眠りのターリア

Guidepost

文字の大きさ
上 下
2 / 20

2話

しおりを挟む
 起きた途端デコピンを食らい、何事かとぼんやり見れば新二が携帯電話の画面を無言で差し出してくる。そこには顕太の膝枕で幸せそうに眠っている新二が写っている。

「あー」

 なるほどねと思っての「あー」だったが「呑気な声出してんじゃねえんだよ」とさらにもう一発食らった。

「待て、そんなにぴこぴこ打ってきたら俺の頭弱くなっちゃうよ? 将来の旦那様が馬鹿になったらほら、出世とか」
「安心しろよ、もう弱いし男同士に旦那も嫁もない」
「酷いなあ」

 顕太がへらへらとしているともう一度画面を差し出された。構わず顕太は笑いかける。

「上手く撮れてるだろ?」
「やっぱり頭弱いだろ。俺、何度こういうことすんなって言った?」
「でも周りにはもうバレてんだし、よくない?」
「そもそもお前がこんなことするせいでバレたんだけどな……っ? あとプライバシーの侵害だからな。お前だって知らないうちに俺が勝手に画像どこかに載せたと知ってみろ、そ……」
「え、ありあり! むしろお前もやれよー」

 満面の笑みで言えばまたデコピンを食らった。そろそろ新二のデコピンで額に穴が空くかもしれない。
 画像をSNSに載せる度に新二が怒るのは分かっているのだが止められない。可愛い新二を大いに自慢したくて堪らないのと、いちいち怒ってくる新二がまた可愛いのもある。
 元々新二はあまり怒らないというか、気分屋ではあるが大抵受け流してくる方だ。なので最初につい載せたくなってやらかした時には顕太も密かに驚いていた。こんなに怒るなんてとむしろワクワクした。とはいえ別にマゾという訳ではない。普段見られない新二が見られたのが嬉しかったのだ。
 普段は笑ったりぼんやりしたり恥ずかしがったり面倒くさがったりすることはあっても、あまり怒らない。よほど嫌なのだろうなと分かるし、好きな相手が嫌がることは通常したくない筈の顕太だが、こればかりはつい繰り返してしまう。
 嫌がるといえばそういえば画像を載せること以外にもあったわとだが思い出した。
 顕太は新二が大好きだからこそ、隙あらばセックスもしたいと思っている。せっかく一緒に住んでいるのだ、当然したいに決まっている。重要なのはただセックスをしたいということではなく、大好きだからしたい、ということだ。
 だが新二はあまりするのを嫌がる。さすがにこれに関して怒りはしないが、くっついて眠ったりぼんやりするだけでも十分じゃないかと言う。

 冗談じゃない。

 それこそ子どもや女じゃないし「好き」にはかなりの性欲が伴うというのに無理がある。それでなくとも大学生になるまで顕太は我慢してきたのだ。
 これに関しては新二が嫌がったというより、とても青い春を謳歌していた顕太がヘタレていたからだ。
 手を、出すのが怖かった。
 嫌われてしまうのではないかと、怖かった。
 今ではバンバン画像を投稿すらして怒らせる域に入っているが。
 新二に関しては、ただ恥ずかしいからというよりは、多分面倒くさいのと後はまだ行為に慣れてないからだろうなと顕太は思っている。慣れていないことに関しては顕太も情けないながら申し訳なく思ってはいる。性行為の経験がなかった訳ではないが、当然新二一筋だったのだ。付き合う前までに何度か他の女と付き合ってはいるが、手慣れた大人じゃあるまいし回数などこなしていない。おまけに男とはもちろん初めてなので余計慣れていない。
 同棲してからも最後までさせてもらうのに結構時間がかかった。抜き合うことはしていても、最後までするのは中々許してもらえなかった。
 どうやら新二の中で、する方とされる方のどちらがいいのかという葛藤があったらしい。こちとら新二に対して邪な気持ちを抱いた時からずっと妄想で突っ込ませて頂いていたので、まさか逆もありえるのだと新二が思っていることに思いもよらなかった。

「当然俺が突っ込む方だと思ってたんだけど」
「当然? なんで」
「な、なんでと言われると言葉にしにくいけど……新二可愛いし」
「眼科行けよ……」
「俺のが背、高いし」
「俺だってある方なんだからな。あとすんのに身長関係あんの?」
「うーん、あるっつーか、ないっつーか……」
「なんだよそれ。まあする方のが面倒そうだからいいよ」

 そう言ってくれ、ありがたく頂戴したら予想以上に苦痛だったらしく、しばらくは本気でさせてもらえなかった。
 今は多少慣れてはいるもののまだ余裕という訳でもないようで、せっかく二人暮らしだというのにいつでもどこでもは難しい。

 ……まぁ、それはそれで毎回攻略する感じ楽しめるけどさ。

 昨日も上手くことが運んで、大いに絡み合った。新二も気持ちがいいことは嫌ではないようで、それなりに楽しんではくれているとは思う。ただ、後ろでするのが未だに少し苦手そうで、そこは申し訳ないながらもまだまだ青くピンクな春真っ盛りの顕太としてはがっついてしまう。
 実は行為の後に意識を失う勢いで眠ってしまうことが度々ある新二をも、顕太はスマホで撮っている。そのデータは即パソコンへ移動後、携帯電話側は消しているので今のところ気づかれてはいない。
幸い新二はある意味今時というのか、携帯は弄るがパソコンは全然使わない。大学のレポートも新二が受けているところではむしろコピーペースト防止のためか手書き推進のところが多いらしい。たまにパソコンを使う課題がある時も渋々タブレット型端末を使ってなんとかやっている様子だ。そんなであるので、幸い顕太のパソコンにも寄り付かない。
 さすがにこのお宝画像を公開しようと思ったことはない。これは自分だけが見られるプレミアムだ。
 だが普段顕太といる時のふとした様子や寝顔などは自慢しまくりたいし、むしろ見て欲しい。そしてウキウキと載せた後にはバレてデコピンが待っているという流れを繰り返していた。

「愛の記録だろ」
「いやほんとウザいし気持ち悪いしドン引きだから」
「ほんと酷いよな」
「俺からしたら、俺の許可なく載せるお前のが酷いし、訴えられたらお前負けるからな?」
「訴えんの?」
「……いや……さすがにそれはしねーけど……」

 実際はそこまでしても間違ってはいないだろう。いくら付き合っているとはいえ、こういったことに恋人も家族もない。
 なのになんだかんだで情にほだされて許してくれている新二がまた可愛くて、そしてやりたくなる。エンドレスだと顕太はニコニコ思った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

絶対にお嫁さんにするから覚悟してろよ!!!

toki
BL
「ていうかちゃんと寝てなさい」 「すいません……」 ゆるふわ距離感バグ幼馴染の読み切りBLです♪ 一応、有馬くんが攻めのつもりで書きましたが、お好きなように解釈していただいて大丈夫です。 作中の表現ではわかりづらいですが、有馬くんはけっこう見目が良いです。でもガチで桜田くんしか眼中にないので自分が目立っている自覚はまったくありません。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました!(https://www.pixiv.net/artworks/110931919)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

処理中です...