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105話
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アルスとキスしてしまった。
ファインの頭の中は今それでいっぱいだった。出発が明日でよかったと思う。とりあえず一人になって落ち着きたいと思ったファインはあの後適当なことをもにょもにょ口にして人のいなさそうな場所にまで来ていた。
関係ないが戦時中ならばこの胸壁の見張りも強化されるのだろう。平和そうで何よりだと思う。
オレ、まじでアルスとキスしたのか? え、ほんとに? 夢じゃなくて?
キスと言っても一瞬だった。ふにっとした感触を味わう暇もなく、唇は離れていった。だが自分からしたのではなくアルスからのキスだと思うとその一瞬で今後百年は生きていけそうな気がする。
例え身内だからと言われてもな!
わかっている。アルスからすれば親にされたおやすみやおはようのキスなどと感覚は同じなのだろう。わかっている。だから調子に乗るな、馬鹿みたいに盛り上がるなと自分に言い聞かせるが、有頂天になるのはどうしたって仕方ない。
だってアルスとキスだぞ……? オレが! アルスと! キス……え、まじで? まじで? キスしちゃったのオレ。つかされちゃったの? アルスから? え、オレ、明日死ぬの?
イヴァンからされたキスなど、一気にぶっ飛んでいた。むしろイヴァンのおかげでアルスとキスしたようなものだと思えばイヴァン様々ではないだろうか。アルス以外の男に対しては完全に対象外すぎるファインにとって、いくら軽い冗談でされようがファーストキスに違いなく「ファーストキスは男」という事実に打ちひしがれそうだったが、こうなればもうどうでもいい。
おまけにこれからはいつでもしていいという許可を本人からもらった。天地がひっくり返ってもあれほど動揺しないだろうというくらい動揺していたというのに、よくこれからもしていいか聞けたなと自分を褒めてあげたい。
ちゃんとした恋愛を満喫している誰かがそんなファインの現状を見れば、呆れて「好きな相手はでも身内だからとしか思ってないんだろ? そんなでよく喜べるな」と言うかもしれない。ファインの中の理性ファインも先ほどからちょくちょくそう言っている。だが本能ファインが今は全面的に「是」と思っているため、身内だろうが何だろうが「アルスとキス」という事実だけでおつりがくるどころか全財産差し出し借金してもいいくらいだ。
「はぁー、まじほんともう」
転がりそうな勢いでうずくまって悶えていると誰かの気配を感じた。ハッとして顔を上げると真顔のフォルアがじっとファインを見ている。
「な、何でお前こんなとこに……!」
「……」
首すら傾げず、相変わらず真顔のままフォルアはファインを見てくる。我に返るとアルスとのキスに有頂天になりすぎて相当不審な動きしかしていなかった記憶しかない。ファインは居たたまれなさすぎて胃にきそうになった。
「お願い、黙って見てくるのやめて」
「……ここへはちょくちょく来てた」
「え?」
不審過ぎて気持ち悪いと言われそうでしかなかったが、そこはさすがフォルアとでも言うのだろうか。完全に不審でしかなかっただろうファインをスルーして、むしろいつもなら首を傾げて終わるような聞き方だったファインに対して返事してきた。思わずポカンとしているとフォルアは背中から楽器を取り出し立ったままそれを奏で始めた。
「……あー、えっと、演奏の練習しに来てたのか?」
「……ここから奏でると音は町へ流れる。この時間、ちょうど皆休憩を取る時間だ。ここへ来る時はいつもこうしてここで演奏してる」
あのフォルアが一言以上をつらつら話した。それだけでも目玉が落ちそうなくらい驚いたが、あのフォルアがそんな高尚なことをしている、だと……、とファインは顎が外れそうなくらい口をポカンと開けてフォルアを見た。フォルアは気にすることもなく、淡々と演奏している。相変わらず普段のフォルアを見ていると同一人物とは思えないくらい、すらすら美しい音を奏でていた。
演奏を終えたフォルアに、ファインは「そういえば演奏は誰かに教わったのか?」とふと浮かんだことを聞く。
「……モードから……」
「え? 誰? 親兄弟?」
するとフォルアはふるふると首を振ってきた。そしてそのまま立ち去ろうとする。
「おいおい、何で中途半端なままなのかな! モードって誰。あと俺の挙動不審な様子も見事なくらい流してるけど、一応どう思ったのかむしろ聞かせて……!」
必死になって後を追いかけるも、フォルアはいつものようにぼんやりとした様子であてもなく歩く風だ。
ほんっとこいつ読めねえ……!
基本的には何も考えていない感じでぼんやりとしているのに、演奏や歌はとても上手く、そして戦闘に至っては舌を巻くほどの腕前だ。おまけにとてつもなくたまにではあるが、妙に鋭いところを見せてきたりする。だがそうかと思えばまたすぐにぼんやりしたり無表情で無口なまま何も目に入っていないかのようだったりもする。
ファインの怪しげな様子も、何か思うところというか、ドン引きする気持ちさえもしかしたらあったのだとしても全然表に出してこない。もしくは気にもしていない可能性もある。
ほんっとわからねえ……!
今もファインは必死になって後を追ったし、フォルアはぼんやりとしていたはずだというのに気づけば見失ってしまい、有頂天になっていた気持ちさえ切り替わり、唖然と辺りを見回していた。
ファインの頭の中は今それでいっぱいだった。出発が明日でよかったと思う。とりあえず一人になって落ち着きたいと思ったファインはあの後適当なことをもにょもにょ口にして人のいなさそうな場所にまで来ていた。
関係ないが戦時中ならばこの胸壁の見張りも強化されるのだろう。平和そうで何よりだと思う。
オレ、まじでアルスとキスしたのか? え、ほんとに? 夢じゃなくて?
キスと言っても一瞬だった。ふにっとした感触を味わう暇もなく、唇は離れていった。だが自分からしたのではなくアルスからのキスだと思うとその一瞬で今後百年は生きていけそうな気がする。
例え身内だからと言われてもな!
わかっている。アルスからすれば親にされたおやすみやおはようのキスなどと感覚は同じなのだろう。わかっている。だから調子に乗るな、馬鹿みたいに盛り上がるなと自分に言い聞かせるが、有頂天になるのはどうしたって仕方ない。
だってアルスとキスだぞ……? オレが! アルスと! キス……え、まじで? まじで? キスしちゃったのオレ。つかされちゃったの? アルスから? え、オレ、明日死ぬの?
イヴァンからされたキスなど、一気にぶっ飛んでいた。むしろイヴァンのおかげでアルスとキスしたようなものだと思えばイヴァン様々ではないだろうか。アルス以外の男に対しては完全に対象外すぎるファインにとって、いくら軽い冗談でされようがファーストキスに違いなく「ファーストキスは男」という事実に打ちひしがれそうだったが、こうなればもうどうでもいい。
おまけにこれからはいつでもしていいという許可を本人からもらった。天地がひっくり返ってもあれほど動揺しないだろうというくらい動揺していたというのに、よくこれからもしていいか聞けたなと自分を褒めてあげたい。
ちゃんとした恋愛を満喫している誰かがそんなファインの現状を見れば、呆れて「好きな相手はでも身内だからとしか思ってないんだろ? そんなでよく喜べるな」と言うかもしれない。ファインの中の理性ファインも先ほどからちょくちょくそう言っている。だが本能ファインが今は全面的に「是」と思っているため、身内だろうが何だろうが「アルスとキス」という事実だけでおつりがくるどころか全財産差し出し借金してもいいくらいだ。
「はぁー、まじほんともう」
転がりそうな勢いでうずくまって悶えていると誰かの気配を感じた。ハッとして顔を上げると真顔のフォルアがじっとファインを見ている。
「な、何でお前こんなとこに……!」
「……」
首すら傾げず、相変わらず真顔のままフォルアはファインを見てくる。我に返るとアルスとのキスに有頂天になりすぎて相当不審な動きしかしていなかった記憶しかない。ファインは居たたまれなさすぎて胃にきそうになった。
「お願い、黙って見てくるのやめて」
「……ここへはちょくちょく来てた」
「え?」
不審過ぎて気持ち悪いと言われそうでしかなかったが、そこはさすがフォルアとでも言うのだろうか。完全に不審でしかなかっただろうファインをスルーして、むしろいつもなら首を傾げて終わるような聞き方だったファインに対して返事してきた。思わずポカンとしているとフォルアは背中から楽器を取り出し立ったままそれを奏で始めた。
「……あー、えっと、演奏の練習しに来てたのか?」
「……ここから奏でると音は町へ流れる。この時間、ちょうど皆休憩を取る時間だ。ここへ来る時はいつもこうしてここで演奏してる」
あのフォルアが一言以上をつらつら話した。それだけでも目玉が落ちそうなくらい驚いたが、あのフォルアがそんな高尚なことをしている、だと……、とファインは顎が外れそうなくらい口をポカンと開けてフォルアを見た。フォルアは気にすることもなく、淡々と演奏している。相変わらず普段のフォルアを見ていると同一人物とは思えないくらい、すらすら美しい音を奏でていた。
演奏を終えたフォルアに、ファインは「そういえば演奏は誰かに教わったのか?」とふと浮かんだことを聞く。
「……モードから……」
「え? 誰? 親兄弟?」
するとフォルアはふるふると首を振ってきた。そしてそのまま立ち去ろうとする。
「おいおい、何で中途半端なままなのかな! モードって誰。あと俺の挙動不審な様子も見事なくらい流してるけど、一応どう思ったのかむしろ聞かせて……!」
必死になって後を追いかけるも、フォルアはいつものようにぼんやりとした様子であてもなく歩く風だ。
ほんっとこいつ読めねえ……!
基本的には何も考えていない感じでぼんやりとしているのに、演奏や歌はとても上手く、そして戦闘に至っては舌を巻くほどの腕前だ。おまけにとてつもなくたまにではあるが、妙に鋭いところを見せてきたりする。だがそうかと思えばまたすぐにぼんやりしたり無表情で無口なまま何も目に入っていないかのようだったりもする。
ファインの怪しげな様子も、何か思うところというか、ドン引きする気持ちさえもしかしたらあったのだとしても全然表に出してこない。もしくは気にもしていない可能性もある。
ほんっとわからねえ……!
今もファインは必死になって後を追ったし、フォルアはぼんやりとしていたはずだというのに気づけば見失ってしまい、有頂天になっていた気持ちさえ切り替わり、唖然と辺りを見回していた。
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