満月の夜

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14話

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 月時がポカンとしているのか憤りを感じているのかいまいちどちらなのか分からない表情を何故か浮かべて海翔を見てくる。怪訝に思って「どうかしたのか」と聞けば「どうかした? どうかしたって……!」とどこか混乱しているかのように呟いている。
 なんなんだと海翔が思っているとハッとなった後に何故か目を潤ませながら詰め寄ってきた。

「ほんとにユーキとちゅーしたの?」
「……まあ」
「なにその中途半端な反応」
「いや、そりゃそうなるだろ……。別にしたくてした訳じゃない。向こうが冗談なのかあんたらでいう親交の深め方なのか知らないけどしてきたんだ。これ以外にどう反応しろ、と」
「そ、そうだよね……、っていうかなんだろ、もっと嫌がるとか……」

 月時が妙な顔をしてくるが一応勢いは静かになった。とはいえ妙な顔をしたいのはこちらだと思いながら海翔はため息を吐く。

「別に俺は女じゃないしショックを受けたりすることもないだろう? 唇が触れただけだし」

 怪訝そうに月時を見ながら言うと、一旦落ち着いたように見えていた月時が今度は口元を震わせながら目を見開いてきた。

「はぁ? っちょ、ひろ! なに言ってんのっ? ちゅーだよ? ちゅー!」
「……いや、ちゅーと言われても……」
「だったら俺がしてもただの接触だよねっ?」
「は? っちょ、待て、っ」

 思い切りむぅっと頬を膨らませたような顔をした後で月時が海翔に近づいたかと思うと、そのまま唇を合わせてきた。月時の唇はすぐに離れようとはせず、何度も啄んできたり合わせ直してきたりを繰り返してくる。

「っ、は……」

 一瞬離れる時に避けようとしてもまた合わせてきて、息をするのもままならない。

「んっ、んんっ」

 海翔自身もそんなに回数をこなしてきた訳でもないが、どうにも慣れていなさそうなキスに海翔は余計に戸惑った。月凪が悪戯かのようにさらりとしてきたものはあっけなかったので海翔もすぐに流していたが、こう慣れていなさそうなキスを何度も繰り返されると、どう考えていいのか分からない。
 冗談でするには必死さを感じるし、慣れていない様子からして普段から遊びでやっているという感じもしない。かといって本気でする意味こそ分からない。
 ようやく一旦唇がちゃんと離れた時に、海翔は月時をどん、と突き放した。呼吸もなかなか出来なかったせいで乱れた息のまま、海翔は月時をじっと見る。月時も苦しかったのか、顔を真っ赤にしながらも目に涙を浮かべたまま、なにか言いたげに海翔を見ていた。

「なに考えてんだよトキ」

 訳が分からなく、とりあえず海翔が口にすると「なにって、ひろのことだよ!」と何故か怒ったように言ってくる。

 いや、むしろ怒るなら俺だろ……?

 海翔は微妙な顔つきのまま思った。勉強に誘われて実際勉強をしていたらすぐにやる気を失くすし、挙句何故か目を潤ませながら怒っている。

「あんた……」
「っていうかなんでちゅーしてもそんな風に普通なの」
「普通? いや、息は切れたけど……」
「そーじゃないよ」

 むぅっとした顔のまま、月時が海翔をぎゅっと抱きしめてくる。一体なんなんだと思っていたら「ああ、来てたんだね」と月凪の声がした。見ればニコニコとした月凪が部屋に入ってくる。

「っちょっとユーキ、勝手に入ってくんな」
「えー。いつも入ってるのに?」

 海翔に抱き着いたまま抗議する月時に、月凪は改めて笑みを浮かべる。

「いつもと違うだろ」
「あー、ひろが居るからかな。まあいいじゃない」
「よくない! だいたいユーキ、ひろになにしてくれてんの? 俺聞いてない!」

 思い出したように月時が海翔から離れ、月凪につめ寄る。だが月凪は驚いた様子もなく楽しそうに相変わらず月時に笑いかけている。

「なにって……ああ。言おうとしたよ。でもお前が遮ったんだよ」
「そんなの知らねーよ?」
「だって言いかけてる時にトキが遮るからでしょ」

 下手をすれば子どもと大人の喧嘩程の差を感じながら微妙な顔で二人を見つつ、海翔はふと気づいたことを口にした。

「……そういえば、ユウキって何年なんだ? ネクタイ見てたら同じ学年みたいだけど」
「ああうん、同じだよ」

 むーむーと文句を言っている月時をあしらいながら月凪が今度は海翔に笑顔を向けてくる。

「え? じゃあもしかしてトキとユウキって双子なのか?」
「うーん、ちょっと違う、かな? というかひろはなんで急にテンションあげてくるの?」

 苦笑しながら月凪に言われた。
 確かに少しテンションは上がったかもしれない。兄弟なら普通によくあるが、双子は少なくとも海翔は最近見かけたことがなかった。学校にも居ない。いや、この二人以外は、と思ったところで首を傾げる。

「ちょっと、違う? 双子にちょっともかなりもあるのか? ああ、一卵性とか二卵性とかのこと? 確かに瓜二つって程じゃないもんな」
「それともちょっと違うかな」
「気になる? 変?」

 月凪が穏やかな顔で首を振る横で月時が何故か気がかりそうな表情を浮かべて海翔を見てくる。何故そんな表情をしているのかよく分からないが「いや」と海翔は首を振った。

「むしろ凄いなと思って」
「なにが凄いの?」

 すると月時が今度はポカンとした顔をしてくる。本当に表情の忙しいヤツだなと思い、海翔は少し笑った。

「なんとなく。なんかほら、神秘的だし」
「へえ。双子で神秘的なら四つ子だったら凄いだろうね」
「そりゃそうだな」

 おかしそうに言ってくる月凪に頷いていると「二人とも帰ってるのー?」という声が聞こえてきた。四人兄弟だとは既に月時から聞いていたので多分弟かなと思っていると月凪よりは月時に雰囲気の似た少し派手めな顔つきをした、恐らく兄弟の一人がひょこっとドアから顔を出してきた。そして海翔を見つけた途端、目を見開いてくる。なんだと思っていたら「わあ、二人の学校の人?」と頬を赤くしながら駆け寄ってくる。

「えっ、と」
「こら、ムータ。ちゃんと挨拶しなきゃだろ」

 今まで月凪に対して子どもみたいに抗議していた月時が今度は兄らしい様子で言っているのを聞いて、海翔は少しおかしくなった。

「な、なに?」

 そんな海翔に対して何故か月時まで少し頬を赤くして首を傾げてくる。

「いや」
「はーい! 俺ね、ムータ。あなたは?」

 とてつもなく顔を近づけながら聞いてくるのに対し、少しだけ体を仰け反らせているとまた「こら」と月時が今度は引き離そうとしてくる。

「俺は海翔だよ。えっと、むうた、くん?」

 変わった名前だなと思いつつ、海翔は笑いかけた。背は月時と同じように高いが多分年下なのかなと勝手に思っていたら月凪がニコニコと口を開く。

「月侑太。俺らと同じ歳だよ」
「え?」
「そーだよー。ムータって呼んでね、ひーちゃん」
「え?」

 同じ歳?
 ひーちゃん?

 どちらに対してまず反応すればいいのかと思っていると月時が「ムータ馴れ馴れしい!」とまたムッとしてきた。
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