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118話
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ルナール王国には二日後に到着した。砂だらけの砂漠の中にある王国都市は城壁に囲まれ、緑に溢れている。そしてとても活気があった。
「ねえねえファイン、見た? さっきのお姉さん。あんな恰好しちゃってさ。布面積少なすぎだよね最高。顔もスタイルもよかったよねえ」
「オレに振るな」
「えー。でも隠したいなら興味ある振りしてたほうがそれっぽいんじゃないか?」
「ばっ、口に出すな。あんた危なっかしいな。口、軽すぎて浮くんじゃね?」
自分の背後から抱きついてくるカースを鬱陶しげに払いのけ、ファインは微妙な顔を向けた。そして「聞いてないだろうな」とアルスをちらりと見る。
「……」
「ど、どうしたアルス」
いつもなら絶対町の雰囲気にそわそわしながらあちこちを見ているはずのアルスは不思議そうな顔でファインを見ていた。思わず焦って聞くも、アルスは首を傾げてくる。
「アルス?」
「え、ああ。別にどうってことはないんだけど……ちなみに何を隠したいんだ?」
聞こえてるぅ!
「き、聞き間違いだろ。気になるなら興味ある振りしてろって言ったんだよ。なあ、カース」
「そうだね」
カースはにこにこと頷く。何となくいまいましいとファインはこっそりカースを睨んだ。
「何が気になるなら?」
「この国の情勢とかそういうんだよ。そういうの手っ取り早く知るには文化や風俗から入るのがベストだしな」
適当に誤魔化すために言ったが、これは嘘でもない。その場所をよく知るにはそちらから知ると実際手っ取り早いし、把握しやすい。一日二日程度しか滞在しないようなところなら知らなくても問題ないが、ある程度滞在するところならその地域についてもある程度知っておいたほうがやりやすいし安全だとファインは思っている。
「風俗……」
「っちげーぞアルス! 性風俗じゃなくて、社会とか地域とか階層とかに特徴出る、日常生活とかしきたりとか風習のほうの風俗な!」
「え? せい風俗?」
「あ、何でもないんです」
考え込むようなアルスについ焦ってしまい余計なことをむしろ口にしてしまった。そもそも性的に疎いアルスがそういった種類の風俗が浮かんだりするはずもなかったとファインは内心ため息をつく。その横でカースがおかしげに馬鹿笑いしてるため、歩きながらわざと足を踏んでおいた。
ちなみにフォルアは無言のまま自由に歩いている。気になるものがあればふらりとそちらへ足を向けるし立ち止まる。だが話しながらもカースはフォルアに意識でも集中しているのか、何があっても見失わないようだ。多少自由に歩かせるものの、すぐに干渉したり自分がそちらへ足を向けたりしていた。
……保護者っぷりが半端ねぇな。
ファインもアルスに関しては似た気持ちはあるものの、過干渉したいわけではないため基本的にこういった場合アルスの動向に意識を集中することもない。
最初の頃はひょっとしてカースはフォルアのことが好きなのかと思ったが、見ているとそういうのとも違う。保護者という言葉が一番しっくりいく。
つってもオレらがフォルアと出会った時フォルアは一人だったし、カースと初めて出会った時も誰かを見失って心配しているといった様子はなかったんだよな。
目の前にいたら過干渉な保護者っぷりを発揮するが、かといって縛りつけるわけではないということなのだろうか。
アルスもそうだが、ファインにはもう本物の家族はいない。だから自分の親がこういう面でどうだったかは、当時ファインはずっと親元にいて危険なことをするわけでもなかったためか、よくわからない。だが野垂れ死にしそうだったファインたちを助けてくれたルートとマクダを思うと、彼らなら確かにカースと似たような行動をしそうかもしれないと思った。
こうしてファインたちが旅に出ることを禁じるどころか送り出してくれているが、そばにいた時やちょっとした旅から帰った時は何だかんだうるさく言いながらも美味しい料理を出してくれたり温かいベッドを用意してくれたり、仕事を休んでどこかへ連れていってくれたりと、とても構ってくれた。
ルート……マクダ……元気かな。なぁ、オレら旅の途中で成人したぞ。大人になった。でもきっとルートたちは「ちっとも変わらねえ」とか言ってこれ食えあれ食えとか言うんだろな。
精霊の加護により土地によって気温は変わるものの、季節はどこへ行こうが一緒だと旅で知った。今は春真っ盛りといったところか。ファインもアルスも春生まれだ。だからようやく十六歳となり成人したことになる。これからはギルドでも堂々と「成人してるんで」と言える。ルートたちが住むトーレンス王国でも気温はさておき同じ季節だろうから、二人が成人したと気づいてくれているかもしれない。
「とにかく宿取ったらどこか楽しそうな飲み屋にでも繰り出そうよ」
ファインがルートたちのことを思い出していると、カースの能天気そうな声が聞こえてきた。
「は? 楽しそうな飲み屋ってなんだよ。あと、宿取ったらとりあえずギルドへ行くから」
「えー。意外に真面目なんだよな、ファインって」
「意外って何だよ。だいたいこんなでかい王国にいりゃあ、持ってる金なんてあっという間に底つくわ。ギルドで仕事、見つけておかねーとだろ」
「あと意外としっかりしてるんだよね」
「だから意外って何だよ……!」
「カース。ファインは昔からこれでもすごくしっかりしてるし頭いいしで、俺、ファインいなかったら生きてけなかったよ」
「へえ」
アルスの言葉にカースがしたり顔でニヤニヤとファインを見てきた。どうやら口だけじゃなく態度もやはり軽いようだ。いつかアルスにファインの気持ちがバレるのではとファインは心底微妙な気持ちになった。あと、アルスに言われた「これでも」という言葉に「これ、とはどれだよ?」と少々微妙な気持ちになりつつ、生きていけなかったとまで言われて嬉しくてたまらなくもあった。
「ねえねえファイン、見た? さっきのお姉さん。あんな恰好しちゃってさ。布面積少なすぎだよね最高。顔もスタイルもよかったよねえ」
「オレに振るな」
「えー。でも隠したいなら興味ある振りしてたほうがそれっぽいんじゃないか?」
「ばっ、口に出すな。あんた危なっかしいな。口、軽すぎて浮くんじゃね?」
自分の背後から抱きついてくるカースを鬱陶しげに払いのけ、ファインは微妙な顔を向けた。そして「聞いてないだろうな」とアルスをちらりと見る。
「……」
「ど、どうしたアルス」
いつもなら絶対町の雰囲気にそわそわしながらあちこちを見ているはずのアルスは不思議そうな顔でファインを見ていた。思わず焦って聞くも、アルスは首を傾げてくる。
「アルス?」
「え、ああ。別にどうってことはないんだけど……ちなみに何を隠したいんだ?」
聞こえてるぅ!
「き、聞き間違いだろ。気になるなら興味ある振りしてろって言ったんだよ。なあ、カース」
「そうだね」
カースはにこにこと頷く。何となくいまいましいとファインはこっそりカースを睨んだ。
「何が気になるなら?」
「この国の情勢とかそういうんだよ。そういうの手っ取り早く知るには文化や風俗から入るのがベストだしな」
適当に誤魔化すために言ったが、これは嘘でもない。その場所をよく知るにはそちらから知ると実際手っ取り早いし、把握しやすい。一日二日程度しか滞在しないようなところなら知らなくても問題ないが、ある程度滞在するところならその地域についてもある程度知っておいたほうがやりやすいし安全だとファインは思っている。
「風俗……」
「っちげーぞアルス! 性風俗じゃなくて、社会とか地域とか階層とかに特徴出る、日常生活とかしきたりとか風習のほうの風俗な!」
「え? せい風俗?」
「あ、何でもないんです」
考え込むようなアルスについ焦ってしまい余計なことをむしろ口にしてしまった。そもそも性的に疎いアルスがそういった種類の風俗が浮かんだりするはずもなかったとファインは内心ため息をつく。その横でカースがおかしげに馬鹿笑いしてるため、歩きながらわざと足を踏んでおいた。
ちなみにフォルアは無言のまま自由に歩いている。気になるものがあればふらりとそちらへ足を向けるし立ち止まる。だが話しながらもカースはフォルアに意識でも集中しているのか、何があっても見失わないようだ。多少自由に歩かせるものの、すぐに干渉したり自分がそちらへ足を向けたりしていた。
……保護者っぷりが半端ねぇな。
ファインもアルスに関しては似た気持ちはあるものの、過干渉したいわけではないため基本的にこういった場合アルスの動向に意識を集中することもない。
最初の頃はひょっとしてカースはフォルアのことが好きなのかと思ったが、見ているとそういうのとも違う。保護者という言葉が一番しっくりいく。
つってもオレらがフォルアと出会った時フォルアは一人だったし、カースと初めて出会った時も誰かを見失って心配しているといった様子はなかったんだよな。
目の前にいたら過干渉な保護者っぷりを発揮するが、かといって縛りつけるわけではないということなのだろうか。
アルスもそうだが、ファインにはもう本物の家族はいない。だから自分の親がこういう面でどうだったかは、当時ファインはずっと親元にいて危険なことをするわけでもなかったためか、よくわからない。だが野垂れ死にしそうだったファインたちを助けてくれたルートとマクダを思うと、彼らなら確かにカースと似たような行動をしそうかもしれないと思った。
こうしてファインたちが旅に出ることを禁じるどころか送り出してくれているが、そばにいた時やちょっとした旅から帰った時は何だかんだうるさく言いながらも美味しい料理を出してくれたり温かいベッドを用意してくれたり、仕事を休んでどこかへ連れていってくれたりと、とても構ってくれた。
ルート……マクダ……元気かな。なぁ、オレら旅の途中で成人したぞ。大人になった。でもきっとルートたちは「ちっとも変わらねえ」とか言ってこれ食えあれ食えとか言うんだろな。
精霊の加護により土地によって気温は変わるものの、季節はどこへ行こうが一緒だと旅で知った。今は春真っ盛りといったところか。ファインもアルスも春生まれだ。だからようやく十六歳となり成人したことになる。これからはギルドでも堂々と「成人してるんで」と言える。ルートたちが住むトーレンス王国でも気温はさておき同じ季節だろうから、二人が成人したと気づいてくれているかもしれない。
「とにかく宿取ったらどこか楽しそうな飲み屋にでも繰り出そうよ」
ファインがルートたちのことを思い出していると、カースの能天気そうな声が聞こえてきた。
「は? 楽しそうな飲み屋ってなんだよ。あと、宿取ったらとりあえずギルドへ行くから」
「えー。意外に真面目なんだよな、ファインって」
「意外って何だよ。だいたいこんなでかい王国にいりゃあ、持ってる金なんてあっという間に底つくわ。ギルドで仕事、見つけておかねーとだろ」
「あと意外としっかりしてるんだよね」
「だから意外って何だよ……!」
「カース。ファインは昔からこれでもすごくしっかりしてるし頭いいしで、俺、ファインいなかったら生きてけなかったよ」
「へえ」
アルスの言葉にカースがしたり顔でニヤニヤとファインを見てきた。どうやら口だけじゃなく態度もやはり軽いようだ。いつかアルスにファインの気持ちがバレるのではとファインは心底微妙な気持ちになった。あと、アルスに言われた「これでも」という言葉に「これ、とはどれだよ?」と少々微妙な気持ちになりつつ、生きていけなかったとまで言われて嬉しくてたまらなくもあった。
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