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108話
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少し大きめの橋を渡り、右方向へ行けばコンティという町があるようだったが、ここはとりあえず左方向を目指した。森を抜ければフィール王国がある。
アルスたちがずっと過ごしてきたヴァレアグート郡のトーレンス王国領に比べると少し肌寒い時はある。とはいえ過ごしやすい気候の地域だからか、フィール王国は賑やかな雰囲気に溢れていた。町には市場が溢れかえっていてとても活気がある。
「楽しそうだね」
もしかしたら美味しいものが食べられるかもしれないと、アルスが少しワクワクしながら言えばファインに「今絶対食い物のこと考えてるだろ」と言われた。お見通しのようだ。フォルアはといえばいつものごとく周りを見ているのだか見ていないのだか、ぼんやりとしている。
とりあえず宿を取るより先にギルドを探し、いつものごとくここへ来るまでに得た魔物や獣の素材などを買ってもらい、何かめぼしい依頼はないか探した。せっかくの王国なのでしばらくは滞在する予定で、いくつかの依頼を引き受ける。受付の人にファインが宿屋について聞いたら「たくさんあるのでどこかは絶対に空いていますよ」とにこやかに教えてくれた。大きな王国のギルドだからだろうか、よく受ける子ども扱いはされなかった。
「つってもオレらももうすぐ成人だしな」
ファインがやたら得意げに言っている。確かにアルスもファインも春生まれでもうすぐ十六歳になる。とはいえ成人したから見た目が即変わるというわけでもないだろう。ただ、何か言われても「成人している」と答えられるのは嬉しいし便利でもあるので待ち遠しい。
教えてもらったいくつかの宿屋へ向かう途中で、たくさんの野外店舗の集まる市場に出くわした。それを無視できるほどアルスだけでなくファインも達観していない。フォルアも見て回るのは問題ないようだったので道すがら色んな店を見て回った。
宿屋についてからゆっくり食事をするのも魅力的だが、とりあえずあまりにいい匂いのする串焼きには勝てそうになかった。何の肉か聞けば「フェガン辺りでとれる高原エラフィの肉だよ。ジューシーで柔らかいよ」と肉汁の滴る串を掲げられた。こんなのもう買うしかない。
「買っていい?」
「いいぞ。オレも食べるわ。フォルアは?」
ファインが聞けば、フォルアもこくりと頷いている。アルスはニコニコと店の人に「三本」と指で示しながら口でも告げた。
匂いだけでなく味も美味しく、そして肉は柔らかい。これはあと五本くらい食べてもよかったのではとさらに口に含みながらアルスがしみじみ思っていると「フォルア? え、フォルアか?」とどこか唖然としたような驚いたような響きでフォルアの名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
「おい、また知り合いかよ。お前の顔の広さどうなってんだ」
もうすでに食べ終えたらしいファインが微妙な顔で串を振りながらフォルアを見ている。フォルアはといえば、ただフルフルと頭を振るだけだ。
とりあえず無視するのもな、とファインがため息交じりに言いながら、声がしたほうへ体を向けた。アルスもそれに倣う。だがこの辺りも賑わっているため、誰がフォルアを呼んだのかいまいちわからない。辺りを見渡していると「あれ? 君たちも見た顔だな」と同じ声が聞こえてきた。改めて声がしたほうを見ると、とある野外店舗から聞こえてきたとわかった。そこへ近づいていくと、確かにアルスも見たことがある気がする青年が、アクセサリーを並べている店にいた。とても目を引く美形だなと思っているとファインの「あーっ、あんた!」という声と「あーっ、やっぱりフォルア!」という青年の声が重なった。
「えっと……とりあえずファイン。このお兄さんのこと知ってんの?」
「お前も知ってんぞ、アルス。ほら、いつだっけか、露天商のお兄さんから鍛冶屋の奥さんへの贈り物のネックレス、買っただろ」
呆れ顔のファインに言われ、アルスも思い出した。
金色に近い薄い茶色の髪や水色のような瞳が夕暮れの落ち始めた柔らかい日の光に反射して、あの時とても綺麗だと思った露天商の青年だ。かなり背が高くて一見軽薄そうにも見えたが、真剣にアクセサリーを探していた二人にどんな種類があってどんな魔力の効力があるかなどを丁寧に教えてくれた人だ。そしてあのフォルアの歌を鼻歌で歌っていた。
「あっ、そうだ。カース!」
「そうそう、そうだった。あの時の少年たちか。そういえば君ら前も串焼き食べてたよな、確か」
カースはおかしそうにニヤリと笑いながら言ってくる。さすがに串焼きを食べていたかどうかは覚えていないが、カースのことは思い出した。ついでにふと思い出したこともある。
「……そういえばフォルア、カースの料理とか言ってなかった?」
アルスの言葉にファインも「あーっ、カース……! ああ、ああ!」と納得したように手を叩いている。
「俺の名前連呼して何? つか何で君らフォルアと一緒にいんの?」
苦笑した後に、カースは少し真面目な顔になって聞いてきた。
アルスたちがずっと過ごしてきたヴァレアグート郡のトーレンス王国領に比べると少し肌寒い時はある。とはいえ過ごしやすい気候の地域だからか、フィール王国は賑やかな雰囲気に溢れていた。町には市場が溢れかえっていてとても活気がある。
「楽しそうだね」
もしかしたら美味しいものが食べられるかもしれないと、アルスが少しワクワクしながら言えばファインに「今絶対食い物のこと考えてるだろ」と言われた。お見通しのようだ。フォルアはといえばいつものごとく周りを見ているのだか見ていないのだか、ぼんやりとしている。
とりあえず宿を取るより先にギルドを探し、いつものごとくここへ来るまでに得た魔物や獣の素材などを買ってもらい、何かめぼしい依頼はないか探した。せっかくの王国なのでしばらくは滞在する予定で、いくつかの依頼を引き受ける。受付の人にファインが宿屋について聞いたら「たくさんあるのでどこかは絶対に空いていますよ」とにこやかに教えてくれた。大きな王国のギルドだからだろうか、よく受ける子ども扱いはされなかった。
「つってもオレらももうすぐ成人だしな」
ファインがやたら得意げに言っている。確かにアルスもファインも春生まれでもうすぐ十六歳になる。とはいえ成人したから見た目が即変わるというわけでもないだろう。ただ、何か言われても「成人している」と答えられるのは嬉しいし便利でもあるので待ち遠しい。
教えてもらったいくつかの宿屋へ向かう途中で、たくさんの野外店舗の集まる市場に出くわした。それを無視できるほどアルスだけでなくファインも達観していない。フォルアも見て回るのは問題ないようだったので道すがら色んな店を見て回った。
宿屋についてからゆっくり食事をするのも魅力的だが、とりあえずあまりにいい匂いのする串焼きには勝てそうになかった。何の肉か聞けば「フェガン辺りでとれる高原エラフィの肉だよ。ジューシーで柔らかいよ」と肉汁の滴る串を掲げられた。こんなのもう買うしかない。
「買っていい?」
「いいぞ。オレも食べるわ。フォルアは?」
ファインが聞けば、フォルアもこくりと頷いている。アルスはニコニコと店の人に「三本」と指で示しながら口でも告げた。
匂いだけでなく味も美味しく、そして肉は柔らかい。これはあと五本くらい食べてもよかったのではとさらに口に含みながらアルスがしみじみ思っていると「フォルア? え、フォルアか?」とどこか唖然としたような驚いたような響きでフォルアの名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
「おい、また知り合いかよ。お前の顔の広さどうなってんだ」
もうすでに食べ終えたらしいファインが微妙な顔で串を振りながらフォルアを見ている。フォルアはといえば、ただフルフルと頭を振るだけだ。
とりあえず無視するのもな、とファインがため息交じりに言いながら、声がしたほうへ体を向けた。アルスもそれに倣う。だがこの辺りも賑わっているため、誰がフォルアを呼んだのかいまいちわからない。辺りを見渡していると「あれ? 君たちも見た顔だな」と同じ声が聞こえてきた。改めて声がしたほうを見ると、とある野外店舗から聞こえてきたとわかった。そこへ近づいていくと、確かにアルスも見たことがある気がする青年が、アクセサリーを並べている店にいた。とても目を引く美形だなと思っているとファインの「あーっ、あんた!」という声と「あーっ、やっぱりフォルア!」という青年の声が重なった。
「えっと……とりあえずファイン。このお兄さんのこと知ってんの?」
「お前も知ってんぞ、アルス。ほら、いつだっけか、露天商のお兄さんから鍛冶屋の奥さんへの贈り物のネックレス、買っただろ」
呆れ顔のファインに言われ、アルスも思い出した。
金色に近い薄い茶色の髪や水色のような瞳が夕暮れの落ち始めた柔らかい日の光に反射して、あの時とても綺麗だと思った露天商の青年だ。かなり背が高くて一見軽薄そうにも見えたが、真剣にアクセサリーを探していた二人にどんな種類があってどんな魔力の効力があるかなどを丁寧に教えてくれた人だ。そしてあのフォルアの歌を鼻歌で歌っていた。
「あっ、そうだ。カース!」
「そうそう、そうだった。あの時の少年たちか。そういえば君ら前も串焼き食べてたよな、確か」
カースはおかしそうにニヤリと笑いながら言ってくる。さすがに串焼きを食べていたかどうかは覚えていないが、カースのことは思い出した。ついでにふと思い出したこともある。
「……そういえばフォルア、カースの料理とか言ってなかった?」
アルスの言葉にファインも「あーっ、カース……! ああ、ああ!」と納得したように手を叩いている。
「俺の名前連呼して何? つか何で君らフォルアと一緒にいんの?」
苦笑した後に、カースは少し真面目な顔になって聞いてきた。
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