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170話
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アルスはもしかして実は本当に頭、悪いとかじゃないだろうな。
思わずそんな心配してしまうのも無理はないとファインは自分に言い聞かせるように思った。本当に何を言い出すのか。心底「こいつ大丈夫か」とさすがのファインでも思ってしまう。
「襲ってみてくんないかな」
「ファインが言ってることは、わかってる。わかってないのは俺自身のことなんだ。こればかりはファインだってわかんないだろ? 教えてもらうわけにいかないんだ。だから自分で考えなきゃなんだけど、俺は考えるの得意じゃない。じゃあ実際そうなってみればわかるだろ」
爆弾発言からの、一見まともそうな話。思わず「あー」と頷きそうになり、ファインは自分への戒めも含め「馬鹿野郎」とアルスを見た。
そんなわけ、あるか。やってみなきゃわからねえとか、いかにもっぽいけど、そんなわけ、あるか。
一見冷静そうに見えるかもしれないが、その実心の中では頭を抱え「ああああもう」と叫んでいた。
「何でそんなに拒否するんだ」
アルスが怪訝そうに聞いてくる。怪訝な気持ちなのはこちらだと思いつつ、ファインは思い切りため息ついた。
「何で? 何で、だと? 襲ってみてくれと言われてニコニコ笑えとでも言うのか?」
「そうは言わないけど……あ、もしかして勘違いしてる?」
「え?」
「襲ってみてってのはさ、性的な意味でだよ。俺を殴ったりといった暴行を加えてみてくれって言ってるんじゃなくて」
何も勘違いしてねえんだよ……!
「俺がそっちを浮かべるとでも……? 第一性的に襲えってお前、意味わかってんの」
今度こそ実際でも頭を抱え、絞り出すようにファインは口にした。
「それ、は……何となく、しかわからないけど、でもあれだろ。前にしたこととか、その、子作り的なこと、だろ」
「そうですけど……」
「何で敬語?」
「……あのなあ、オレはお前の口から子作りって言葉が出るだけでヤバいんだよ。それこそわかってねえだろな。それくらい、お前に対して邪な目、向けてるし、そういうことしたいとずっと思ってた」
「だったら……」
だったらすればいいじゃないか、と言おうとしたのであろうアルスの口元へファインは手を伸ばした。そして軽くだがその手で口を塞ぐ。
「軽く言ってくれんな。そういうことしたくてたまらねえ反面、お前を大事にしたくてたまらなくもあんだよ。お前に対してその辺の娼婦みたいな扱い、オレができると思ってんのか。やめてくれ」
もったいないことをしているのかもしれない。アルスは冗談で言ったわけではないだろうし、それこそ子どもができてしまう可能性もある女と違い、男同士だけに軽く考えればいいのかもしれない。重く考えすぎているのかもしれない。
もっと気軽にやって、お互い「こんな感じか」と笑いあって、その上アルスはわからないと思っていることもはっきりするのかもしれない。
それでも、ファインとしては簡単にしていいことだと思えなかった。大切な、大事なアルスがファインを愛しい相手だと思った上で抱き合いたいと思っていないのであれば、手を出すべきじゃないとしか思えなかった。
以前、アルスに「ファインってさ、わりとロマンチスト」と言われたことを思い出した。セルゲイの城に滞在した時だっただろうか。
「わりとロマンチストだよなぁって前からたまに思ってて」
「オレが? ロマンチストだって?」
言われた時はぽかんとした。自分をロマンチストだなどと思ったこともなかったし、言われてもピンとこなかった。ただ指摘されたように星を眺めたり綺麗な景色を眺めるのは好きだし、そこにアルスがいれば最高だろうなとは思った。
それを思い出す。
今も、オレはやっぱりロマンチストだからこんな生ぬるいこと、思ってんのか?
据え膳を食べようともせずむしろ説教じみたことを言っている気もしないではない。何ならロマンチストではなく中身は年寄りなのかもしれない。
それでも、やはりファインのことを好きだと自覚していないアルスをどうこうする気にはなれなかった。
……いや、すげーしたいよ。すげーしたいけども! できねえ……きっとアルスの頼まれるまま、それに欲望のままやってもオレは後で後悔する。
以前アルスを助けるための流れでアルスの足を借りて抜かせてもらった時も、その後ひたすら後悔したし、いまだに申し訳なく思っている。さらに手を出すなど、どれほど負の感情を抱えるか計り知れない。
「……ごめん、ファイン。俺はもしかして、最低最悪の提案をしたのかな」
「……ろくでもねえ案だってのは否定しねえ。でも謝らなくていい。そんなアルスひっくるめて、オレはお前が好きだし、ある意味アルスらしいから。謝らなくていい。でも、頼むから気軽にそういうこと、言わねえでくれ」
「……うん。わかった」
「オレはな、もちろんお前とエロいこと、したい」
「え? あ、えっと、う、うん」
何故か顔を赤くして動揺しているように見える。つい今しがた「襲ってみてくれ」と言ってきた張本人とは思えねえなとファインは微妙な顔でさらにアルスを見た。
「してえけど、お前が大事だからしない。ここ、わかってくれ。あ、キスだけはもうやっちゃってるし、続けさせてくださいお願いします」
「ファイン……何かカッコよさげだったのに一気に残念な感じだけど、うん。いいよ」
「……えっと。そんで、急がねえしずっとわからねえなら仕方ねえ。それでもいい。でも、もしアルス、お前もオレのこと、好きだって思えた時は、お前が嫌だっつってもやるかもだからな。覚えとけ」
「そ、っか」
動揺していたアルスは少しポカンとした後に笑顔になった。そして「うん、わかった」と頷いた。
思わずそんな心配してしまうのも無理はないとファインは自分に言い聞かせるように思った。本当に何を言い出すのか。心底「こいつ大丈夫か」とさすがのファインでも思ってしまう。
「襲ってみてくんないかな」
「ファインが言ってることは、わかってる。わかってないのは俺自身のことなんだ。こればかりはファインだってわかんないだろ? 教えてもらうわけにいかないんだ。だから自分で考えなきゃなんだけど、俺は考えるの得意じゃない。じゃあ実際そうなってみればわかるだろ」
爆弾発言からの、一見まともそうな話。思わず「あー」と頷きそうになり、ファインは自分への戒めも含め「馬鹿野郎」とアルスを見た。
そんなわけ、あるか。やってみなきゃわからねえとか、いかにもっぽいけど、そんなわけ、あるか。
一見冷静そうに見えるかもしれないが、その実心の中では頭を抱え「ああああもう」と叫んでいた。
「何でそんなに拒否するんだ」
アルスが怪訝そうに聞いてくる。怪訝な気持ちなのはこちらだと思いつつ、ファインは思い切りため息ついた。
「何で? 何で、だと? 襲ってみてくれと言われてニコニコ笑えとでも言うのか?」
「そうは言わないけど……あ、もしかして勘違いしてる?」
「え?」
「襲ってみてってのはさ、性的な意味でだよ。俺を殴ったりといった暴行を加えてみてくれって言ってるんじゃなくて」
何も勘違いしてねえんだよ……!
「俺がそっちを浮かべるとでも……? 第一性的に襲えってお前、意味わかってんの」
今度こそ実際でも頭を抱え、絞り出すようにファインは口にした。
「それ、は……何となく、しかわからないけど、でもあれだろ。前にしたこととか、その、子作り的なこと、だろ」
「そうですけど……」
「何で敬語?」
「……あのなあ、オレはお前の口から子作りって言葉が出るだけでヤバいんだよ。それこそわかってねえだろな。それくらい、お前に対して邪な目、向けてるし、そういうことしたいとずっと思ってた」
「だったら……」
だったらすればいいじゃないか、と言おうとしたのであろうアルスの口元へファインは手を伸ばした。そして軽くだがその手で口を塞ぐ。
「軽く言ってくれんな。そういうことしたくてたまらねえ反面、お前を大事にしたくてたまらなくもあんだよ。お前に対してその辺の娼婦みたいな扱い、オレができると思ってんのか。やめてくれ」
もったいないことをしているのかもしれない。アルスは冗談で言ったわけではないだろうし、それこそ子どもができてしまう可能性もある女と違い、男同士だけに軽く考えればいいのかもしれない。重く考えすぎているのかもしれない。
もっと気軽にやって、お互い「こんな感じか」と笑いあって、その上アルスはわからないと思っていることもはっきりするのかもしれない。
それでも、ファインとしては簡単にしていいことだと思えなかった。大切な、大事なアルスがファインを愛しい相手だと思った上で抱き合いたいと思っていないのであれば、手を出すべきじゃないとしか思えなかった。
以前、アルスに「ファインってさ、わりとロマンチスト」と言われたことを思い出した。セルゲイの城に滞在した時だっただろうか。
「わりとロマンチストだよなぁって前からたまに思ってて」
「オレが? ロマンチストだって?」
言われた時はぽかんとした。自分をロマンチストだなどと思ったこともなかったし、言われてもピンとこなかった。ただ指摘されたように星を眺めたり綺麗な景色を眺めるのは好きだし、そこにアルスがいれば最高だろうなとは思った。
それを思い出す。
今も、オレはやっぱりロマンチストだからこんな生ぬるいこと、思ってんのか?
据え膳を食べようともせずむしろ説教じみたことを言っている気もしないではない。何ならロマンチストではなく中身は年寄りなのかもしれない。
それでも、やはりファインのことを好きだと自覚していないアルスをどうこうする気にはなれなかった。
……いや、すげーしたいよ。すげーしたいけども! できねえ……きっとアルスの頼まれるまま、それに欲望のままやってもオレは後で後悔する。
以前アルスを助けるための流れでアルスの足を借りて抜かせてもらった時も、その後ひたすら後悔したし、いまだに申し訳なく思っている。さらに手を出すなど、どれほど負の感情を抱えるか計り知れない。
「……ごめん、ファイン。俺はもしかして、最低最悪の提案をしたのかな」
「……ろくでもねえ案だってのは否定しねえ。でも謝らなくていい。そんなアルスひっくるめて、オレはお前が好きだし、ある意味アルスらしいから。謝らなくていい。でも、頼むから気軽にそういうこと、言わねえでくれ」
「……うん。わかった」
「オレはな、もちろんお前とエロいこと、したい」
「え? あ、えっと、う、うん」
何故か顔を赤くして動揺しているように見える。つい今しがた「襲ってみてくれ」と言ってきた張本人とは思えねえなとファインは微妙な顔でさらにアルスを見た。
「してえけど、お前が大事だからしない。ここ、わかってくれ。あ、キスだけはもうやっちゃってるし、続けさせてくださいお願いします」
「ファイン……何かカッコよさげだったのに一気に残念な感じだけど、うん。いいよ」
「……えっと。そんで、急がねえしずっとわからねえなら仕方ねえ。それでもいい。でも、もしアルス、お前もオレのこと、好きだって思えた時は、お前が嫌だっつってもやるかもだからな。覚えとけ」
「そ、っか」
動揺していたアルスは少しポカンとした後に笑顔になった。そして「うん、わかった」と頷いた。
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