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コロッケ、ほんと美味かったな。
そんなことを思いつつ、夜、勉強が切りのいいところまできたので智空は温かいココアでも入れようと部屋を出た。すると克海の部屋から話し声が聞こえてきた。壁やドアを隔てているので明確ではないが、多分陸史もいる。恐らく二人で酒でも飲んでいるのだろう。たまにあることだ、と思いその場を離れながらも智空はモヤモヤした気持ちになった。
何より狡い。二人だけ大人で、自分だけが未成年だ。自分だけが酒を飲めない。いや、克海や陸史も同じく未成年だった頃だって狡いのは変わらなかった。二人だけ年齢が近い。自分だけが少し離れている。いつだって克海は智空を完全な弟扱いだった。弟に対する接し方でしかない。陸史には違う。基本的には兄として接しているが、時折呼び捨てにしたりして、智空からすれば対等な感じに見える。
今も酒を飲まないという条件で二人の間に入ったとしても、きっと「明日に差し支える」「まだ高校生なんだから」と弟を通り越して子ども扱いすらしてくるだろう。自分たちだって大学生とはいえまだ学生に違いないくせに。本当に狡いし腹立たしいと思う。その上で実際にまだ子どもな自分にも腹が立つし、到底陸史に適わないであろう自分にも腹が立つ。
コロッケで喜んでいる自分が改めて子どものように思え、智空はココアを入れるのも止めて自分の部屋へ戻った。
「あれー? 今日は昨日と一変して不機嫌ないつもの智空ちゃんだな。何かあった?」
「二言くらい余計なんだよ、何でもない」
朝から相田が楽しそうに顔を覗き込んでくるので、智空は遠慮なく相田の顔をぐっと押し退けた。
これでもバスケットボール部所属なので、今日は「朝練があったの忘れてた」と急いでいる振りして、克海や陸史と顔あまり顔を合わせることなく家を出ていた。一人でイライラしただけで別に実際は気まずいことなど何もないというのにどうにも落ち着かなくて、二人と顔を合わせたくなかった。
こういうところもやはり子どもなのだろう。ちなみに実際は朝練などなかったので、時間を持て余して駅のホームでぼんやり途方にくれたように座っていると、目ざとく相田に見つかったという訳だった。朝から煩いのに会って余計にイライラして学校へ来ると、山部に「お疲れ」と頭を撫でられた。
とりあえず昨夜から続いているモヤモヤをどうすることもできず、智空は机に突っ伏した。すると携帯電話の着信音が聞こえてきた。どうやら昨日ちょっとした猫動画を見た際に音を消し忘れてそのままだったらしい。とりあえず音を消そうと携帯電話を取り出すと、ディスプレイに「かつ兄」と表示されていた。突っ伏した状態のまま智空はそれをまじまじと見る。
「智空くーん? お兄ちゃんからだよね、出ないの?」
「出るよ煩いな」
楽しそうに覗き込んでくる相田をジロリと睨む。
何でこんなに鬱陶しいかわかった。こいつ、たまにウザい時のあつ兄に似てんだよな。
そんなことを思いながら出ると、電話の向こうからホッとしたようなため息が聞こえた。それだけで耳がくすぐったい。
『お前、弁当忘れただろ』
そういえば今朝はそのまま急いで出てきたから弁当を受け取るのを忘れていたようだ。
「あ……」
『持ってきた。下まで取りに来てくれる?』
「え、マジ、で」
『うん。今、来られる?』
「……うん、行く」
電話を切ると智空は立ち上がった。
「ちょっと下まで行ってくる」
「え、何。どゆこと。お前の兄さん来てんの?」
「絶対ついてくんなよ。来たら殺す」
「こぇえよ!」
煩い、こちとら今、色んな感情で一杯一杯なんだよ。
慌てて教室を出て、智空は下へ急いだ。自分のせいで克海に手間をかけてしまった申し訳なさと、迷惑をかけてしまう自分の至らなさ。そしてわざわざ自分のために持ってきてくれた嬉しさ。それらが一度に押し寄せてきて智空の中でぐるぐるしている。
昇降口で靴を履き替え、智空は校門へ急いだ。部外者でも身内ならさらっと入れたらいいのになどと駆けながら思う。門に人影が見えると、ますます走るペースを速めた。
「智空」
気づいた克海が笑顔で手を上げたは。ようやく到着した智空は、ずっと走ってきたせいで乱れた息を整えながら「忘れても適当に買うからいいのに」などと言ってしまう。そして内心、そこはまずありがとうだろと自分に突っ込んだ。
「お前なあ。せっかく母さんが作ってくれたのにそんなこと言ったら駄目だろ」
「ん……、あり、がと」
何とか目を逸らしながらも礼は言えた。そんな智空の頭に克海の手がポンと乗った。先ほど山部に頭を撫でられた時は特に何とも思わなかったが、克海に触れられたというだけで智空の中からぶわっと感情の高ぶりが溢れる。朝からずっと不機嫌でモヤモヤしていた気持ちは、一気に浄化されたように消えていった。
「……俺、単純すぎだろ……」
「ん?」
「……何でもない。わざわざありがと、かつ兄」
「ああ。じゃあな」
克海はニコニコした顔でまた手を上げ、立ち去っていった。智空はずっとその後ろ姿を見ていた。だが途中で始業を知らせるチャイムが聞こえてきて、慌ててまた教室へ向かった。
そんなことを思いつつ、夜、勉強が切りのいいところまできたので智空は温かいココアでも入れようと部屋を出た。すると克海の部屋から話し声が聞こえてきた。壁やドアを隔てているので明確ではないが、多分陸史もいる。恐らく二人で酒でも飲んでいるのだろう。たまにあることだ、と思いその場を離れながらも智空はモヤモヤした気持ちになった。
何より狡い。二人だけ大人で、自分だけが未成年だ。自分だけが酒を飲めない。いや、克海や陸史も同じく未成年だった頃だって狡いのは変わらなかった。二人だけ年齢が近い。自分だけが少し離れている。いつだって克海は智空を完全な弟扱いだった。弟に対する接し方でしかない。陸史には違う。基本的には兄として接しているが、時折呼び捨てにしたりして、智空からすれば対等な感じに見える。
今も酒を飲まないという条件で二人の間に入ったとしても、きっと「明日に差し支える」「まだ高校生なんだから」と弟を通り越して子ども扱いすらしてくるだろう。自分たちだって大学生とはいえまだ学生に違いないくせに。本当に狡いし腹立たしいと思う。その上で実際にまだ子どもな自分にも腹が立つし、到底陸史に適わないであろう自分にも腹が立つ。
コロッケで喜んでいる自分が改めて子どものように思え、智空はココアを入れるのも止めて自分の部屋へ戻った。
「あれー? 今日は昨日と一変して不機嫌ないつもの智空ちゃんだな。何かあった?」
「二言くらい余計なんだよ、何でもない」
朝から相田が楽しそうに顔を覗き込んでくるので、智空は遠慮なく相田の顔をぐっと押し退けた。
これでもバスケットボール部所属なので、今日は「朝練があったの忘れてた」と急いでいる振りして、克海や陸史と顔あまり顔を合わせることなく家を出ていた。一人でイライラしただけで別に実際は気まずいことなど何もないというのにどうにも落ち着かなくて、二人と顔を合わせたくなかった。
こういうところもやはり子どもなのだろう。ちなみに実際は朝練などなかったので、時間を持て余して駅のホームでぼんやり途方にくれたように座っていると、目ざとく相田に見つかったという訳だった。朝から煩いのに会って余計にイライラして学校へ来ると、山部に「お疲れ」と頭を撫でられた。
とりあえず昨夜から続いているモヤモヤをどうすることもできず、智空は机に突っ伏した。すると携帯電話の着信音が聞こえてきた。どうやら昨日ちょっとした猫動画を見た際に音を消し忘れてそのままだったらしい。とりあえず音を消そうと携帯電話を取り出すと、ディスプレイに「かつ兄」と表示されていた。突っ伏した状態のまま智空はそれをまじまじと見る。
「智空くーん? お兄ちゃんからだよね、出ないの?」
「出るよ煩いな」
楽しそうに覗き込んでくる相田をジロリと睨む。
何でこんなに鬱陶しいかわかった。こいつ、たまにウザい時のあつ兄に似てんだよな。
そんなことを思いながら出ると、電話の向こうからホッとしたようなため息が聞こえた。それだけで耳がくすぐったい。
『お前、弁当忘れただろ』
そういえば今朝はそのまま急いで出てきたから弁当を受け取るのを忘れていたようだ。
「あ……」
『持ってきた。下まで取りに来てくれる?』
「え、マジ、で」
『うん。今、来られる?』
「……うん、行く」
電話を切ると智空は立ち上がった。
「ちょっと下まで行ってくる」
「え、何。どゆこと。お前の兄さん来てんの?」
「絶対ついてくんなよ。来たら殺す」
「こぇえよ!」
煩い、こちとら今、色んな感情で一杯一杯なんだよ。
慌てて教室を出て、智空は下へ急いだ。自分のせいで克海に手間をかけてしまった申し訳なさと、迷惑をかけてしまう自分の至らなさ。そしてわざわざ自分のために持ってきてくれた嬉しさ。それらが一度に押し寄せてきて智空の中でぐるぐるしている。
昇降口で靴を履き替え、智空は校門へ急いだ。部外者でも身内ならさらっと入れたらいいのになどと駆けながら思う。門に人影が見えると、ますます走るペースを速めた。
「智空」
気づいた克海が笑顔で手を上げたは。ようやく到着した智空は、ずっと走ってきたせいで乱れた息を整えながら「忘れても適当に買うからいいのに」などと言ってしまう。そして内心、そこはまずありがとうだろと自分に突っ込んだ。
「お前なあ。せっかく母さんが作ってくれたのにそんなこと言ったら駄目だろ」
「ん……、あり、がと」
何とか目を逸らしながらも礼は言えた。そんな智空の頭に克海の手がポンと乗った。先ほど山部に頭を撫でられた時は特に何とも思わなかったが、克海に触れられたというだけで智空の中からぶわっと感情の高ぶりが溢れる。朝からずっと不機嫌でモヤモヤしていた気持ちは、一気に浄化されたように消えていった。
「……俺、単純すぎだろ……」
「ん?」
「……何でもない。わざわざありがと、かつ兄」
「ああ。じゃあな」
克海はニコニコした顔でまた手を上げ、立ち去っていった。智空はずっとその後ろ姿を見ていた。だが途中で始業を知らせるチャイムが聞こえてきて、慌ててまた教室へ向かった。
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