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106話
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セルゲイの城を出た三人はそのままヒュアード王国を目指した。そこの某公爵は知人だから紹介状を書こうとセルゲイからは言われていたが、それに関しては丁重にお断りさせてもらった。
多分、紹介状があればヒュアード王国でもいい暮らしができたかもしれない。だがそうなると庶民生活への復帰が難しくなりそうでファインとしては怖い。
ファインたちはセルゲイと知り合いになったとはいえ庶民には変わらない。貴族になることは完全にあり得ないし今後豪勢な暮らしをすることもあり得ない。別に質素な暮らしがしたいわけではない。身の丈に合った中では成功していい暮らしがしたいくらいはファインも思っているが、セルゲイの世界は身の丈に合わなさすぎる。
紹介状を断ったことに関してアルスもフォルアも問題はなさそうだ。普段三人が三人とも全く嗜好や言動などタイプも違えば合わない感じではあるが、そういった考えに対して気が合う仲間でよかったと何気に思う。もちろん、その辺が合わないタイプならそもそもファインはアルスのことを好きになっていたかどうか疑問でもあるが。
アルスといえば、とまた徒歩での旅を始めながらファインは例えば昨夜や今朝のことをしみじみ噛みしめる。
初めてアルスからキスされて以来、最低限おはようやおやすみのキスをしている。当然ながら恋人のキスには程遠いが、キスはキスだ。いかにも挨拶といった軽く一瞬のキスだろうがファインにとってモーティナに土下座する勢いで祈ってもあまり余る幸せっぷりだ。
テント暮らしになると見張り云々をさておくとフォルアとも一緒に眠ったりもする。なのであからさまに二人だけでキスをするのは何だかこう、落ち着かないので一応、フォルアには聞いてみた。
「フォルア」
「?」
「その、お前もオレとかにおはようとかおやすみのキス、されたい?」
オレとかに、と言ったのはわざとだ。もしフォルアにすることになってもアルスからはさせるつもりはない。ファインがする。どうにか上手く言って、アルスにはさせない。
ただ幸いというのか、フォルアは二歩ほど後退り、ふるふると首を振ってきた。ホッとしたものの後退るほど拒否されたのは、まあとてもわかるが、微妙というか多少寂しいものはあった。
とりあえず、これ幸いとファインは堂々とアルスにだけキスをさせてもらったりしてもらっている。
こんな幸せ、ある?
自分でもヘタレなのはわかっているため、今のところファインからする時も軽い一瞬で離れるキスしかしていない。だがいつかはせめてもう二瞬くらいは長いキスができたらいいなというのが最近の目標であり夢だ。
誰かが聞いたら「情けない」と微妙な顔をするかもしれないが、そもそもアルスとキスなんて生きている間にできるなんて思ってもみなかったレベルなのだ。それを思えばどれだけの前進か。いや、最初に行動してくれたのはファインではなくアルスだが。しかも家族として、だが。
とにかく幸せで寒さなど吹き飛びそうだったが、残念ながらヒュアード王国周辺は完全に水のエレメントの加護によりファインは死んだ。体は生きているが気力は完全に死んだ。これほどの幸せすら、水の寒さには勝てないらしい。
テントではフォルアが相変わらず自分の属性ではないにも関わらず火の魔法を使って中を暖めてくれたおかげで何とか生き永らえた。実際火が属性であるファインは魔法を使うどころではなかったため心から感謝した。またヒュアード王国も寒い国らしく防寒設備はとても整ってはいた。
とはいえ長く滞在するのはファインにとって地獄だっただろうと思われる。もしアルスやフォルアがヒュアード王国でしばらく過ごしたいと思っていたなら申し訳ないなと思ったが、アルスいわく「別にそこまで惜しむ理由はないぞ、大丈夫」らしい。フォルアもコクコクと頷いていた。
「サンキュー……。いや、せっかくでかい国だったし、もっといろいろ満喫したいかもだろ」
「大きな国だったよな。でもセルゲイさんのところでかなり満喫したからかな、俺は別に大丈夫」
アルスの隣でフォルアもまた頷いている。
「そっか。ほんと悪いな」
「気にするなよ。だってファインは水に弱い上に、水の加護の土地ってどこよりも極寒なんだから。水属性の俺ですら寒いもんね。そりゃ苦手な火属性の人は耐えられないと思う。俺が苦手な雷の加護の土地も確かに寒い地域だけどさ、まだ人間が当たり前に過ごせる気温だもんね」
アルスの言う通り、雷属性の土地はだいたい10度から15度くらいだが、水属性の土地は零下レベルに寒い。逆に火属性の土地は30度を余裕で超える暑さだが、ファインはそもそも火属性だしアルスは火に強いため問題はあまりない。
つか、フォルアは本来多分、一応、風属性なんだよ、な? だとしたら火属性の土地は相当きついってことになるけど……こいつ普通に火魔法使うもんな。実際火属性の土地へ行ったらどうなんのかな。
散々フォルアには助けてもらっておいて申し訳ないながらに、好奇心には勝てない。この島からまた海を渡っても同じマティアロー地域ではあるし、多分火属性の土地はないかもしれないが、この先どこかでさすがに遭遇くらいするだろう。その時が楽しみだなとファインはどうしても思ってしまった。
多分、紹介状があればヒュアード王国でもいい暮らしができたかもしれない。だがそうなると庶民生活への復帰が難しくなりそうでファインとしては怖い。
ファインたちはセルゲイと知り合いになったとはいえ庶民には変わらない。貴族になることは完全にあり得ないし今後豪勢な暮らしをすることもあり得ない。別に質素な暮らしがしたいわけではない。身の丈に合った中では成功していい暮らしがしたいくらいはファインも思っているが、セルゲイの世界は身の丈に合わなさすぎる。
紹介状を断ったことに関してアルスもフォルアも問題はなさそうだ。普段三人が三人とも全く嗜好や言動などタイプも違えば合わない感じではあるが、そういった考えに対して気が合う仲間でよかったと何気に思う。もちろん、その辺が合わないタイプならそもそもファインはアルスのことを好きになっていたかどうか疑問でもあるが。
アルスといえば、とまた徒歩での旅を始めながらファインは例えば昨夜や今朝のことをしみじみ噛みしめる。
初めてアルスからキスされて以来、最低限おはようやおやすみのキスをしている。当然ながら恋人のキスには程遠いが、キスはキスだ。いかにも挨拶といった軽く一瞬のキスだろうがファインにとってモーティナに土下座する勢いで祈ってもあまり余る幸せっぷりだ。
テント暮らしになると見張り云々をさておくとフォルアとも一緒に眠ったりもする。なのであからさまに二人だけでキスをするのは何だかこう、落ち着かないので一応、フォルアには聞いてみた。
「フォルア」
「?」
「その、お前もオレとかにおはようとかおやすみのキス、されたい?」
オレとかに、と言ったのはわざとだ。もしフォルアにすることになってもアルスからはさせるつもりはない。ファインがする。どうにか上手く言って、アルスにはさせない。
ただ幸いというのか、フォルアは二歩ほど後退り、ふるふると首を振ってきた。ホッとしたものの後退るほど拒否されたのは、まあとてもわかるが、微妙というか多少寂しいものはあった。
とりあえず、これ幸いとファインは堂々とアルスにだけキスをさせてもらったりしてもらっている。
こんな幸せ、ある?
自分でもヘタレなのはわかっているため、今のところファインからする時も軽い一瞬で離れるキスしかしていない。だがいつかはせめてもう二瞬くらいは長いキスができたらいいなというのが最近の目標であり夢だ。
誰かが聞いたら「情けない」と微妙な顔をするかもしれないが、そもそもアルスとキスなんて生きている間にできるなんて思ってもみなかったレベルなのだ。それを思えばどれだけの前進か。いや、最初に行動してくれたのはファインではなくアルスだが。しかも家族として、だが。
とにかく幸せで寒さなど吹き飛びそうだったが、残念ながらヒュアード王国周辺は完全に水のエレメントの加護によりファインは死んだ。体は生きているが気力は完全に死んだ。これほどの幸せすら、水の寒さには勝てないらしい。
テントではフォルアが相変わらず自分の属性ではないにも関わらず火の魔法を使って中を暖めてくれたおかげで何とか生き永らえた。実際火が属性であるファインは魔法を使うどころではなかったため心から感謝した。またヒュアード王国も寒い国らしく防寒設備はとても整ってはいた。
とはいえ長く滞在するのはファインにとって地獄だっただろうと思われる。もしアルスやフォルアがヒュアード王国でしばらく過ごしたいと思っていたなら申し訳ないなと思ったが、アルスいわく「別にそこまで惜しむ理由はないぞ、大丈夫」らしい。フォルアもコクコクと頷いていた。
「サンキュー……。いや、せっかくでかい国だったし、もっといろいろ満喫したいかもだろ」
「大きな国だったよな。でもセルゲイさんのところでかなり満喫したからかな、俺は別に大丈夫」
アルスの隣でフォルアもまた頷いている。
「そっか。ほんと悪いな」
「気にするなよ。だってファインは水に弱い上に、水の加護の土地ってどこよりも極寒なんだから。水属性の俺ですら寒いもんね。そりゃ苦手な火属性の人は耐えられないと思う。俺が苦手な雷の加護の土地も確かに寒い地域だけどさ、まだ人間が当たり前に過ごせる気温だもんね」
アルスの言う通り、雷属性の土地はだいたい10度から15度くらいだが、水属性の土地は零下レベルに寒い。逆に火属性の土地は30度を余裕で超える暑さだが、ファインはそもそも火属性だしアルスは火に強いため問題はあまりない。
つか、フォルアは本来多分、一応、風属性なんだよ、な? だとしたら火属性の土地は相当きついってことになるけど……こいつ普通に火魔法使うもんな。実際火属性の土地へ行ったらどうなんのかな。
散々フォルアには助けてもらっておいて申し訳ないながらに、好奇心には勝てない。この島からまた海を渡っても同じマティアロー地域ではあるし、多分火属性の土地はないかもしれないが、この先どこかでさすがに遭遇くらいするだろう。その時が楽しみだなとファインはどうしても思ってしまった。
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