上 下
100 / 120
3章 騎士編 光の救世主

99話

しおりを挟む
 流輝たちはロニーを救出した上でさらなる味方を得て、倉庫へ戻る道を急いだ。人数が増えたのもあり、目くらましの魔法は下手をすれば途中で切れてしまうかもしれないと思い、流輝は戻りではかけるのをやめた。どのみちロニーを回収できたことだしそこまで厳密に潜むこともないだろう。見つかれば倒すしかない。正妃たちのいる倉庫も精鋭騎士がいるのでそこまで不安はなかった。
 そんな油断があったのか、途中背後から来た魔族の兵士に見つかり咄嗟に闇魔法を放たれ、流輝を含めた数名がその攻撃を受けた。
 はずだったが、流輝は全くの無傷だった。咄嗟だったにも関わらず誰かハーフブラットの騎士が魔法でガードしてくれたのかと思ったが、キャスたちを見ると致命傷ではないもののそこそこの傷を負っている。ハーフブラットの騎士たちが前へ出て襲ってきた魔族の兵士に対抗してくれている間に流輝はあまり得意ではない回復魔法を皆に使った。

「……リキ様の回復は驚くくらい確実に治るんですが……驚くくらい痛いですよね」
「ならキャスだけ傷負っとくか」
「とんでもない。愛の痛みだと俺は……」
「ちょっと黙ってて」

 流輝も仕返しだとばかりに風魔法で相手方の兵士たちを切り裂いた。昔ほど人型をした魔族への攻撃に抵抗はないが、それでも気持ちのいいものではない。だがあまり騒ぎになるといくら精鋭ばかりだと言えども少人数のこちらは不利だ。だから確実に倒すしかない。
 見つからないよう行きの時と同じく目くらましの魔法を使ってもいいのだが、意識をある程度そちらに保つ必要があるため人が増えると完璧に使いこなし辛い。むしろ絶対見つかってはいけない時に解除されてしまうと余計に厄介なため、初めから使わないでいた。

 つか、昔もこういうこと、あったよな?

 いや、その時とは状況などは違うのだろうか。

 あの時もいつの間にか近づいていた強い魔獣に闇魔法を使われて……でも確かソリアが助けてくれたんだっけか。だからあの時も俺、何ともなかったんだったよな?

 だが先ほどは間違いなく流輝はキャスたちと同様の状況だったはずだ。しかし実際は流輝は無傷で、キャスたち数名は魔法攻撃を受け負傷していた。

 どういうことだ……? たまたま偶然俺だけ当たらなかった? そんな偶然ある? いやまあ、ないとも言えない、か?

「リキ殿」

 考えごとをしていたらセオに呼ばれた。

「はい」
「私の油断で申し訳ありません」
「……? えっと、何の話です?」
「魔族の兵士に見つかり、攻撃を受ける羽目に」
「え? ああ、さっきの。いや、何で殿下が謝るんです。不可抗力じゃないですか」
「いえ。あなたは光の救世主だ。見つかるという状況すら避けなければならない上に、万が一の時は命に代えても守らなければならない存在なんです。ですが私は無傷で……」
「俺も無傷でしたよ。それにそんな気遣いはマジで不要です。やめていただきたい」
「しかし」
「しかしも『かかし』もねーんですよ」
「カカ……シ?」
「そこは流して。殿下、俺は申し訳ないですけど強いですよ。殿下が五人に増えて俺にかかってきても倒す自信あります。そんな俺に対してモールザ王国の未来がかかってる殿下の命に代えられつつ守られても困ります」

 流輝の言葉にセオはぽかんとした顔をしてきた。だが次の瞬間には笑ってきた。思わずといった様子で吹いた後に口を押え、セオは「なるほど」と流輝を見てきた。

「確かにそうですね。では頼りにさせてもらいます」
「はい、すげー頼ってください」

 倒した兵士は他の敵の目に触れないよう、近くにあった部屋の中に押し込んでおいた。
 さらに進みながら、流輝はふと気づいてキャスに「なんかさ」と話しかける。

「どうかされましたか」
「いや、城内が少し騒がしくねえかな」
「……、……確かに」
「もしかしてさっき倒したやつらのこと、バレた?」
「……いえ、騒がしいのはまた別の方面からのような気がします」

 目を瞑ってさらに耳を澄ましたのか、少ししてからキャスが答えてきた。

「……じゃあ何かあったのかな」
「そうかもしれません」

 その時、城の外に待機している者から通信機を通じて連絡が入った。ちなみに城外に待機してもらっているのは転移魔法が使える魔術師と少しの騎士たちだ。王国の外へ繋げてある転移魔法をすぐに使えるよう構えてもらっている。
 どうやら神殿付近で魔族の動きがあったのか、神殿へ向けて琉生たちメンバーが向かったようだ。それとともに各国の援軍も神殿へ出発したらしい。

 なるほど……その知らせがここにいる魔族たちにも入ったんだな?

 城内が少々騒がしく感じた理由はおそらくそれだろう。流輝はセオたちにも通信機で聞いた話を告げた。そして手首にある絆の輪を指で触れ、流輝は琉生の無事を祈った。
 昔だったら離れた状態というだけで居ても立っても居られなかっただろう。離れているだけでなく琉生が危険な場所へ赴くことなど、到底耐えられなかっただろう。だが今は違う。琉生も強くなったし信頼している。

 大丈夫だ……大丈夫。だけど無事でいてくれ。

「美しい輪ですね」

 流輝の手首に気づいたロニーが続けてきた。

「どれほどの絆と信頼で固く結ばれているのかよくわかります」
「ありがとうございます、第二王子殿下」
「ひょっとして、もう一人の光の救世主、ルイ殿と結ばれた絆の輪、ですか?」
「はい。ルイも神殿へ向かっていて。無事を祈ってました」
「助けにきてもらった僕が言うことではありませんし、言われたくもないかもしれませんが……きっとルイ殿にもリキ殿と同じように信頼と絆で結ばれた多くの騎士や魔術師がついているのだと思います。それにニューラウラ王国だけでなく他の二国の味方もついている。だからきっと大丈夫、です」
「……はは。ありがとうございます殿下。言われたくないなんてとんでもない。すげー心強かったです」

 ロニーの優しい言葉に流輝は笑いかけた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

転生墓守は伝説騎士団の後継者

深田くれと
ファンタジー
 歴代最高の墓守のロアが圧倒的な力で無双する物語。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

処理中です...