眠りのターリア

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3話

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「そういえばさ、起きた途端なんか怒ってたのわかった時さ」

 夜、顕太が作った煮物で夕ご飯を食べている時に顕太がニコニコと新二を見てきた。

「なに」
「俺てっきりさ、新二が寝てるの見てる時にムラムラして寝てるまま犯しちゃおっかなって思ってたのがバレたんかと思った」
「なあ、なんでバレると思えんの? さすがにお前の妄想や夢までわかんねーから。……あと口にするな、凄い残念だから」

 黙っていたら見た目とかイケているだろうにと新二が微妙な顔で言ってもまだ「今度してみていい?」などと聞いてくる。

「いいって言うと思ってんの?」
「新二、割となんでも受け流してくるだろ」
「面倒くさいからな」

 生温い目を向けて言うとますますニコニコと顕太が笑みを見せてくる。

「俺が面倒ってこと? とか言うくせにいっつもなんだかんだで付き合ってくれるくせに。あとほら、新二は寝てる訳だから面倒なことなんもないよ。楽して夢の中で気持ちいーかも」
「何されんのかわかんないのに? だいたいお前、いつかハメ撮りまでしてきそうだよな、絶対許さないからな」

 ジロリと睨むと、その時だけ顕太の目線が泳ぐ。これは絶対何かあると思ったが、多分今聞いても誤魔化してきそうなだけに新二はあえて黙っていた。
 体の関係こそ大学に入ってからとはいえ、恋人として付き合ったのは高校生の頃からだし、知っていたといえばもっと昔から顕太のことは知っている。なので顕太が何かを隠そうとしたり誤魔化そうとしたりするくらい、絶対に気づくとは言わないが今のように何らかのきっかけで大抵気づく。なんだかんだで素直でもあるわけだが、やっぱり馬鹿だなとも新二は思う。
 そのくせ顕太は高校の時などいつも学年上位十位には絶対に入っていた。ちなみに普段から試験前にかけて、改めて勉強をしているところを見たことがない。

「カッコつけだから新二に隠れてやってんだよ」

 そんな風に自分で言っていたが、顕太の六歳下の妹である彩愛(にいな)が「お兄ちゃん、普段も勉強してるとこあまり見たことないよ」とも言っていた。

「へー。すごいな。やっぱ尊敬とかする?」

 当時十歳かそこらだった女の子に対しての口の利き方ではないかもしれないが、昔から新二も彩愛もこんな感じだ。

「べたべたしてくるから気持ち悪い」
「おぅ……」

 そんな彩愛も今では中学二年生であり顕太曰く「反抗期」らしい。

「どう反抗期なんだよ」
「お兄ちゃん、外では話しかけないで、なんて言うんだぞ!」
「むしろ安定だろ……。つかお前に塩対応なの、一史もだし」

 一史(ひとし)は五歳上になる顕太の兄だ。基本がふざけているような顕太と違って寡黙な男前で、新二にも「呼び捨てにするなと言ってるだろ」などと言いながらも可愛がってくれる。だが顕太に対しては大抵馬鹿を見るような目で見ている。

「兄ちゃんはあーゆーヤツだろ。可愛いニーナは……、……もうちょっとマシだった」

 マシだったと言う辺り、わりと現実を見ているらしい。
 ところで高校も大学も顕太と同じである新二も頭がいいかというと、そうでもない。かといって顕太がレベルを下げた訳でもない。
 高校の時、新二はスポーツ推薦で入った。中学の頃から陸上をやっていた。それがなければあの高校には入っていないというか、入られなかった。一方、顕太はもちろん受験して入学している。
 高校在学中、新二は陸上部でいい成績を出していたし、よくあるような足やらの故障もなく、三年になって引退するまで健康体で部活を全うしていた。だが大学はスポーツとは関係なく受験しようと思っていた。
 顕太と付き合うようになってからはかなり勉強を見てもらったように思う。それでも今の大学に入ることができたのは少し奇跡もあるかもしれない。

「顕太って黙ってたらそこそこなのにな」

 夕食後、なんだかんだ言いつつもつい顕太のそばでごろごろと新二は寛いでいた。すると顕太が楽しげに新二の手をとりながら爪を切ってくれ出した。されるがまま、そこそこなのにと言えば顕太は少しムッとした顔を向けてくる。

「家事もするし爪も切ってあげるしで、そこそこどころかスゲーいい男の間違いだろ」
「ああ、そうかもな」

 適当に答えると、とてつもなく気持ちが伝わったようで顕太はますます唇を尖らせている。

「ほんと新二は面倒くさがりの適当ちゃんだなー」
「……顕太が俺撮って勝手に載せるの止めたら、いい男かもな」
「えぇー」

 顕太は不満そうにしているが、不満そうにしたいのはこちらだと新二は思った。だがその後眠気が襲ってきたのか気づけばソファーの縁にもたれてうたた寝していた。

「ほんとよく寝るね、お前」
「……俺、今寝てた?」
「んー。俺が足の爪も切ってたの、知らないだろ?」
「……多分。結構寝た?」
「いや、時間的にはそうでもないけど」
「そっか」
「せっかく起きたんだし、しよっか」

 何を、と聞くまでもなかった。

「ふざけんな、昨日しただろ」

 ソファーに手をついてニコニコ覆いかぶさってくる顕太を呆れたように見ると、口を尖らせてくる。

「青春真っ盛りの俺が、昨日したくらいでちんこ落ち着く訳ないだろ」
「相変わらず残念なやつだな! 俺と同じ歳なのにこの年齢に対して頭悪そうなこと言うな。お前の息子は中学生かよ」
「いやいや、まだまだやりたい盛りだろ、ね? ねー、しよ?」
「……今日は入れないなら、いい」

 鬱陶しいと思いつつも無い耳を垂らしてきそうな風にせがまれると断固とした態度は取れなくなる。腹立たしい。

「やた! んじゃまた新二がいつ寝てもいーように寝る準備万端でしよーぜ」

 途端にはしゃいでウキウキとし出す顕太を生温い目で見ながらも、だが可愛いと思ってしまう時点で勝てないのだろうなと新二は思った。
 その後ベッドでゆっくりとキスをし、触れ、そしてまたキスをした。挿入を諦めてもらう代わりに、顕太だけでなく新二もたくさんキスをする。そろそろ涼しさを通り越して肌寒い日も出てきたが、お互いの唇はとても熱かった。
 ひたすら触れ、抱きしめ合った。たくさん息を乱して、更に乱すようにキスをした。こういう時に改めて「ああ、好きだな」と新二は実感する。
 達した後はまたそのまま眠っていたらしい。らしいというのは意識していなかったからだ。だが何度かうたた寝して脳があまり眠くないのに体が疲れていたせいだろうか。金縛りのような目にあって自分が多分眠っていたのだと意識した。そして酷く鮮やかでいて怖い夢を見ていたことにも気づいた。
 心臓がドキドキする。夢が怖かったからか、今こうして体が動かないからか。
 すぐ隣には顕太が眠っていた。きっと眠ってしまった新二の体を綺麗にしてくれた後に自分も眠ったのだろう。手を伸ばせば触れられる距離なのに手が動かない。小さくとも「顕太」と囁けば気づいてもらえるかもしれない距離なのに、声が出ない。
 たまに発生するこうした夢と金縛りのコンボには辟易していた。

 ……くそ……っ!
 怖い。動け。動け……動け……っ!

 その後ようやく動けるようになると、新二は特に何も言うことなく、たまたま向こうを向いている顕太の背中に自らを這わせるようにしてそっとしがみついた。
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