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130話
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アルスと反対側で眠っているカースを気にしながら、ファインは背を向けていたアルスへそっと向き直った。くっつかれていたので寝返りを打ちにくいかと思ったが、ファインが動くとアルスは素直に腕を緩めてくる。
……目は覚めてんのか?
「アルス……どうした」
小声で囁くと俯くようにして横たわっていたアルスがファインを見上げてくる。
「悪い、起こした?」
「元々寝てねーよ、まだ」
「そっか」
「久しぶりに悪い夢、見たのか?」
「違う。変に心配かけたんだな、ごめん」
「いい。……じゃあどうした?」
「……わからない」
わからないと呟くと、アルスはまた俯くようにしてファインにくっついてきた。向き合っているせいでファインの胸に飛び込んできてくれたかのような状況に、いつもだったら動揺が隠せなかっただろう。だが今はアルスが心配だという気持ちが優先している。ファインは少し躊躇してからアルスの背中に手を回し、そっと撫でた。
ホッと小さな吐息がアルスから聞こえてきた。このまま撫でていたらアルスも眠るかもしれないと続ける。
「……俺、多分性格悪い」
少ししてからアルスがぼそりと呟いてきた。
「アルスが? まさか」
「悪い。……それにひどいわがままだ」
「考えすぎだろ。むしろもっとわがままでいいくらいじゃね」
二人で旅をしている頃もお互い好き勝手動いている風でありながら、アルスはいつもファインを気遣ってくれていた。フォルアが加わってからはフォルアのこともかなり気遣っている。カースに関してはあんなでも一番大人だからか、アルスも変に気遣う素振りはないものの、少なくともわがままを言っているところは見たことない。
「……ファイン。背中、向いて」
「ん? あ、ああ」
向き合って抱き合うようなのはやっぱ駄目なのかと一瞬寂しく思ったが、おそらく向き合っていると言いにくいのだろうとすぐに気づく。ファインは肯定するとまたアルスに背中を向けた。ついでにカースの様子を窺うが、今もまだ眠っているようだ。
「俺……、……えっと……、ファイン……最近カースと仲いい、よな」
「は? いや、そうか?」
やはり言いづらいのだろう、逡巡している風だったアルスの言葉を待っていると予想外のことを言われた。
「うん。気安い感じでぽんぽん言い合ったり」
「……主に文句な」
「でも楽しそうだ」
「いや、あー、うーん」
そうとも言えるし、違うとも言える。確かに言い合えるやり取りは小気味いいが、あの性格だけに苛立たしいことも少なくない。
「俺……ずっとファインと一緒だった」
「ああ」
「その……ファインと一番親しいのは俺なのに、……って……何かモヤモヤしちゃって」
「なるほ……、……うん?」
相槌を打っている途中で何か気になり、ファインは今のアルスの言葉を脳内で繰り返した。
待って、それ、どういう……? え? だって、え?
聞いているようで聞き流しそうになっていた。だが遅れて浸透してきた内容に、ファインは大いに戸惑う。
アルスが言っていることは、まるでやきもちだ。ファインこそ出しはしないものの本来アルスに対して独占欲の塊であるため、よくわかる。
でも……アルスが? いや、間違いだろ。俺の頭が都合よくとらえすぎてんだな。
「ちょっとよくわからないんだが。オレとカースが親しそうに見えて、アルスがモヤついてしまう、ってこと、だよな?」
「うん」
待ってそれ間違いなくね?
いや……早計だ、ファイン。お前疲れてんだよ……一気に結果に飛びつきすぎだろ。アルスだぞ、アルス。そんなわけねぇだろが。
多分、詳しく聞けば「そんなことかよ……」って内容だとわかるだろうと、ファインは小さく息を吸い込み、吐き出した。
「アルス……それは……何で……」
「多分だけど……俺こそがファインの幼馴染で家族のような一番気安い仲だから、その、取られた、みたい、な?」
性格悪いし情けないだろ、とアルスがファインの背中から、実際情けなさそうな様子に感じそうな声色で呟いてきた。
「い、や……情けなくなんか……」
これは……単に自分の一番お気に入りが取られるのが嫌、という子ども特有の感覚に近いアレなのか?
ファインは内心悶々と考える。
そういった感情は確かにある。恋愛でなくとも、身内でなくとも、単に友だちが取られるかもと嫉妬してしまう感情というのはあるらしい。
だがアルスとファインはそんな感情にとらわれてしまうほど、むしろ薄い関係ではないはずだ。それこそゆるぎない家族だという感覚のほうが近い。アルスが言うのはもっとも風ではあるが、ファインにとって少々違和感を覚えた。
でも……オレがそう思いたいだけか?
フォルアが加わった時アルスにそういった感情が生まれなかったのは、むしろフォルアが同じくらいとはいえどちらかといえばアルスに甘いというか、懐いている気がするからか。
本気ではないものの微妙な気持ちにはなったし、オレも何度か突っ込みいれたりしたもんな。オレとの対応と違うくねぇかって。
ただ、それは友情に関する嫉妬ではない。かといって恋愛絡みの嫉妬でもない。本気で憤るような気持ちを、ファインはアルスとフォルアに対して抱いたことなどなかったし今後もおそらくない。
……目は覚めてんのか?
「アルス……どうした」
小声で囁くと俯くようにして横たわっていたアルスがファインを見上げてくる。
「悪い、起こした?」
「元々寝てねーよ、まだ」
「そっか」
「久しぶりに悪い夢、見たのか?」
「違う。変に心配かけたんだな、ごめん」
「いい。……じゃあどうした?」
「……わからない」
わからないと呟くと、アルスはまた俯くようにしてファインにくっついてきた。向き合っているせいでファインの胸に飛び込んできてくれたかのような状況に、いつもだったら動揺が隠せなかっただろう。だが今はアルスが心配だという気持ちが優先している。ファインは少し躊躇してからアルスの背中に手を回し、そっと撫でた。
ホッと小さな吐息がアルスから聞こえてきた。このまま撫でていたらアルスも眠るかもしれないと続ける。
「……俺、多分性格悪い」
少ししてからアルスがぼそりと呟いてきた。
「アルスが? まさか」
「悪い。……それにひどいわがままだ」
「考えすぎだろ。むしろもっとわがままでいいくらいじゃね」
二人で旅をしている頃もお互い好き勝手動いている風でありながら、アルスはいつもファインを気遣ってくれていた。フォルアが加わってからはフォルアのこともかなり気遣っている。カースに関してはあんなでも一番大人だからか、アルスも変に気遣う素振りはないものの、少なくともわがままを言っているところは見たことない。
「……ファイン。背中、向いて」
「ん? あ、ああ」
向き合って抱き合うようなのはやっぱ駄目なのかと一瞬寂しく思ったが、おそらく向き合っていると言いにくいのだろうとすぐに気づく。ファインは肯定するとまたアルスに背中を向けた。ついでにカースの様子を窺うが、今もまだ眠っているようだ。
「俺……、……えっと……、ファイン……最近カースと仲いい、よな」
「は? いや、そうか?」
やはり言いづらいのだろう、逡巡している風だったアルスの言葉を待っていると予想外のことを言われた。
「うん。気安い感じでぽんぽん言い合ったり」
「……主に文句な」
「でも楽しそうだ」
「いや、あー、うーん」
そうとも言えるし、違うとも言える。確かに言い合えるやり取りは小気味いいが、あの性格だけに苛立たしいことも少なくない。
「俺……ずっとファインと一緒だった」
「ああ」
「その……ファインと一番親しいのは俺なのに、……って……何かモヤモヤしちゃって」
「なるほ……、……うん?」
相槌を打っている途中で何か気になり、ファインは今のアルスの言葉を脳内で繰り返した。
待って、それ、どういう……? え? だって、え?
聞いているようで聞き流しそうになっていた。だが遅れて浸透してきた内容に、ファインは大いに戸惑う。
アルスが言っていることは、まるでやきもちだ。ファインこそ出しはしないものの本来アルスに対して独占欲の塊であるため、よくわかる。
でも……アルスが? いや、間違いだろ。俺の頭が都合よくとらえすぎてんだな。
「ちょっとよくわからないんだが。オレとカースが親しそうに見えて、アルスがモヤついてしまう、ってこと、だよな?」
「うん」
待ってそれ間違いなくね?
いや……早計だ、ファイン。お前疲れてんだよ……一気に結果に飛びつきすぎだろ。アルスだぞ、アルス。そんなわけねぇだろが。
多分、詳しく聞けば「そんなことかよ……」って内容だとわかるだろうと、ファインは小さく息を吸い込み、吐き出した。
「アルス……それは……何で……」
「多分だけど……俺こそがファインの幼馴染で家族のような一番気安い仲だから、その、取られた、みたい、な?」
性格悪いし情けないだろ、とアルスがファインの背中から、実際情けなさそうな様子に感じそうな声色で呟いてきた。
「い、や……情けなくなんか……」
これは……単に自分の一番お気に入りが取られるのが嫌、という子ども特有の感覚に近いアレなのか?
ファインは内心悶々と考える。
そういった感情は確かにある。恋愛でなくとも、身内でなくとも、単に友だちが取られるかもと嫉妬してしまう感情というのはあるらしい。
だがアルスとファインはそんな感情にとらわれてしまうほど、むしろ薄い関係ではないはずだ。それこそゆるぎない家族だという感覚のほうが近い。アルスが言うのはもっとも風ではあるが、ファインにとって少々違和感を覚えた。
でも……オレがそう思いたいだけか?
フォルアが加わった時アルスにそういった感情が生まれなかったのは、むしろフォルアが同じくらいとはいえどちらかといえばアルスに甘いというか、懐いている気がするからか。
本気ではないものの微妙な気持ちにはなったし、オレも何度か突っ込みいれたりしたもんな。オレとの対応と違うくねぇかって。
ただ、それは友情に関する嫉妬ではない。かといって恋愛絡みの嫉妬でもない。本気で憤るような気持ちを、ファインはアルスとフォルアに対して抱いたことなどなかったし今後もおそらくない。
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