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107話
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あれほど暑くてたまらなかった、加護のない土地は気づけばもうそろそろ春になろうとしていた。まだ冬の跡があちらこちらに残ってはいるが、ところどころで春の気配がする。季節そのままが気候にも出るからか、咲く花なども春に似合いそうなものが多い気がした。
そのまま次の土地まで進んだが、ヴィール王国領はどのみち地属性の土地だったようでますます春めいた過ごしやすい気候となった。地属性が加護のない土地の春と同じというわけではないが、だいたい十五度から高くとも二十度にはならない気候は似ている気がする。
「秋もこんな感じ……」
心なしかイキイキしているような気がするフォルアがぼそりと呟いてきた。どうやら加護のない土地の春と秋は似た気候らしい。あと、フォルアが心なしかイキイキしている気がするのは多分この辺りが地属性だからではないだろうかとファインは踏んでいる。風属性の者は地属性に強い。
やっぱり一応フォルアは風属性ではあるんだな、一応。
火魔法だろうが何だろうが普通に使ってくるので、そんなことはあり得ないと思いつつもひょっとしてフォルアには魔法属性がむしろないか、全部備わっているかなのだろうかと思いそうだったが、やはりさすがに一応、一応は一般人と同じのようだ。多分。
こうなってくるとやっぱ火属性の土地へ行ってみたいよなあ。
しみじみ思いながらフォルアとともにテントへ戻るとアルスが「おかえり」と出迎えてくれた。もちろんファインにはキス付きだ。もしかしてオレら新婚かな、と妄想しそうだしあまりの幸せっぷりに昇天しそうだ。
もちろん、新婚ごっこをしているわけではない。三人いるのでテントを張った後少しそこに滞在し、狩りに出る時は一人が火を守りつつ留守番しているだけだし、当番制にしているため留守番役がたまたま今はアルスだっただけだ。
黙ったまま獲物を差し出すフォルアに、アルスは「フォルアのおかげで食料に困ることなさそうだよな」と嬉しそうに笑いかけながら受け取っている。当然ながら肉を調理する準備は万全のようだ。さすがアルスというのだろうか。
「肉を料理する気満々だろうけど、これも採ってきたからな」
ファインが微妙な顔をしながら採ってきたものを差し出すと、アルスはその倍くらい微妙な顔をしてきた。食べ物にこんな顔をするアルスは珍しいが、それも仕方ない。
「……イモ」
「ああ、芋だな。トリンカ芋っつーみたいだけど」
「どの地域の名前がついてようが、イモはイモだよ……。俺は肉あれば生きていけるよ……」
「……はぁ。肉だけ食って生きようとすんな。安心しろ。ちゃんとこれは俺が調理してやるから」
「じゃあスープにしてくれんの?」
「おぅ」
「わぁ。だからファイン好きだよ」
とりあえず無言のまま笑顔だけ返しておいたが内心では、ない壁に百回は頭を打ちつけることを考えて自分を保とうとしていた。ふと気づけばフォルアがそんなファインを無表情のままだというのに心なしか生温い表情にも見えないことはないような顔でじっと見ている。
気のせいだとは思いたい、いや、思うが、とりあえずファインはフォルアからそっと顔をそらした。
食べることが大好きなアルスだが、何故か芋の類が苦手なようだ。本人曰く「あの外見がまずダメ。どう見ても岩か土の塊じゃないか。それに食べても舌触りザラザラしてて好きじゃない。イモ食べなくても、肉食べてるから大丈夫」らしい。とりあえず肉を食べておけば大丈夫的な発想はやめて欲しい。
ただファインにも苦手な食べ物はあるし、アルスに無理強いはしたくない。かといって手に入りやすい芋類は栄養やエネルギー補給に手っ取り早いため、食べなくていいよとも言いたくない。そのため、芋を調理する場合はいつもファインが芋を丁寧に布で漉してスープにしていた。見た目も舌触りも変わるため、スープなら食べられるらしい。
「そういえばフォルアって苦手な食べ物あんのか?」
さっそく芋を洗い、フォルアの力を借りて手っ取り早く鍋の水を沸騰させ芋を蒸しながら、ふと疑問に思ってファインは聞いた。火の魔法を調整して使っているはずだろうにまるで余裕そうに楽器兼武器の手入れをしていたフォルアは、首を傾げながらファインを見てきた。
「また首傾げる」
「……苦手……さぁ」
「さあって。さあって! 苦手なもん、普通ないかあるかだろ。さあって」
「ファイン三回も繰り返してるよ」
獲物の皮をさらりとはぎながらアルスが突っ込んでくる。
「いやだって突っ込みたくもなんだろ。苦手なもんって普通、わかりやすくねぇ? 好きなもんって案外気づきにくいにしても、苦手なもんってわかりやすくねぇ?」
「まあ、俺はイモ苦手だし、ファインは蛇だもんね。けっこう美味しいのに。ああ、あと小動物しめるの」
「べ、別に苦手じゃねえ」
強がった後にファインはまたフォルアを見た。
「さあってことは思いつかねぇんだろ? それってないってことじゃ?」
「……?」
また首を傾げられた。まさかアルスが聞いたら答えたりしねえだろうなとファインは「アルスが聞いてくれ」と言ってみた。
「何で」
「いいから」
「変なファインだな。同じことだろ? いいけど。ねえフォルア。苦手なもの浮かばないなら、もしかしたら苦手なものが特にないってことじゃないかな」
「そうかも」
ほら、答えてるし……!
ファインは心底微妙な顔をフォルアに向けたが、フォルアは気にも留めない様子で火を少し弱めながら楽器の細かいところを丁寧に拭いていた。
そのまま次の土地まで進んだが、ヴィール王国領はどのみち地属性の土地だったようでますます春めいた過ごしやすい気候となった。地属性が加護のない土地の春と同じというわけではないが、だいたい十五度から高くとも二十度にはならない気候は似ている気がする。
「秋もこんな感じ……」
心なしかイキイキしているような気がするフォルアがぼそりと呟いてきた。どうやら加護のない土地の春と秋は似た気候らしい。あと、フォルアが心なしかイキイキしている気がするのは多分この辺りが地属性だからではないだろうかとファインは踏んでいる。風属性の者は地属性に強い。
やっぱり一応フォルアは風属性ではあるんだな、一応。
火魔法だろうが何だろうが普通に使ってくるので、そんなことはあり得ないと思いつつもひょっとしてフォルアには魔法属性がむしろないか、全部備わっているかなのだろうかと思いそうだったが、やはりさすがに一応、一応は一般人と同じのようだ。多分。
こうなってくるとやっぱ火属性の土地へ行ってみたいよなあ。
しみじみ思いながらフォルアとともにテントへ戻るとアルスが「おかえり」と出迎えてくれた。もちろんファインにはキス付きだ。もしかしてオレら新婚かな、と妄想しそうだしあまりの幸せっぷりに昇天しそうだ。
もちろん、新婚ごっこをしているわけではない。三人いるのでテントを張った後少しそこに滞在し、狩りに出る時は一人が火を守りつつ留守番しているだけだし、当番制にしているため留守番役がたまたま今はアルスだっただけだ。
黙ったまま獲物を差し出すフォルアに、アルスは「フォルアのおかげで食料に困ることなさそうだよな」と嬉しそうに笑いかけながら受け取っている。当然ながら肉を調理する準備は万全のようだ。さすがアルスというのだろうか。
「肉を料理する気満々だろうけど、これも採ってきたからな」
ファインが微妙な顔をしながら採ってきたものを差し出すと、アルスはその倍くらい微妙な顔をしてきた。食べ物にこんな顔をするアルスは珍しいが、それも仕方ない。
「……イモ」
「ああ、芋だな。トリンカ芋っつーみたいだけど」
「どの地域の名前がついてようが、イモはイモだよ……。俺は肉あれば生きていけるよ……」
「……はぁ。肉だけ食って生きようとすんな。安心しろ。ちゃんとこれは俺が調理してやるから」
「じゃあスープにしてくれんの?」
「おぅ」
「わぁ。だからファイン好きだよ」
とりあえず無言のまま笑顔だけ返しておいたが内心では、ない壁に百回は頭を打ちつけることを考えて自分を保とうとしていた。ふと気づけばフォルアがそんなファインを無表情のままだというのに心なしか生温い表情にも見えないことはないような顔でじっと見ている。
気のせいだとは思いたい、いや、思うが、とりあえずファインはフォルアからそっと顔をそらした。
食べることが大好きなアルスだが、何故か芋の類が苦手なようだ。本人曰く「あの外見がまずダメ。どう見ても岩か土の塊じゃないか。それに食べても舌触りザラザラしてて好きじゃない。イモ食べなくても、肉食べてるから大丈夫」らしい。とりあえず肉を食べておけば大丈夫的な発想はやめて欲しい。
ただファインにも苦手な食べ物はあるし、アルスに無理強いはしたくない。かといって手に入りやすい芋類は栄養やエネルギー補給に手っ取り早いため、食べなくていいよとも言いたくない。そのため、芋を調理する場合はいつもファインが芋を丁寧に布で漉してスープにしていた。見た目も舌触りも変わるため、スープなら食べられるらしい。
「そういえばフォルアって苦手な食べ物あんのか?」
さっそく芋を洗い、フォルアの力を借りて手っ取り早く鍋の水を沸騰させ芋を蒸しながら、ふと疑問に思ってファインは聞いた。火の魔法を調整して使っているはずだろうにまるで余裕そうに楽器兼武器の手入れをしていたフォルアは、首を傾げながらファインを見てきた。
「また首傾げる」
「……苦手……さぁ」
「さあって。さあって! 苦手なもん、普通ないかあるかだろ。さあって」
「ファイン三回も繰り返してるよ」
獲物の皮をさらりとはぎながらアルスが突っ込んでくる。
「いやだって突っ込みたくもなんだろ。苦手なもんって普通、わかりやすくねぇ? 好きなもんって案外気づきにくいにしても、苦手なもんってわかりやすくねぇ?」
「まあ、俺はイモ苦手だし、ファインは蛇だもんね。けっこう美味しいのに。ああ、あと小動物しめるの」
「べ、別に苦手じゃねえ」
強がった後にファインはまたフォルアを見た。
「さあってことは思いつかねぇんだろ? それってないってことじゃ?」
「……?」
また首を傾げられた。まさかアルスが聞いたら答えたりしねえだろうなとファインは「アルスが聞いてくれ」と言ってみた。
「何で」
「いいから」
「変なファインだな。同じことだろ? いいけど。ねえフォルア。苦手なもの浮かばないなら、もしかしたら苦手なものが特にないってことじゃないかな」
「そうかも」
ほら、答えてるし……!
ファインは心底微妙な顔をフォルアに向けたが、フォルアは気にも留めない様子で火を少し弱めながら楽器の細かいところを丁寧に拭いていた。
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