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21.かわいい兎のため(番外編)
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「お弁当作った!」
「わぁ! 凄い……!」
優史はいつも頬を染める勢いで嬉しそうにニコニコ弁当や善高を見てきた。
「わ、美味しい!」
そして本当に美味しそうに食べてくれる。
「明日も作ってくるな!」
「本当? 昨日の揚げ物、あれ美味しかった」
「じゃあまた作って入れてくるな!」
善高はニッコリ優史に笑いかける。
幼馴染である優史は本当にかわいい男だった。小さな頃から整った綺麗な顔立ちをしていた優史は、昔は背も小さくて女の子みたいだった。おまけに本人の性格もとても柔らかく、かわいいものが大好きな大人しいタイプだった。つい何か言われるとすぐに泣いてしまう。
そんな優史は周りの男子にとって格好のからかい対象だったのかもしれない。本当にバカにしているヤツもいれば、中には好きだから苛める、というヤツもいたようだ。
そして優史の親は、そんな優史が心配なのかいつも「男らしくしなさい」などと言っていた。
善高は子供心にそんな優史に同情した。難しいことはよくわからなかったが、自分が食べることや野球やサッカーなどが好きなように、ただ単に優史はかわいいものが好きなだけだというのはよくわかっていた。
もし自分が親にまで「食べちゃだめ」とか「野球? そんなものするな」とか言われてばかりだったらやりきれない。とてつもなく反抗したり文句ばかり言ってただろうと思う。
だが優史はいつだって真面目で、素直に「はい」と言うことを聞く。反抗もせず何とか親の言うことを聞こうと努力していたし、周りの男子にからかわれても怒るどころかこれまた何とか努力して泣かないようにしようと頑張っているのが善高にはよくわかった。
善高にとってそんな優史は誰よりも強いと思っていた。「男らしく」というのがどんなものかはよくわからないが、優史は強い。
自分だったら好きなことや自分の性格を他の男子だけでなく親にまで否定されたらやってられない。
無理をしているのでなく、本当に普通に笑っていられる優史は絶対に強い。
そんな優史に自分ができることはせいぜい、からかってくる男子から優史を守るくらいだった。大したことなど何一つできていないというのに、それでも優史は泣くのを何とか堪えようとしながらニッコリ笑い、善高にいつだって感謝してくれた。
そんな優史に善高は「泣くな」としか言えなかった。
大人になってから思う。何であの頃「泣いていいよ」と言ってあげられなかったのだろう、と。
中学に入ってからの善高は、優史をちゃんと見ることすらできなくなっていた。いつだって自分に気づくと柔らかく笑いかけてくれる優史が見られない。しかもだんだん背が伸びてきて、女子からモテはじめた優史を見ると、理不尽なことに腹が立った。
小学校の頃はあんなに小さくて情けなかったくせに、と。
実際はもちろんそんなこと思っていないのに、女子からちやほやされだした優史を見るとそんな風に言いそうになる。イライラとして落ち着かなくなった。落ち着かせようと元々興味があった料理をするようになった。
料理をしている時はいいのだが、結局料理し終われば同じ。おまけに夜、たまに夢の中に出てくる優史が善高を悩ませた。
欲求不満なのかもしれない。そんな風に思って彼女を作ってみても変わらない。
気づけば同じ中学にいながら、善高は優史と疎遠になっていた。優史は背が伸び、泣くこともなくなったようなので自分が傍にいなくてもいい。そう思うようにした。
たまに善高を見かけた優史が、何か物言いたげな表情で見てくる。その度に心臓がチクリと痛んだが、唇を噛みしめ無視した。
これできっと俺も普通に戻れる。
そう思っていた。だがそうではなかった。
やっぱ俺は優史が好きなんだ。
認めるのは嫌だった。相手は幼馴染だ。男だ。そして自分をいつだって信頼してくれていた友だちだった。
だけれども……。
「……ごめん……優……」
中学を卒業する頃にやっと、それでもやはり好きで、自分の勝手な感情のために優史を避け続けるのは自分だけでなく優史をも傷つけている、とようやく思えるようになった。
避けていた時も未練がましく優史と同じ高校を受験していてよかったとそしてしみじみ思ったものだ。
「みろよ優、このチューリップのウィンナー!ゾウだって作れるようになったんだぜ」
「凄いね善高! 俺にも教えて」
「いいぜ」
「ほんと? じゃあ今日……」
高校に入ってから、善高は開き直った。
優史が好きだ。
男同士など自分ですら想像できない。優史だから好きなだけ。だからきっと優史に言っても困らせるだけとわかっていた。
だから言うつもりはない。でもせめてずっと幼馴染として傍にいれたらいいと思うし、優史に何かあれば助けになれたらいいと思えるようになった。
「料理、すごいね」
「楽しいだろ? お前も料理好きになった?」
「んー、そうだね、楽しい。でも俺は誰かに作るっていうのが楽しいかな。多分自分のためには作らなさそう」
「優らしいな」
「……うん!」
優史は柔らかい笑みを浮かべ、嬉しそうに笑いかけてくる。善高もそんな優史にニッコリと笑い返す。
周りからは「何だ、ただのバカップルか」などと茶化されたりしながら、今日も善高は優史の笑顔を見るため、そして自分のために、工夫した楽しげな弁当を作っていくのだ。
「わぁ! 凄い……!」
優史はいつも頬を染める勢いで嬉しそうにニコニコ弁当や善高を見てきた。
「わ、美味しい!」
そして本当に美味しそうに食べてくれる。
「明日も作ってくるな!」
「本当? 昨日の揚げ物、あれ美味しかった」
「じゃあまた作って入れてくるな!」
善高はニッコリ優史に笑いかける。
幼馴染である優史は本当にかわいい男だった。小さな頃から整った綺麗な顔立ちをしていた優史は、昔は背も小さくて女の子みたいだった。おまけに本人の性格もとても柔らかく、かわいいものが大好きな大人しいタイプだった。つい何か言われるとすぐに泣いてしまう。
そんな優史は周りの男子にとって格好のからかい対象だったのかもしれない。本当にバカにしているヤツもいれば、中には好きだから苛める、というヤツもいたようだ。
そして優史の親は、そんな優史が心配なのかいつも「男らしくしなさい」などと言っていた。
善高は子供心にそんな優史に同情した。難しいことはよくわからなかったが、自分が食べることや野球やサッカーなどが好きなように、ただ単に優史はかわいいものが好きなだけだというのはよくわかっていた。
もし自分が親にまで「食べちゃだめ」とか「野球? そんなものするな」とか言われてばかりだったらやりきれない。とてつもなく反抗したり文句ばかり言ってただろうと思う。
だが優史はいつだって真面目で、素直に「はい」と言うことを聞く。反抗もせず何とか親の言うことを聞こうと努力していたし、周りの男子にからかわれても怒るどころかこれまた何とか努力して泣かないようにしようと頑張っているのが善高にはよくわかった。
善高にとってそんな優史は誰よりも強いと思っていた。「男らしく」というのがどんなものかはよくわからないが、優史は強い。
自分だったら好きなことや自分の性格を他の男子だけでなく親にまで否定されたらやってられない。
無理をしているのでなく、本当に普通に笑っていられる優史は絶対に強い。
そんな優史に自分ができることはせいぜい、からかってくる男子から優史を守るくらいだった。大したことなど何一つできていないというのに、それでも優史は泣くのを何とか堪えようとしながらニッコリ笑い、善高にいつだって感謝してくれた。
そんな優史に善高は「泣くな」としか言えなかった。
大人になってから思う。何であの頃「泣いていいよ」と言ってあげられなかったのだろう、と。
中学に入ってからの善高は、優史をちゃんと見ることすらできなくなっていた。いつだって自分に気づくと柔らかく笑いかけてくれる優史が見られない。しかもだんだん背が伸びてきて、女子からモテはじめた優史を見ると、理不尽なことに腹が立った。
小学校の頃はあんなに小さくて情けなかったくせに、と。
実際はもちろんそんなこと思っていないのに、女子からちやほやされだした優史を見るとそんな風に言いそうになる。イライラとして落ち着かなくなった。落ち着かせようと元々興味があった料理をするようになった。
料理をしている時はいいのだが、結局料理し終われば同じ。おまけに夜、たまに夢の中に出てくる優史が善高を悩ませた。
欲求不満なのかもしれない。そんな風に思って彼女を作ってみても変わらない。
気づけば同じ中学にいながら、善高は優史と疎遠になっていた。優史は背が伸び、泣くこともなくなったようなので自分が傍にいなくてもいい。そう思うようにした。
たまに善高を見かけた優史が、何か物言いたげな表情で見てくる。その度に心臓がチクリと痛んだが、唇を噛みしめ無視した。
これできっと俺も普通に戻れる。
そう思っていた。だがそうではなかった。
やっぱ俺は優史が好きなんだ。
認めるのは嫌だった。相手は幼馴染だ。男だ。そして自分をいつだって信頼してくれていた友だちだった。
だけれども……。
「……ごめん……優……」
中学を卒業する頃にやっと、それでもやはり好きで、自分の勝手な感情のために優史を避け続けるのは自分だけでなく優史をも傷つけている、とようやく思えるようになった。
避けていた時も未練がましく優史と同じ高校を受験していてよかったとそしてしみじみ思ったものだ。
「みろよ優、このチューリップのウィンナー!ゾウだって作れるようになったんだぜ」
「凄いね善高! 俺にも教えて」
「いいぜ」
「ほんと? じゃあ今日……」
高校に入ってから、善高は開き直った。
優史が好きだ。
男同士など自分ですら想像できない。優史だから好きなだけ。だからきっと優史に言っても困らせるだけとわかっていた。
だから言うつもりはない。でもせめてずっと幼馴染として傍にいれたらいいと思うし、優史に何かあれば助けになれたらいいと思えるようになった。
「料理、すごいね」
「楽しいだろ? お前も料理好きになった?」
「んー、そうだね、楽しい。でも俺は誰かに作るっていうのが楽しいかな。多分自分のためには作らなさそう」
「優らしいな」
「……うん!」
優史は柔らかい笑みを浮かべ、嬉しそうに笑いかけてくる。善高もそんな優史にニッコリと笑い返す。
周りからは「何だ、ただのバカップルか」などと茶化されたりしながら、今日も善高は優史の笑顔を見るため、そして自分のために、工夫した楽しげな弁当を作っていくのだ。
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