水晶の涙

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111話

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 経験と言われてファインはまた少し怪訝な気持ちになった。もちろん一人旅をしている間にたくさんの魔物などと戦ってきたのかもしれないが、ファインたちとそう変わらない年齢のフォルアだけに、十歳そこそこから二人で旅に出るしかなかったファインたちと経験の差がかけ離れているとは思えない。
 カースが先ほどモードという者について話していた時も何だか違和感があって怪訝な気持ちになっていた。とはいえ考えすぎというか、もしかしたら人の言葉尻を捕らえようとしすぎて変に受け止める癖でもついてしまっている可能性も否めない。
 いったいいつからの付き合いなのかとか、モードという人が本当に何歳だったのだろうかとか疑問に思うほどのことではないのかもしれない。前からたまに「フォルアっていくつから旅してたんだ」と気になったりしていたのもあって余計変に勘ぐってしまっている可能性もある。

 きっと経験により強くなっていったという剣に関しても、深く気にするようなことでも何でもねえんだろな。

 気にしすぎだ、とファインは自分に苦笑した。ただ、普段何も話さないフォルアのことはどうしても気になるというか好奇心が湧いてしまうため、聞けることなら他にもカースに聞いてみたい。

「その魔力だけどさ、強すぎるというか……フォルアって風属性だと思うんだけど、その……」

 話している途中で、自分たちより詳しく知っているであろうカースだけに口にしたものの、フォルアの魔力のことを勝手に色々自分が口にしていいものかと少し躊躇した。

「ああ、うん。フォルア、火魔法とかも普通に使うもんな。最初は戸惑っただろう?」

 だがカースはそんなことを気にした様子もなく笑いかけてくる。大したことでもないのか、それともファインたちをもう信用してくれているのか。

「うん、戸惑った。最初っつか、今もわりと」
「その辺に関してはまあ、そうだな。フォルアの出身地が元々魔力の強い者が多いところらしくてさ。俺もそこまで詳しくは知らないけどな」

 出身地と聞いてそれについて聞こうとする前に詳しく知らない、と言われてしまい、ファインは開こうとした口を閉じる。

「それもあって属性ではない風や土以外の魔法も普通に使えるみたいだぞ。あまりに強い魔力を使う時はさすがにフォルアも剣についてる石を使うだろうけどな」
「……そういえばフォルアの剣についてる石、何の石かちゃんと見たことなかったかも」

 ふとアルスが首を傾げながら呟いている。確かにそうだなとファインも思った。それに石は高くつく。ファインたちはそれもあって剣には魔法の媒体として文様にしている。ただカースが構わず続けてきたのでそのまま聞くことにした。

「こいつ、暑いところでも寒いところでも平然としてるだろ」
「え? ああ、確かに」
「それも火や水属性の魔法を上手く使って例えば冷気とかをさ、体に密着させるようにまとって温度調整したりしてるからなんだよな。それに移動したり木々に飛び移ったりとかするのもさらっとこなすけど、それにも魔力を上手く使ったりしてる。器用なんだよな、強いだけじゃなくて」

 自分以外の人に対して、そういった調整した魔法を使うのに慣れていないのかもしれないが、それでも器用なわりに、ずいぶん昔とはいえあの時はよくも吹き飛ばしてくれたなとファインはキッとフォルアを見る。しかし当の本人はどうでもいい話とばかりにあろうことか食べることもやめてうたた寝をしている。ある意味自由すぎる。
 何故かやたら自慢げに語っていたカースはふと一旦口をつぐみ、そんなフォルアを優しげな顔で眺めた。

「……フォルアってそういえば自分と同じ人間も、殺すことに躊躇しないだろ?」
「……それは、まあ、そう、かも」

 ファインが言いにくそうに頷くと、カースは苦笑しながらファインを見てきた。

「俺はそういうフォルアが当たり前だと思ってるけど、普通は人間が人間を殺すことに躊躇しないのって、違和感あったり怖かったりするんだろ? なのにずっと一緒にいて親しくしてくれてありがとうな」
「別に礼を言われるようなことはオレもアルスもしてねぇ」
「はは。……多分本人は言い訳というか、まあ何も説明しようともしてないと思うんだけどさ。さっきも言ったように魔力が高いだけに、昔何度も襲われたことあるんだよな。それもあって躊躇してたら殺される可能性もあっただろうし、躊躇したせいで要らぬ被害を自分ではなく周りが受けることもあったみたいでさ。それを身をもって知っているから、こいつは魔物とかだけじゃなく、人を殺めることにすら躊躇しないみたいなんだ」

 何となくそういうこともあっただろうなと頭の片隅では思っていたが、実際そうだと言われるとやはり多少なりとも衝撃は受ける。アルスも少し悲しそうな顔をしたのがわかった。

「ま、それはともかく」

 というか軽いな。一見軽薄そうに見えるのを裏付けるみたいにちょくちょく軽いな。

 少し沈んだ気持ちはましになるものの、ファインは微妙な顔をカースへ向ける。

「これからもフォルアと仲よくしてやってくれる?」
「それはもちろん」
「うん」
「よかった。あと、俺とも仲よくしてよ」
「ああ、ここにいる間ってこと?」
「こちらこそ仲よくしてくれたら嬉しいよ」

 アルスが笑いかけている。相変わらず顔の表情の喜怒哀楽はファインに比べて控えめではあるもののとりあえずかわいい、としみじみ思う。

「ありがとう。あとここにいる間ってだけじゃなくて、これからしばらく、かな?」
「え?」
「どういう?」
「ずいぶんフォルアとも会ってなくてさ。君らのことも何か好きだなって思ったし。俺もしばらく一緒に旅させてくれない?」
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