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136話
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今回は食糧庫を空にする勢いまではいかなかったものの、皆存分に食べて飲んだ。ファイン的にはそこまで大した仕事をしたわけでもないのに過分な報酬だと思う。
思うだけで遠慮はしねえけどな。
今までルートの元で働いたり旅を続けてきたことで、さすがにここは遠慮すべきだとかありがたく享受していいとかくらいはある程度判断できる。この店のオーナーは心から礼を尽くしたいと思ってくれていて、そしてそれを受けてもらえないと気持ちが収まらないというタイプの人だ。
こういう店を経営しているだけあって、裏表はあるだろうし侮れないところもあるだろうが、基本的にわかりやすくてファインとしても嫌いではない。
わかりにくいのはほんと、カースだよな。
にこやかで優しげで穏やかそうではある。そしてとても世話焼きだ。だがわりと我を通すしやりたいようにするし、笑顔のままろくでもない言動をとることもある。戦闘に関してもフォルアよりも容赦ないと思える時さえある。
一見柔らかそうだというのに油断して触れると棘がある、そんな植物あるよな。
それみたいだとファインは思っている。他人に対しても快く受け入れてそうで、その実どこか一線引いているところがある。多分ファインとアルスも、再会した時フォルアが一緒ではなかったら、通り一遍の挨拶を交わす程度で終わっていたかもしれない。
そんなカースが何故かフォルアに関してはとても気にかけていて、ひたすら面倒見がいい。ファインたちもフォルアと親しくしていたおかげか、どうやら受け入れてもらえているようだが、とにかくカースの世界はフォルア中心に回っているのではないだろうか。
前も思ったことだけど、そのわりに別行動取ってて平気そうなんだよな。
少なくともファインとアルスがフォルアに出会ってからカースと再会するまでは別々だった。その間もそれなりの日数は経っている。その辺の時間概念というのだろうか、これほど保護者然とした様子を見せておきながらどうなっているのだろうかとほんのり謎だった。
「フォルアはもう、三百年以上生きてるんだ」
「……、……は」
カースのその言葉を聞くまでは。
「で、ナージフの話だけどフォルアは……」
「い、いやいや、ちょ、待て。待て。フォルアは昨日一時間しか寝てないんだ、くらいの軽さでさらっと言った上に扱いもさらっと軽いけど、待て。そこもう少し掘り下げろよ……! 聞き間違えじゃねえだろな」
「俺は三百年以上生きてるって聞こえた……」
思い切り突っ込みを入れたファインにアルスがむしろ無表情に近い顔で続けてきた。気持ちはわかる。
部屋に戻ってから先に風呂を済ませた。そして寛いだ状態でようやくナージフの話について聞こうとしたところだった。はっきり言ってカースが口を開いて二秒もたたずに突っ込みどころしかない。
「聞き間違いじゃないな。俺もそうだけどフォルアは君たちからしたらもうずいぶん長く生きている」
「どういう……」
アルスはすでについていけていない。とはいえファインもさすがに同じだ。おまけにまたさらに突っ込みどころが増えた。
「俺もそうだけどって、何だよ。どこにかかる言葉だよ。君たち、にかかるんだよな? オレやアルスからしたらずいぶん長く、にかかるんだよな? 間違ってもフォルアとかずいぶん長く生きてる、にかかるんじゃねえよな」
「長いな」
「ややこしい呟きはいらねえから。確かに一息で言うには長かったけども!」
「あと間違ってないな。君の言い方を真似れば、フォルアにかかってるよ。俺もそうだしフォルアもそう。長く生きてる。っていうか話進まないから適当に流してくれない?」
「流せるなら流してるわ……!」
流すにはあまりにさりげなさが皆無すぎる内容すぎんだろ、とファインは心底微妙な顔をカースへ向けた。
「……カースもフォルアも、実は人間じゃないのか?」
突っ込みをファインに委ねているのか、存外にも冷静な口調でアルスがカースに聞いた。
「だとしたらどうする? 引くか? 一緒の旅はやめたいか?」
カースがニッコリとアルスを見る。
「まさか。今さら俺やファインが気にするとでも? っていうか元々人種とか種族にこだわりはないよ。ファインがうるさいくらい突っ込んでるのは、」
「……うるさいと思ったのか……」
思わずファインは呟きが漏れたが、アルスは気にした様子もなく続けてきた。
「単に知らなかったからというのと、種族がどうこうじゃなくて普通にどういうことって不思議だからだよ。俺もそうだし」
「ああ……そうだな。君らはそうだった。そういう人間だった」
ははっと軽く笑ってからカースが改めて説明してきた。
「俺はハーフエルフなんだ。だから何百年と生きる、それが普通なものでね。エルフやハーフエルフは一部の人間からは格好の対象だからさ、愛玩奴隷とか臓器とかそういう、ね。君たちも耳にしたことはあるだろう。だから基本秘密にさせてもらってる。君たちにもあえて言ってなくて、すまない」
カースは淡々と話してから、頭を軽くではあるが下げてきた。謝ったり頭を下げるところを実は見た記憶がないように思うファインは内心驚いていた。そして、それくらい真摯に話してくれているのだろうと思えた。
「じゃあ、フォルアも……?」
「いや。違う。これでもフォルアは正真正銘、人間なんだ」
思うだけで遠慮はしねえけどな。
今までルートの元で働いたり旅を続けてきたことで、さすがにここは遠慮すべきだとかありがたく享受していいとかくらいはある程度判断できる。この店のオーナーは心から礼を尽くしたいと思ってくれていて、そしてそれを受けてもらえないと気持ちが収まらないというタイプの人だ。
こういう店を経営しているだけあって、裏表はあるだろうし侮れないところもあるだろうが、基本的にわかりやすくてファインとしても嫌いではない。
わかりにくいのはほんと、カースだよな。
にこやかで優しげで穏やかそうではある。そしてとても世話焼きだ。だがわりと我を通すしやりたいようにするし、笑顔のままろくでもない言動をとることもある。戦闘に関してもフォルアよりも容赦ないと思える時さえある。
一見柔らかそうだというのに油断して触れると棘がある、そんな植物あるよな。
それみたいだとファインは思っている。他人に対しても快く受け入れてそうで、その実どこか一線引いているところがある。多分ファインとアルスも、再会した時フォルアが一緒ではなかったら、通り一遍の挨拶を交わす程度で終わっていたかもしれない。
そんなカースが何故かフォルアに関してはとても気にかけていて、ひたすら面倒見がいい。ファインたちもフォルアと親しくしていたおかげか、どうやら受け入れてもらえているようだが、とにかくカースの世界はフォルア中心に回っているのではないだろうか。
前も思ったことだけど、そのわりに別行動取ってて平気そうなんだよな。
少なくともファインとアルスがフォルアに出会ってからカースと再会するまでは別々だった。その間もそれなりの日数は経っている。その辺の時間概念というのだろうか、これほど保護者然とした様子を見せておきながらどうなっているのだろうかとほんのり謎だった。
「フォルアはもう、三百年以上生きてるんだ」
「……、……は」
カースのその言葉を聞くまでは。
「で、ナージフの話だけどフォルアは……」
「い、いやいや、ちょ、待て。待て。フォルアは昨日一時間しか寝てないんだ、くらいの軽さでさらっと言った上に扱いもさらっと軽いけど、待て。そこもう少し掘り下げろよ……! 聞き間違えじゃねえだろな」
「俺は三百年以上生きてるって聞こえた……」
思い切り突っ込みを入れたファインにアルスがむしろ無表情に近い顔で続けてきた。気持ちはわかる。
部屋に戻ってから先に風呂を済ませた。そして寛いだ状態でようやくナージフの話について聞こうとしたところだった。はっきり言ってカースが口を開いて二秒もたたずに突っ込みどころしかない。
「聞き間違いじゃないな。俺もそうだけどフォルアは君たちからしたらもうずいぶん長く生きている」
「どういう……」
アルスはすでについていけていない。とはいえファインもさすがに同じだ。おまけにまたさらに突っ込みどころが増えた。
「俺もそうだけどって、何だよ。どこにかかる言葉だよ。君たち、にかかるんだよな? オレやアルスからしたらずいぶん長く、にかかるんだよな? 間違ってもフォルアとかずいぶん長く生きてる、にかかるんじゃねえよな」
「長いな」
「ややこしい呟きはいらねえから。確かに一息で言うには長かったけども!」
「あと間違ってないな。君の言い方を真似れば、フォルアにかかってるよ。俺もそうだしフォルアもそう。長く生きてる。っていうか話進まないから適当に流してくれない?」
「流せるなら流してるわ……!」
流すにはあまりにさりげなさが皆無すぎる内容すぎんだろ、とファインは心底微妙な顔をカースへ向けた。
「……カースもフォルアも、実は人間じゃないのか?」
突っ込みをファインに委ねているのか、存外にも冷静な口調でアルスがカースに聞いた。
「だとしたらどうする? 引くか? 一緒の旅はやめたいか?」
カースがニッコリとアルスを見る。
「まさか。今さら俺やファインが気にするとでも? っていうか元々人種とか種族にこだわりはないよ。ファインがうるさいくらい突っ込んでるのは、」
「……うるさいと思ったのか……」
思わずファインは呟きが漏れたが、アルスは気にした様子もなく続けてきた。
「単に知らなかったからというのと、種族がどうこうじゃなくて普通にどういうことって不思議だからだよ。俺もそうだし」
「ああ……そうだな。君らはそうだった。そういう人間だった」
ははっと軽く笑ってからカースが改めて説明してきた。
「俺はハーフエルフなんだ。だから何百年と生きる、それが普通なものでね。エルフやハーフエルフは一部の人間からは格好の対象だからさ、愛玩奴隷とか臓器とかそういう、ね。君たちも耳にしたことはあるだろう。だから基本秘密にさせてもらってる。君たちにもあえて言ってなくて、すまない」
カースは淡々と話してから、頭を軽くではあるが下げてきた。謝ったり頭を下げるところを実は見た記憶がないように思うファインは内心驚いていた。そして、それくらい真摯に話してくれているのだろうと思えた。
「じゃあ、フォルアも……?」
「いや。違う。これでもフォルアは正真正銘、人間なんだ」
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