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116話
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トリンカから海岸沿いまで出るのに要した時間は一日くらいだったが、海に出てからはむしろフォルアやカースの魔法の力によっておそらくかなり早く向こう岸に着いた。距離だけだとはっきりわからないが、トリンカから海岸沿いへ来るまでよりあったかもしれない。魔法様々だ。
「多分また一日か二日で着くと思うよ、ルナール王国には」
いつも羽織っている上着を脱いで一気に軽装となったカースがにこにこ言っている。
確かに海を渡ってこちらに来た途端に暑くなった。以前属性のない土地で夏という季節を味わったことがあるが、下手をすればそれ以上に気温は高いかもしれない。だがこの辺りの属性である火はアルスにとって一番得意な属性でもある。水が何より強いのが火だからだ。そのおかげか、案外過ごしやすい。暑いことは暑いのだが、以前味わった「夏」がじっとりした暑さだったのに比べ、カラッとしていて比較的楽というのだろうか。
ファインも自分の属性と同じ火だからか、あの時より全然平気そうだ。
不思議なのは、やっぱフォルアなんだよな……。
アルスはフォルアをちらりと見た。
ゆったりとした長袖の上着を着ているアルスよりはまだ涼しいであろう五分丈の上着ではあるが、片方は肘より上まである手袋を、そしてもう片方はそれより短い手袋をしている分、肘より上まであるサポーターをフォルアはつけている。とても上質そうでセンスある服ではあるが、風属性であるフォルアにとって一番弱点のはずの火属性の土地では絶対にその恰好は暑いはずだ。というか多分裸であっても耐え難い暑さを本当なら感じるのではないだろうか。
だというのにフォルアはいつもと変わらない。多分風魔法の応用で自分の身の回りを涼しくしているのもあるだろうが、苦手属性の中では魔法も使いにくいはずだ。
トリンカを含めてフィール王国周辺にいた時は心なしか心地よさそうに見えていた。あの辺の土地は風が何より強い土の属性だからだろうと納得いったが、では何故弱いはずの火属性の土地でこうもケロッとしているのか。
「どうかした? アルス」
カースがにこにこしたまま聞いてくる。いつもなら何か気になればすぐに聞いてくるファインはむしろアルスの考えていることがわかっているのだろう。カースの背後で微妙そうな顔をしてフォルアやカースを見ている。
「いや……あー、えっと。魔法の属性の話って普通ならあまりしないほうがいいんだろけど……」
「ああ! フォルアの属性すでに知ってるんだろう? なら気にすることないよ」
「そ、そう? でもあまり聞いていいのかどうか……フォルアって風が主な属性というか……多分風の上位を持ってるんじゃないかなって思ってるんだけど」
「そうだね」
「でも、ここの土地って火じゃない? なのに何でこうも平気そうなのかなって」
「あー、確かに不思議なんだろね。……フォルアって他にも魔法使えるのは見てきて知ってるよね?」
「うん。全部の属性魔法使えるっぽいし、本人が自分の属性は風と土だって言ってたし」
「だからじゃないかなあ」
「え?」
だから、とはとアルスはカースを見ながら首を傾げた。だがカースの背後にいたファインが「なるほど」と呟いている。
「ファインはわかったのか?」
「あー、いや、憶測でしかねえけど」
「大丈夫。俺も憶測だよ。だってほら、フォルアって自分から自分のこと、ぺらぺら話さないだろ?」
にこにこ頷くカースにアルスは「フォルアってカースにもそんななのか」と聞いた。
「わりと昔から誰に対してもこんなだよ、フォルアは」
「そうなんだ。カースにはもう少し色々話したりしてたのかなって思ってた、何となく」
「普段そうでもないよ。で、ファインの憶測って?」
「あ、俺も聞きたい」
「複数の魔法が使える上に属性も二つ持ってるなら、土地の属性によって主だった属性っつーか、体質も変えてんのかなって思った、んだけど……口にすると嘘くせーな」
苦笑するファインに、だがカースは三回ほど拍手する。
「やるじゃない。俺もそう思ってるよ」
「まじかよ」
自分で言っておきながらファインが驚いたようにカースを見、そしてフォルアを見た。アルスもフォルアを見るが、相変わらずわかっているのかいないのか、ぼんやりとした顔で足元を通り過ぎていったサソリのような生き物を目で追っている。
「そんなこと、まじで可能なのか?」
「うーん、俺も人間の体についてよくわからないんだけどね」
「いや、なら何の体ならわかるっつーんだよ……」
また微妙な顔をカースへ向けたファインに対し、カースはおかしげに笑っている。
「はは。生物の神秘ってやつだな」
「何だよそれ」
「まあとにかくさ、多分そうなんだと思うよ。そもそも君たちは属性だって一つだけだろ?」
「ああ」
「うん」
「でもフォルアは二つ持っている上に魔法は全部自在に使える」
「まあ」
「そうだね」
「なら、体質だって自在に変えられてもおかしくないんじゃない?」
そう言われるとそうかもと思える。ファインも「確かに」と頷いている。
「にしてもほんとこいつ、特殊だな。何でそんなすげー力なんだろな。もしかしてそっちに特化しすぎて普段はやべーほど生活能力ねぇのか?」
ファイン、言い過ぎ、と言いそうになったが、アルスとしてもそんな気しか、しない。カースも過保護すぎる相手のことを言われたというのに、ますますおかしそうに「かもね」と笑っていた。
「多分また一日か二日で着くと思うよ、ルナール王国には」
いつも羽織っている上着を脱いで一気に軽装となったカースがにこにこ言っている。
確かに海を渡ってこちらに来た途端に暑くなった。以前属性のない土地で夏という季節を味わったことがあるが、下手をすればそれ以上に気温は高いかもしれない。だがこの辺りの属性である火はアルスにとって一番得意な属性でもある。水が何より強いのが火だからだ。そのおかげか、案外過ごしやすい。暑いことは暑いのだが、以前味わった「夏」がじっとりした暑さだったのに比べ、カラッとしていて比較的楽というのだろうか。
ファインも自分の属性と同じ火だからか、あの時より全然平気そうだ。
不思議なのは、やっぱフォルアなんだよな……。
アルスはフォルアをちらりと見た。
ゆったりとした長袖の上着を着ているアルスよりはまだ涼しいであろう五分丈の上着ではあるが、片方は肘より上まである手袋を、そしてもう片方はそれより短い手袋をしている分、肘より上まであるサポーターをフォルアはつけている。とても上質そうでセンスある服ではあるが、風属性であるフォルアにとって一番弱点のはずの火属性の土地では絶対にその恰好は暑いはずだ。というか多分裸であっても耐え難い暑さを本当なら感じるのではないだろうか。
だというのにフォルアはいつもと変わらない。多分風魔法の応用で自分の身の回りを涼しくしているのもあるだろうが、苦手属性の中では魔法も使いにくいはずだ。
トリンカを含めてフィール王国周辺にいた時は心なしか心地よさそうに見えていた。あの辺の土地は風が何より強い土の属性だからだろうと納得いったが、では何故弱いはずの火属性の土地でこうもケロッとしているのか。
「どうかした? アルス」
カースがにこにこしたまま聞いてくる。いつもなら何か気になればすぐに聞いてくるファインはむしろアルスの考えていることがわかっているのだろう。カースの背後で微妙そうな顔をしてフォルアやカースを見ている。
「いや……あー、えっと。魔法の属性の話って普通ならあまりしないほうがいいんだろけど……」
「ああ! フォルアの属性すでに知ってるんだろう? なら気にすることないよ」
「そ、そう? でもあまり聞いていいのかどうか……フォルアって風が主な属性というか……多分風の上位を持ってるんじゃないかなって思ってるんだけど」
「そうだね」
「でも、ここの土地って火じゃない? なのに何でこうも平気そうなのかなって」
「あー、確かに不思議なんだろね。……フォルアって他にも魔法使えるのは見てきて知ってるよね?」
「うん。全部の属性魔法使えるっぽいし、本人が自分の属性は風と土だって言ってたし」
「だからじゃないかなあ」
「え?」
だから、とはとアルスはカースを見ながら首を傾げた。だがカースの背後にいたファインが「なるほど」と呟いている。
「ファインはわかったのか?」
「あー、いや、憶測でしかねえけど」
「大丈夫。俺も憶測だよ。だってほら、フォルアって自分から自分のこと、ぺらぺら話さないだろ?」
にこにこ頷くカースにアルスは「フォルアってカースにもそんななのか」と聞いた。
「わりと昔から誰に対してもこんなだよ、フォルアは」
「そうなんだ。カースにはもう少し色々話したりしてたのかなって思ってた、何となく」
「普段そうでもないよ。で、ファインの憶測って?」
「あ、俺も聞きたい」
「複数の魔法が使える上に属性も二つ持ってるなら、土地の属性によって主だった属性っつーか、体質も変えてんのかなって思った、んだけど……口にすると嘘くせーな」
苦笑するファインに、だがカースは三回ほど拍手する。
「やるじゃない。俺もそう思ってるよ」
「まじかよ」
自分で言っておきながらファインが驚いたようにカースを見、そしてフォルアを見た。アルスもフォルアを見るが、相変わらずわかっているのかいないのか、ぼんやりとした顔で足元を通り過ぎていったサソリのような生き物を目で追っている。
「そんなこと、まじで可能なのか?」
「うーん、俺も人間の体についてよくわからないんだけどね」
「いや、なら何の体ならわかるっつーんだよ……」
また微妙な顔をカースへ向けたファインに対し、カースはおかしげに笑っている。
「はは。生物の神秘ってやつだな」
「何だよそれ」
「まあとにかくさ、多分そうなんだと思うよ。そもそも君たちは属性だって一つだけだろ?」
「ああ」
「うん」
「でもフォルアは二つ持っている上に魔法は全部自在に使える」
「まあ」
「そうだね」
「なら、体質だって自在に変えられてもおかしくないんじゃない?」
そう言われるとそうかもと思える。ファインも「確かに」と頷いている。
「にしてもほんとこいつ、特殊だな。何でそんなすげー力なんだろな。もしかしてそっちに特化しすぎて普段はやべーほど生活能力ねぇのか?」
ファイン、言い過ぎ、と言いそうになったが、アルスとしてもそんな気しか、しない。カースも過保護すぎる相手のことを言われたというのに、ますますおかしそうに「かもね」と笑っていた。
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