満月の夜

Guidepost

文字の大きさ
上 下
14 / 128

13話

しおりを挟む
 良かったなと諸手を挙げて一緒に喜んでくれると思ってはいなかったが、微妙な顔で「は?」っと言われるとやはり切ない。月時はムッとした顔で月凪を見た。

「そんな風に見てこなくてもいーだろ」
「だってお前、いくら満月の日が結構先だからって、昨日の今日でなに考えてんの」
「別に一緒に勉強するだけだろ。ユーキだっていっつも女の子と遊んでる癖に!」

 言い返すとため息を吐かれた。

「俺のとお前のは根本的に違うでしょ。俺はただ楽しく遊んでるだけだけど、お前は相手のこと好きだろ。それも正体がバレそうになった相手」

 そう言われると返す言葉もなく、月時は項垂れる。するとまたため息を吐かれた。

「まぁ、今のところバレてはなさそうだし、俺だって別に人間を好きになるなとは言わないよ。ルリほど堅くない。ただルリのが結局は優しいんだよ」
「……うん」

 月凪の言いたいことは月時にも分かる。結局人間を好きになってしまっても、そして運よく両想いになって付き合ったとしても自分たちは本当のことを言えないし隠さなくてはならない。先なんてない。

「……でも、知らないうちに好きになってた」

 項垂れたまま月時が言うと「トキはどうしたいの」と聞かれた。

「……ひろと一緒に遊びたい。好きだからくっついてたいし一杯喋ったりじゃれたりしたい。……正体はバレたくないけどそれを隠したままだと好きになっちゃダメなのかな。ひろを騙すことになるもんね」
「まあ、それはでもひろの為でもある。……どうせ男同士なんだから子作りが目的って訳でもないしね、いいんじゃない」

 いいんじゃない、と月凪に言われ、月時は頭を上げる。

「傷つくのはお前やひろだよ。分かってると思うけど。そしていざという時は俺も家族を守るよ。その時ひろはお前のせいで合わなくていい目にあうんだからね」

 月凪はわざと突き放すような言い方をしてきた。ただ、それが逆に頼れるような気がして、月時はうん、と真っ直ぐに月凪を見て頷いた。
 翌日の放課後、月時はニコニコしながら海翔と帰っていた。

「俺の家と方向逆なんだな」
「そーなんだ? 今度はじゃあひろの家で勉強な」
「じゃあってなんだよ」

 呆れたように見てくる海翔の、この安定といってもいいような淡々とした態度が今の月時にとっては嬉しい。もし月時が人間ではないかもと少しでも疑っていたらこうして一緒に居てくれないだろうし態度もどこか変わる筈だ月時は思う。むしろあの事故の前のほうが一時期海翔の様子はおかしかった。

 ……妙に様子を窺われてた印象あるもんな。

「だって俺、ひろの家に行ってみたい」
「なんで」
「好奇心!」
「なにそれ。……うち、兄さんが居るんだけどさ」
「兄弟いるの? じゃあ俺とこと一緒だね!」

 兄弟が居ることも知らなくて、でもこうして少しずつ海翔のことが分かっていくのが嬉しくてニコニコしながら言うと「んー」と歯切れの悪い返事が返ってくる。

「どしたの?」
「いや、別にあんたのとこの兄弟がどうこうって訳じゃなくて。俺のとこ、ちょっと兄さんがアレだから」
「あれ?」

 あれ、とは。

 月時がポカンとして海翔を見ると微妙な顔をしながら続けてきた。

「なんていうか、まあ、ちょっと煩いかもだから」
「そうなの? でも俺のとこもルリとか煩いよ! ユーキも割と煩いけどまだましかな。ああ、ムータは違う意味で煩いかも」

 ニコニコしながら月時が言えば、海翔がポカンと見てくる。

「そういう煩さじゃ……ってユウキ、煩いかな? それよりもあんたのとこ何人兄弟いるんだよ……」

 その言葉で、そういえば学校の違う二人のことは言っていなかったと月時は思い出した。

「えっとね、俺入れて四人いるよ」
「珍しいよな」
「そ、そう?」

 四人というだけでも珍しいのか、と内心しみじみ思いながらもニコニコとしたまま月時は「あ、こっち」と海翔を案内する。
 家はまだ誰も帰っていないようだった。

「家、大きいな」

 とりあえず自分の部屋に案内すると、寛ぎながら海翔が言ってくる。クラスメイトの中には家が狭くて未だに兄弟と部屋が同じだと文句を言っている者も居たので自分のところは大きいほうなのかもしれない。月時としては皆と同じ部屋でも良かったがこうして海翔を連れてきて初めて別々の部屋で良かったと変にドキドキしながら思った。クラス内にて二人で話すのと、この部屋でだと全然違う。
 満月にはまだ遠いにも関わらず、月時はその時に味わうような高揚感を少し感じ、自分に「気を付けろよ」と言い聞かせた。
 しばらくひたすら真面目に勉強し合う。月時は一点集中型とでもいうのだろうか。一瞬にかなりの集中力をみせることは出来るが持続しない。勉強に関しても不得意ではないが、こつこつとするのは苦手だった。

「ひろ、休憩しない?」
「……さっき始めたばかりだろ?」
「そんなことないよ? もう三十分くらい経ってる」
「……」

 月時の言葉に微妙な顔を向けてきた後で、海翔は黙々と問題集を解いている。二人でやったほうが捗ると言った手前、さすがに邪魔は出来ないかと月時は大人しくもう一度ノートに向き直ったがどうにも集中出来ない。
 今度はなにも言わずにそっと海翔を見た。俯いてなにやら解いている。
 物静かそうなイメージだが、目は割ときりっとしている。少し釣り目気味だが月時程ではないし、全体的に見るとキツイ印象は全くない。むしろ今も言ったように物静かな印象を受けるのは何故だろうかと月時は思った。

 鼻筋? 口元? 全体的なバランス?

 自分たちがワーウルフだとはいえ、生まれてから基本的には人型として生きているので顔から受ける印象は一般的な人間と変わらないと月時たちは思っている。

「……先ほどから、なに」

 あまりにじっと見ていたのだろうか、少し手が止まっていた海翔が呆れたような顔で頭を上げてきた。

「えっとね、ひろの顔って穏やかそうで綺麗だなって思ってた」
「は……?」

 呆れた表情が更になんというか、微妙な顔つきになる。だがそんな表情すら、海翔だからこそだと思えて月時は嬉しくなる。そのまま抱き着きたいし、ギュッとしたいし、じゃれて転がったりしたいし、キスもしたい。したいことだらけで、もうどうしていいか分からなくなる。

「はー……、したいな」
「なにを?」

 知らない内に声に出ていたようで海翔が微妙な顔のまま聞いてきた。思わず顔が熱くなるのを感じながら「え、え、えっと、勉強」と咄嗟に言うと「すればいいだろ」と至極当たり前な答えを頂いた。うっとなり思わず「じゃなくて、ぎゅってしたりちゅーしたり」と言い直してしまう。

「……相手間違えてるぞ」

 更に当たり前であろう言葉が返ってきたが、それもそうかと月時は内心ため息をついた。だが海翔がなにやら気づいた、といった表情を浮かべてきた。

「ああ、っていうかもしかしてあんたら兄弟ってスキンシップが激しいとか?」
「え?」
「まあ俺のとこの兄も抱き着いてくるのよくあるしな。兄弟で当たり前なことが外では普通しないんだと気づかないことってあるよな、分かる」

 お兄さんと代わりたい。そして分かると言ってくれて嬉しいけど、なんか違う。

 今度は月時が微妙になった。確かに兄弟でじゃれ合う時に狼の姿だと噛み合うこともあるが、人の姿だとじゃれ合っても抱きしめ合うことなどそんなにしない上にキスはしない。まさか海翔のところではキスもするのかとハッとなっていると丁度海翔が考えを読み取ったかのように否定してきた。

「にしてもさすがにキスはないけどさ。よく抱き着いてくるからなあ。……あ、そういえばユウキも意味が分からないくらい気軽にキスしてきたから、そういうのも普段から気軽なのか? 気を付けたほうがいいぞ、他はそうでもない」

 分かってるよ……っ?
 っていうか、今なんて言った……?

 月時は顔をひきつらせながら海翔を見た。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

カランコエの咲く所で

mahiro
BL
先生から大事な一人息子を託されたイブは、何故出来損ないの俺に大切な子供を託したのかと考える。 しかし、考えたところで答えが出るわけがなく、兎に角子供を連れて逃げることにした。 次の瞬間、背中に衝撃を受けそのまま亡くなってしまう。 それから、五年が経過しまたこの地に生まれ変わることができた。 だが、生まれ変わってすぐに森の中に捨てられてしまった。 そんなとき、たまたま通りかかった人物があの時最後まで守ることの出来なかった子供だったのだ。

近親相姦メス堕ちショタ調教 家庭内性教育

オロテンH太郎
BL
これから私は、父親として最低なことをする。 息子の蓮人はもう部屋でまどろんでいるだろう。 思えば私は妻と離婚してからというもの、この時をずっと待っていたのかもしれない。 ひそかに息子へ劣情を向けていた父はとうとう我慢できなくなってしまい…… おそらく地雷原ですので、合わないと思いましたらそっとブラウザバックをよろしくお願いします。

捨てられ子供は愛される

やらぎはら響
BL
奴隷のリッカはある日富豪のセルフィルトに出会い買われた。 リッカの愛され生活が始まる。 タイトルを【奴隷の子供は愛される】から改題しました。

欲情貞操教育 〇歳から始める非合意近親生交尾

オロテンH太郎
BL
春になったといっても夜は少し肌寒く、家に帰るとほんのり温かく感じた。 あんな態度をとってしまっていたから素直になれなくて一度も伝えられてないけれど、本当の家族みたいに思ってるって父さんに伝えたい。 幼い頃、叔父に引き取られた樹は、卒業をきっかけに叔父の本性を目の当たりにする……

からっぽを満たせ

ゆきうさぎ
BL
両親を失ってから、叔父に引き取られていた柳要は、邪魔者として虐げられていた。 そんな要は大学に入るタイミングを機に叔父の家から出て一人暮らしを始めることで虐げられる日々から逃れることに成功する。 しかし、長く叔父一族から非人間的扱いを受けていたことで感情や感覚が鈍り、ただただ、生きるだけの日々を送る要……。 そんな時、バイト先のオーナーの友人、風間幸久に出会いーー

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

転生したらいつの間にかフェンリルになってた〜しかも美醜逆転だったみたいだけど俺には全く関係ない〜

春色悠
BL
 俺、人間だった筈だけなんだけどなぁ………。ルイスは自分の腹に顔を埋めて眠る主を見ながら考える。ルイスの種族は今、フェンリルであった。  人間として転生したはずが、いつの間にかフェンリルになってしまったルイス。  その後なんやかんやで、ラインハルトと呼ばれる人間に拾われ、暮らしていくうちにフェンリルも悪くないなと思い始めた。  そんな時、この世界の価値観と自分の価値観がズレている事に気づく。  最終的に人間に戻ります。同性婚や男性妊娠も出来る世界ですが、基本的にR展開は無い予定です。  美醜逆転+髪の毛と瞳の色で美醜が決まる世界です。

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

処理中です...