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120話
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叫び声などが聞こえた途端、今までのどかに飲み食いしていたアルスたちは剣を手にしていた。これはもう、習性と言うものかもしれない。
だが普通に考えてこういった店内に魔物が出るわけもなく、おそらくは酔っぱらった客が暴れたか何かだろうと次の瞬間には思い、アルスは剣を持つ手を少し緩める。ただ騒がしい様子は一向に収まる様子がない。
「俺、ちょっと見てくるよ」
「アルス、ほっとけよ」
「ほっとけないよ。酔っぱらいが暴れてるんだとしたらお店の人も周りの客も迷惑だろうし」
「まあ、そうだね。それに店が困ってる状態だったとしたら、それを解決することで店の人は俺らに感謝するかもだしねえ」
アルスの言葉にカースがにこにこ頷いている。
「そう、かもだけど、それが?」
アルスが首を傾げると、カースの代わりにファインが口を開いてきた。その口調からは呆れた様子がうかがえる。
「どうせ恩に着せて酒代まけろとか言うんだろ」
「やだなあファイン」
「違うのかよ」
「ちょっとだけ合ってるかな。まけさせるんじゃなくタダにさせるんだよ」
かなり整った美形の顔で朗らかに微笑んでいるが、言っていることは朗らかでないような気がする。だが今はそれどころじゃないとアルスは剣を持ち直しながら立ち上がった。
「まあ、待ってアルス。こんな店の中で剣を振り回すわけにいかないでしょ」
言われてみると確かに、とアルスはハッとなった。
「だからここは俺とファインに任せて」
「ってオレかよ!」
「君ほど交渉が上手い人、この中では俺以外にいないでしょ」
「オレを持ち上げる風でいて自分を持ち上げるな」
「いいから。アルスはフォルアを見ててくれないかな」
「い、いけどでもフォルアは強いんだから別に大丈夫じゃ?」
「そういう意味じゃなく、ちゃんと肉やら何やら食べさせてて。あと見た目だけはかわいいからさ、フォルア。変なやつに絡まれないように。あ、でもアルスも綺麗な顔してるしなあ」
「は? 俺はそういうタイプじゃないと思うぞ。あと保護者の役割は了解。請け負ったよ。代わりに問題起こしてるやつどうにかしてきて」
「当然」
笑みを浮かべたカースと「何でオレが」と言いつつも、面倒ごとを起こすやからをどうにかすることは悪くないと思っていそうなファインがそちらへ向かって行った。アルスもどうせなら正義にかこつけて少々動きたかったが、確かに剣をここでふるうわけにはいかないし、こぶしでどうにかするにも周りに迷惑かけそうだ。カースとファインなら口達者な上にさりげなく強い魔力を見せつけることもできるだろうし、店にとって比較的穏便にどうにかできるだろう。
そう考えると俺……何だろな、やっぱファインが言うように脳筋っぽいよなあ。
カースには先ほど「綺麗な顔」と言ってもらえたものの、自分にはあまりに似合わない言葉だなとアルスは苦笑した。そしてそろそろ食べ飽きたのかもぞもぞとどこかへ移動したそうなフォルアに気づいて「フォルア、まだ飽きるには早いよ。とりあえずこれ食べよう」と少し辛そうながらにおいしそうな肉にナイフを突き立て、フォルアの口へ持って行った。
ファインたちが向かって行くとさらに騒がしくなったのは一瞬のことで、早々にその辺りは静かになった。そしてまた少しすると二人が戻ってくる。
「どうだった?」
「飲み食いタダだよ」
にこにことカースが言ってくる。
「えっと、そうじゃなくて……いや、タダなのはすごくありがたいけど」
「この人とまともに相手しても疲れるだけだぞアルス。とにかく、やっぱ酔っ払いたちだったわ。オレがどうこうしなくてもカースが笑顔で指から禍々しい炎出しただけで即おとなしくなったし店に支払い済ませて逃げるように帰ってったわ。オレいらなくね? って思ったんだけどな。その後で礼を言ってくる店の者にも笑顔で脅す勢いで話しようとするからさ……オレの役割ここかよって突っ込みたくなったっつーの」
「ファインのおかげで店の人は快くタダにしてくれたよ」
「るせぇ……あんたほんっと時折ろくでもねぇわ」
「えー? 俺、優しくていい人ってよく言われるのにな」
「神話より信ぴょう性ねぇから」
「まあ、とにかくそういうことだから飲もう」
「食おうじゃねえのかよ」
「それは若い君らが主に担当するといいよ」
「あんたオレらとそんな変わらねえだろ」
「はは。よし、頼もう。そんで綺麗なお姉さんはべらそう」
「いや、それはほんと、いらね」
「えぇ? その後お持ち帰りの予定は?」
「ある訳ねぇだろ……!」
元々すぐ打ち解けはしたものの、いつの間にこの二人はこんなに仲よくなっていたのだろうとアルスは少しポカンと二人を見た。そして何となく寂しさを覚えるのは、ファインの一番は自分だという無条件に近い勢いでの感じがまるで薄れそうだからだろうか。
そんなことを考えながらも、せっかく無料で食べられるならとアルスも遠慮なく次から次へと肉を消費していった。
気づけば主にカースとアルスで相当の量の肉や酒を消費してしまったらしい。店のオーナーが少々困惑したように顔を出してきたことでそれに気づいた。早々に飲み食いをリタイヤしているフォルアは綺麗なお姉さんではなくカースの太ももを枕にして眠っているし、同じくリタイヤしているファインは呆れた顔を隠すことなくギルドで請け負った仕事の確認をしている。
「ご、ごめん……俺が食べすぎたんだよな」
「アルスは謝らなくていいぞ。間違いなくカースが飲みすぎなんだよ」
「ええ? 俺?」
「いえ、あの……言いにくいのですが、肉も酒も今日の分はもう底をつきそうで……」
だが普通に考えてこういった店内に魔物が出るわけもなく、おそらくは酔っぱらった客が暴れたか何かだろうと次の瞬間には思い、アルスは剣を持つ手を少し緩める。ただ騒がしい様子は一向に収まる様子がない。
「俺、ちょっと見てくるよ」
「アルス、ほっとけよ」
「ほっとけないよ。酔っぱらいが暴れてるんだとしたらお店の人も周りの客も迷惑だろうし」
「まあ、そうだね。それに店が困ってる状態だったとしたら、それを解決することで店の人は俺らに感謝するかもだしねえ」
アルスの言葉にカースがにこにこ頷いている。
「そう、かもだけど、それが?」
アルスが首を傾げると、カースの代わりにファインが口を開いてきた。その口調からは呆れた様子がうかがえる。
「どうせ恩に着せて酒代まけろとか言うんだろ」
「やだなあファイン」
「違うのかよ」
「ちょっとだけ合ってるかな。まけさせるんじゃなくタダにさせるんだよ」
かなり整った美形の顔で朗らかに微笑んでいるが、言っていることは朗らかでないような気がする。だが今はそれどころじゃないとアルスは剣を持ち直しながら立ち上がった。
「まあ、待ってアルス。こんな店の中で剣を振り回すわけにいかないでしょ」
言われてみると確かに、とアルスはハッとなった。
「だからここは俺とファインに任せて」
「ってオレかよ!」
「君ほど交渉が上手い人、この中では俺以外にいないでしょ」
「オレを持ち上げる風でいて自分を持ち上げるな」
「いいから。アルスはフォルアを見ててくれないかな」
「い、いけどでもフォルアは強いんだから別に大丈夫じゃ?」
「そういう意味じゃなく、ちゃんと肉やら何やら食べさせてて。あと見た目だけはかわいいからさ、フォルア。変なやつに絡まれないように。あ、でもアルスも綺麗な顔してるしなあ」
「は? 俺はそういうタイプじゃないと思うぞ。あと保護者の役割は了解。請け負ったよ。代わりに問題起こしてるやつどうにかしてきて」
「当然」
笑みを浮かべたカースと「何でオレが」と言いつつも、面倒ごとを起こすやからをどうにかすることは悪くないと思っていそうなファインがそちらへ向かって行った。アルスもどうせなら正義にかこつけて少々動きたかったが、確かに剣をここでふるうわけにはいかないし、こぶしでどうにかするにも周りに迷惑かけそうだ。カースとファインなら口達者な上にさりげなく強い魔力を見せつけることもできるだろうし、店にとって比較的穏便にどうにかできるだろう。
そう考えると俺……何だろな、やっぱファインが言うように脳筋っぽいよなあ。
カースには先ほど「綺麗な顔」と言ってもらえたものの、自分にはあまりに似合わない言葉だなとアルスは苦笑した。そしてそろそろ食べ飽きたのかもぞもぞとどこかへ移動したそうなフォルアに気づいて「フォルア、まだ飽きるには早いよ。とりあえずこれ食べよう」と少し辛そうながらにおいしそうな肉にナイフを突き立て、フォルアの口へ持って行った。
ファインたちが向かって行くとさらに騒がしくなったのは一瞬のことで、早々にその辺りは静かになった。そしてまた少しすると二人が戻ってくる。
「どうだった?」
「飲み食いタダだよ」
にこにことカースが言ってくる。
「えっと、そうじゃなくて……いや、タダなのはすごくありがたいけど」
「この人とまともに相手しても疲れるだけだぞアルス。とにかく、やっぱ酔っ払いたちだったわ。オレがどうこうしなくてもカースが笑顔で指から禍々しい炎出しただけで即おとなしくなったし店に支払い済ませて逃げるように帰ってったわ。オレいらなくね? って思ったんだけどな。その後で礼を言ってくる店の者にも笑顔で脅す勢いで話しようとするからさ……オレの役割ここかよって突っ込みたくなったっつーの」
「ファインのおかげで店の人は快くタダにしてくれたよ」
「るせぇ……あんたほんっと時折ろくでもねぇわ」
「えー? 俺、優しくていい人ってよく言われるのにな」
「神話より信ぴょう性ねぇから」
「まあ、とにかくそういうことだから飲もう」
「食おうじゃねえのかよ」
「それは若い君らが主に担当するといいよ」
「あんたオレらとそんな変わらねえだろ」
「はは。よし、頼もう。そんで綺麗なお姉さんはべらそう」
「いや、それはほんと、いらね」
「えぇ? その後お持ち帰りの予定は?」
「ある訳ねぇだろ……!」
元々すぐ打ち解けはしたものの、いつの間にこの二人はこんなに仲よくなっていたのだろうとアルスは少しポカンと二人を見た。そして何となく寂しさを覚えるのは、ファインの一番は自分だという無条件に近い勢いでの感じがまるで薄れそうだからだろうか。
そんなことを考えながらも、せっかく無料で食べられるならとアルスも遠慮なく次から次へと肉を消費していった。
気づけば主にカースとアルスで相当の量の肉や酒を消費してしまったらしい。店のオーナーが少々困惑したように顔を出してきたことでそれに気づいた。早々に飲み食いをリタイヤしているフォルアは綺麗なお姉さんではなくカースの太ももを枕にして眠っているし、同じくリタイヤしているファインは呆れた顔を隠すことなくギルドで請け負った仕事の確認をしている。
「ご、ごめん……俺が食べすぎたんだよな」
「アルスは謝らなくていいぞ。間違いなくカースが飲みすぎなんだよ」
「ええ? 俺?」
「いえ、あの……言いにくいのですが、肉も酒も今日の分はもう底をつきそうで……」
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