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157話
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じゃあ、とアルスは今さらながらに気づいた。
ファインが言ってた「欲望押しつける」って、そういう? いや、欲望って言ってんだしそういうことだろうと漠然とどこかで多分思っていたかもだけど、えっと……子作り的なこと、言ってるってことかな。
「相手オレじゃなかったらとっくの昔にヤられてんぞ」
これも暴力的な意味ではなく、性的な意味だったのかもしれない。
「そ、そっか」
今さらながらに気づき、今さらながらに何となく恥ずかしくなってきた。
っていうか、そっか……そういう意味で好きってことは、キスだけじゃなくてそういうこともしたいっていう……?
正直、男女のそれすら詳しく知っているわけではないアルスにとって男同士のそれはかなり未知の世界かもしれない。
ふと以前、アルスが魔物にやられて凍えかかった時に流れでした行為を思い出した。
あれも……もしかして生理的現象でってより、その、俺のこと、好きだから、とか……?
「……うわ」
顔だけではなく、全身火がついたみたいに熱くなった。まだ部屋についていなくてよかったとアルスは思う。アルスのこんな様子に、ファインは目ざとく気づきそうだ。気づかれてもいいが、変に心配はかけたくない。
風呂も……そっか、そういう……。
気づいてしまい、むしろ今後アルスがファインと一緒に風呂へ入ったり川で水浴びしたりできるのだろうかと少し気になった。嫌ではない。そういう行為はさておきファインと一緒にというのは嫌ではないが、ただでさえファインに気持ちを伝えられファインの言動に何だか落ち着かない気持ちになってしまったりするというのに、心臓がざわついて仕方なくなるのではないだろうか。
それとも、今は慣れないことで落ち着かないだけですぐに慣れてくのかな? あ。っていうか、えっと……今日ファインと二人きりで寝るわけだけど……ベッド一緒だけど……。
部屋の前まで来てそれにも気づき、ドアノブに触れようとした手をもぞもぞと動かした。
「アルス?」
だがドアの前に立っていたせいで気配を感じたのか、ファインがドアを開けてきた。
「なかなか戻ってこねえから心配……って顔、真っ赤だぞ? 湯に浸かりすぎたのか? 大丈夫か? 具合悪くねえのか?」
そして結局心配される。
「だ、大丈夫。ほんと大丈夫だから。ファインも入っておいでよ」
「お、おぅ……、大丈夫ならいいんだけど……」
「ほんと大丈夫。あ、今ならカースがまだいるんじゃないかな。一緒に……」
一緒に風呂を楽しんでと言おうとしたが、その前に嫌そうな顔のファインが「じゃあもう少しして行くわ」とアルスが部屋の中へ入るよう促してきた。
わあ、言うんじゃなかった。
仲がいいというのに何故嫌そうなのかわからないが、アルスが余計なことを言ったせいでファインはまだ部屋にとどまっている。当然嫌ではないのだが、気づいてしまっただけに部屋で二人きりというだけで何だか落ち着かない。
それでも外に出さないよう心掛けていたつもりだがファインには意味なかったようだ。
「アルス。お前やっぱちょっと変だぞ。本当は具合、悪いんだろ」
「大丈夫だって。……なぁ。変……、ってどう変なの」
ものすごく挙動不審とかならむしろまだいい。いや、よくはないが、ファインと二人でいることで緊張にも近い落ち着かなさを感じているとばれるよりはマシな気がする。
「何かそわそわしてるっつーか」
とてつもなく的確にとらえられているんだけど!
「そ、そんなことないよ」
「いや、そんなことある。ほんとは気持ち悪いとかじゃねえのか? のぼせたんじゃ? 正直に言ったらいいだろが。別に馬鹿にしねえし」
「ほんとそんなことな……」
ない、と言いかけているとファインが腕をつかんできた。多分アルスの体調をもっとよく窺うためにだろう。普通に考えてわかっているはずなのにアルスはびくりと体を震わせ、ファインをはねのけてしまった。
「……」
「あ……いや、えっと」
「あー……。……、わり」
一瞬の間のあと、ファインはムッとするどころか笑いながら手を即座に離してきた。
「俺、風呂入ってくるわ」
「え? あ、う、うん」
「カースまだいたら部屋も変わるよう言ってくっから」
「えっ?」
何を、と思ったがすでにアルスから背を向けているため、ファインの表情はわからない。だが絶対勘違いさせてしまったことは間違いない。
「ま、待ってファイン!」
慌てて引き留めようとしたが、その前にファインは部屋を出て行ってしまった。
やってしまった。さっきの態度ならアルスでも勘違いするだろう。告白を聞いて「ファインと二人きりでいることに抵抗がある」と思われてしまっているのではないだろうか。
「ち、違う」
抵抗など、ない。だいたい嫌な気持ちにも全くなっていないし、気持ちがわかってからもファインのことは誰よりも大事だ。
「違うんだよ、ファイン……」
俺が変に緊張しちゃってるから……ファインに嫌な気持ちにさせてしまった。
今すぐ訂正しないとと思った。とりあえずアルスも急いで部屋を出た。だがファインの姿はすでに見えない。
「風呂かな……」
その足で即風呂へ向かったが、ファインは来ていないようだった。
「全然来てないけど?」
「そ、っか」
ちょうど風呂から出てきたカースに言われ、アルスは気落ちする。いや、すでにカースに会って「部屋変われ」と言われてなくてよかったのだが、こうなるとファインがどこへ行ったのか見当もつかない。
ファインが言ってた「欲望押しつける」って、そういう? いや、欲望って言ってんだしそういうことだろうと漠然とどこかで多分思っていたかもだけど、えっと……子作り的なこと、言ってるってことかな。
「相手オレじゃなかったらとっくの昔にヤられてんぞ」
これも暴力的な意味ではなく、性的な意味だったのかもしれない。
「そ、そっか」
今さらながらに気づき、今さらながらに何となく恥ずかしくなってきた。
っていうか、そっか……そういう意味で好きってことは、キスだけじゃなくてそういうこともしたいっていう……?
正直、男女のそれすら詳しく知っているわけではないアルスにとって男同士のそれはかなり未知の世界かもしれない。
ふと以前、アルスが魔物にやられて凍えかかった時に流れでした行為を思い出した。
あれも……もしかして生理的現象でってより、その、俺のこと、好きだから、とか……?
「……うわ」
顔だけではなく、全身火がついたみたいに熱くなった。まだ部屋についていなくてよかったとアルスは思う。アルスのこんな様子に、ファインは目ざとく気づきそうだ。気づかれてもいいが、変に心配はかけたくない。
風呂も……そっか、そういう……。
気づいてしまい、むしろ今後アルスがファインと一緒に風呂へ入ったり川で水浴びしたりできるのだろうかと少し気になった。嫌ではない。そういう行為はさておきファインと一緒にというのは嫌ではないが、ただでさえファインに気持ちを伝えられファインの言動に何だか落ち着かない気持ちになってしまったりするというのに、心臓がざわついて仕方なくなるのではないだろうか。
それとも、今は慣れないことで落ち着かないだけですぐに慣れてくのかな? あ。っていうか、えっと……今日ファインと二人きりで寝るわけだけど……ベッド一緒だけど……。
部屋の前まで来てそれにも気づき、ドアノブに触れようとした手をもぞもぞと動かした。
「アルス?」
だがドアの前に立っていたせいで気配を感じたのか、ファインがドアを開けてきた。
「なかなか戻ってこねえから心配……って顔、真っ赤だぞ? 湯に浸かりすぎたのか? 大丈夫か? 具合悪くねえのか?」
そして結局心配される。
「だ、大丈夫。ほんと大丈夫だから。ファインも入っておいでよ」
「お、おぅ……、大丈夫ならいいんだけど……」
「ほんと大丈夫。あ、今ならカースがまだいるんじゃないかな。一緒に……」
一緒に風呂を楽しんでと言おうとしたが、その前に嫌そうな顔のファインが「じゃあもう少しして行くわ」とアルスが部屋の中へ入るよう促してきた。
わあ、言うんじゃなかった。
仲がいいというのに何故嫌そうなのかわからないが、アルスが余計なことを言ったせいでファインはまだ部屋にとどまっている。当然嫌ではないのだが、気づいてしまっただけに部屋で二人きりというだけで何だか落ち着かない。
それでも外に出さないよう心掛けていたつもりだがファインには意味なかったようだ。
「アルス。お前やっぱちょっと変だぞ。本当は具合、悪いんだろ」
「大丈夫だって。……なぁ。変……、ってどう変なの」
ものすごく挙動不審とかならむしろまだいい。いや、よくはないが、ファインと二人でいることで緊張にも近い落ち着かなさを感じているとばれるよりはマシな気がする。
「何かそわそわしてるっつーか」
とてつもなく的確にとらえられているんだけど!
「そ、そんなことないよ」
「いや、そんなことある。ほんとは気持ち悪いとかじゃねえのか? のぼせたんじゃ? 正直に言ったらいいだろが。別に馬鹿にしねえし」
「ほんとそんなことな……」
ない、と言いかけているとファインが腕をつかんできた。多分アルスの体調をもっとよく窺うためにだろう。普通に考えてわかっているはずなのにアルスはびくりと体を震わせ、ファインをはねのけてしまった。
「……」
「あ……いや、えっと」
「あー……。……、わり」
一瞬の間のあと、ファインはムッとするどころか笑いながら手を即座に離してきた。
「俺、風呂入ってくるわ」
「え? あ、う、うん」
「カースまだいたら部屋も変わるよう言ってくっから」
「えっ?」
何を、と思ったがすでにアルスから背を向けているため、ファインの表情はわからない。だが絶対勘違いさせてしまったことは間違いない。
「ま、待ってファイン!」
慌てて引き留めようとしたが、その前にファインは部屋を出て行ってしまった。
やってしまった。さっきの態度ならアルスでも勘違いするだろう。告白を聞いて「ファインと二人きりでいることに抵抗がある」と思われてしまっているのではないだろうか。
「ち、違う」
抵抗など、ない。だいたい嫌な気持ちにも全くなっていないし、気持ちがわかってからもファインのことは誰よりも大事だ。
「違うんだよ、ファイン……」
俺が変に緊張しちゃってるから……ファインに嫌な気持ちにさせてしまった。
今すぐ訂正しないとと思った。とりあえずアルスも急いで部屋を出た。だがファインの姿はすでに見えない。
「風呂かな……」
その足で即風呂へ向かったが、ファインは来ていないようだった。
「全然来てないけど?」
「そ、っか」
ちょうど風呂から出てきたカースに言われ、アルスは気落ちする。いや、すでにカースに会って「部屋変われ」と言われてなくてよかったのだが、こうなるとファインがどこへ行ったのか見当もつかない。
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