蛇 と 兎

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36.我慢する兎

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 後ろに何やら入れられている優史は少し下唇を噛みしめた。お仕置きと称してたまに使われるおもちゃと違って、それはただそこにある異物感という感触しかない。変な動きもせず、妙な歪感もない。
だがそれは優史の中をみっちりと満たしてくるの と、その前に千景から与えられた刺激のせいで優史を堪らなくさせてきた。
 入れられた直後はピリピリした痛みとも疼きとも言えないモゾモゾした感触だったのが、今はただひたすら甘い刺激となって優史を意識させてくる。ともすれば変な声が漏れそうで、優史は何とか唇を噛むことでやりすごしていた。「おいで」と言って手をひっぱってくる千景はそのまま構わず優史を歩かせてくる。

「待っ……、ち、かげ……。どこ、行く、の……?」
「堪らないんでしょ? 欲しいんでしょ?」

 ちらりと優史を見た後でまた前を向いて歩き続ける千景が呟く。

「え……、う、うん……」

 欲しい? ああ、刺激が、ていう意味、だな。

 優史は少し赤くなりながら頷いた。多分このまま駅のトイレに連れていかれるのだろう。自分の最寄り駅のトイレでなるべくそういったことはしたくないが、このままは実際つらかった。後ろに入っているものを抜いてもらいたいし、高められた熱もできれば千景によって静めてもらえるなら静めたい。

 でも本当に欲しいのは。

 とはいえ今はそんなこと言っていられない。そう思っていると千景が続けてきた。

「あげるよ、優史」
「……え?」
「あなたが欲しいもの。あげる」

 優史は一瞬意味わからさに怪訝な顔をした。そして次の瞬間「まさか?」と思う。

「そ、それって……?」
「俺の、欲しいんでしょ」

 優史は顔が真っ赤になる。今の千景の言葉だけで達してしまうかと思った。

 本当、に……? でも何で急に?

 様々なことが頭をぐるぐる廻る。わかるのは、嬉しくて仕方ないということ。

 でも。

「っま、待って……、千景、待って……」

 トイレを目前にして優史は引かれていた手を何とかひっぱった。千景が「何」と振り返る。

「そ、その……欲しい、けど、家が……いい……」

 ずっと欲しくて堪らなかったもの。もちろん一番欲しいものはそれではない。だが本当にずっと欲しくて欲しくて何度入れてもらうところを想像して自分を慰めたかわからない。何故急に千景がその気になってくれたのかわからないが、千景の気が変らない内に早く入れて欲しいとも思った。
 それでも初めては、千景との初めてがトイレというのは嫌だ。

「……ああ。……我慢できるの?」

 察してくれ頷いた後に、千景がからかうように聞いてきた。確かにつらい。今すぐどうにかしたい。

 それでも。

「お願い、家が、いい……」

 すると千景がニッコリしてきた。

「いいよ? 家であげる。その代わりそれ、入れたままね」
「……ぅ」
「大丈夫、それ変な動きはしないよ。ただの拡張するものだから。プラグだよ、アナルプラグ。入れときなよ、後で楽だよ」

 アナルプラグというものの存在は知っていた。千景との関係が始まった頃、少しアナルのことについてネットで調べたことがある。結局見ていられなくてすぐに閉じてしまったが、検索した時に後ろを拡張させるものとして載っていた。

 ……あれが、今自分の中、に……。

 そう思うと何となく少し怖い半面、嬉しさと興奮が入り乱れた。今、自分は千景のものを受け入れるべく後ろを拡張させているようなもの。そう考えてしまいドキドキしてくる。
 おまけに何とか辛いのを堪えながら歩いているためか、千景はずっと優史の手を引きながら歩いてくれている。

 手を繋ぎながら歩くなんて、まるで恋人みたいだ。

 ともすれば切らしてしまう息をなんとか整えつつ、頑張って歩きながら優史は思っていた。すると千景は前を向いたまま言ってくる。

「その表情なんとかしなよ」
「え」

 ドキドキとした気持ちが変な表情となって出ていたのだろうかと優史は俯いた。

「ごめん……」
「謝らなくていいから顔に出すのどうにかして欲しいね。さっきのサラリーマンなんてまるで食いつくようにあなたを見ていたよ」
「……さっき、の……?」

 心配してくださった人のことを言っているのだろうかと優史は首を傾げた。

「誰にでも見せてるんじゃないよ全く」
「……え? ごめん……その、言っている意味が、よく……」
「……ほんと相変わらず無防備だよね」
「ええ?」
「全く。いいよ。とりあえずあなたが『許して』て泣きつくくらいあなたを貫いてあげるよ。……覚悟しなね?」

 覚悟。

 優史はまた顔が熱くなるのがわかった。おまけにまた達しそうになる。
 千景の言葉だけでこんなに堪らなくなるというのに、実際焦がれるほどに欲しかった千景のものが自分の中に入ると思えば身震いした。

「……うん……」
「……ん?」
「……うん、覚悟、する……。だから……早く、欲しい、です……」
「……ほんと、あなたは……」

 何故千景が急に入れてくれる気になったのかはわからない。だが今はもう理由なんてどうでもいい。

 大好きな、とても愛おしい千景と本当に抱き合える。

 優史は必死になってこみあげてくる悦びと震えを堪えた。
 ドアの鍵は千景が開けてくれた。多分今の優史は鍵を開ける事もままならなかっただろう。

「ち、かげ……っん」

 部屋に入った途端激しく絡み合った。

 本当に我慢できない。でも初めてだし、ベッドに行きたい。

 思っていたことを千景はわかってくれていたのか、深いキスを交わしながら何とか優史をベッドまで連れて行ってくれた。
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