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146話
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アルスの声に反応したファインは転がるようにとはいえ、よくとっさに避けられたなとアルスは思った。一瞬の内に体勢を変えるのは案外難しい。
やっぱファインって魔法系なのに運動能力も結構あるよなあ。
しみじみ思ってから、そんなことを考えている暇はなかったとアルスは気を取り直した。
先ほど何とか剣で蹴りを受け払ったものの、女とは思えないほどの重い蹴りだった。まともに食らえば首くらい簡単に飛ぶだろう。その上相当速さもある。
ボルフォルドが送ってきたということに対して女は認めていた。ということは魔物の一人なのだろう。一見目立つ要素はないが、魔物ならば女の姿であったとしてもあれほど重い蹴りを持っていてもおかしくないのかもしれない。
身軽な恰好だからか、元々そうだからそういう格好をしているのか、女は相当素早い様子だった。とっさに避けたファインに対してはさすがに間に合わなかったようで地面を蹴りつける羽目になっていたが、即座に体勢を変え、ファインに次の蹴りを食らわせようとしている。だがその前にすでに放っていたカースの魔法に気づき、また体勢を簡単に変えてやすやすとその攻撃を避けた。
「俺の魔法避けるとか、おかしくない?」
いつもの軽い調子でカースは言っているが、実際アルスもそう思う。それくらいカースが持つ魔法の魔力は相当強い上に速い。それこそ体術などと違って避けるのは普通なら至難の業だろう。
同じようにフォルアの魔法をも女は避けた。フォルアは無表情のまま剣を持ち直している。おそらく魔法よりも剣のほうがいいと判断したのだろう。アルスもまたそう思った。
これほど素早く魔法を避けられるなら、さっき俺が受けた後に払った剣の攻撃だって払いのける前にさっと避けた上ですぐ蹴り直してきそうな気がする。でもそうしなかったのは、魔法攻撃より直接攻撃に対しての防御が多少なりとも弱いのかもしれない。
普通はアルスのように直接攻撃を得意とする場合、逆に魔法攻撃に弱い。この女も一見直接攻撃が得意のように見えるため少々珍しいが、そういうこともないとは言えない。もしくは蹴りばかり繰り出してくるものの、実は魔法のほうが得意だったりするのだろうか。
わかりにくいな……。
以前ファインが言っていた。ファインのように魔法が得意である場合、攻撃する範囲も広がる分、弱点も見分けられやすい。大抵はフォルアと違って自分の属性以外の属性魔法は多少使えたとしても攻撃できるほどではないため、相手を攻撃したとたん弱点をさらすようなものだからだ。
「だからオレは魔法が有効だと明確じゃねえなら基本剣を使う。っつっても正直な話、剣のがかっこいいからだけどな!」
魔法が苦手なアルスからすれば魔法で攻撃するほうがよほど恰好いいと思うが、それはさておき、なるほどなと思った。アルスのように基本剣のみだとそれはそれで魔法攻撃に弱いと見分けられるだろうが、ファインのように魔法と剣ならば弱点をとっさには判断しづらい。
……この人がそうだ。
魔法攻撃に弱そうだと思いそうだが、あまりにも容易にそれらを避ける。とっさに出す想定外の魔法に対しては避けづらいようだが、とっさである分その魔力も弱いからか強力な蹴りで払いのけたりもする。
弱いって言っても多分俺が受けたら魔法攻撃、結構ダメージ食らうだろうな。避けるのも難しいし、剣で払いのけるなんてことも多分できない。
「なあ! ボルフォルドが送ってきたのはわかった。でも何でお前、そんなに憎悪丸出しで攻撃してくんだよ。ボルフォルドに言われたからにしちゃ、感情移入しすぎじゃね?」
カースとフォルアが攻撃している隙を狙って、ファインが話しかけた。もちろん世間話がしたいわけではないのはアルスにもわかる。純粋に何故だろうと気にはなっているだろうが、質問することで多少の気をそらさせようとしているのだろう。タイマンだと自分の気もそがれるから意味ないが、こちらのほうが人数的な分がある場合多少有効ではある。
ただ女はそれに気づいてはいるようだ。とはいえ無視する気もないらしい。冷たそうな印象から、ファインの質問などそれこそ一蹴する勢いで無視しそうなイメージがあった。
とにかく、気をそらすというより動きを止めてその分カースたちに集中力を注いだまま女は答えてきた。
「貴様らは私の弟を殺した」
「お前の? えぇ? 心当たりねえんだけど」
「記憶に残す価値もないと言う意味なら、貴様は誰よりも一番ぼろぼろに殺してやろう」
「いやいやいやいや、ちょ、そういう意味じゃねえし……! やたら問答する時間の無駄はお前だって好きじゃなさそうだろ。弟の名前教えろよ。つかお前も誰だよ」
「名乗る意味などあるのか? どうせ貴様らは死ぬというのに」
冷たそうな表情に視線で冷たそうな声で言われると、結構威力はあるかもしれないとアルスはそっと思った。そういうのを好む人も中にはいるのかもしれないが、少なくともアルスは苦手だしそれなりにひんやりした気持ちを今味わっている。
この人怖い。
攻撃力が高くて怖いとかそういうのと別の意味でとても怖いと思った。だがファインは少なくとも一見、全く堪えてなさそうだ。
「過信か? そういうのは過ちを犯しやすいぞ。この世に絶対なんてもんはねえんだからな」
「……いいだろう。それに貴様らごときに名前を知られても痛くもかゆくもない。そういった呪いは効かないからな。……私の名はルビア」
聞いたことはない。ボルフォルドの使いというのを差し引いてもとりあえず知り合いではなさそうだ。
「そして我が弟の名はディロックだ」
やっぱファインって魔法系なのに運動能力も結構あるよなあ。
しみじみ思ってから、そんなことを考えている暇はなかったとアルスは気を取り直した。
先ほど何とか剣で蹴りを受け払ったものの、女とは思えないほどの重い蹴りだった。まともに食らえば首くらい簡単に飛ぶだろう。その上相当速さもある。
ボルフォルドが送ってきたということに対して女は認めていた。ということは魔物の一人なのだろう。一見目立つ要素はないが、魔物ならば女の姿であったとしてもあれほど重い蹴りを持っていてもおかしくないのかもしれない。
身軽な恰好だからか、元々そうだからそういう格好をしているのか、女は相当素早い様子だった。とっさに避けたファインに対してはさすがに間に合わなかったようで地面を蹴りつける羽目になっていたが、即座に体勢を変え、ファインに次の蹴りを食らわせようとしている。だがその前にすでに放っていたカースの魔法に気づき、また体勢を簡単に変えてやすやすとその攻撃を避けた。
「俺の魔法避けるとか、おかしくない?」
いつもの軽い調子でカースは言っているが、実際アルスもそう思う。それくらいカースが持つ魔法の魔力は相当強い上に速い。それこそ体術などと違って避けるのは普通なら至難の業だろう。
同じようにフォルアの魔法をも女は避けた。フォルアは無表情のまま剣を持ち直している。おそらく魔法よりも剣のほうがいいと判断したのだろう。アルスもまたそう思った。
これほど素早く魔法を避けられるなら、さっき俺が受けた後に払った剣の攻撃だって払いのける前にさっと避けた上ですぐ蹴り直してきそうな気がする。でもそうしなかったのは、魔法攻撃より直接攻撃に対しての防御が多少なりとも弱いのかもしれない。
普通はアルスのように直接攻撃を得意とする場合、逆に魔法攻撃に弱い。この女も一見直接攻撃が得意のように見えるため少々珍しいが、そういうこともないとは言えない。もしくは蹴りばかり繰り出してくるものの、実は魔法のほうが得意だったりするのだろうか。
わかりにくいな……。
以前ファインが言っていた。ファインのように魔法が得意である場合、攻撃する範囲も広がる分、弱点も見分けられやすい。大抵はフォルアと違って自分の属性以外の属性魔法は多少使えたとしても攻撃できるほどではないため、相手を攻撃したとたん弱点をさらすようなものだからだ。
「だからオレは魔法が有効だと明確じゃねえなら基本剣を使う。っつっても正直な話、剣のがかっこいいからだけどな!」
魔法が苦手なアルスからすれば魔法で攻撃するほうがよほど恰好いいと思うが、それはさておき、なるほどなと思った。アルスのように基本剣のみだとそれはそれで魔法攻撃に弱いと見分けられるだろうが、ファインのように魔法と剣ならば弱点をとっさには判断しづらい。
……この人がそうだ。
魔法攻撃に弱そうだと思いそうだが、あまりにも容易にそれらを避ける。とっさに出す想定外の魔法に対しては避けづらいようだが、とっさである分その魔力も弱いからか強力な蹴りで払いのけたりもする。
弱いって言っても多分俺が受けたら魔法攻撃、結構ダメージ食らうだろうな。避けるのも難しいし、剣で払いのけるなんてことも多分できない。
「なあ! ボルフォルドが送ってきたのはわかった。でも何でお前、そんなに憎悪丸出しで攻撃してくんだよ。ボルフォルドに言われたからにしちゃ、感情移入しすぎじゃね?」
カースとフォルアが攻撃している隙を狙って、ファインが話しかけた。もちろん世間話がしたいわけではないのはアルスにもわかる。純粋に何故だろうと気にはなっているだろうが、質問することで多少の気をそらさせようとしているのだろう。タイマンだと自分の気もそがれるから意味ないが、こちらのほうが人数的な分がある場合多少有効ではある。
ただ女はそれに気づいてはいるようだ。とはいえ無視する気もないらしい。冷たそうな印象から、ファインの質問などそれこそ一蹴する勢いで無視しそうなイメージがあった。
とにかく、気をそらすというより動きを止めてその分カースたちに集中力を注いだまま女は答えてきた。
「貴様らは私の弟を殺した」
「お前の? えぇ? 心当たりねえんだけど」
「記憶に残す価値もないと言う意味なら、貴様は誰よりも一番ぼろぼろに殺してやろう」
「いやいやいやいや、ちょ、そういう意味じゃねえし……! やたら問答する時間の無駄はお前だって好きじゃなさそうだろ。弟の名前教えろよ。つかお前も誰だよ」
「名乗る意味などあるのか? どうせ貴様らは死ぬというのに」
冷たそうな表情に視線で冷たそうな声で言われると、結構威力はあるかもしれないとアルスはそっと思った。そういうのを好む人も中にはいるのかもしれないが、少なくともアルスは苦手だしそれなりにひんやりした気持ちを今味わっている。
この人怖い。
攻撃力が高くて怖いとかそういうのと別の意味でとても怖いと思った。だがファインは少なくとも一見、全く堪えてなさそうだ。
「過信か? そういうのは過ちを犯しやすいぞ。この世に絶対なんてもんはねえんだからな」
「……いいだろう。それに貴様らごときに名前を知られても痛くもかゆくもない。そういった呪いは効かないからな。……私の名はルビア」
聞いたことはない。ボルフォルドの使いというのを差し引いてもとりあえず知り合いではなさそうだ。
「そして我が弟の名はディロックだ」
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