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14話
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いつも以上にぼんやりとしていたせいで、真尋が気づいた時には佐紅はもういなかった。先に帰ったのだろうかと見回してからついでに雄大を探すが、雄大もいない。
帰ろうと真尋は仕方なく教室を出た。すると廊下の向こうから、この間佐紅と楽しそうに談笑していた女子が別の女子と話をしながら歩いてきていた。
つい意識していたからだろう、すれ違う時に会話が聞こえてきた。
「私、月島くんに告ってみようかなぁ」
「マジで」
「んー。さっき彼女作ろうかなぁって言ってんの聞いちゃったんだ!」
それを聞いた瞬間、真尋はドキリとした。こういう時は顔に出ないタイプでむしろよかったと思う。二人が離れていった後に真尋は静かにため息を吐いた。そのまま俯き気味で学校を出る。
途中、知らない二人組が話に夢中になっていたのか少しぶつかってきた。真尋もいちおう「……すまない」と呟く。
「あ? 待てよ、なんだよその適当な謝り方」
「もっとちゃんと謝れるだろぉ?」
ぶつかってきたのは相手側だとは思ったが、もしかしたらこちらの方がかなり背があるため知らない内に強くぶつかっていたのだろうかと真尋はそっと首を傾げる。俯いていたため気づかなかった。
「ぁあ? 聞いてんのかコラ」
とりあえず謝り方が気に食わないというのなら改めて言い直せばいいのだろうと真尋は背筋を伸ばした。身長差があるため、わりと見下ろす形になるが仕方がない。
「すまない」
真剣に言えば恐らく伝わるだろうかと低い声でじっと二人を見れば、何故か思い切り引かれたような顔をされた。
「い、いえ」
「こ、こちらこそすみませんでした……!」
そして何故か急に妙な態度になったかと思うと走り去ってしまった。
「……謝り方、まだ駄目だったのか……?」
ぼそりと呟くと、とりあえず真尋は歩き出した。
そういえば佐紅が「お前はまず敬語をちゃんと使えるようにしろ」と言っていたことを思い出す。今ここに佐紅がいれば怒られていたかもしれない。
「またお前は偉そうな言い方で……こういう場合はすみませんだろ」
そんな声が聞こえたような気がして少し周りを見るが、当然佐紅はいない。
「……すみません」
先ほどの二人はもういないが、真尋は言い直してみる。
――よくできたな――
そばにいたらきっと笑って言ってくれる気がした。
帰宅して着替えた途端、真尋はベッドに突っ伏す。ぎゅっと枕を抱きしめると同時に唇を噛みしめた。
俺はさくがいないと駄目だ。さっきみたいにいない時ですら、さくの言葉を思い出して理解したり学習したりしている。何故好きになっちゃ駄目なんだ。
さらにぎゅっと枕を抱きしめる。だがあまりに唇を噛みしめていると、ピアスを開けた時に佐紅が言った言葉を思い出す。
「まひろが自分の体を勝手に傷つけたのに腹が立っただけだ」
噛みしめ過ぎたら唇を切る、とそこでようやくハッとなり、噛みしめるのを止めた。
……ほら、こうしていつだって俺はさく、なのに。
佐紅は彼女を作ろうとしている。作ったら、自分はどうすればいいのだろうと真尋は呆然とする。もちろん、佐紅は今までも彼女がいても真尋と仲よくしてくれた。さすがに彼女がいる時は触れさせてくれなかったが、いつだって面倒を見てくれたり相手をしてくれた。
だが今は状況が違う。真尋は佐紅のことを好きだと自覚してしまった。佐紅は好きになったら駄目だと言うし、真尋は真尋で佐紅にできた彼女に対して本気で好きになられたら本当にどうすればいいかわからない。今こうして考えるだけで落ち着かなくて焦る。
真尋は散々悩んだ末、夜になってベランダへ出た。そして佐紅の部屋方向を見る。避けられているのも、真尋に対して怒っているのも知っている。
ただ、それが「好きだ」と言ったせいだとはわかっても何故なのかどうにも真尋にはわからないし、行動しないまま結局後悔するのは真尋が嫌だった。なによりも嫌なのは佐紅が誰かのものになることだ。
締め出され、さすがに数日間は自重していたが、数日ぶりにベランダから佐紅の部屋の前に来るとドキドキとしながら少し躊躇もする。部屋をそっと覗くと、佐紅が机に突っ伏すようにして座っていた。
「……さく」
鍵が開いているのを確かめて窺うようにして部屋へ入った。気づいた佐紅が驚いたように振り返ってきた。
「まひろ……。……閉めるの、忘れてたのか……」
ぼそりと呟いている佐紅に真尋は近づいた。
「開いていてよかった。俺、さくと話がしたくて」
佐紅は戸惑ったような表情をしながら立ちあがった。そして真尋を見上げてくる。
「……俺もお前と話をしないとって思ってた」
佐紅も話を、と思ってくれていたことに真尋は嬉しさを覚えた。だが佐紅の表情は明るくない。また「好きになったら駄目だ」と言われるのだろうか。だとしても何故駄目なのか自分からはっきり聞かなくてはと真尋は思う。あと、佐紅は真尋をどう思っているのかが何より聞きたい。
好きになったら駄目だと言われた時点で恐らく「好きではない」ということなのだろうが、ではどう思っているのだろう。
幼馴染としては好き?
それともさくをそういう目で見た時点で嫌いになった?
それすらもわからないのだ。そんなことを考えていると、佐紅が言いづらそうにしながら話し続けてきた。
「まひろ……、……俺、……俺もお前のこと、好きだよ。でもな、俺らは男同士だろ? だからな、付き合ったとしてもこれから先――」
「さく……!」
途中から佐紅の話は頭に入ってこなくなった。佐紅が自分のことを好きだと言った瞬間から、もう佐紅という存在しか頭になかった。
話していることをまるで遮るかのように、真尋は佐紅を思い切り抱きしめた。
帰ろうと真尋は仕方なく教室を出た。すると廊下の向こうから、この間佐紅と楽しそうに談笑していた女子が別の女子と話をしながら歩いてきていた。
つい意識していたからだろう、すれ違う時に会話が聞こえてきた。
「私、月島くんに告ってみようかなぁ」
「マジで」
「んー。さっき彼女作ろうかなぁって言ってんの聞いちゃったんだ!」
それを聞いた瞬間、真尋はドキリとした。こういう時は顔に出ないタイプでむしろよかったと思う。二人が離れていった後に真尋は静かにため息を吐いた。そのまま俯き気味で学校を出る。
途中、知らない二人組が話に夢中になっていたのか少しぶつかってきた。真尋もいちおう「……すまない」と呟く。
「あ? 待てよ、なんだよその適当な謝り方」
「もっとちゃんと謝れるだろぉ?」
ぶつかってきたのは相手側だとは思ったが、もしかしたらこちらの方がかなり背があるため知らない内に強くぶつかっていたのだろうかと真尋はそっと首を傾げる。俯いていたため気づかなかった。
「ぁあ? 聞いてんのかコラ」
とりあえず謝り方が気に食わないというのなら改めて言い直せばいいのだろうと真尋は背筋を伸ばした。身長差があるため、わりと見下ろす形になるが仕方がない。
「すまない」
真剣に言えば恐らく伝わるだろうかと低い声でじっと二人を見れば、何故か思い切り引かれたような顔をされた。
「い、いえ」
「こ、こちらこそすみませんでした……!」
そして何故か急に妙な態度になったかと思うと走り去ってしまった。
「……謝り方、まだ駄目だったのか……?」
ぼそりと呟くと、とりあえず真尋は歩き出した。
そういえば佐紅が「お前はまず敬語をちゃんと使えるようにしろ」と言っていたことを思い出す。今ここに佐紅がいれば怒られていたかもしれない。
「またお前は偉そうな言い方で……こういう場合はすみませんだろ」
そんな声が聞こえたような気がして少し周りを見るが、当然佐紅はいない。
「……すみません」
先ほどの二人はもういないが、真尋は言い直してみる。
――よくできたな――
そばにいたらきっと笑って言ってくれる気がした。
帰宅して着替えた途端、真尋はベッドに突っ伏す。ぎゅっと枕を抱きしめると同時に唇を噛みしめた。
俺はさくがいないと駄目だ。さっきみたいにいない時ですら、さくの言葉を思い出して理解したり学習したりしている。何故好きになっちゃ駄目なんだ。
さらにぎゅっと枕を抱きしめる。だがあまりに唇を噛みしめていると、ピアスを開けた時に佐紅が言った言葉を思い出す。
「まひろが自分の体を勝手に傷つけたのに腹が立っただけだ」
噛みしめ過ぎたら唇を切る、とそこでようやくハッとなり、噛みしめるのを止めた。
……ほら、こうしていつだって俺はさく、なのに。
佐紅は彼女を作ろうとしている。作ったら、自分はどうすればいいのだろうと真尋は呆然とする。もちろん、佐紅は今までも彼女がいても真尋と仲よくしてくれた。さすがに彼女がいる時は触れさせてくれなかったが、いつだって面倒を見てくれたり相手をしてくれた。
だが今は状況が違う。真尋は佐紅のことを好きだと自覚してしまった。佐紅は好きになったら駄目だと言うし、真尋は真尋で佐紅にできた彼女に対して本気で好きになられたら本当にどうすればいいかわからない。今こうして考えるだけで落ち着かなくて焦る。
真尋は散々悩んだ末、夜になってベランダへ出た。そして佐紅の部屋方向を見る。避けられているのも、真尋に対して怒っているのも知っている。
ただ、それが「好きだ」と言ったせいだとはわかっても何故なのかどうにも真尋にはわからないし、行動しないまま結局後悔するのは真尋が嫌だった。なによりも嫌なのは佐紅が誰かのものになることだ。
締め出され、さすがに数日間は自重していたが、数日ぶりにベランダから佐紅の部屋の前に来るとドキドキとしながら少し躊躇もする。部屋をそっと覗くと、佐紅が机に突っ伏すようにして座っていた。
「……さく」
鍵が開いているのを確かめて窺うようにして部屋へ入った。気づいた佐紅が驚いたように振り返ってきた。
「まひろ……。……閉めるの、忘れてたのか……」
ぼそりと呟いている佐紅に真尋は近づいた。
「開いていてよかった。俺、さくと話がしたくて」
佐紅は戸惑ったような表情をしながら立ちあがった。そして真尋を見上げてくる。
「……俺もお前と話をしないとって思ってた」
佐紅も話を、と思ってくれていたことに真尋は嬉しさを覚えた。だが佐紅の表情は明るくない。また「好きになったら駄目だ」と言われるのだろうか。だとしても何故駄目なのか自分からはっきり聞かなくてはと真尋は思う。あと、佐紅は真尋をどう思っているのかが何より聞きたい。
好きになったら駄目だと言われた時点で恐らく「好きではない」ということなのだろうが、ではどう思っているのだろう。
幼馴染としては好き?
それともさくをそういう目で見た時点で嫌いになった?
それすらもわからないのだ。そんなことを考えていると、佐紅が言いづらそうにしながら話し続けてきた。
「まひろ……、……俺、……俺もお前のこと、好きだよ。でもな、俺らは男同士だろ? だからな、付き合ったとしてもこれから先――」
「さく……!」
途中から佐紅の話は頭に入ってこなくなった。佐紅が自分のことを好きだと言った瞬間から、もう佐紅という存在しか頭になかった。
話していることをまるで遮るかのように、真尋は佐紅を思い切り抱きしめた。
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