいに思われるかもしれない。
 そんなサファルの考えを読んだのか「大丈夫だ」とカジャックは先手を打ってきた。

「安全そうなら場所を把握してすぐにサファルを呼びに行く。サファルのなら、ある程度の気配は探せる。もし危険そうならむしろ俺はどうにか出来るしな」

 言い終わるとカジャックはあっという間にこの場からいなくなっていた。

「……凄腕の魔術師みたいだ」

 マントを着ている少年が感嘆したように呟いていた。
 あなたのほうが美しい瞳を、などと言ってきた少年と、サファルは探すことになった。

「コールドというのが好奇心の塊である、僕の困った主人なんです。今回も久しぶりのイントにわくわくしていたようで……僕が目を離した隙にリーナ様とそのお付きであるレインラを誑かしてどこかへ出かけちゃいまして。ご迷惑をおかけしてすみません」
「誑かして、って」

 これが十歳になるかならないかといった子どもの言葉かと、サファルはまた苦笑する。主人などと言っていたので、先ほどのマント少年もそうだが、金持ちとその側近といったところだろうか。それでこの少年もやたらしっかりとしているのだろうか。

 ……にしても子どもにまで側近がついてるとか、どんだけ金持ちだよ。ますます早く見つけないと心配だな。

「あなたは王国の住民ではなくどこか村の住民……旅の方なのですね」
「うん、そうだけど……そんなにボロっとした感じ?」
「いえ! とんでもない。失礼な言い方だったらすみません。そうではなく、フェスタ様を見ても、他の方の名前を聞いてもピンとこられてないようでしたので」
「え、何? もしかして王国では有名人とか?」
「……そうではありませんね、失礼いたしました。気になさらないでください」

 めちゃくちゃ気になりますけど?

 そう思いつつも、追求して欲しくなさそうな様子だったのでサファルは話を逸らした。

「にしても君、しっかりしてるなあ。いくつなの」
「僕ですか? もう八歳になりますので」

 八歳はまだ大いに子どもだが、少年は誇らしげな顔でサファルをにこやかに見てきた。可愛いなあと思いつつ、ふと目に入ってきた路地裏が、出来れば子どもに入って欲しくなさそうな場所に見えたので「念のため、俺、あそこ見てくるから君はここで待ってて」と少年に笑いかける。

「いえ、それは駄目です。あの方たちを探してくださるあなたをむしろ守るのが僕の役目ですので」

 この子、どういう育ち方したらこうなったの。

 確かに力はないけれども体術なら自信のあるサファルはまた苦笑しながら、どうしたものかと少年を見た。
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