蛇 と 兎

Guidepost

文字の大きさ
上 下
4 / 44

4.張り巡らす蛇

しおりを挟む
 待ち合わせに指定した、優史がいつも利用している駅のホームに千景は降りた。そして向こうの方に落ちつかなさげにしている青年をすぐ発見した。千景がどこからやってくるかわからないためか、改札を見たり到着した電車から降りる人々を見たりとキョロキョロしている。

「ふふ、バカみたいでかわいい」

 千景はそっと呟いた。
 綺麗な、だが真面目な顔立ちの青年は背が高いからすぐに目がいった。少しすると向こうでも千景に気付いたようだ。こちらを見て、またさらにソワソワしだした優史がおかしくて、千景は笑いを必死に堪える。
 ノンケであろう優史が、こうも簡単に傾いてくれるとは、と内心思う。まだそれほどではないだろうが、本人を見ていたら明らかに千景が気になって仕方ないのが手に取るようにわかる。

 ただ、これほど容易い人だと、すぐに飽きそうなのが心配だよね……。

「お待たせ、してしまいましたか?」
「ああ、いえ、全然そんな事はないです」

 傍まできた千景がニッコリしながら言うと、優史は慌てて首を振っていた。

「いつも読んでいる人のデザイン展に行く訳だし、と昨日からまた持っていた本を読み返していました」

 電車に乗って最寄りの駅に向かう時に、優史は嬉しそうに言っていた。本当に真面目な人なのだろうなと千景はしみじみ思う。

 なのに俺みたいなのが目をつけちゃってごめんね。

 心の中で楽しげに謝りつつ千景は相槌を打っていた。
 元々人当たりは良い。学校の友だちもそこそこいるし、彼らに対しても自分はソフトな人間だと思う。別に無理をしている訳ではない。

 たまたま、性的な対象とする相手にだけ、少々思いが違うだけ。

 電車の中でワクワクしている優史を見ながら、駅から少し歩いている時に暖かくなった日差しに嬉しそうにしている優史を見ながら、そしてデザイン展で楽しそうに作品を見ている優史を見ながら、千景は思っていた。

 少々、違う、だけ。

「優史は本当に、真面目な方なんですねぇ」

 デザイン展を出た後で店に入り少々遅めの昼食をとる。見てきた内容について色々話をした後で、千景は微笑みながら言った。

「え? そ、そうです、か?」

 優史は困ったような表情を浮かべた後に苦笑した。
 真面目な人って何で「真面目だね」て言われると微妙な気持ちになるんだろうね、ちっとも悪い事じゃないのにね。

 千景はそんな風に思いながらスっと手を伸ばした。そして優史の口元に微かについていたパン屑を指の平でぬぐい、それを自分の口に持って行く。すると優史は真っ赤になっていた。

 ノンケ、かたなしだね。

「だいたい俺の方が年下だろうくらいはわかるだろうに、未だに敬語ですしね」
「だって、それは……」
「俺が普通に話したら敬語やめてくれる? 敬語使われると他人行儀な気がして落ち着かないし」
「え? は、はい……いや、う、うん」

 おそらく優史は、自分と千景の関係が明確ではない事が気になって余計に敬語になってしまっているのだろうなと千景は思っている。だが明確にする気は特になかった。

「友達になりたいとは全く思っていない。あなたのケツが気になっているんで、付き合う云々はさておき、とりあえず俺に乱れた姿見せてくれた上で掘らせてくれない?」

 そんな事、明確にしてどうする?

 ついでに言うと掘りたいのは山々だけれども、それよりも千景は見たかった。電車の中でいたずらした際に見せてきたエロい表情。今も目の前で真面目そうな顔をしているこの青年が、いたぶればいたぶるほど堪らない表情をしてくれそうで、千景はそれを見たくて仕方がなかった。

 だからね、俺に踊らされて?

 店を出た後で少しその辺を歩きながらも、千景はそう思いながらニッコリとしていた。

「優史は一人暮らしなの?」

 実は最近彼女と別れたばかりだと聞き出した後で、さらに聞く。特にこちらが今フリーなのかどうかを千景は何も言わなかった。

「え? うん」
「へえ、凄いね。俺一人だったらちゃんとやっていける自信なんてないな」
「そ、その、千景くんは……」
「どうせ敬語やめるなら、くん付けもやめない?」
「ぅ……。ち、ちか、げ、は実家?」

 まあ、高校生だからね。

 だがそんな事は口にせずに千景はニッコリと頷く。

「両親と、後、兄も一緒」
「お兄さんいるんだ」
「いるよ。割と仲はいい方かな」

 後、とてつもなくいい性格してるよ、俺は多分兄の性癖がうつっちゃったのかもだね。

 千景は心の中で付け加えた。

「へえ、いいね。俺は一人っ子だからなぁ」
「ふーん? ……ねえ、一人暮らしの家ってどんなもん? 今から行っていい?」

 唐突に聞くと、優史はポカンとした後で「構わないよ」と頷いてきた。それは特に何かを期待しているのではなく、本当に普通に「どうぞ」といった様子だった。

 本当に基本ノンケの男って危機感ないよね。そのままレイプされる可能性とか考えない訳?

 千景は少々呆れたように思った。

 まあ、いきなりとって喰う気はこちらもないけれどもね。

 とはいえマンションに着き、自分の家に千景を入れた後でようやく優史はどこか落ち着かない様子になっていた。そんな優史の様子に気付きはしたが、とりあえず無視して部屋などを見せてもらう。
 部屋はいきなり訪問したにも関わらずきちんと片づけられていて、やはり根っから優等生なんだろうなと千景はしみじみ思った。そしてコーヒテーブルに置かれていたいくつかの本を見て微笑む。それらは今日行ったデザイン展を開いたデザイナーのエッセイだった。

 本当に、真面目でかわいい人。

 コーヒーを出してもらい、暫くはとりとめない話をしながら千景は思っていた。
 そろそろほんのり暗くなりかけてきた頃に、「夕食は、その、どうする?」と優史がおずおずと聞いてきた。

「あーそうだね、今日のところは俺、そろそろ帰るよ。コーヒー、ごちそうさま」

 千景はニッコリ立ちあがった。とたん、優史は「そ、そう」とあからさまにがっかりしている。

 普通ここまでわかりやすいと、萎えてくるんだけどね。

 千景はそっと微笑んだ。

「……あなたは本当にわかりやすい人だな」
「な、何、が!?」
「かわいいね、優史」

 千景は同じように立ち上がっていた優史に近づき、その顔を自分に引き寄せ、そっとキスする。
 いくらこちらを気にしているとはいえ、優史はノンケだ。さすがに男にいきなりキスされたら引くだろうかと少々思ったが、目を開けて優史を見ると、赤くなりながら少しトロンとしている。

 ほんと、素質、あるわ。

 千景は薄ら笑いながら、さらに引き寄せてもう一度その唇を今度は貪るように味わった。
 だがその場の流れだろう、優史が自分を抱きしめようとしてくるのに気づくと、スルリと離れて「じゃあ、またね」とニッコリ笑った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

くまさんのマッサージ♡

はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。 2024.03.06 閲覧、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。 2024.03.10 完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m 今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。 2024.03.19 https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy イベントページになります。 25日0時より開始です! ※補足 サークルスペースが確定いたしました。 一次創作2: え5 にて出展させていただいてます! 2024.10.28 11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。 2024.11.01 https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2 本日22時より、イベントが開催されます。 よろしければ遊びに来てください。

バイト先のお客さんに電車で痴漢され続けてたDDの話

ルシーアンナ
BL
イケメンなのに痴漢常習な攻めと、戸惑いながらも無抵抗な受け。 大学生×大学生

高校生の僕は、大学生のお兄さんに捕まって責められる

天災
BL
 高校生の僕は、大学生のお兄さんに捕まって責められる。

年上が敷かれるタイプの短編集

あかさたな!
BL
年下が責める系のお話が多めです。 予告なくr18な内容に入ってしまうので、取扱注意です! 全話独立したお話です! 【開放的なところでされるがままな先輩】【弟の寝込みを襲うが返り討ちにあう兄】【浮気を疑われ恋人にタジタジにされる先輩】【幼い主人に狩られるピュアな執事】【サービスが良すぎるエステティシャン】【部室で思い出づくり】【No.1の女王様を屈服させる】【吸血鬼を拾ったら】【人間とヴァンパイアの逆転主従関係】【幼馴染の力関係って決まっている】【拗ねている弟を甘やかす兄】【ドSな執着系執事】【やはり天才には勝てない秀才】 ------------------ 新しい短編集を出しました。 詳しくはプロフィールをご覧いただけると幸いです。

肌が白くて女の子みたいに綺麗な先輩。本当におしっこするのか気になり過ぎて…?

こじらせた処女
BL
槍本シュン(やりもとしゅん)の所属している部活、機器操作部は2つ上の先輩、白井瑞稀(しらいみずき)しか居ない。 自分より身長の高い大男のはずなのに、足の先まで綺麗な先輩。彼が近くに来ると、何故か落ち着かない槍本は、これが何なのか分からないでいた。 ある日の冬、大雪で帰れなくなった槍本は、一人暮らしをしている白井の家に泊まることになる。帰り道、おしっこしたいと呟く白井に、本当にトイレするのかと何故か疑問に思ってしまい…?

先生を誰が先に孕ませるかゲーム

及川雨音
BL
複数ショタ×おっぱい有りマッチョ両性具有先生総受け おっぱいとおしりがデカいむちむちエロボディー! 強姦凌辱調教洗脳脅迫誘導だけど愛があるから大丈夫! ヤンデレ気味なショタたちに毎日日替わりで犯されます! 【書いていくうちに注意事項変わりますので、確認してからお読みいただくよう、お願い致します】 *先生の肉体は淫乱なのですぐ従順になります。 *淫語強要されます。 *複数プレイ多め、基本は一対一です。ギャラリーがいるのはプレイの一環です。ある意味チームプレイです。 *詳しい女性器・生理描写が有ります。 *ゴミを漁る、トイレ盗撮、ハッキングなど犯罪とストーカー行為をナチュラルにしています。 *相手により小スカ、飲尿、おもらし、強制放尿有ります。 *相手により赤ちゃんプレイ、授乳プレイ有ります。 *パイズリ有り。 *オモチャ、拘束器具、クスコ、尿道カテーテル、緊縛、口枷、吸引機、貞操帯もどき使います。 *相手によりフィストファック有ります。 *集団ぶっかけ有り。 *ごく一般的な行動でも攻めにとってはNTRだと感じるシーン有ります。 *二穴責め有り *金玉舐め有り *潮吹き有り

浮気をしたら、わんこ系彼氏に腹の中を散々洗われた話。

丹砂 (あかさ)
BL
ストーリーなしです! エロ特化の短編としてお読み下さい…。 大切な事なのでもう一度。 エロ特化です! **************************************** 『腸内洗浄』『玩具責め』『お仕置き』 性欲に忠実でモラルが低い恋人に、浮気のお仕置きをするお話しです。 キャプションで危ないな、と思った方はそっと見なかった事にして下さい…。

隠れSな攻めの短編集

あかさたな!
BL
こちら全話独立、オトナな短編集です。 1話1話完結しています。 いきなりオトナな内容に入るのでご注意を。 今回はソフトからドがつくくらいのSまで、いろんなタイプの攻めがみられる短編集です!隠れSとか、メガネSとか、年下Sとか…⁉︎ 【お仕置きで奥の処女をもらう参謀】【口の中をいじめる歯医者】 【独占欲で使用人をいじめる王様】 【無自覚Sがトイレを我慢させる】 【召喚された勇者は魔術師の性癖(ケモ耳)に巻き込まれる】 【勝手にイくことを許さない許嫁】 【胸の敏感なところだけでいかせたいいじめっ子】 【自称Sをしばく女装っ子の部下】 【魔王を公開処刑する勇者】 【酔うとエスになるカテキョ】 【虎視眈々と下剋上を狙うヴァンパイアの眷属】 【貴族坊ちゃんの弱みを握った庶民】 【主人を調教する奴隷】 2022/04/15を持って、こちらの短編集は完結とさせていただきます。 最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。 ーーーーーーーーーーーーーーーーー 前作に ・年下攻め ・いじわるな溺愛攻め ・下剋上っぽい関係 短編集も完結してるで、プロフィールからぜひ!

処理中です...