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4章 帰還編 双神の輪
113話
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座り込んだまま聖杯を見ていると、そこに満ちていた光が五芒星の線に囲われた中をも満たしていく。その光はそのまま浮かび上がるようにさらに光り出し、辺りは眩しい輝きに包まれた。
その光の中に、人の姿が見える。男女どちらともわからないその存在を、流輝は昔から何度も何度も夢の中で見ていたことに気づいた。そして本能的に確信した。
ああ……アリータ神、だ。
そのアリータ神が二人に近づいてきた。その顔が見えた時、二人の脳裏に映像のようにこれまでの「光の救世主」の様子が浮かんでは消えていった。まるで走馬灯のように、時を遡るかのように、五人目、四人目、三人目と歴代の救世主の姿が、数々の記憶が浮かんでは消えていく。
彼らは二人と同じ世界から召喚されていたり、全く違う世界から召喚されていたりと様々だった。
愛おしい者を振り切って自身の世界へ悲しみを抱えながら帰還した救世主のことは、流輝は夢でも見たような気がする。というか見た夢を今の今までどれもことごとく忘れていたことに気づいた。
あまりに早い勢いで時が遡るせいで、時の流れにまるで少し激しい音楽を聞いているかのような錯覚を感じる。
そして流輝は見た。
一人の錬金術師が苦しむ姿を。
待って、これも……俺は夢で、見た。
穢れも何も知らない純粋な魂故に、ひたすら苦しみ、悲しみ、嘆いた錬金術師は、ずっと行っていた魔力の研究により闇の魔力を生み出してしまった。
身分の低さから受けていた迫害だけでなく、研究も認められず、飢えとともにつらい環境にいた錬金術師は潜在的に持っていた力と精神の不安定さも相まって、人間が扱ってはならないとされる能力を生み出したことになる。
闇の力は謎も多く、人間にとって恐ろしいものと見なされていた。それに闇だけでなく光も神が扱うものとして、人間は触れることすら禁忌と言われていた。
だが錬金術師は寂しさもあり、さらに闇の力で「魔獣」を作り出し、次に自分のしもべとして「魔族」を生み出した。魔族は闇の力を使った人体実験の結果であり、禁忌を超えた禁忌としか言いようのない行為だった。
見た……俺はこれを夢で、見た。なんでこんな夢を忘れていられたんだろう俺は。
だが夢で見ていないところも今は見えていた。
世界はそれが原因で魔獣が蔓延るようになる。魔族が人間を滅ぼそうとするようになる。
「あ……、あ」
流輝は体をがたがたと震わせた。そんな流輝に関わらず、浮かぶ出来事はどんどん遡っていく。最後にアリータ神と、そしてもう一人、双子の神の姿が見えた。
琉生も理解した。
二人は今、全ての真実と記憶を取り戻した。
「そんな……。まさか……まさか」
流輝は蒼白になり、足元から崩れ落ちるかのように倒れ込む。琉生はそんな流輝を支え、抱きしめた。
「……俺……、俺……。……そうだ、何度か俺、闇魔法の攻撃を受けたこと、あった……でもそれらが効いたこと、なかった、んだ……」
気のせいだろうかと首を傾げたりもしたが、今ならわかる。
「俺が……闇の神、モリーナだからだ」
光の神、アリータの双子の片割れであり、そして魔族たちが「魔王」として崇拝していた存在。それがモリーナであり、流輝はモリーナが転生した姿だった。
「そりゃ……そう、だよな。闇の神だもんな、闇魔法が効くわけ、ねーわ……」
元々は双子の創造神として、アリータとモリーナは存在していた。
アリータ神は剣技に優れ「癒し」と「浄化」の力を持っていた。
モリーナ神は魔法に優れ「安らぎ」と「眠り」の力を持っていた。
闇の神、モリーナも本来は心優しく正義感に溢れた神だった。闇の力も決して恐ろしいものではなく「安らぎ」「眠り」といった風に、穏やかで優しい力だった。
二人は自分たちが創造した世界を見守っていた。そうしているうちに、純粋で心優しいモリーナ神は人間に憧れるようになる。そしてモリーナ神は引き留めるアリータ神にどうしてもと別れを告げ、人間の世界へ降り立った。その魂はアリータ神の世界で人間として生まれ変わる。
だが人間の住む地上で生きていくには、真っ白で純粋な神であったモリーナ神にはあまりにも過酷だった。上から見守っているのと現実として生きるのでは全く勝手が違った。
モリーナ神の魂を持つ人間は嘆きや苦しみを何度も何度も経験しては生まれ変わりを繰り返した。そして何度目かの生、それが錬金術師だった。
元々闇の神であった魂を持つ錬金術師は不安定な精神の元で闇の魔力を作り出す。禁忌を重ね、人間の世界での闇に魅入られたモリーナ神の魂は、とうとう恐ろしい実験をしてしまった。
闇の魔力で魔獣を作り出し、エルフの亡骸を使って魔族を生み出した。その結果、人間の世界には魔獣が蔓延るようになった。気づけば人間であったはずが、魔王と呼ばれるようになっていた。
その後我に返り、自身の犯した罪の恐ろしさを思い知った。
アリータ神はどうしてもモリーナの魂を助けたかった。だが神は加護を送ることはできても直接干渉できない。
だからアリータ神は自分の親なる存在であるアスルガルタの元へ向かった。
アスルガルタは人間の創造神である双子のアリータとモリーナという神を作った聖神だ。人間には知られていない存在だが、全ての属性を兼ね備え絶対的権限を持っている。その姿は人の形を取っておらず、眩い靄につつまれたような状態としか双子の神も把握していない。
そんなアスルガルタならば人間の世界にも干渉できる。
その光の中に、人の姿が見える。男女どちらともわからないその存在を、流輝は昔から何度も何度も夢の中で見ていたことに気づいた。そして本能的に確信した。
ああ……アリータ神、だ。
そのアリータ神が二人に近づいてきた。その顔が見えた時、二人の脳裏に映像のようにこれまでの「光の救世主」の様子が浮かんでは消えていった。まるで走馬灯のように、時を遡るかのように、五人目、四人目、三人目と歴代の救世主の姿が、数々の記憶が浮かんでは消えていく。
彼らは二人と同じ世界から召喚されていたり、全く違う世界から召喚されていたりと様々だった。
愛おしい者を振り切って自身の世界へ悲しみを抱えながら帰還した救世主のことは、流輝は夢でも見たような気がする。というか見た夢を今の今までどれもことごとく忘れていたことに気づいた。
あまりに早い勢いで時が遡るせいで、時の流れにまるで少し激しい音楽を聞いているかのような錯覚を感じる。
そして流輝は見た。
一人の錬金術師が苦しむ姿を。
待って、これも……俺は夢で、見た。
穢れも何も知らない純粋な魂故に、ひたすら苦しみ、悲しみ、嘆いた錬金術師は、ずっと行っていた魔力の研究により闇の魔力を生み出してしまった。
身分の低さから受けていた迫害だけでなく、研究も認められず、飢えとともにつらい環境にいた錬金術師は潜在的に持っていた力と精神の不安定さも相まって、人間が扱ってはならないとされる能力を生み出したことになる。
闇の力は謎も多く、人間にとって恐ろしいものと見なされていた。それに闇だけでなく光も神が扱うものとして、人間は触れることすら禁忌と言われていた。
だが錬金術師は寂しさもあり、さらに闇の力で「魔獣」を作り出し、次に自分のしもべとして「魔族」を生み出した。魔族は闇の力を使った人体実験の結果であり、禁忌を超えた禁忌としか言いようのない行為だった。
見た……俺はこれを夢で、見た。なんでこんな夢を忘れていられたんだろう俺は。
だが夢で見ていないところも今は見えていた。
世界はそれが原因で魔獣が蔓延るようになる。魔族が人間を滅ぼそうとするようになる。
「あ……、あ」
流輝は体をがたがたと震わせた。そんな流輝に関わらず、浮かぶ出来事はどんどん遡っていく。最後にアリータ神と、そしてもう一人、双子の神の姿が見えた。
琉生も理解した。
二人は今、全ての真実と記憶を取り戻した。
「そんな……。まさか……まさか」
流輝は蒼白になり、足元から崩れ落ちるかのように倒れ込む。琉生はそんな流輝を支え、抱きしめた。
「……俺……、俺……。……そうだ、何度か俺、闇魔法の攻撃を受けたこと、あった……でもそれらが効いたこと、なかった、んだ……」
気のせいだろうかと首を傾げたりもしたが、今ならわかる。
「俺が……闇の神、モリーナだからだ」
光の神、アリータの双子の片割れであり、そして魔族たちが「魔王」として崇拝していた存在。それがモリーナであり、流輝はモリーナが転生した姿だった。
「そりゃ……そう、だよな。闇の神だもんな、闇魔法が効くわけ、ねーわ……」
元々は双子の創造神として、アリータとモリーナは存在していた。
アリータ神は剣技に優れ「癒し」と「浄化」の力を持っていた。
モリーナ神は魔法に優れ「安らぎ」と「眠り」の力を持っていた。
闇の神、モリーナも本来は心優しく正義感に溢れた神だった。闇の力も決して恐ろしいものではなく「安らぎ」「眠り」といった風に、穏やかで優しい力だった。
二人は自分たちが創造した世界を見守っていた。そうしているうちに、純粋で心優しいモリーナ神は人間に憧れるようになる。そしてモリーナ神は引き留めるアリータ神にどうしてもと別れを告げ、人間の世界へ降り立った。その魂はアリータ神の世界で人間として生まれ変わる。
だが人間の住む地上で生きていくには、真っ白で純粋な神であったモリーナ神にはあまりにも過酷だった。上から見守っているのと現実として生きるのでは全く勝手が違った。
モリーナ神の魂を持つ人間は嘆きや苦しみを何度も何度も経験しては生まれ変わりを繰り返した。そして何度目かの生、それが錬金術師だった。
元々闇の神であった魂を持つ錬金術師は不安定な精神の元で闇の魔力を作り出す。禁忌を重ね、人間の世界での闇に魅入られたモリーナ神の魂は、とうとう恐ろしい実験をしてしまった。
闇の魔力で魔獣を作り出し、エルフの亡骸を使って魔族を生み出した。その結果、人間の世界には魔獣が蔓延るようになった。気づけば人間であったはずが、魔王と呼ばれるようになっていた。
その後我に返り、自身の犯した罪の恐ろしさを思い知った。
アリータ神はどうしてもモリーナの魂を助けたかった。だが神は加護を送ることはできても直接干渉できない。
だからアリータ神は自分の親なる存在であるアスルガルタの元へ向かった。
アスルガルタは人間の創造神である双子のアリータとモリーナという神を作った聖神だ。人間には知られていない存在だが、全ての属性を兼ね備え絶対的権限を持っている。その姿は人の形を取っておらず、眩い靄につつまれたような状態としか双子の神も把握していない。
そんなアスルガルタならば人間の世界にも干渉できる。
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