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169話
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「え、っと……ごめん」
勢いなどに圧倒されながらもアルスが謝ると、ファインはハッとしたような顔になり、またアルスを抱きしめてきた。
「いや。オレが悪い。声荒げてごめん。あと調子悪くて寒いっつってんのに体離してごめん」
口が悪いし、よく何かに突っ込みを入れたり文句言ったりしているファインだが、これでも実は基本穏やかだったりする。アルスを思ってムッとしたり怒ってくれることは今までもあったが、案外他の人に対しては本当に怒ったり切れたりしない。せいぜい呆れるくらいだろうか。カースとのやり取りを見ていると、アルスに対しても穏やかなのではとさえ思う。
だからこそ、こうして声を荒げるファインを見ると、改めて申し訳ないなとアルスは思う。謝っても大抵「お前は悪くない」と言ってくれたりするが、多分大抵いつもアルスが悪いような気がする。今もあまりにわかっていないアルスに業を煮やしたのだろう。
そう、だよな……俺が経験ないだけで、男は性的なことに飲まれやすいんだってファイン、言ってたことあった。だから性犯罪が起きたりもするんだって。だからアルスも気をつけろとも言われたりしたけど、それに関してはわからなかったんだよな。俺、馬鹿力だしわりと戦ったりするのは強いほうだと思ってるし、そもそも俺は男だしで。
だがようやく何となくわかった気がした。少なくともファインは本当に心配してくれている。
俺がわかってなくて迂闊でえっと、チョロそうだから、男相手に性的な気持ちになれる人に狙われることもあるし、うっかりやられるんじゃないかって……。
アルスとしては、さすがにそれはないとは思う。そういう目的で興味もたれることもない気がするが、それをさておいたとしても、さすがにアルスであっても知らない相手や親しくない相手に最低限の気は許さない。いくら頭が悪くてもそこは鉄板だと自分では思っている。
俺も一応、子どもの頃から修羅場、切り抜けてきたつもりだぞファイン。
ただおそらくだが、ファインはアルスが好きだからこそ、そういった当たり前のことすらすっ飛ばして心配してしまうのかもしれない。
そういうとこ、案外馬鹿だなあ、ファイン。……でも何か、そう、何か嬉しいな。
そして性的なことに飲まれやすいからこそ、アルスを好いてくれているファインはアルスのうっかりした言動に左右されてそういう衝動に駆られてしまうのかもしれない。
……どうなんだろうな。ファインに対してうっかりしちゃうのはファイン相手だからこそだ。じゃあ俺はそのせいで、しっかりして案外真面目なファインの理性を壊してしまって襲われたとして、どう、思う?
どう思うのだろう。先ほどからずっと考えていたが、ここにきて思考が止まってしまった。そもそも普段あまり考えることをしないだけに心身ともに消耗しそうだし、その上雷の属性によってすでに消耗しているから余計かもしれない。
アルスが思考していることをファインは把握しているのだろう。無言になってしまったアルスに対して、何も言わず同じく無言でただ抱きしめてくれている。
そういうとこも好きだと思うんだけど……この好きは、どういう好きなの俺。
だが停止してしまっている思考では新たな問いに関しても答えを出せない。
っていうか、停止してなくてもわからない問いだよな。これをはっきりさせないとなのに。
「……なあ、ファイン」
「ああ」
「一応ね、その、一応俺なりにわかったとは思うんだよ」
「……」
「無言ってのが疑わしそうだなあ。仕方ないけど。で、さ。えっと……うっかりしてしまうのはさ、ファイン相手だからだと断言できるんだけど」
「……ぁあ」
「でもそのせいでファインはつらかったりするわけだ。でね、じゃあ俺はそのせいでファインの理性をとうとう壊してしまって襲われてしまったとして、どう思うのかなとまで、考えた」
「……アルスにしちゃ、だいぶ上出来だな……」
感嘆してくれているのか呆れられているのか、声だけではわからなかった。
「ほめてくれてんのか皮肉かわからないけど、俺はいたって真面目だからね。でも、どう思うのか考えたところで結局思考停止しちゃって……だからまあ、呆れられても仕方ないな」
「……はは。まあ、お前らしいよ」
「で、だ。わからないことは実際その場にならないと俺は多分わからないと思う」
「あ?」
「ファイン、いつも俺のこと脳筋って言うよな。でもそう言われても、それも仕方ない。何事も実際そうなってみないと俺はわからない」
「……あー。えっと、つまり?」
抱きしめる腕が少し緩んだ気がする。ファインは本当に戸惑っている気がする。
「つまりね、襲ってみてくんないかな」
「ああ、なるほど、襲ってみ……ああっ?」
「ちょ、さっきからたまにファインうるさい。夜なんだよ。迷惑だろ」
「め、いわくって、いや、何冷静に、ちょ、おま、ほん、いや、つか、ほんっと何言ってんの?」
「あはは。動揺してる」
「いやするだろ……! アルス……やっぱお前、わかって……」
「わかってるよ。ファインが言ってることは、わかってる。わかってないのは俺自身のことなんだ。こればかりはファインだってわかんないだろ? 教えてもらうわけにいかないんだ。だから自分で考えなきゃなんだけど、俺は考えるの得意じゃない。じゃあ実際そうなってみればわかるだろ」
アルスなりになかなかいい結果を出したのではと思いながら自信満々に言ってのけたが「馬鹿野郎」という言葉をいただいた。
勢いなどに圧倒されながらもアルスが謝ると、ファインはハッとしたような顔になり、またアルスを抱きしめてきた。
「いや。オレが悪い。声荒げてごめん。あと調子悪くて寒いっつってんのに体離してごめん」
口が悪いし、よく何かに突っ込みを入れたり文句言ったりしているファインだが、これでも実は基本穏やかだったりする。アルスを思ってムッとしたり怒ってくれることは今までもあったが、案外他の人に対しては本当に怒ったり切れたりしない。せいぜい呆れるくらいだろうか。カースとのやり取りを見ていると、アルスに対しても穏やかなのではとさえ思う。
だからこそ、こうして声を荒げるファインを見ると、改めて申し訳ないなとアルスは思う。謝っても大抵「お前は悪くない」と言ってくれたりするが、多分大抵いつもアルスが悪いような気がする。今もあまりにわかっていないアルスに業を煮やしたのだろう。
そう、だよな……俺が経験ないだけで、男は性的なことに飲まれやすいんだってファイン、言ってたことあった。だから性犯罪が起きたりもするんだって。だからアルスも気をつけろとも言われたりしたけど、それに関してはわからなかったんだよな。俺、馬鹿力だしわりと戦ったりするのは強いほうだと思ってるし、そもそも俺は男だしで。
だがようやく何となくわかった気がした。少なくともファインは本当に心配してくれている。
俺がわかってなくて迂闊でえっと、チョロそうだから、男相手に性的な気持ちになれる人に狙われることもあるし、うっかりやられるんじゃないかって……。
アルスとしては、さすがにそれはないとは思う。そういう目的で興味もたれることもない気がするが、それをさておいたとしても、さすがにアルスであっても知らない相手や親しくない相手に最低限の気は許さない。いくら頭が悪くてもそこは鉄板だと自分では思っている。
俺も一応、子どもの頃から修羅場、切り抜けてきたつもりだぞファイン。
ただおそらくだが、ファインはアルスが好きだからこそ、そういった当たり前のことすらすっ飛ばして心配してしまうのかもしれない。
そういうとこ、案外馬鹿だなあ、ファイン。……でも何か、そう、何か嬉しいな。
そして性的なことに飲まれやすいからこそ、アルスを好いてくれているファインはアルスのうっかりした言動に左右されてそういう衝動に駆られてしまうのかもしれない。
……どうなんだろうな。ファインに対してうっかりしちゃうのはファイン相手だからこそだ。じゃあ俺はそのせいで、しっかりして案外真面目なファインの理性を壊してしまって襲われたとして、どう、思う?
どう思うのだろう。先ほどからずっと考えていたが、ここにきて思考が止まってしまった。そもそも普段あまり考えることをしないだけに心身ともに消耗しそうだし、その上雷の属性によってすでに消耗しているから余計かもしれない。
アルスが思考していることをファインは把握しているのだろう。無言になってしまったアルスに対して、何も言わず同じく無言でただ抱きしめてくれている。
そういうとこも好きだと思うんだけど……この好きは、どういう好きなの俺。
だが停止してしまっている思考では新たな問いに関しても答えを出せない。
っていうか、停止してなくてもわからない問いだよな。これをはっきりさせないとなのに。
「……なあ、ファイン」
「ああ」
「一応ね、その、一応俺なりにわかったとは思うんだよ」
「……」
「無言ってのが疑わしそうだなあ。仕方ないけど。で、さ。えっと……うっかりしてしまうのはさ、ファイン相手だからだと断言できるんだけど」
「……ぁあ」
「でもそのせいでファインはつらかったりするわけだ。でね、じゃあ俺はそのせいでファインの理性をとうとう壊してしまって襲われてしまったとして、どう思うのかなとまで、考えた」
「……アルスにしちゃ、だいぶ上出来だな……」
感嘆してくれているのか呆れられているのか、声だけではわからなかった。
「ほめてくれてんのか皮肉かわからないけど、俺はいたって真面目だからね。でも、どう思うのか考えたところで結局思考停止しちゃって……だからまあ、呆れられても仕方ないな」
「……はは。まあ、お前らしいよ」
「で、だ。わからないことは実際その場にならないと俺は多分わからないと思う」
「あ?」
「ファイン、いつも俺のこと脳筋って言うよな。でもそう言われても、それも仕方ない。何事も実際そうなってみないと俺はわからない」
「……あー。えっと、つまり?」
抱きしめる腕が少し緩んだ気がする。ファインは本当に戸惑っている気がする。
「つまりね、襲ってみてくんないかな」
「ああ、なるほど、襲ってみ……ああっ?」
「ちょ、さっきからたまにファインうるさい。夜なんだよ。迷惑だろ」
「め、いわくって、いや、何冷静に、ちょ、おま、ほん、いや、つか、ほんっと何言ってんの?」
「あはは。動揺してる」
「いやするだろ……! アルス……やっぱお前、わかって……」
「わかってるよ。ファインが言ってることは、わかってる。わかってないのは俺自身のことなんだ。こればかりはファインだってわかんないだろ? 教えてもらうわけにいかないんだ。だから自分で考えなきゃなんだけど、俺は考えるの得意じゃない。じゃあ実際そうなってみればわかるだろ」
アルスなりになかなかいい結果を出したのではと思いながら自信満々に言ってのけたが「馬鹿野郎」という言葉をいただいた。
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